第2弾 1人でパンを作るベーカリー - ブランスリー電子版

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特集/2015年12月号

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第2弾 1人でパンを作るベーカリー




小規模運営で順調に推移ただ、今後の課題もある
「ブレッダルワン」の外観。店前の列が絶えない
店主の山岸充さんが一人でパンを作る
開店前の準備をする販売担当の今野さん。手際よくパンを並べていく
約30種類のパンが並ぶ。陳列台は2段になっており、下の段はガラスのショーケースになっている。対面式販売
昼と夕方の2部制で販売する

 東京・世田谷区、京王線の電車が目の前を走る場所に立地する「ブレッダルワン」は、店主の山岸充さんが1人で製造している。
 正午の開店前から、店前に並ぶ人の列ができるほどの人気店で、特に「角食パン」(税込300円)は、予約を取るのも困難なほどだ。「角食パン」は2斤棒が9本、「イギリス食パン」(税込み300円)は2斤棒が8本、そのほかのパンも10〜20個ずつと、数に限りがあることもあって、そうした事情を知っている常連客は、早く足が向かうのだろう。
 また、開店後はいつ行っても開いている訳ではなく、一旦閉店する時間がある。昼と夕方の2部制となっていて、正午に開店したら15時頃一度閉め、夕方は午後5時から商品が売り切れる午後7から9時ぐらいまで営業する。
 「開業後まもなく、昼過ぎに売り切れて何も売るものがなくなってしまうという事態が続きました。それで、売り切れたら一度閉店して、その間に作って、また売るようにしたんです」(山岸さん)
 2部制をとる営業体制は、開業後すぐ定着し、12年目の今に至るまで続いている。
 しかし開業前の計画では、1人で製造だけでなく販売もこなそうと思っていたという。
 「こんなに売れるとは予想していなかったので、販売も自分でできたらいいなと思っていました。しかし実際はとんでもなくて、急遽パートさんに入ってもらうようになりました」(山岸さん)
 販売担当のスタッフは3人おり、ローテーションで、常時1人入るようになっている。10年以上勤務しているという今野さんをはじめ、ベテラン揃いだ。
 開店前の30分で、今野さんは手際よくパンを並べていく。パンのそれぞれの陳列場所をまるで身体が覚えているかのように、動きに無駄がない。
 「山岸さんは作るのに集中しているので、できるだけ話しかけないようにしていて、何か変わった商品があるかどうかだけ、聞くようにしています」(今野さん)



リンゴ、カスタード、洋ナシをデニッシュ生地にのせて焼いた「洋なしアップルクリーム」(税込260円)。カスタードを使用したパンは夏期は製造していない
予約を取るのも難しいほど人気の「角食パン」(税込300円)
「メロンパン」(税込160円)や「くりのパン」(税込160円)などの菓子パンや、「大葉ベーコントマト」(税込160円)などの惣菜パンは、ボリュームがある割に手頃な価格設定
根セロリの酢漬け、クリームチーズ、ペッパーシンケン、チーズとボリューム満点の「クリームチーズと根セロリポーク」(税込230円)
「レーズンハースブレッド」(税込620円)は、2日経ってもしっとりふわふわな食感
低リスクで始めたかった

 山岸さんは、全国展開するチェーンベーカリーで18年間働いた後、独立した。1人で作っていくことは最初から決めていたという。
 「商売を始めるのに、まず低リスクであることが大事です。店の規模が大きければ大きいほどリスクは高くなりますから、小さい店舗で、1人で作っていこうと思っていました」(山岸さん)
 20〜30人のスタッフが働く店舗のチーフを任された経験などから、山岸さんは人を使うのが得意ではないことを実感したという。
 「人には得手不得手がありますから。これまでも、製造スタッフを入れようと思ったことはないですね」(山岸さん)
 しかし販売スタッフの存在は重要だという。山岸さんの1日は、朝まだ真っ暗なときから、夜は10時頃まで厨房でパン作りに追われる。販売スタッフがいなければ、1日中ろくに話をすることがなくなってしまうのだ。
 「すべて1人だと精神的に辛いと思います。仕事中は基本的に話さないですが、ちょっと時間ができたときに販売の方と話をするとリフレッシュできますね」(山岸さん)
 低リスクということで、店舗は家賃が安いことと、自宅から近い場所であることを条件に選んだ。店舗はかなり小さく、厨房と売り場合わせて6・5坪。厨房もレジも、それぞれ製造と販売スタッフ1人ずつしか入るスぺースがないほどだ。
 一方で、機械にはお金をかけた。オーブンとドゥコンは新品を購入。冷蔵庫はリースにこだわった。
 「オーブンとドゥコンは、開業前からお世話になっていた機械メーカーさんのものにしました。使い慣れたものがいいですからね。冷蔵庫は、リースにすると購入するより費用がかかるのですが、調子が悪いとすぐにメーカーの方が見に来てくれますし、6年で新品に交換してくれるので、満足しています。開業資金は、1500万円くらいでしたが、これはほぼ予想通りでした」(山岸さん)

一人で作っていくための今後の課題

 開業してから今年で12年目を迎え、2部制をとる独特なやり方で順調に営業してきたが、現在直面している大きな問題があるという。
 「材料費がどんどん上がって、消費税は10%になると言われていて、そうしたなかで利益を上げていくのは難しいと思っています。調整のためにこれまで何度か、パンの価格も上げてきましたが、これ以上値上げしてしまうのは厳しいです。当店はご近所の方の普段使いのパン屋として、価格を抑えて販売しています。また値上げとなったら、お客様の期待を裏切ってしまうことになり兼ねないと思っています」(山岸さん)
 現在のパンの製造量は、山岸さんの身体と厨房機器をフル稼働した限界量に達している。
 「利益を上げていくには、たくさん作っていかなければなりません。しかし1人だと限界があります。限界量作っているなかで、材料費が上がるなど周りの環境が悪くなる一方では、収入も減る一途となってしまいます」(山岸さん)
 健康面も問題だという。同店は週休3日だが、2日間は仕込みがあるため、日曜日の一日しか山岸さんが休める日はない。病気をしても、日曜でもやっている数少ない病院を探さなければならない。
 「病気をしても代わりがいないですから、健康でいないといけませんね。幸い病気で店を休んだことはないですが、これから歳をとると、体力が衰えていく一方です。製造量も縮小していくしかないと思っています」(山岸さん)
 一人で製造していくのは体力的には大変だ。しかし「ストレスがないですよ」と言う山岸さんの声は生き生きとしていた。

ブレッダルワン
住所:〒157-0064 東京都世田谷区給田3‐5‐2
電話:03‐3308‐6599
営業時間:午前12時〜午後2時、午後5時〜売り切れまで
定休日:日曜、月曜、木曜
品揃え:約30品目
スタッフ:製造1人、販売1人
店舗面積:厨房5坪、売り場1・5坪
年商:約1700万円



小規模の個人店ならではのよさを最大限に生かす
店長の本行多恵子さん
千葉市稲毛区のベーカリー「ブーランジュリードド」
季節の野菜を日替わりで提供する「日替わりフォカッチャ」(税別200円)
商店会の畳店とのコラボで火曜のみ販売している「たたみパン」(税別で小120円、大358円)。無農薬で栽培された食用のい草粉末を使用している
本場の食事パンを提供したい

 「一年間留学していたフランスで、とりわけリーンなハード系の食事パンに対する興味が深まりました。こうしたヨーロッパのパンをより親しみやすい形で提供して喜んでもらいたいと考え、店を始めたんです」
 千葉市稲毛区の「ブーランジュリードド」の店長、本行多恵子さんは自分が店を始めた理由についてこう話す。同店は2011年2月にオープン。対面式の売場が2坪と厨房8坪のこぢんまりとした店内には、カンパーニュやバゲットなどのハード系の商品が多く並ぶ。客層は主に近隣の主婦が中心だ。
 最寄り駅の京成線・みどり台駅から約5分の静かな住宅街の中で、古い木造2階建てアパートの1階部分が店舗になっている。月の家賃は5万5000円。内外装は、考えられるところはなるべく自分で考え、友人の力も借りて扉や壁、床などは自分たちで作り上げた。店の前にはちょっとした草花が置かれ、店内はアンティークのオブジェやインテリアでまとめられている。
 「ふらっと歩いていたら、自分好みの店がこんな所で見つかったというような感じをねらい、わざとちょっと見つけにくい場所へ出店したんです。逆にそれでおいしい店だったから、人に教えたくなった、みたいな感じで広がってくれれば良いと思いました」(本行さん)

商品は本当に出したいものを厳選

 本行さんはここでパンの製造をほぼ一人で行い、販売は主に父の輝雄さんや高校時代からの友人である岩永佳代子さんに任せている。
 千葉市稲毛区のこの近くで生まれ育ったという本行さんだが、現在は店の近くにアパートを借りて一人で暮らしている。1日の流れとしては、朝起きてその自宅から徒歩で出勤。前日に成形したパン生地を焼成し、併行して当日焼きのパンの仕込みを進めていく。そして9時半頃ほかのスタッフが出勤したら、焼き上がったパンの袋詰めをし、11時の開店までに9割方パンを焼き上げ、そこから翌日のパンの仕込みと残りのパンの焼成を行う。
 製造は、ラスクに蜂蜜を塗るなどちょっとした補助的な仕事は岩永さんが手伝うこともあるが、基本的には本行さんがほぼ一人で行っている。そのため商品数は大体20種類と、本行さんが本当に必要だと感じるものに絞って出している。
 商品はカンパーニュやバゲットなどのハード系や山型食パンなどの食事パンが多いが、季節の野菜を日替わりで提供する「日替わりフォカッチャ」(税別200円)や子供向けにクリームパンやあんパンなども出している。取材当日は、商店会の畳店とのコラボで火曜のみ販売している「たたみパン」(税別で小130円、大378円)もおすすめ商品として出されていた。
 「この規模の店だと、どうしても、できることとできないことがあります。例えばカレーパンの具やクロワッサンの折り込み生地などは、夏場は暑くなるのでここの厨房で作るのは厳しいですし、ハード系でもっとバリエーションを増やしたいとか、サンドイッチも作りたいとか欲を言えばきりがないですね。そこは無理せず本当に必要だと思うものを選んで出すようにしています」と本行さんは話す。商品構成は、作業に負担がかからない範囲で楽しんでもらえるようなものを考えたという。
 「もちろんただ単にこちらのおすすめ品を出すわけではなく、ハード系は食べやすいように本場のものよりやや酸味を抑えたものを出したり、販売やポップなどでの説明を強化したりと、売るための工夫は積極的にしています」(本行さん)
 本行さんが製造の仕事で手が離せない時は、父の輝雄さんや友人の岩永さんが気さくに接客し、パンの特性はもちろん、保存方法に至るまで説明し、おすすめ品は試食も提供する。パンを通じたコミュニケーションを大切にすることで、一見、敷居が高そうなハード系の世界にも興味を持ってもらえるような工夫を施している。



こぢんまりとした店内には、カンパーニュやバゲットなどのハード系の商品が多く並ぶ
左から「スリーズ」(税別450円)、「レザンベール」(税別450円)、「フィグエノワゼット」(税別550円)
本行さんの父、輝雄さんも販売スタッフとして働く
店名の「dodo」の文字が入ったおしゃれな表札
店内はアンティーク調のオブジェやインテリアでまとめられている
生の声を聞けるのが楽しみ

 もともと接客が好きだったという本行さんは、学校を卒業した後、ホテルなどでの勤務を経て、東京・丸の内の有名ベーカリーに転職した。
 ただしパンを作ること自体は楽しいが、「勤務している時は、スタッフ数人で、厨房で忙しく製造作業をしていましたから、なかなか直接お客様の反応を確かめることができず寂しかったですね」と話す。
 お客さんの生の声を聞きたいという気持ちが日に日に強くなっていったという。「おいしいパンを食べてもらって人に喜ばれたいという気持ちが強かった感じでした」(本行さん)
 開業してからは、暑い日に来てくれた客にちょっとしたお茶を出しながら雑談したり、パンについての感想を聞いたり、個人店ならではの気さくな会話を楽しむことができ、楽しいそうだ。今でも野外のイベントによばれたりすると、初めて買ってくれる人の反応が新鮮で楽しいという。
 また、製造の面でも日々学ぶことが多いそうだ。
 「製造にあまり多くの人が携わると、最終製品の出来が変わっても、何が原因でそうなったかわかりにくいところがありますが、一人で作っていると、どの作業がどう影響してそうなったかを知ることができるので、勉強になりますね」(本行さん)

開業の準備は念入りに行う

 本行さんは開業にあたっての準備はかなり念入りに1年間くらい計画を立てて行ったという。5年半務めた丸の内のベーカリーを退職後、1年間ほどフランスへ留学し帰国してから、独立・開業に向けた準備を始めた。マニュアル本なども読んで勉強しながら、様々な方面で情報収集を行った。
 「どんな店を作りたいか徐々にイメージを膨らませていって、シミュレーションしていった感じですね」と話す本行さん。以前務めていたベーカリーの先輩で先に独立した人の店を実際に見に行ったこともある。
 中でも物件選びは念入りに行ったが、最終的には馴染みにしている雑貨店からの紹介で今の物件の話が舞い込んできたという。
 「家賃は安いですが、結局はすごく良い物件でしたね。実はここはもともと、ある人気ベーグル店が入っていた所だったので、はじめはベーグル屋と勘違いして来た人が買って行ってくれて、最初の口コミを出してくれたこともありました」(本行さん)
 また、もともとハード系好きの人が、都心まで行かなくても地元の千葉で本格的なハード系のパンが買える店という感じで口コミを広げてくれたこともあったそうだ。
 開店から4年が経つが、「今の生活は適度に休め、自分の時間もしっかり持て、自分に合っている」という本行さん。
 売り上げは、開業時に計画した以上に伸びてきているが、今後もこの規模で気を遣わなくて済む家族や友人のみに手伝ってもらいながら、店を運営していきたいという。今後の目標は、なるべくずっと健康でいて、とにかく店を続けることだそうだ。
 「続けることに意味がある感じですかね。パンはその日の気温とか湿度とか、毎日の天候とかがちょっとずつ違うと、出来上がりも変わってきて、『もう大丈夫』というのってありません。日々、試行錯誤を繰り返しています」(本行さん)

住所:〒263‐0042千葉県千葉市稲毛区黒砂1-14-5
電話:050-1075-9654
営業時間:午前11時〜午後6時
定休日:日曜、月曜、毎月1日
品揃え:20品目
スタッフ:製造1人、製造補助0・5人、販売2人
店舗面積:売場2坪、厨房8坪
日商:平日4万2000円 土曜7万5000円

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