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特集/2016年4月号

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コンテストに参加して販促に活かす




コンテストでの受賞がきっかけで、商店街全体が活性化する
「レーズンと熱海橙の田舎パン」の断面。地元で古くから栽培されているかんきつ類の一つ、橙(だいだい)の蜜煮を練り込んでいて、特徴ある味だ
受賞作品「麦こがしと黒糖の食パン」に改良を加えた「豊熟(ほうじゅく)」(1斤税抜300円)
「レーズンと熱海橙の田舎パン」は、奥の大きいサイズは税抜400円、手前の小さいサイズは税抜200円で販売している
売り場にコンテスト受賞で授与されたカップや賞状などが飾られている
店内にはベーカリージャパンカップ開催時に使用したプラカードが掲示されている
朝から昼過ぎまで常に客が絶えない店内
 静岡県熱海市のベーカリー「パン樹 久遠」は、店主の武山陽司さんが、東京パングランプリなどのコンテストに参加し、賞を受けているが、その受賞製品を積極的に、店のPRに活かしている。また、コンテストで入賞することで、地元の雑誌やテレビが紹介してくれて、その影響力は大きかったという。さらに、コンテストに参加することで、食材についての知識も深まり、商品開発力の強化にもなっているという。


コンテストで受賞したパンを実際に販売

 首都圏に近い温泉地として名高い、静岡県熱海市にあるベーカリー「パン樹 久遠」。JR熱海駅からすぐ、温泉饅頭の湯気が立つ土産物店が軒を連ねる仲見世通り商店街の一角にある。
 同店には観光客も訪れるが、8割がたが地元客だという。
 店主の武山陽司さんは、「『よくあるパン屋』と言われるくらいの、町のパン屋の王道を目指しています。どこにでもありそうだけど、味は確かにおいしいと思ってもらえるような店でありたいです」と話す。
 2001年に開業してから、「店をもっとよくしていきたい」という一心でやってきたという武山さん。こうして10年が過ぎた頃、コンテスト参加の話を聞いた。そして初参加となったのは、2012年開催の「東京パングランプリ」で、全日本パン共同組合連合会会長賞を受賞した。翌2013年開催の「第1回ベーカリージャパンカップ」では、国内産小麦パン部門最優秀賞を受賞している。
 店内には、コンテストで授与されたトロフィーや賞状などのほか、コンテストのときに使用した、パンの写真や店名が印刷され、「優勝」などと書かれた大型のプラカードも飾られている。
 「プラカードは、コンテストの主催者側の方に、店に飾ったりできるようにと、持ち帰ることを勧められたんです。販売に役立てて欲しいとのことでした」(武山さん)
 売上げは毎年上昇続きで、客数も開業時と比べ現在は倍以上になっている。コンテスト出場後は特に、売上げが2割くらいアップしたという。
 「広告などは出さずにやってきたので、コンテストで受賞して、地元のタウン誌やテレビが取り上げてくれたときは、その影響力を感じましたね。また、参加したコンテストは、製品の市場性の高さも重視するものだったので、実際に店で販売できる商品であることを前提に開発しました。当店がコンテストで受賞したというニュースだけでなく、受賞したパンと同じものを店に並べられるということも、お客様に喜んでいただくためにかなり重要なことだと実感しています」(武山さん)
 「第1回ベーカリージャパンカップ」の受賞作品となった、「レーズンと熱海橙(だいだい)の田舎パン」(24ページにレシピ)は、現在同店で税抜400円、小さいサイズは税抜200円で販売している。
 もう一つの受賞作品の「麦こがしと黒糖の食パン」は、受賞時からさらに改良を加えた。そして「豊熟(ほうじゅく)」という商品名に改め、1斤税抜300円で販売している。
 「東京パングランプリ」の受賞作品「来宮天狗モウス食パン」も、1斤税抜290円で曜日限定で販売している。

地元の食材を使用してのパンづくり

 コンテストで受賞したパンに使われている橙と麦こがしは、地元熱海の特産品だ。
 「コンテストへの参加がきっかけで、地元の食材への関心が高まりました。橙は、地元で古くから栽培されているかんきつ類の一つで、麦こがしは、近所の神社にまつられている神の好物とされているものです。どちらも、コンテストに出る機会を得るまで、本格的に使ってみようと思ったことはありませんでした」(武山さん)
 橙は、「レーズンと熱海橙の田舎パン」に使用しているが、通常食用に使用されることはないという。
 「橙は、大量の灰汁があります。そのため、食用にするには、何度も煮こぼさなければなりません。そうした手間をかけてから、煮詰めていくと、強い香りとわずかな苦味を持った蜜煮になります。オレンジピールなど、ほかの柑橘にはない、橙ならではの特徴だと思います」(武山さん)
 橙の蜜煮は、武山さんの両親が饅頭店を営んでいたときからあんを仕入れているという、長いつきあいのある製餡メーカーに、特別に作ってもらっていいる。
 武山さんは、コンテストで受賞した「レーズンと熱海橙の田舎パン」のほか、橙の蜜煮を使用した商品を、新たに開発した。白あんに橙の蜜煮を練り込み、それをパン生地で包んで焼き上げた「熱海だいだいあんぱん」(税抜125円)だ。
 「『熱海だいだいあんぱん』は、熱海土産にもなると思いますが、地元の人に人気が定着しています。地元の人も、橙を食べる機会はなかなかないですからね」(武山さん)
 麦こがしは、「豊熟」と「来宮天狗モウス食パン」の両食パンに微量配合しているほか、ラスクやクッキーなどの焼き菓子にも使っている。
 「麦こがしは、使ってみて分かったことですが、多く配合するのであれば、パンよりもむしろ、焼き菓子の方に向くのではないかと思います。洋菓子店や和菓子店といった、当店以外の店でも、麦こがしを使った商品を扱うようになってきています」(武山さん)



JR熱海駅からの仲見世通り商店街の一角にある「パン樹 久遠」
店主の武山陽司さん
「レーズンと熱海橙の田舎パン」に入れているのと同じ地元産橙の蜜煮入り白あんを包んだ「熱海だいだいあんぱん」(税抜125円)
「レーズンと熱海橙の田舎パン」の断面
地元を盛り上げるきっかけづくりを担う

 武山さんは3年前、ちょうどコンテストに出場していた頃になるが、2店舗目となるベーカリーカフェ「キノミヤ クオン」をオープンした。場所は、熱海駅の隣駅であるJR来宮駅の近くの、麦こがしに由縁のある来宮神社の参道だ。参道には、同店のほか、和菓子店、洋菓子店、蕎麦店などが立ち並ぶ。
 これらの店に武山さんは、麦こがしを使った商品を開発して、販売していこうと提案したという。コンテストで受賞したことが、その提案に強い説得力を持たせることになった。
 「参道の店が一体となって、神社に由縁のある共通の食材を使うことによって、地域を盛り上げていくことに繋がればと思いました」(武山さん)
 現在、参道の各店では、麦こがしを使った菓子を、「来福スイーツ」と名付けて販売している。「来福スイーツ」の名のもとに、饅頭やロールケーキなどの新しい名産品が誕生したのだ。菓子だけでなく、蕎麦店でも、つゆに麦こがしの風味を付けたメニューを展開するなど、参道全体での盛り上がりを見せている。
 武山さんのコンテスト受賞は、自店だけでなく、地域を活気づけるための活動の第一歩ともなったようだ。

SHOP DATA
店名:パン樹 久遠
住所:〒413‐0011 静岡県熱海市田原本町7‐3
電話:0577‐81‐3310
営業時間:午前7時30分〜午後6時30分(売り切れの場合はその時点で閉店)
定休日:木曜・第3水曜
品揃え:120品目
スタッフ:製造常時6人、販売常時2〜3人
店舗面積:売り場約20坪(カフェスペース含む)、厨房約10坪
日商:25万円



コンテストでの受賞実績が店の技術力の高さのアピールになる
製パンの世界的な大会である「iba cup2015」で日本チームが優勝した時の作品の一つで、楽器の鍵盤をイメージさせる形の生地にオレンジ風味のチョコクリームとマカデミアナッツを入れた「ケンバン」(税込230円)
「カナダ産小麦を
使った食パンコンテスト」(2001年)で最優秀賞を受賞した「マニトバブレッド」(1斤税込227円)
製パンの世界的な大会である「iba cup2015」で日本チームが優勝した時の作品の一つの「カラフルムーン」(税込260円)
「クランベリーチャレンジキャンペーン」でベーカリー部門優秀賞を受賞した「赤い宝石箱」(税込206円)
「iba cup2015」で日本チームが優勝。左から「ラ・タヴォラ・ディ・オーヴェルニュ」の浅井さん、富士屋の渋谷さん、井上さん
 東京都葛飾区のベーカリー「ブーランジュリー オーヴェルニュ」のオーナーシェフ、井上克哉さんは「当店では毎日の商品作りに励むと共に、製パンコンテストやコンクールへ挑戦することをスタッフに勧めています」と話す。

店の方針でコンテスト挑戦を奨励

 東京・葛飾区のベーカリー「ブーランジュリー オーヴェルニュ」とその2号店「ラ タヴォラ ディ オーヴェルニュ」のオーナーシェフ、井上克哉さんは、今まで様々なコンテストに参加し、様々な賞を受ける中で多くの事を学び、成長してきた。そのため、スタッフにも技術のレベルアップや意思の向上を目的に出来るだけコンテストに挑戦して欲しいと考えている。
 昨年10月には製パンの世界的な大会である「iba cup 2015」で、井上さんから2号店のチーフを任されている浅井一浩さんと新潟県新潟市のベーカリー「富士屋」の渋谷則俊さんによる「チームジャパン」が優勝。「ブーランジュリークルミ」(埼玉県さいたま市)の福井清史さんがサポーターとして参加し、井上さんもチームの監督として参加した。代表選手2人は井上さんの指示の下1年半のトレーニングを積んで挑んだという。
 「日本のベーカリーの技術が世界でも認められた。とても嬉しいことですね」(井上さん)
 その優勝作品のいくつかを2月に新商品として発売。三日月型の生地をかぼちゃ、抹茶、ココアの3色のメロン皮で包んだ「カラフルムーン」(税込260円)と、楽器の鍵盤をイメージさせる形の「ケンバン」(税込230円)で、店での売れ行きも良いという。
 「大会のテーマだった『サーカス』をイメージして作ったものですが、立ち止まって目を引くようなものになっている一方、ある程度、毎日買っても食べやすいような味つけにしています」(井上さん)
 実は井上さん自身も2009年の「iba cup」に日本チームの一員として出場している。世界大会に向けて打ち合わせや特訓を重ねる合間に「ドイツパン・菓子研究会」(2008年6月に設立された、ドイツ、オーストリア、スイスのパン、菓子を勉強する会)などでの活動をしたり、講習会の講師なども積極的に引き受け、多くの人達との出会いがあった。
 「コンテストに参加する事はモチベーションの高い様々な人と出会う事につながり、良い刺激になりますね。競争し高め合ったり、様々な情報を交換したりして、職人として成長することにつながると思います」(井上さん)

新商品を作ることで得た転機

 井上さんは1999年に「カリフォルニアウォルナッツコンテスト」でグランプリを獲得したことがコンテストでの初めての受賞だった。「ショソンノア」という全粒粉とクルミの入ったハード系でスリッパ(ショソン)の形をした作品で、井上さんがまだ独立前、ドンクが展開するベーカリー「ジョアン」でチーフとして勤務していた頃の作品だ。
 井上さんのパン職人人生で大きな転機となったのは、ドンクでチーフになった事を機に新商品の開発を任されるようになった事だったという。受賞は新商品を作る楽しみを覚えた矢先での出来事だった。
 「自分にとっては初めての受賞でグランプリを取ることができたので嬉しかったですね。日常の業務も大切ですが、コンテストを受賞するという目標を持つことで、普段の業務も意識を高めながら取り組むことができるようになると理解しました」(井上さん)
 もともと空手の師範を目指していた井上さんはベーカリーのバイトをしていたことをきっかけにいつしか本格的なパン職人を目指すようになり、個人店のベーカリーに就職。その後、中村屋「ファリーヌ」や、「ビゴの店」を経て、「ジョアン」に勤務したが、新商品を作る機会を得たのはチーフになってからだ。当時はいきなり月20品位作らされるようになり戸惑った。無我夢中で当時は休みのたびに食べ歩きもし、洋菓子店に入れば色や味の組み合わせを参考にするなど研究を重ねた。素材選びはバランスを大切に考え、形は目を引いてもらえるものがどんなものか想像を膨らませた。
 「大変でしたが、段々そのアイデアを膨らませることの楽しさがわかるようになってきました。日常の中でふと良いアイデアが思いつくことがあって、そういうインスピレーションみたいな感じを大切にしました」(井上さん)
 当時からのレシピの記録は大体保存してあるといい、今でもそれを見直して参考にすることもあるという。独立してからも月に5、6品のペースで新商品を作り、今はある程度スタッフに任せているため井上さん自身が作る作品は減ってきているが、それでもドンクの頃から現在まで井上さんが生みだした新商品はざっと1000点以上にはなるという。

「ブーランジュリー オーヴェルニュ」店内の様子
東京・葛飾区のベーカリー「ブーランジュリー オーヴェルニュ」
オーナーシェフの井上克哉さん
店の技術力のアピールにもつながる

 「カリフォルニアウォルナッツコンテスト」でのグランプリ受賞を皮切りに井上さんは多くのコンテストで受賞歴を積み重ねていくこととなる。「カリフォルニアレーズンコンテスト」(24ページに受賞作品のレシピ)や「創・食Clubパンレシピコンクール」「カナダ産小麦を使った食パンコンテスト」などで、最高位での入賞を果たした。
 そして、受賞作品の多くは独立後に店内で実際の商品として販売した。その中には既に販売を中止してしまったものもあるが、カナダ産小麦を使った食パンコンテストで最優秀賞に輝いた「マニトバブレッド」(1斤税込227円、25ページにレシピ)など現在でも人気商品として販売されているものも何品かある。井上さんの受賞作品のほか、同店のスタッフが受賞した作品も販売している。
 ただ、受賞作品はポップで紹介するなどはするが、それだけに特に販促をかけているわけではないという。
 「当店のお客様の多くは地元住民で常連の方ですから、受賞作品を売ると確かに話題性は高まりますが、それよりコンテスト参加に積極的な店と示すことで店の技術力をアピールし、地域で愛される店になれればと思っています」(井上さん)
 新商品の開発やコンテスト参加に熱心だからという理由で同店への就職を希望する人もいるという。
 同店では、新人でも入店して半年経った時点で新商品を考えさせるようにしている。
 コンテストの応募も早くから挑戦しているスタッフが多いが、最近は不況のためコンテストの数自体が減ってきていて、入賞の機会が狭まってきたという。
 「広い世界で自分の力を試すことが良い刺激になるのではと思います。勉強の積み重ねが将来につながるので頑張って欲しいですね」(井上さん)

SHOP DATA
店名:ブーランジュリー オーヴェルニュ
住所:〒124−0012 東京都葛飾区立石6‐5‐7
電話:03‐3691‐5102
営業時間:午前7時〜午後7時00分
定休日:なし
品揃え:220品目
スタフ:製造兼販売10人、パート4人
店舗面積:売り場4・5坪、厨房16・5坪、折り込み室7坪
月商:900万円

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