自分のペースで客が求めるパンを作る - ベーカリーアンジュ - ブランスリー電子版

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お店拝見/2014年7月号

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自分のペースで客が求めるパンを作る - ベーカリーアンジュ
左からオーナーの岩淵卓さん、夫人の祐子さん、パートの多田さんと関本さん
小田急線・本鵠沼駅を降りてすぐの場所にある「ベーカリーアンジュ」
ぶどうを絞って作る液種。左は、液種と小麦粉を混ぜて発酵させたもので、これを使用する
乳幼児を連れた客もやってくる。客層は幅広い。午後2時を過ぎると売り切れる商品も
常連客と会話も弾む
地域の嗜好をとらえたパン作りを実践
 「好きな仕事をしていられるので幸せです」と語るのは、今年で創業21年を迎えた「ベーカリーアンジュ」のオーナー、岩渕卓さんだ。1993年6月、37歳の時に自分の店を持つ夢を神奈川県藤沢市の辻堂でかなえた。
 子供の頃から物作りが好きだった岩渕さんは、18歳で東京都内の有名店に就職。洋菓子に興味があり飛び込んだ世界だったが、洋菓子部門の空きが無かったことから、取りあえずパン部門で働き始めた。しかし、修業を始めてみると、パン生地が見せる色々な顔に「生地は生きているのだ」と感心し、同時に日々変化する生地に面白さを教わった。パン部門を担当した1年後に本来の希望であった洋菓子部門への移動を打診されたが断り、本気でパン作りの道を歩みだす決心をした。
 最初の修業先に選んだこのベーカリーは、ハード系を中心に商品展開をしており、小麦粉の味を生かした商品作りに特徴があった。職人の道を選んだ時から将来の独立を考えていた岩渕さんは、ハード系以外のパン作りを習得するために、初めての修業先を退職後、技術力のある名高いベーカリー2店舗でも修業を重ねた。
 初めての出店地となった神奈川県藤沢市の辻堂では、ホテル5軒への卸しや移動販売も兼ねていたので非常に大変な思いをしたそうだ。辻堂での10年間を経て、現在地の本鵠沼への出店は11年前。元々ベーカリーだった店舗を居抜きで購入しての移転だった。この11年の間に起きた変化の1つは、付近にあった多店舗展開する有名店も含めた3店のベーカリーが閉店したことだ。今は「ベーカリーアンジュ」のパンが地域の嗜好を満たしている格好だ。

店の味生むぶどう酵母高齢者が売上を支える
 同ベーカリーでは全ての商品に自家製酵母を使用する。これは本鵠沼に移転してからのこと。「いわゆる天然酵母が常に話題に上るような時代だったかもしれません。チョッと真似してみようかといった、気軽な気持ちで取り組んだのが切っ掛けです」と岩渕さん。
 それでも初めのうちは中々思うように出来なかった。そこで、自家製酵母を店の特徴に掲げるベーカリーのパンを食べ歩き、イーストよりもコクが出て、食感や香りも異なることを知り、本格的な酵母づくりへと舵を切った。
 同店で使用するのはぶどう酵母。種をつぎ足し続けて10年が経った。ぶどうを4〜5日間水に浸した後、絞って液種を作るといった作業を地道に繰り返してきた。命をつないできた酵母が同ベーカリーの味を作りだしている。
 自家製酵母を使って生み出されるパンは全部で100種類。全商品1日1回焼くのみだ。基本的な営業時間は午前10時から午後8時までだが、パンが売り切れれば、その時点で営業を終える。
 いわゆる多品種少量生産にしたのは、客の好みが多様化していることとも関係がある。客層は近隣の老若男女だが、特に高齢者の比率が高い。高齢者は売上の多くを支える常連客でもある。常連客の嗜好の変化を捉えることが商品づくりの第一歩なのだ。



看板商品のひとつ「イギリスパン」(1斤税抜き285円)
卵を使っていない「パンドミ」(1斤税抜き245円)
フランスパン生地にバターをたっぷり入れた「シェルフランス」(税抜き190円)
5月の季節商品の「チョコドーナツ」(税抜き145円)
予約済みの商品を置くための台が設置されている。常時10人分程度が置かれているという
すべてが定番商品客の声生かした商品作り
 同店には、断トツの1番人気商品というものはない。季節商品を除けば、ほぼ全種類が定番商品といってよい。
 その中で、最も売上額の大きいのが3種類ある食パンだ。まず、生クリームや牛乳を混ぜて、湯種製法で作った「パンドミ」(1斤税抜き245円)がある。歯切れも口溶けも良いので、高齢者にお勧めだ。
 「イギリスパン」(1斤税抜き285円)はバターを使用していないので、乳製品アレルギーの子供のために購入する親もいる。少しの酸味ともっちり感が味わえるので、パン好きにも好評だ。
 「スペシャルブレッド」(1斤税抜き265円)は小麦胚芽入りのフランスパン専用粉を20%加えたもの。耳に甘みがあり、トーストした際の香りも良い。
 客の声に応えて作った商品の1つに「ソフトフランス」(税抜き135円)がある。バゲットを食べるのが辛くなったと言った客の要望から誕生したパン。「シェルフランス」(税抜き190円)はフランスパンにバターを混ぜただけの商品。軟らかくて食べやすいと好評。客の要望に応えて復活した商品もある。例えば、販売を中止していた「エスカルゴ」(税抜き80円)もその一つ。今では、離乳食として評判だ。バターロールの生地に生クリームと蜂蜜を入れて作るが、発酵させないので硬めに仕上がる。幼児がしゃぶりながら食べるのにも丁度いいらしい。

大好きな仕事が明日の糧となり、客を喜ばせる
 商品が売り切れたら、その日の営業は終了というのが同ベーカリーの姿勢だ。しかも、1日の売上額はほぼ毎日7万円。つまり、岩渕さんは1日7万円分の商品を作っていることになる。
 「1人で焼き上げるのはこれが限界だと思っています」(岩渕さん)
 毎朝2時半から仕込みに入る。そして、午後12時半まで厨房での作業が続く。ドウコンディショナーを導入すれば作業が楽になるのは分かっているが、美味しいパン作りの原点がここにあると思えば辛くない。岩渕さんは「無理はしません。明日もあるのですから」とも話す。
 自分のペースを守りながら、客にどの様な商品を提供すれば喜ばれるかを考えつつ仕事をする。今、24歳になる長男は埼玉県内の有名ベーカリーで修業中だ。3年目だという。
 どのような業界でも後継者に悩む時代だ。そんな中、同ベーカリーでは「大好きな仕事」が「明日」を呼び込んでいる。

SHOP DATA
店名:ベーカリーアンジュ
住所:〒251-0027神奈川県藤沢市鵠沼桜が岡4−14−14−1F
電話:0466−28−8081
営業時間:午前10時〜午後8時(売り切れの場合はその時点で終了)
定休日:日曜(祝日は不定休)
品揃え:100品目
スタッフ:製造1人、販売1人
店舗面積:厨房8坪、売り場4坪
日商:7万円





原価計算女王
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