外国人労働者を雇用する - ブランスリー電子版

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特集/2017年5月号

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外国人労働者を雇用する




真面目に働く様子は昔の日本人のよう <サフラン>
ベトナム人のタオさん。毎朝5時半に起き、手作りの弁当を作り、元気に働く姿が見られた
小川佳興社長。売り場の様子を日々確認しながら製造を行う。その姿勢はスタッフ全員に共通する
寺嶋明店長。約16年サフランに勤めるベテラン社員だ
サフラン常盤平店の外観
厨房には売り場に向かって大きな窓があり、仕事をしながら売り場の様子がわかる
厨房から焼きあがったパンが売り場に出て来る様子がライブ感のある売り場
 小川佳興社長率いる千葉県のサフランでは、2016年10月末から6人のベトナム人労働者を採用した。採用から5カ月が過ぎる現在、6人は一人一人がサフランの各店舗で日本人と同じ製パン業務に従事している。

今や「技能者」として洗練された外国人労働者

 日本で働く外国人の国籍の第2位はベトナム。2016年10月の厚労省の統計によると、その数は前年比約80%増の約11万人。外国人労働者全体の12・1%を占め、中国やフィリピンを抜く著しい増加率を記録している。
 「もうすっかり独り立ちしてお店で一人前の働きをしています。熱心だし仕事の覚えもいい。本当に真面目によく働いて、昔の日本人のようです」と、小川社長。
 現在小川社長が常駐するサフラン常盤平店では、タオさんという25歳のベトナム人女性が働いている。彼女は日本での就職を目指し、サフランの採用面接をベトナムで受けた。タオさんは、日本での就業にあたり、日本の「外国人技能実習生制度」を利用した。同制度で定められた講習を一カ月間ベトナムで受講、日本語や日本の習慣などについて学んでいる。日本語は、現在業務上問題のない水準だ。サフランは、「外国人技能実習生」であるタオさんを、三年間という限定期間の条件で採用した。日本での就業を望むタオさんと、ベトナムから技能実習生の採用を求めていたサフランの意向がマッチングした形だ。
 小川社長が、ベトナム人の採用を選択したきっかけは「ベトナム人は働き者」という同業者からの評判だった。
 「実際に採用してみて、手先が器用だと実感しました。当社のベトナム人スタッフは地方出身者が多く、普段から手仕事や料理に慣れているようです。現在の日本のように、コンビニなどで安価に物が手に入る環境ではないのでしょうね。手作業に慣れているのは製パンを覚える上でもいいことです」(小川社長)
 「外国人技能実習生」は、法整備された制度の元で日本で働く人々だ。最低賃金も法律で守られている。その分、特有の決まり事もある。その一つが、彼らは就業期間の3年間、帰国することが出来ないこと。子供を持つ人も母国の子供と会えずに過ごす事になる。それでも、それぞれの目的と目標を持って日本での技能習得に打ち込んでいる。
 「外国人労働者」のイメージは変化している。「外国人技能実習生」の雇用には公的機関の制度が適応され、雇用主は、「外国人技能実習生」を、日本人の労働者と概ね同様の社会保障に加入させなければならない。かつて、問題となった「低賃金の安い労働力」「不法滞在の可能性」というマイナスの印象は、薄らぎつつあるという。

大きなお金を稼いでいるという感覚がある

 ベトナム人採用が日本にとって有利である理由のひとつに、現在両国間の物価の差が大きいということがある。日本で稼いだ100万円は、ベトナムでは10倍の1000万円にも相当するという。日本での労働人口の多い中国は、同国の経済成長という背景もあり、この差が縮まっているようだ。
 「同じ仕事をするのでも、より大きなお金を稼いでいるという意識がある人の方がどうしても意欲が高い。採用決定を伝えると感情を露わに感激の涙を流す人もいるそうです。ベトナム人はそれだけ日本で働くことを強く望んで、意欲を持って来日しています。彼らの労働への感覚は、自分が働き始めた頃のよく馴染んだ感覚に近いのです」と、小川社長。
 サフランの技能実習生6人は、20代前半から後半の女性。応募の中から面接する志望者を20人に絞り、ベトナムへ赴いて採用試験を行い、その中から6人を採用した。試験では、自己PRの他に、パーセントを算出する計算問題を行った。
 「日本と教育内容が違うからか、ベトナム人は他の学力に比べて計算が苦手な傾向がありました。製パン実務にもかかわる点なので、そこを見ました」と小川社長。
 他にも、野菜の皮むきや重い物を持ち上げる力はあるかと言った実技面のテストを行う製パン企業もあるという。
 住宅は企業が世話をしている。家賃は給料から支払ってもらうため、労働者との合意の上、3人ずつルームシェアをして暮らす。そのため、男女混在の採用を避け、サフランでは女性のみ採用という方法を選択している。
 「女性の方が真面目な労働者が多い傾向というのもあります。しかし意欲面、能力面でも結果的に女性を採用する事になりますね」と小川社長。
 採用してみて、自己PRや面接時の認識との差異はなかったか尋ねてみると、小川社長は「期待通りです。日本人に比べて面接での熱心な強いアピールはあったが、働いてもらってみて不足に思ったことはありません。時間も守るし、勝手に休んだりもしません。愛想もいいし、職場でのコミュニケーションも感じがいい」と語った。
 同社は今年もベトナム人の採用を予定しているという。店を空け、現地へ面接に行くという採用コストの高さはあるが、それに見合う労働力が確保できているという。
 また、三年間という期間の縛りについて小川社長は、「三年の時間があれば、製パン技術はしっかりとしたものを身に付けられます。独立できる一人前のパン職人にしてやりたいとも思います。しかし、帰国してパン職人を続けられるかは母国の事情にも、本人の家庭環境などを含めた事情にもよるでしょう。現段階では、彼女達が帰国後どんな道を行くのかは決まっていません。サフランで働くのなら、私は精一杯、教えられることを教え、一生懸命いい職人に育てます。チャンスが巡って来たら、ベトナムにも日本のパンを広めてほしいですね」。

日本人スタッフとの連携もそつなくこなす

 工房でパン製造に携わるタオさんの手付きは丁寧で優しげ。バットの中のふんわりした小さなパンを、大切そうに丁寧に扱う。パンに絞り入れるクリームをヘラで絞り袋に入れて行く動作も、穏やかで落ち着きがあり、器用さが見て取れた。日本語はまだそれほど流暢ではないが、タオさんは、こちらの問い掛ける言葉が理解出来なくても臆することなく、「もう一度言って下さい」とコミュニケーションを諦めず、笑顔を絶やさない。早起きして、昼食の弁当も手作りし、てきぱきと仕事に励んでいる。表情に険しさや疲労といった様子はなく、率直な真面目さが印象的だった。
 同店工房の製造は、各スタッフで担当作業が決まっている。タオさんも担当業務を担っており、すでに指導者の補助や助言を必要とせず一人で作業を行っている。早めに手が空いた場合は他のスタッフの手伝いに入る事になっているが、そういった職場の連携についても「もうタオさんはばっちりです」と、同店店長の寺嶋明さんも笑顔を見せた。

 記者の目  小川社長の外国人技能実習生採用の成功の背景には、複数の同業者からの情報提供がある。ベーカリー同士の横の繋がりの強さを感じた。新しい事を始めるのは誰にとってもリスクへの不安がある。サフランの場合は、自ら熱心に講習会の講師を引き受けるなど「ベーカリー同士協力してパン業界を盛り上げよう」という姿勢があり、その意識が同業者との繋がりを強めている。そこには、情報交換が生まれ、新しい事を導入する際の大きな動機付けになっているようだ。

SHOP DATA
店名:サフラン 常盤平店
住所:〒270−2261千葉県松戸市常盤平3−9−3
電話:047−311−9931
営業時間:午前6時30分〜午後7時30分
定休日:火曜日
品揃え:約150品目
スタッフ:製造8人、販売15人
店の面積:売場約60坪、厨房約40坪
日商:平日50万、土日祝90万



常盤平店の人気商品「塩バターロール」(税込130円)



外国人技能実習生を雇うという選択 <ティードスの宇佐美寛代表に聞く>
「カイゼン吉田スクール」の授業風景
デイジイ(埼玉県川口市)の店舗で働く外国人技能実習生の様子
取材に応じてくれたティードスの宇佐美寛代表
デイジイ(埼玉県川口市)がベトナムの「カゼイン吉田スクール」で行った外国人技能実習生の採用試験の様子(実技テスト)
エスハイ社(ベトナム・ホーチミン市)が運営する送り出し機関「カイゼン吉田スクール」の外観
ベーカリー関係者向けのセミナーで「外国人技能実習生」の導入事例について講演するティードスの宇佐美寛代表
 ティードス(東京都渋谷区)の宇佐美寛代表は、「外国人技能実習生制度」のもとで、ベーカリーにベトナムからの技能実習生を紹介する活動を行っている。同氏に、日本の雇用主側が技能実習生を受け入れる上で知っておくべき事などについて取材した。

技能実習生を送り出す国での派遣機関を厳選する

 「まず、よく考えて選ばないといけないのは、実習生らを母国から教育して送り出す現地の送り出し機関です」(宇佐美氏)
 そもそも外国人技能実習生制度は1991年に公益財団法人国際研修協力機構(JITCO=ジツコ)の支援のもと制度化。現在は2万社以上で19万人の実習生が、日本のものづくりの技術を学ぶために雇用され、日本に滞在中と言われている。間には現地の人材派遣事業者である送り出し機関とJITCOから許可を受けた日本国内の監理団体(受け入れ機関)が入り、実習先と直接雇用の契約を結ぶという仕組みがある。
 実習では74職種133作業で最長3年間の勤務が可能。パン製造職種も3年間まで勤務可能だ。また今年秋より法的には、優良企業に限定などの諸条件つきで、最長で5年まで勤務期間を延長可能な法案の運用も開始される。受け入れ可能人数は常勤者50人以下の職場が3年間で最大9人。
 宇佐美氏は現在12社に対し180人の外国人技能実習生を紹介しているが、そのうちパン職種のベーカリーは6社を占める。
 「実習生達には日本で働く事で何らかのチャンスを掴んでほしいと思いますが、3年間安定した労働力を一定数確保できるのは企業にとっても確かにメリットです。日本人でも新卒で3年後に残るのは3割と言われる状況の中で、優良な送り出し機関が輩出した実習生たちの離職率はわずか1%ですから」(宇佐美氏)
 宇佐美氏がパン職種で現在紹介中の実習生は40人で全員がベトナムのエスハイ社(ベトナム・ホーチミン市)が運営する送り出し機関「カイゼン吉田スクール」の出身者だ。宇佐美氏が「優良な送り出し機関」と後押しする同校はベトナムの送り出し機関の中では教育水準が高いという。
 同校は日本企業向けの人材教育と派遣事業を行うエスハイ社の教育部門として2006年に設立。独自の教育カリキュラムでこれまで約1万人の技能実習生を輩出してきた。日本語などを教える講師にも日本人数人を揃え、日本語やマナーのほか、日本の企業内に存在する集団生活の規律や心構えなども含めて教える実践的な授業の定評は高い。
 また、生徒達が入学時はまだどの求人票に応募するのか決まっていない状態で入るのが最大の特徴だという。入学は簡単な審査のみで可能だが、入学後は3カ月間みっちり学び、実習生達には一通りの基礎教育がなされた上で考えて求人に応募してもらうという流れが、実習生と企業側のミスマッチを防いでいるという。
 採用試験は、埼玉県内で7店舗を展開するベーカリー企業、デイジイ(埼玉県川口市)の例では、履歴書の審査に加え、IQテストや、YG性格検査、スピードテスト、正確性テストなどを実施。加えて面接会では日本語での質疑応答を行い、リンゴの皮むきといった実技試験も行う。採用人数の3倍の応募者が詰め寄せる中、選抜された内定者は手続きを経て約5カ月後に来日の運びとなったという。

実習生たちの動機はどこにあるか

 宇佐美氏によると、実習生達が日本で働く目的は大きくは3つ。第1は3年間で約150万〜200万円の貯金をすること。第2は日本で働いた実績を作る事。第3は日本語がある程度できるようになること。
 実はベトナム本国で高収入を得るには、日本語ができる事と日本で働いた経験がある事が非常に大きな武器になるという。実家が裕福でなく高い学歴を得る事ができなくても、日本語ができれば、平均以上の給与を手にする事ができ、観光業なども含めた広い範囲で高収入を得るチャンスが開かれるようになるのだ。
 「そのため技能実習生への道は、裕福でない環境に育っても勤勉で目標を持って生きる子たちにチャンスをあげられるという側面もあるのです。これまで熱心な実習生の子達と多く出会い、戦後の貧しい時代から徐々に経済復興していった昭和の日本の若者を彷彿とさせるようなものを見て、何とかしてあげたいと思わされる事も多かったんです」と宇佐美氏。
 ただ実習生の動機もここ数年で徐々に変わってきているという。
 「職種そのものに魅力を感じ日本のベーカリーで就業体験を積みたいという実習生も徐々に増えてきています。帰国後は自分の店を出したいと話してくれる実習生もいますね」(宇佐美氏)
 実は、これはある企業で溶接作業をしていた実習生の青年の例だが、ある日、青年は勤務先の社長にある街の商店街へ連れて行かれた。そうしたら、そこに立ち並んでいた照明柱の中に青年が仕事で実際に作った照明柱があり、その商店街の通りを立派に明るく照らし出して立っていたという。それを見た青年は日頃社長が厳しく指導してくれた理由がわかり感動し、自分の仕事や技術に感謝したそうだ。
 製パンの例でも、3年間では職人レベルまで技術を磨き上げることは難しいが、自分達の仕事がどのような形で店の運営に役立ち、周りに受け入れられているかどうか、積極的に伝えていくことが、実習生達の新たな動機づけにつながる可能性がある。
 前述のデイジイのケースでも、雇用側は初め半信半疑だったが、実際に現場で働いてもらうと、想像以上に熱心でひたむきに働き、吸収力も良い実習生達の姿があったという。彼らを受け入れ、店の戦力になっていることを伝える事が、実習生達のやる気をさらに引き出す鍵となるようだ。

時には誘惑の魔の手が忍び寄ることも

 ただし実習生を雇用する際には、いくつか注意しなければならない点もある。まずは期間中4%ほど存在するという失踪者だが、これは多くの場合、背後には、巧みに勧誘するブローカー達の存在があるという。
 「『もっと稼げる仕事がある』などと巧みに言って近づいてきますが、失踪する事で雇い主との大事な信頼関係を失ってしまいます」(宇佐美氏)
 地道に働いて3年間でお金だけでは買えない技術力や経験を身につけて帰ることが大切だが、道を踏み外さないよう、普段から実習生達の様子に気を配ったり、寮として提供する住居の様子も把握したりするなどの必要があるという。
 「例えばベトナムでは地域によって食習慣なども大きく違うので同じ部屋に同じ地域出身の子達を集めるなどの配慮も必要です。仮に難題が発生しても、ちょっとずつ歩み寄る努力が大切です。なぜなら彼らの多くは素直で真面目で純粋な気持ちで業務に励んでいるからです。生活は質素ですが、帰国するまで一度は東京ディズニーランドに行きたいといったささやかな夢を抱えている実習生もいます。彼らをただ単なる単純労働の穴埋め要員と考えてはいけません」(宇佐美氏)
 実際、彼らは帰国後も日本で勤務していた会社がベトナム進出をする際にリーダー的存在となって働いてくれる事もある。社外行事に誘えば大喜びしてくれるといった一面もあり、気さくに交流する事でお互いの成長につながる絆が生まれる事もあるという。



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