ベーカリーの朝活 朝の焼きたてでパン食普及 / 朝食に焼きたてパンを食べてほしい - ブランスリー電子版

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レポート/2013年11月号

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ベーカリーの朝活 朝の焼きたてでパン食普及

朝食に焼きたてパンを食べてほしい


 朝食にパンを食べる習慣は日本に定着したが、前日に買ったパンを翌日の朝食に食べる人が多いのも事実だ。せっかくならそのパンを焼きたてで食べてもらおうと考え、早朝から営業するリテールベーカリーがある。朝の焼きたてパンの提供について、どんな戦略を立てて
いるのだろうか。朝食用の焼きたてパンの製造販売に熱心な2軒のベーカリーを取材し、ベーカリーの早朝営業の可能性について探った。



小麦粉の旨味を地域に広める。朝食の焼きたてのパンを提案 - タグチベーカリー
人気の「バタール」(260円、左)とその右隣の「レトロバゲット(小)」(160円)
対面販売を採用。店内は落ち着いた雰囲気
田口幹雄オーナーシェフ
個性的な個人店の並ぶ西荻でも、モダンさが際立つタグチベーカリーの外観
 東京・杉並区西荻の住宅街に佇むタグチベーカリーのオーナーシェフ、田口幹雄さんは、関西出身で京都の名店で長らく修業を積んだベテランのパン職人。京都では朝7時開店のベーカリーで、地域に密着した製パン業に携わってきた。
 「私が勤めていた店は、従業員用の裏口がなく、正面の入り口ひとつだったので、出勤する従業員のために、正面のシャッターを半分開けておくと、リピーターのお客様が『なんでもいいから出来たてのパンを下さい』と言いながら、開店前の店に入ってくるんですよ」(田口さん)
 田口さんが育った地域は、朝食に焼きたてパンを食べるのが当たり前だったという。街は早朝から焼きたてパンの香りが漂い、住民は歩いて
すぐの距離にお気に入りのベーカリーを持っており、早いときは開店前に店に顔を出すことも珍しくなかったという。買ったパンを持ち帰って朝食に出すのが一般的だった。
 「東京に来てみて、朝食を食べない人が少なくないことに驚きました。朝から開いているお店も少ないですね。でも、ベーカリーとしてはぜひ朝食に焼きたてパンを味わってほしいんです」と、田口さん。
 田口さんの、朝食向けのおすすめは、バゲットなどのフランスパンだ。タグチベーカリーは、ハード系を得意とし、「売れない」と言われるハード系のパンを西荻で売り、ファンを獲得して来た実績を持つ。
 ハード系にこだわる理由は「小麦のおいしさを伝えたいから」。シンプルな材料でつくるハード系が最も小麦の味わいが出る。職人として打ち込み続ける意義もある、と田口さんは考える。「当店のバゲットを毎日買って下さるお客様もいます。どうも、パンの出来の微妙な違いがわかるらしいんです。そうだと思います。作り手が出来を考える以上に消費者は味の違いをわかるものです。だからこそ、そこまで味をわかって下さるお客様の期待に応えたいですし、そういうベーカリーになりたいですね」(田口さん)
 現在、西荻は朝よりも夜の活動が多い地域だという。朝8時に同店は開店するが、ほとんどの店は、朝10時〜11時の開店。「西荻で一番早く開く店」を自分の店の個性にしたい、と田口さんは考える。
 「朝活という言葉も浸透し、朝の時間を有効に使いたい人は少なくないはずです。朝活をするためにしっかり朝食をとるためには、早朝開店のベーカリーは大切な存在です。正直、このあたりは夜、遅い時間に帰宅するビジネスマンの方も多くて、夜の営業時間をのばすことも求められているのかな、と考えることはあります。夕ご飯にパンを食べてくれるならそれもいいのですが、おそらく翌日の朝食用のパンを買っていかれるんです。それなら、やはり、朝、焼きたてを食べてもらいたいですよね」
 開業一年、早朝の来店者はまだそれほど多くないが、仕事を引退したシニア世代も多い地域のため、犬の散歩などで、朝早く出歩いている人はおり、来店者になり得る層はいるという。
 田口さんは地域の状況を綿密に調べて、その把握に努めている。
 「『三方よし』が私が育った京都に普及していた理念ですし、私も共感しています」と田口さん。
 これは、「売り手」「買い手」「世間」の三つがすべて「良し」ということで、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということだという。
 朝早く開店すれば、その分早く準備を始めなければならないが、京都ではどんな早朝営業をしていたのだろうか。
 「朝から全種類を並べるという方法ではありません。朝用のバゲットや調理パンのように、ニーズがあるものをピンポイントで提供します。また、焼き上がりから時間がたった方が美味しいパンもあります。ドイツパンは2〜3日置くとおいしくなるものが多く、むしろ焼きたてはライ麦の香りが強いですから、まろやかさが出て来るまで待った方がいいんです。私もドイツパンはおいしい時期を説明して売っています」(田口さん)
 ドイツはシンプルな朝食や夕食が一般的で、駅のスタンドでサンドイッチを買って食べて出勤する姿も見られるという。そういった日本の事情ともマッチするドイツのパン食文化を、小麦の味と共に味わってもらいたいというのも同店のスタンスだ。



毎日買えるバゲットを提供。パリのパン食文化を日本にも - トシ オー クー デュ パン
後列右から「バゲット」(168円)、「バゲット」のハーフサイズ「ドゥミ(1/2)バゲット」(105円)、バゲット・トラディション(199円)
オレンジのひさしが印象的な外観。
入り口に近い方からヴィエノワズリーが並び、奥に向かって様々なハード系が展開していく
川瀬敏綱シェフ
 この5月に東急東横線・都立大学駅近くにオープンした「トシ オー ク― デュ パン」は、都内では珍しい朝6時開店のベーカリーだ。開業間もなく、朝から行列ができ、多いときは朝9時までに100本近いバゲットが売れたこともあるという。
 朝6時の開店にした理由について、「パリで約2〜3年修業していた頃、朝靄がかかるひんやりした夜明けの時間帯に、パン屋さんだけがあたたかそうな煙と香りを出している街の姿を見ていました。それがすごく印象に残っていたんです」とシェフの川瀬敏綱さんは語った。パリで朝食に焼きたてパンを買ってきて食べることはごく普通のことだ。主婦がお気に入りの店に、寝起きのラフな格好で訪ねて行き、バゲットを買うのはごく当たり前の姿だという。そんなパン文化を日本にも育てることが同店のミッションであり、朝6時の開店もそのためのものだ。
 バゲットは現在2種類。「バゲット・トラディション」(199円)と、「バゲット」(168円)。
 「バゲット・トラディション」は川瀬さんのパリ修業時代に、師匠であるフランスMOFのアニス・ブアブサ氏から直接教わったもの。長時間低温発酵で、もっちりとした食感と甘みが特徴だ。「バゲット」は、粉の香りと軽い食感が特徴の一般的なフランスのバゲット。こちらは、川瀬さんがパリ修業時代に、食事代節約のために一日をこれ一本で過ごしたという思い出のパンでもある。
 バゲット2種類で1日平日約150本、休日は200本程度売れているという。早朝営業のバゲット販売が、売上に占める割合は高い。
 開業前は早朝の集客に、確固とした勝算があった訳ではなく、「まずは1人〜2人でも来てくれれば」との考えだったそうだ。行列ができるようになるまでの経過を聞くと、「開業前に近所に多少のポスティングでの告知を行い、開業後1週間は9時開店で営業しました。その間に、来店者に6時開店のことを伝え、アピールしました」と川瀬さん。それがクチコミで広まり、すぐに繁盛するようになったという。
 主な早朝の来客は、ペットの散歩中の夫婦や、ジョギング中の人。早朝はシニア層が多く、若い人はお子さんを送り出した後と思われる午前8時頃来店しているという。早朝に販売するものは、バゲットが中心。
 川瀬さんが同店のバゲットに対して気を配ったのは「毎日買えるパンであること」。そのため、価格を抑えた。日本にも本格的なバゲットはあるが、川瀬さんは、300円〜400円という価格帯に毎日買ってもらう難しさを感じていた。早朝のバゲット販売には強い思い入れがあったため、本当は、バゲットを常食としているフランスと同じように、1ユーロ(約130円)で売りたかった。しかしそれは難しいので、できる限りの価格をと考えて今の値付けになったという。その代わりに、バゲット以外は、本格フランスの味を提供する同店の技術に合わせ、品質に合った値付けをしているという。
 「こういう値付けの感覚も、一般のベーカリーと逆かもしれません。私は『ベーカリー』と『ブーランジェリー』、『パン』と『ブレッド』はちょっと違うと考えています。パンは切り方ひとつとっても本場のものがまだ伝わっていません。本場の雰囲気や、本場の良い点をもっと日本で味わってもらいたいんです」
 川瀬さんのバゲットに対する思い入れは、1番は焼き上がりを食べているときにわかる香り。2番目に焼き加減。同店のバゲットは表面の薄皮がパリッと軽く、中身はふんわり柔らかい。焼き色も淡い。形も独自のものだ。「これが私の修業したパリのパンですし、他と違ったらそれを個性と思って売っていけたらと思っています」と川瀬さんは言う。
 同店では製造は川瀬さん1人で、バゲットの焼成も少量ずつになる。「品切れを出さないように回転させるのが大変です」という。中には、電車で隣の駅から来て1度に5本買って行く客もいるが、そういう場合は事前の予約を勧めている。まとめ買いをしていく客には、冷凍での保存方法を伝えるようにしている。休日に朝から数本のバゲットをまとめ買いする客も珍しくなく、休日をゆったりとパン食で過ごしている可能性もあると見られる。「この地域が、食文化に意識が高いのも大きいと思います」と川瀬さん。
 今後の展開予定は惣菜の提供。「日本では珍しいパンを置いていますから、次はその味わい方をもっと提案していきたいと思います。朝の需要が見込めるなら、徐々に惣菜の提供も始めて、色んな可能性を試してみたいですね」と川瀬さん。珍しいフランスパンが多いだけに、対面販売の形式も奏功している。食べ方を尋ねて来る客も多い。最初は川瀬さんが説明し、販売担当者にそれを覚えてもらい、次第に販売担当者も1人で説明できるようになっていったそうだ。
 バゲットのサンドイッチも、同店のスペシャリテというにふさわしい工夫が凝らされている。1番は、ハムとバターを挟んだ「ジャンボンブール」(483円)。フランスで食べて大好きになり、日本ではハムとバターの組合せがまだないと知り、ぜひ伝えたいと考えた。当初はフランスのバターに匹敵する味が見つからずに悩んだが、探し続けた末、国産のカルピス発酵バターを発見。フランスのものに勝るとも劣らない味で、これなら本場の味を再現できると、自信を持って開発した。スライスチーズのように厚みのあるバターをたっぷりと使い、フレッシュなハムの味と調和させている。
 今後も、日本にパリのパン食文化を伝えていきたいと、川瀬さんは考えている。



原価計算女王
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