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| インタビュー/2015年9月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 日常的なパンにこそ発信力がある - 「KOBEパンのまち散歩」実行委員会の土井茂桂子委員長 | |
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日本一のパンの消費量と消費金額を誇るとされる兵庫県神戸市。「アンケート調査などから、パンを美味しく楽しむという暮らしのシーンを具体的に示すことで、多彩な街の姿が見えてくる」と語る神戸山手短期大学キャリア・コミュニケーション学科准教授で昨年実施された「KOBEパンのまち散歩」実行委員会の土井茂桂子委員長に、神戸とパンのかかわりについて話を聞いた。「KOBEパンのまち散歩」は今年も開催予定。
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視覚・味覚にまさる匂いの遺伝子
―――「まちの商店というとどのようなものを思い浮かべるか」というアンケート調査を実施していますね。 土井 はい。大学生世代とその親世代をともに181名を対象にして実施しました。男女の内訳は、女性が90%で残りが男性です。結果を見ると、大学生世代では「パン屋さん」が突出していました。過半数近くを占めています。2位以下は花屋、八百屋、ケーキ屋と続きますが、パン屋は花屋の約4倍の数です。親世代でも1位の電気屋に次いでパン 屋が2位でした。 街を具体的にイメージするには子供の頃の経験が大きく影響するのではないでしょうか。そう考えると、親と子が共通して想像できる記憶としてあったのが一緒に行けるパン屋だったのではないかと思います。「昔、お母さんにこのパン屋でパンを買ってもらったな」というようにイメージしやすいのでは。 ―――幼い時の記憶だけで、イメージを共有できるものですか。 土井 匂いもあると思います。浜松医科大学名誉教授の高田明和さんによると、「視覚についての遺伝子は3つ、味覚は5つ、ところが匂いについては500〜700あることが分かった」というのです。つまり人間が持っているとされる3万個の遺伝子のうち、匂いに関する遺伝子は、およそ2%あるわけです。匂いは、その周辺の場面や人々の様子を想起させる可能性は大きいわけです。 例えば、お米を炊く匂いは食卓の様子や好みのおかずを思い浮かばせます。視覚や味覚よりも匂いのほうが記憶に残りやすいのです。ですから、幼い頃からのパン屋のある光景が匂いとともに深く記憶されるのではないでしょうか。 だから「街の商店は」と聞かれた時に、日々の暮らしの中で、パン屋さんがよみがえってくるのだと思います。街づくりの一つの切り口としてパン屋の存在は有益な要素といえるのです。 ―――なるほど。 土井 街の発展には観光も不可欠でしょう。パン屋は観光客を呼び込む素材として生かせるのではないかと思います。パンは日常的にあるものですが、発信力に優れていると考えています。 |

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雑居地の混在生活が多文化の土台に
―――パンの発信力はどこの都市でも活用できるとお考えですか。 土井 神戸だからとも言えます。神戸の成り立ちは江戸時代末期の1858年(安政5年)に結ばれた日米修好通商条約までさかのぼります。翌1859年に横浜が開港し、その9年後に神戸(当時は兵庫)が開港しました。外国人の居住と営業が許可された居留地は横浜や神戸以外の開港地にもありましたが、日本人と外国人が共に生活できる雑居地は、面積的にも人口的にもその規模において、神戸が最大でした。治外法権の居留地と比較して雑居地は、土地売買は禁止でしたが、家の賃貸は可能でした。外国人にとって生活するのに居留地も雑居地も変わりはないですが、当時の日本人にとって、雑居地で外国の人と一緒に暮らすことはその息吹を感じられる刺激的なことだったのです。この経験が多文化交流の下地になっているのだと思います。いわゆる、舶来文化を先導したのは、いち早く開港した横浜でしたが、遅れて開港した神戸で、雑居地が整備されることで、多文化交流の場が自然に醸成されたのです。 ―――神戸の今のイメージにつながっていると。 土井 横浜は主に米国の就航地でしたが、神戸はフランスやドイツなどの終着地でした。上質なパン文化の伝承という意味では意義深いと考えています。また、1923年(大正12年)の関東大震災後、横浜から領事館機能が神戸に集中しました。職人をはじめ、多くの外国人が神戸に移動してきました。横浜の補完機能を果たすことで、欧米の生活様式が華やぎと共により定着したのです。神戸のイメージの確立につながっていると思います。 それと、1869年には居留地内にイギリス人とフランス人が経営する2店のベーカリーがあったと記録が残っています。西洋文化とパンの浸透はセットになって、広がりを見せるようになっていたのでしょう。 様々な食材や雑貨と共に暮らしを発信するパン ―――西洋文化とセットに、というと直接的にはホテルのパンも思い浮かびますが。 土井 西洋の人が作ったホテルにはワクワクするハレの部分がありました。ハレの中にパンもあったのではないでしょうか。今、2013年から今年までの3年間、連続して「朝食のおいしいホテル」1位に選ばれたホテルが市内にあります。県内の野菜を中心にしたポトフは人気です。パンもバラエティー豊かです。ジャムの種類も多く、特にミルクジャムの受けは抜群です。パンをイメージするものとしてジャムは最適。「あ、パンが欲しい」と思わせる仕掛けとしては良い材料ですね。 このホテルの朝食を求めて全国から観光客が訪れます。外国人にもその評判は上々のようです。ホテルのパンの役割は、朝食の世界を広げるとともに神戸の思い出を醸し出すのにもつながっています。 ―――神戸で人気のパンというと山型食パンとバゲットと言われますが、ホテルと関係が。 土井 というより、神戸のこれまでの歴史にあると思います。開港以来、雑居地での日本人と外国人との混在生活により、自然と多文化の交流が進みました。また、先程も言いましたように、関東大震災による横浜からの職人らの流入が、パンの技術向上を果たしました。それは、主に食事を喚起するパンとして発展したと言えるでしょう。何故なら、シャワーのように外国人から初めてのパンが与えられたのですから。 ―――そのパンがこれからも神戸の発展を支える可能性を秘めているとお考えなんですね。 土井 そうですね。例えば、30〜40代のママたちは、パンを口実に買い物に出掛け、帰りに友人とお茶を飲んだり、洋服を購入したりします。つまり、他を巻き込む要素がパンにはあるということです。 神戸は、総務省家計調査によるとパンの消費量・消費金額とも日本一です。質の良い暮らしの発信素材としてパンは適材と言えるでしょう。 パンを美味しく食べようとすると、具体的な暮らしのシーンの中に色々なものが見えてきます。まず、パンに塗るバターやジャム、蜂蜜、副食材の野菜、卵、肉類、果物などがあります。また、素材を料理するキッチン、それに付随するエプロン、包丁、まな板などの雑貨もあるでしょう。さらには、食事をする食卓の風景も浮かびます。食事をするテーブルや椅子、テーブルウエア、インテリアなども見え、音楽も聞こえてきます。 19世紀に開港した都市の中で神戸ほど街の構成要素としてベーカリーがあふれている場所は珍しいと思います。だからこそ、パンの持つ多様性を発揮できるのではないでしょうか。 |


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