月日のたつのは早いもので、この連載記事も3年目に入ろうとしている。現地から送られてくる相当量の情報に目を通しているが、その中から年の初めにふさわしいと思われる内容のものを、まとめてお伝えする。なお各種の統計はそれぞれ出所があるが、それとは別に特にリテールベーカリーのオーナーと電話で話したり、メールの交換をした結果を文中に入れてある。アメリカの現場からの生の声として聞いて欲しい。
アメリカの景気はどうか?国家レベルの難しい話は別として、リテールベーカリーの景気は今後どうなるかを、相当数のオーナーに聞き取り調査した結果は次の通りである。
(1)期待通りに良い…34・15%
(2)期待した以上に良い……………………………36・59%
(3)期待したより悪い………………………………29・26%
つまり10人のうち7人が今後の見通しは明るいと思っていることになる。その理由を聞いてみると「リテールベーカリーは業態や商品開発は独自のものを既に実施しているので、スーパーマーケットが恐れているウォルマートのスーパーセンター進出にもほとんど影響を受けないと思う」と語っていた。むしろお客は商品の差が明確にわかりやすくなるので、その方が良いというオーナーもいた。「来るなら来てみろウォルマート」という次第である。アメリカ全土が戦々恐々としているのに何とも頼もしい事ではないか!
またベーカリーというビジネスは不況に強いはずだ、という自信を持っているオーナーも多い。
心配事は本当にないのだろうか?それではまったく心配事がないというのだろうか? その胸の内を聞いてみた。
後継者の問題
アメリカのリテールベーカリーには2種類あって、親の代から家業にしている場合と、若い世代が新規に始める場合に分けられるという。
問題は前者の場合であるが、現在のオーナーの平均年齢はおそらく40代後半であろう。とすれば息子がいた場合は自分の職業を決める時期になっているが、親の早朝作業や短い休暇などを見ているので、息子が親の仕事を継がない例も多いという。
その場合はどうするかといえば、親戚の中に1人くらいベーカーになりたいと思う者がいるので、何かと身内の後継者を見つける事が出来るとの話であった。盛業中であっても、どうしても後継者がいない場合は、店を売りに出すことが多いそうだ。業界の中にはそのような売買の斡旋をする組織があるという。自分の引退の時期とも重なるので、それもまた良しと考えているようだ。
職業に対する意識の問題
先日この連載レポートでもお伝えしたが、リテールベーカリーは毎日仕事に追われていて人と話したり、ものをゆっくり考えたりする時間がないという。その結果として「苦労が多いのは自分だけなのだろうか?」などと考えてしまい、孤独感に襲われることが多いという。
そのような場合にどうしたらいいのだろうか? 例えばRBA(リテーラーズ ベーカリー協会)がeメールによる意見交換や、地域ごとの会合を開いている。
筆者も英語の勉強にもなるので会員申し込みをしてメールを毎日見ているが、中には「ああ、毎日忙しくて大変だ!」などという人もいる。すると「私も忙しくてしょうがない、あなただけじゃない」といった激励の声があがる。先日行われた展示会ではeメールで知り合った仲間同士が初めて会って旧交を暖めたというから、微笑ましくなる。今年の展示会は筆者も初めて欠席したが来年は必ず出てみたい。
それと重要な問題はベーカーという職業に自信とプライドを持つ事であるという。これもこの欄ですでに紹介したが、アメリカのリテールベーカーの資格称号にはCMB(Certified Master Baker=サーティファイド マスター ベーカー)というのがある。資格取得にはなかなか審査が厳しくて、約8000人いるRBA会員の中でもCMBは僅か190人ほどだ。この資格取得を目標にして製パン技術はもちろん、食品安全、経営管理などの勉強をしているベーカーも多いそうだ。さきほどのeメール交換でも、資格保持者は自分の名前の後に必ずCMBと誇らしげに書いている。このような資格制度は特に若い世代のベーカーを育てる場合に大事な事だとも語ってくれた。
顧客獲得のための努力固定客確保のための手法研究を「Loyalty Marketing=ロヤルティ マーケティング」というが、リテールベーカリーの場合はどのようなことが重要であるかという最近の調査結果があるので紹介する。
(1)Eating quality=イーティング クォリティ(85・19%) つまり商品を食べたときにどう感じるか?という事だろう。その判定基準はテースト(味)とテクスチュア(食感)であるとしている。
(2)商品のAppearance=アピアランス(7・41%) 商品の外見という事だが「商品棚に乗せた場合に、いかに魅力的に見えるか」という条件がついている。いかにして食欲(購買意欲)が出せる商品を作るかという意味であろう。
(3)Low Price=ロー プライス(7・4%) ここで初めて低価格がくる。スーパーマーケットの「毎日が低価格」という路線とはリテールは異なるとはいうものの、やはり価格志向のお客もいる事を意識している。
(4)Long Shelf Life=ロング シェルフライフ(0%) これは「商品棚に並べておいて、どのくらい長く商品が鮮度を保つか?」という、アメリカの生鮮食品販売業界における用語であるが、リテールベーカリーの「焼きたて商品を売り買いするのはリテールベーカリーとしては当然の事」というプロ根性はさすが!
◇
ここで気がついたことは、固定客獲得作戦の話が出ると必ずといって良いほど「顧客サービス」とか「顧客満足度」といった話がここでは出てこないことだ。その理由をあるオーナーに聞いてみたところ、彼いわく「そんなもの私たちは何十年も昔からやっているよ、今ごろ言うのはおかしいよ」と一笑にふされてしまった。考えてみれば、これらは流通チェーン店だからこそ今になって問題になっているのだろう。
商品開発の問題特にリテールベーカリーにとって商品開発は最重要課題である。では商品開発のアイデアはどのようにして入手するのだろうか? 最近の調査結果は次の通りだ。
(1)お客からの直接の要望(43・48%) 正直な話、これは一番確実でもっとも費用のかからない方法だ。そう言えば前述のeメール交換でも「〇〇のレシピを教えてちょうだい」というリクエストが最も多い。そして誰かがすぐに自分のレシピを公開している。ここがアメリカ人の特性なのだろう。
(2)顧客トレンドを知る(18・84%) 業界紙などを読んで最近の顧客トレンドを研究し、新商品開発をする。
(3)自分の商圏特性を知る(13・40%) リテールベーカリーの多くは5店舗以下だ。したがって商圏も狭いので、その特性は限定される。筆者の記憶にあるのはロスアンゼルスから北に2時間ほど行った場所にあるソルバングというデンマーク村のベーカリーだ。
ここのデーニッシュペストリーは土地の名物になっている。また中部オハイオ州はドイツ系移民が多いのでドイツパンが有名だ。
(4)業界指導者が知るトレンドを知る(13・04%) アメリカにも製パン指導者は多い。彼らはそれなりに勉強していてビジネスとして商品開発の指導をしている。
(5)取引業者からの情報を知る(5・8%) 特に製粉会社、ミックス粉メーカーは立派なテストベーカリーを持っており、商品開発能力がある。彼らの情報は貴重で確実だ。ただし小規模リテールの場合は取引先が限定されるので、情報も限定されるというのが難点。
(6)問屋からの情報を知る(5・8%) リテールは食材の多くを問屋経由で買うので彼らのもたらす情報は貴重だ。
これから有望視される商品群は?最近の調査では次のような結果が出ている。
(1)ブレッド・ロール…23・7%
(2)ケーキ類…………13・7%
(3)クッキー・ブラウニー………………………………13・2%
(4)パイ………………9・6%
(5)ドーナツ…………9・4%
(6)クロワッサン………9・1%
(7)ベーグル……………7・8%
(8)トルティア…………4・7%
(9)ピタ………………4・5%
(10)イングリッシュ マフィン……………………………4・0%
この調査結果も予想に反したものである。調査対象があくまでリテールベーカリーであるから有望な未来商品は?という質問にはこのような回答になるのであろう。
オーガニック食品(特にブレッド)に対する取り組み2002年10月に実施された「オーガニック食品に対するラベル(レーベル)表示法」により食品業界は新時代を迎えた。現在の市場規模は69億ドル(約8600億円)であり、消費者の35%はオーガニック食品を買った経験があるという。
ベーカリーの商品に関して言えば、その市場規模は今だ小さいものの、今後は確実に伸びると予測される。最近行われた「リテールベーカリーのオーガニック商品導入予測および意識調査」は次の通りである(複数回答)。
(1)商品化しても最小売上げおよび利潤の確保が不確実…………………………48・57%
(2)オーガニックに対する法律および実際の規定がいまだに不明瞭……………14・29%
(3)オーガニック商品に取り組まなくても通常商品で十分………………………14・25%
(4)オーガニック基準に合う食材入手が不確実…14・00%
(5)オーガニック商品の製法・販売促進方法が不明…………………………………5・71%
(6)食材の保管に自信がない…………………………2・86%
つまりリテールベーカリーとしては、敢えてオーガニックに取り組む必要はないというのが結論であろう。ただし長い目で見れば、いずれ避けて通れない課題であろう。
これからのリテールベーカリーの姿は?
内容は「自分が経営するリテールベーカリーの現在の形態(フォーマット)」および「将来はこのようにしたいと思う形態」の比較調査である(表1)。
自分の店の経営に毎日携わっている彼らが望む未来像は、示唆するものが極めて大なりと思われる。
この資料から要旨を読み取ってみよう。
(1)フルライン(多品種目を揃えた)つまり日本に多い形態のリテールは今後も大きな増減はない。
(2)ブレッド類を専門とする形態にしたいというリテールベーカリーが多い。
(3)ブレッド主体のホールセールは減少傾向にある。
(4)インストアとしての出店も将来は減少傾向。
(5)ケーキ類のホールセールも減少傾向。
結論を出すならば、アメリカのリテールベーカリーが望む形態はおそらく「商品を特化したフルライン」および「単品種に限定したクッキー、マフィンなどの専門店」という事になろう。
その理由は、いずれも商品コンセプトを明確にする事で価格競争から逃れ、利益確保が最終ゴールであるという考え方にある。