生活を見据えた、決意の開業 - ルメルシエ - ブランスリー電子版


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お店拝見/2013年9月号

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生活を見据えた、決意の開業 - ルメルシエ
畑中さんと夫人の由香さん。由香さんがサンドイッチと焼き菓子を担当する
店内はゆったりとした空間になっている。スタッフの接客は手早い
「ルメルシエ」の外観。ブティックに間違える人も多いという
見つけにくいとの声に応えて、「パンや」と書いたトリコロール色の貼り紙を出した
リールメルシエ」を経営する畑中一郎義重(いちろうよししげ)さん(37歳)は、高校卒業後、専門学校で1年間製パンを学んだ。初めての修業先は東京・大田区内のリテールベーカリー。ここを皮切りに、大手製パンメーカーのリテール部門や都内中心に店舗展開する著名なリテールベーカリーで修業を積み、生まれ故郷の横須賀市に戻って、2010年7月17日に現在の店舗をオープンした。丁度今年で丸3年だ。
 19歳からベーカーとしての経験を重ねてきた畑中さんには、ベーカーを志す切っ掛けが2つあった。1つは、小学校時代に、授業の一環としてパン工場を見学する機会を得たこと。見学後にプレゼントされたメロンパンの美味しかったことが、強く記憶に残った。もう1つは、タイル業を営んでいた父親の言葉。将来はタイル屋を継ぐものと思っていた畑中さんに父親は「継がなくていい。他のもの作りの仕事を探しなさい」と一言。父親の言葉を聞いたとき、改めて美味しいメロンパンの記憶が脳裏をかすめた。自分は力仕事に向いていると思っていた畑中さんは、「パンの世界を目指そう」と専門学校の道を選んだ。
 そして、修業期間中の24歳のとき、専門学校で同級生だった現夫人の由香さんと結婚したことが、ベーカリーオープンの後押しとなった。いずれ地元に戻りたいと考えていた畑中さんにとって、家族が出来たことは生活基盤作りの切っ掛けとなった。
 同ベーカリーが入る単身者向け賃貸マンションは、父親が経営していた会社の跡地に、畑中さんが父親と銀行から資金を借りて建築したもの。ベーカーとしてやり抜く覚悟が見えてくる。



新たに誕生した街で真摯に取り組む
毎日早朝4時から作業を続ける畑中さん
カンパーニュにベシャメルソースを塗った上に、素揚げした7種の野菜をトッピングした「野菜のタルティーヌ」
平台には所狭しと様々なパンが並ぶ。白い台の上の金属の網トレーにセンスが光る
調理パンは全体の30%を占め、主に午前中に焼き上がる。正午から午後1時の間に、主にハード系や全粒粉食パンなどが焼き上がり、午後3時以降に菓子パン類が焼き上がる。午後に来店したことがない客の中には、あんパンの存在を知らない人もいるそうだ
 地元に根を下ろす覚悟でオープンした店は、京浜急行線の県立大学駅から歩いておよそ5分。改札口の目の前の坂を真っすぐ下り、国道16号線を渡ってしばらく直進すると、緩くカーブした道にぶつかる。そこを右に曲がると黄色い建物が見えてくる。その1階に同ベーカリーはある。店の前を走るカーブした道。実は10数年前まで海だったそうだ。安浦漁港があった。現在の街は、埋め立てで誕生した新たな街。新しい街の歴史に同ベーカリーはどんな色取りを添えるのだろうか。
 有名店で修業した畑中さんは、開店当初、フランスを意識したパン作りを心がけていたが、冷静に客の嗜好を見ていると、例えば、クリームパンやカレーパンなどの需要が多いことが確認できた。改めて都市部との嗜好の違いを実感したそうだ。以後、工夫を重ねながら客の好みに応える商品作りを実践してきた。それでも、最近は、バゲットやカンパーニュの売り上げも上々だそうだ。毎日、ハード系の商品はほとんど残らない事実からも見て取れる。これらは、当然、日々の努力があってこそ。硬いパンのイメージを払拭しようと、試食提供やサンドイッチなどへの利用を通じて、客に提示した結果なのだ。
 同ベーカリーでは、一切宣伝をしてこなかった。口コミだけが頼りなのだ。最近の売り上げは、平日がおよそ8万円、土曜日が10万円ほど。徐々に客も増えており、地域に溶け込んできたと思うこの頃だ。
 少しずつだが、手応えを感じるのには訳がある。その一つが、油脂はバターのみの使用にこだわっていること。風味やコクを生かせるからだ。ブドウから起こした自家製酵母は、ハード系のカンパーニュ類のみに使用するが、その際インスタントイーストを0・01%加える。このことは客に必ず伝えている。真面目に客と向き合ってきたとの自負があるからこその手応えだ。



予約で売り切れの「白食パン」
午前11時過ぎ、人気の「白食パン」をはじめ各種のパンが次々と予約されていく
トマトづくしの「トマトパン」は夏季限定の商品だ
グリエールチーズをたっぷりかけて焼き上げた「クロックムッシュ」
ケースに入った人気の「クロワッサン」
 今、一番の人気商品に育っているのが「白食パン」(280円)だ。牛乳、バター、生クリームを使ったリッチな食パン。地域の好みが反映された商品だ。1日1回24斤を焼き上げるが、店頭には中々並ばない。予約だけで売切れてしまう。今後は、焼成の回数を増やそうと考えている。食パンはこの他に、「ブドウ入り食パン」(330円)と全粒粉が8%入った「全粒粉食パン」(300円)がある。共に白食パンを基にしているので、程好い牛乳の香りと口溶けのよさが味わえる。
 バターたっぷりの「クロワッサン」(160円)と、食パンに自家製ベシャメルソースを塗りハムを挟んで、グリエールチーズをかけて焼いた「クロックムッシュ」(350円)も人気商品。1日に2回焼くことも。夏場の人気者は「野菜のタルティーヌ」(290円)。カンパーニュをベースに素揚げしたナス、ズッキーニ、パプリカ、じゃがいもなど7種の野菜をのせた。同商品は季節ごとにのせる野菜が異なる。年間を通じてのヒット商品だ。夏季限定推奨品には「トマトパン」(200円)もある。100%トマトジュースを生地に練りこみ、セミドライトマトを包んで焼いたトマト尽くしのパン。トマトジュースでみずみずしさを表した。
 アンパンにも工夫が見える。客の要望に応えたつぶアン入りは、都内の製あん業者から仕入れた和菓子用のもの。宇治金時が好きな畑中さんは、練乳を多めに入れたバタークリームをつぶアンと一緒に包んで焼き上げた。ちょっと驚きの美味しさがある。
 店名の「ルメルシエ」はフランス語で「感謝する」の意味がある。商品作りは常に客に親しまれる味を意識しながら工夫を重ねてきた。昨今の小麦粉の値上げは、商品価格の値上げも視野に入れなければならない状況だが「開店以来値上げはしていません。原価率はギリギリですけど、お客様に負担はかけられません」と畑中さん。開業に当たっての借財を返済し終えるには、幾つもの年の流れが必要なのだろう。けれど客と向き合い、日々の来店に感謝しつつ、将来の経営を見据えての覚悟がここにもあるようだ。





SHOP DATA
店名:ルメルシエ
住所:神奈川県横須賀市安浦3−3−7
電話:046−825−5392
営業時間:午前9時〜午後8時
定休日:日曜、月曜
品揃え:60品目
スタッフ:製造3人、販売1人
店舗面積:厨房13坪、売り場8坪
日商:平日8万円、土曜日10万円



原価計算女王
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