日々の積み上げこそが財産 - 喜福堂の金子幾雄社長 - ブランスリー電子版

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インタビュー/2016年11月号

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日々の積み上げこそが財産 - 喜福堂の金子幾雄社長
社長の金子幾雄さん(左)と店長の水嶋基さん
 「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる東京・巣鴨の地蔵通り商店街に、今年で創業100年を迎えた老舗ベーカリーの喜福堂がある。看板商品のあんぱんを毎日500個も販売する。今年2月に4代目社長に就任した金子幾雄さん(43歳)は、毎朝祖父の代から伝わるあんを練る。金子さんには製パン技術者の経験は無いが、17年間の会社勤めで得た多くの経験を活かして、新たな店づくりと人づくりに取り組む。次の100年への意気込みを聞いた。



店頭でも名物のあんぱんを売る喜福堂の外観
来店客に丁寧に応対する販売員
秋の新商品を知らせる看板
自由に食べてほしいと、キューブ形にした新商品の「プレミアムレーズンキューブ」
「プレミアムレーズンキューブ」の断面
祖父と父の合作のあんぱん
―――今年で創業100年だそうですね。評判のあんぱんの味も100年というわけですか。
金子 いえいえ、大正5年(1916年)の創業した頃には、コッペパンにあんとバターを挟んだものが人気だったようです。あんぱんを本格的に作り始めたのは昭和40年(1965年)以降のことだと聞いています。私が子供の頃はキンツバが売り上げの中心でした。店の前に10メートルの行列が出来るほどでした。冗談で、店も自宅もキンツバで建てたと言っていたくらいですよ。
―――キンツバは大人気商品だったのですね。
金子 はい。2代目の祖父は和菓子職人として、今でいうところのヘッドハンティングで喜福堂に入社しました。その祖父の作るあんが評判でした。
―――それ程人気のキンツバをやめて、何故あんぱんに切り替えたんですか。
金子 私の父の夢は政治記者になることでした。しかし、大学を卒業したころは、店が非常に忙しかったのです。ある時父は祖父にパン作りを提案しました。洋風に憧れがあったのかもしれません。パン屋の道を選択した結果あんぱんの誕生となりました。祖父のあんは、氷砂糖で練り上げたコクとつやのあるあんです。それに合うパン生地を父が研究を重ねて完成させました。卵とバターがふんだんに入った生地です。
 あんぱんの発売当初はキンツバも販売していたのですが、あんぱんに本腰を入れるためにキンツバは封印しました。
―――封印ですか。もったいないですね。でも、その結果、今があるということですね。
金子 あんは祖父の和菓子のレシピです。父がそれに相応しいパン生地を合わせ、喜福堂のあんぱんを生み出しました。それを母が守って来ました。4代目の私が次の100年に引き継ぎます。

企業幹部の経験を活かす
―――社長で4代目ですか。
金子 はい。父は私が中学1年生の時に病を得て亡くなりました。3代目は母が継いだのです。今年2月に社長に就任しました。それまで、17年間会社勤めをしていました。昨年母から後を継ぐようにとの話がありました。母も70歳ですからね。私は在職中営業、企画、経理、総務の各部門を経験し、最後は部長職を務めていました。営業所長や部長時代に社員をリーダーとしてどの様に引き上げるのか考えさせられました。この経験はこれからの喜福堂に活かせると思います。
―――経験を活かして新たに取り組みを始めたことがありますか。
金子 実は、2月に就任した時、主力商品のあんぱんとクリームパンの売り上げが落ちていました。原点に帰ろうと考えた切っ掛けです。商品動向を調べたところ、フランスパンやデニシュ類などはあまり売り上げに貢献していないことが分かったのです。そこで、商品の絞り込みをしました。
 それに、店舗のある巣鴨地蔵通り商店街の6月〜8月は一番訪問客の少ない時期なんです。この時期こそ仕掛けなければと思い、食パンの新商品を発売しました。「プレミアムレーズンキューブ」の商品名で販売しています。6枚切り、8枚切りなどといった切り方にこだわらず、千切って食べるなど自由に食べて欲しいと思い、作りました。立川市のデパートで7月に6日間販売会を実施しましたが、そこでも人気でした。
―――期待できる新商品の登場というわけですね。ところで、商品の絞り込みで、主力商品は復活したのですか。
金子 もちろんですよ。平均すると平日は500個、土日祝日の売り上げ個数はさらに増えます。それと、デパートですと、複数のそごう系店舗で週1回、池袋西武では週3回あんぱんを販売します。この場合通常より製造量は増加します。



フレンチトーストも人気商品の一つ。牛乳と卵がたっぷり
日本カレーパン協会推奨の五穀カレーパン。油で揚げていない
黒ごまが目印のつぶあんぱん。伸びの良いしっとりとしたパン生地であんを包む
3割の商品から8割の売上
―――本当にあんぱんは人気なんですね。
金子 売り上げの確保は軸になる商品があれば十分可能だと思うんです。例えば、菓子パンで考えてみます。まず、つぶとこしのあんぱん2種とクリームパンそれに季節商品2種類の計5種類。これらで、売り上げアップに挑戦することも考えられます。販売する全商品の30%で売り上げ全体の80%の確保を目指したいのです。
―――商品の絞り込みが来店客数や消費者の購買意欲に影響を与えませんか。
金子 来店してくださったお客様にとって、圧倒的に必要なのは技術力だと思います。私どもの味をしっかりと継承しているのは、2月から店長を任せている義弟の水嶋です。製造経験10年のベテランですので、信頼しています。
 燃料費等の下落があるものの材料費の高騰があります。お客様のことを考えたら、現在使用している材料を変えたくありません。材料費を安定させるには、取引先を絞り込んだ上に、各企業への仕入れ量を増やすなどすれば、可能かもしれません。材料費を安定できれば、販売価格を維持できますし、お客様に負担をかけずにすみます。
―――売り上げに影響はないと。
金子 何もしなければ売り上げは落ちます。考えられることを実行し、その成果を積み上げていくことしかありません。
―――一つひとつ積み上げていくには何が必要なのでしょうか。
金子 祖父が練り上げたあんと父が完成させたパン生地で作られたあんぱんを1人のお客様に届けられるのは、それに携わった従業員のお蔭なのです。私自身も含めて、人を育てていくしかありません。
―――何かお考えが。
金子 会社員時代のある時、幹部にこう問われました。「お前が明日からメシを食えるのは何故だ」と。答えられずにいると「セールスマンが日々持ってくる5円、10円の大切さを忘れなければ良いリーダーになれる。自分の成果は皆が持ってきてくれたものだ。そのことを忘れるな」
 これは、仕事仲間に対する心配りです。愛情が無ければ出せませんね。

大切な良いリーダーの存在
―――心づかいがリーダーを育てると。
金子 良い店には良いリーダーがいると思います。そして、それが継承されていくわけです。
―――人づくりに向けて動き出しているのですね。
金子 今は、個人の持っている能力に依存しています。既に後任の育成を任せている人もいますが、まだ理想とは開きがあります。しかし、どのように優れた指導力のある人材を育てるかは、社長である私の仕事です。これまでの経験を生かせます。
―――丁度次の100年に向かう時期にトップに就任しました。
金子 私に次の100年へのビジョンがあるわけではありません。6か月、1年、3年と一歩一歩進むことでしか未来は作れません。主力商品のあんぱんを大切にしつつ、調理パンやサンドイッチの充実を図るつもりです。それと、将来は都内だけでなく他県への出店も発展の1つと考えています。
―――店舗展開ですか。
金子 切っ掛けは祖母の存在です。母は大阪出身です。大阪に90歳を過ぎた祖母がいます。あんぱんは宅配便でしか届けられません。近くに店があれば出来たてを食べてもらえます。
―――多くの人の近くに喜福堂のあんぱんを届けたいとお考えなんですね。
金子 ええ。福島や福岡からインターネットを通じて注文を下さるお客様もいます。そうした方々にも気軽に足を運んでいただきたいのです。
―――一つずつ考えていることを実行していければ。
金子 そうですね。日々の積み上げこそが、人にも店にも財産を生むのだと思います。将来的には、あんぱんで5本の指に入ると言われる店を目指します。





原価計算女王
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