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| 特集/2016年2月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 進化は常識を疑うところから始まる | ||||||||||
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時の流れは、才能ある人たちの探求心を取り込みながら、
進化という貴重な産物を生み出していく。 世の中の進歩は、現在の価値観を壊すことで初めて実現される。人間の歴史は、節目節目に出現する才能ある人達によって作られてきたが、日本のパン業界も事情は同じだった。今回の特集では、パン業界の革命児2人を取材し、そのエッセンスに迫った。 |
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| ツオップ
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| べーカリー業界の常識を覆す斬新な店舗デザイン | |
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扉を開けたときの驚きがある店
山小屋風で、店内のパンが見える窓がなく、目立つ看板もない、一目でベーカリーだと認識しずらい店構えの、千葉県松戸市のベーカリー「ツオップ」。扉を開けると売り場は薄暗く、そこに目一杯の量のパンが並べられている。パンは、スポットライトに照らされ、輝かしく見える。 営業形態も様々な、個性あるベーカリーが増えてきた今でこそ、同店のような店構えは珍しくないかもしれない。しかし、店長の伊原靖友さんが「15年前の開業当時、外からパンが見えないベーカリーは、見たことなかったし、知らなかったですね」というように、当時は、ベーカリー業界の常識を覆すような、斬新な店舗デザインだった。 この、当時多くの人々を驚かせた店舗デザインを生み出した経緯について、伊原さんは、こう話す。 「入るまで分からないようなわくわく感や、扉を開けたときの驚きがある店にしたかったというのが、店舗デザインの主旨ですね。ですが、裏事情として、物理的問題も持ち合わせていました。西日が当たるので、それを防ぐために大きな窓は付けたくなかったのと、店が小さく、売り場のスペースが広く取れないので、パンの並べ方や演出にも工夫が必要だったんです」(伊原さん) 眼鏡店や洋服店などを参考にした 伊原さんは、立地や大きさなど、物理的問題があったにも関わらず、別の場所で開業することは考えなかった。むしろデザインの材料として活かした。 「父がやっていた店を、受け継ぐという形での開業でしたから、ここでやっていかないといけないという思いと、父がここで何十年とやってきたということで、安心感もありましたからね」(伊原さん) 受け継いだ店を改装するにあたり、参考資料として、様々な店舗の写真を集めてスクラップブックを作成した。 「イメージを膨らませるために、眼鏡店や洋服店など、色々な店舗を見に行きましたが、ベーカリーには行かなかったですね。ほかの飲食店も、なかなかこれといったものはありませんでした。全体的なものより、柱とか装飾とか、部分的なものの写真を撮ったりしました」(伊原さん) こうして、妻のりえさんと共に、店舗デザインのイメージを膨らませていった。そして、現在の同店の姿である、窓がなく、店内は薄暗くパンにスポットライトを当てるなどの要望を、店舗デザイン会社に伝えた。しかし、要望を、受け入れてもらうことができなかった。 「『外から見てベーカリーだとわからないような店は、つぶれそうだからつくれない』と言われ、代わりに、自分たちのイメージと全く違う、ガラス張りのデザインを提案されました」(伊原さん) これを受けて、りえさんは、「できることからやっていこう」と、店に取り付ける予定のステンドグラスづくりに取り掛かった。するとその後は、ステンドグラスがきっかけで別の工務店と出合い、スムーズに改装作業が進行していった。 「若干遠回りはしましたが、イメージ通りの店になりました。それに改装費用は、店舗デザインを妻が描いたこともあり、厨房機械も含めて520万円で済みました。大事なのは、自分のやりたいことをどれだけフィードバックできるかということだと思います。人と同じような店にすれば、裏を返せば、その店では人と同じことしかできない訳ですから」(伊原さん) |


| 365日
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| 客の要望は、客自身が知っている範囲を越えない | |||||||||||||
「ベーカリーの市場は飽和状態と言われていますが、これは皆で既存のものを共有し、同じものを分かち合おうとするからではないでしょうか。流行をこぞって模倣することに力を注ぎすぎてしまうと、競争には勝っても次につながる新しい創造は生まれません」と 東京・渋谷区のベーカリー「365日」のオーナーシェフ、杉窪章匡さんは語る。同店は2013年12月のオープン以来、杉窪さんの常識を覆すような商品展開や店舗運営が話題を集める人気店だ。開店後1年目の売上高は1億円、2年目は1億6000万円を達成している。 実は杉窪さんがその前にシェフを務めていた東京・表参道のベーカリー「デュヌラルテ」では年商5000万円を6年半で2億円にした。またその前に在籍していたパティスリーでは立ち上げから2年で日商70万円まで成長させている。 「昔は誰でも長く勤め技術を身につけて独立すれば成功すると言われていました。でも今は経営には工夫が必要で、うまくいくやり方をしないといけないのです」(杉窪さん) サービス業の基本として、時代の流れを見て客が何を求めているか感じとる必要はあるが、単に客が望んでいることを提供すれば良いのではないという。 「お客様が望んでいることは、お客様が知っていることのみに限定されます。今までにない新しいものを提供し、お客様の未知の嗜好を開拓していく必要があります。そしてそれをどこまで広げていけるかが重要になってきます」(杉窪さん) 未知の食材を探して全国を巡る 杉窪さんは「365日」での商品展開にあたり、日本各地を探し回って見つけた食材を使用している。実際に見てよく話を聞き、味を確かめ、その素材の特性を知り尽くすことを大切にしている。例えば小麦は15種類ほどの国産小麦を使用しているが、粉の状態での味や色で特徴の違いを分析するという新しい手法で、各小麦の特性を生かしたパン作りにつなげている。すべての製品について、 「それぞれが『この小麦でないと作れない』という商品です」(杉窪さん) 杉窪さんはその食材を手がけた生産者の思いをいつも大切にしている。だから同店では国産小麦のみならず、使用するあらゆる食材で、その特性を生かした商品展開を行っている。 「最近は個人店のベーカリーでも、素材の特徴を生かした作り方ではなくて、レシピありきの製法になっているところもあります。スーパーやコンビニなどと同じ製法で同じ材料で同じものを作るのではなく、その店でしか作れないものを作らないと、いずれベーカリーがコンビニに負ける時代がきてしまうでしょう。そのためにも食材についてもっと理解を深め、そこからどんな商品が作れるのかを考える必要があります」(杉窪さん) | |||||||||||||
| 業界で常識とされることも疑ってみる必要がある | ||||||||||||||||
「デフレの時代でも、限られたパイを取り合い各企業が価格競争をするのではなく、皆がそれぞれ価値あるものを出すようにしていれば価格は下がらなかったと思います。ただし、そうした価値あるものを出していくためには論理的思考力と感受性を意識して磨く必要があります。技術は仕事をずっと続けていれば身につきますが、理論と感受性は意識しないと育ちませんね」(杉窪さん) 実は杉窪さんは、神戸のパティスリーで修行を積んでいた二十歳の頃から、1日3時間の独学での勉強を開始している。十代後半から飲食業界で働き、調理師の専門学校も卒業した杉窪さんだが、周囲での競争環境が厳しくなる中、その中で生き残っていくために必要なことは何かを考えた。他の職人にはない自分だけのものを身につける必要があった。 「食材の勉強から開始しました。3時間必要だったのは、3日後に必要な知識と10年後に必要な知識の両方を同時に学ぼうとしたからです」(杉窪さん) 3日後に備え現場で直接役立つ知識のみを学び続ければ、結局目先の仕事に追われるだけになってしまう。自分が将来教える側になった時のことも考え、何を学ぶべきか考えた。10年後に必要なマネージメントスキルと、今後広い範囲で必要となりそうな食材の知識なども平行して身に付けた。 同時に現在まで続く食べ歩きもこの頃から開始した。自分の仕事に近い他の洋菓子店から、ベーカリー、フレンチレストランと広げて見ていった。店舗の席数や客単価などから売上を推測し、メニューや材料、従業員の数など、その店の特徴をあらゆる角度から見て観察したという。 「ヒト・モノ・カネがない人間にとって財産は『時間』なんです。だから『時間』を使い独学で多くのことを学んでいましたね。僕は業界全体で週休2日制の導入をすすめるべきだと20年以上前から考えていたのですが、休みが増えれば目先の事のみにとらわれず、自分を成長させるための時間に割り当てられるということも理由に入っています」(杉窪さん) 実際に現在は「教える側」になった杉窪さんだが、独特のスタッフ教育を行う。まず同店では完全週休二日制を導入、またフルタイムの従業員は全て正社員で雇用している。そして採用面接では応募者に各自の夢を語ってもらう。 「話を聞き、その子の夢を叶えるためにうちでどんなことができるのか話し合います。当人が変わることに対して抵抗があれば難しいですが、そうでなければうちで働くことは可能です」(杉窪さん) 実際の現場ではマニュアルを教えるのではなく、今、目の前で何が起きているのかを察知する感受性と、その状況に対して何をすれば良いのか論理的に考えて判断する力と、実行のための技術力を身につけさせるという。 「自分で考えて決める力をつけさせています。時代の変化と合わせた新しい方法を考え出していくためにも、こうした理論と感受性を磨くことは大切です」(杉窪さん)。 「本当に大切なもの」は何かを見極める 杉窪さんは「食べ物の役割自体も変化してきている」と話す。戦後は食べ物といえば「お腹を満たしたいから」食べるものだった。それが、バブル期には「おいしいから」に変わった。そして今は「体を作っていくものだから」。食べ物がどう体に影響を与えるのか考える時代になってきている。 「消費者の方が考えなくても、食のプロである我々が当然のこととして消費者の体に良いものを提供していく必要があると思います」(杉窪さん) 同店では、有機野菜などを使用し、添加物の使用も極力控えているほか、ハムやベーコンも豚をまるごと仕入れて店で作る。また厨房にはセシウムを除去する浄水器も設置。ビジネス上の利益にはつながらなくても消費者への「体に良いサービス」を当然のこととして提供したいからだ。 「今のベーカリー業界は20〜30年前のビジネスモデルにしがみついている人が多い気がしますが、業界で常識とされることも一つ一つ疑ってみる必要があると思います。その際には、本当に大切なことは何かを押さえた自分なりの軸を持つことが大切です」(杉窪さん)。 経営には法律の知識も必要だと杉窪さんは考えている。 「まだ業界の体質として従業員の労働環境の整備が十分でないと思います。僕はどうやって法律を守りながら経営していくべきかをここ20年間位ずっと考えてきました。週休二日制については常識になるように、全体のバランスを考え直す必要があるかもしれません」(杉窪さん) | ||||||||||||||||
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