原材料高騰による値上げについて考える / 原材料高騰は、コンセプトを再確認するいい機会になる - ブランスリー電子版

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レポート/2013年8月号

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原材料高騰による値上げについて考える

原材料高騰は、コンセプトを再確認するいい機会になる


 4月1日から輸入小麦の政府売渡価格が平均9.7%引き上げられたことを受け、製粉大手各社は7月出荷分から小麦粉の値上げを実施した。製パン業界では、最大手の山崎製パンを始めとするパンメーカーが、7月から値上げを実施している。こうした状況のなかでの、リテールベーカリーの対応を取材した。



製造管理の徹底で消費者と店がお互いに得をする - ピーターパン
横手和彦社長
一般的に客足が鈍る午後3時過ぎにも、ひっきりなしの来客
牛肉と野菜のたっぷり詰まった「自家製カレーパン」(136円)。一番の人気製品
親子連れ客と七夕飾りをつくる姿も。季節感をとり入れた店舗作りも人気の秘訣
価格改定の検討が始まっている
千葉県に5つの店舗を持ち、連日の盛況を誇る人気ベーカリー「ピーターパン」の横手和彦社長は「今回の小麦粉の値上げは、ベーカリーにとってかなり厳しいものですね」と語った。
 小麦粉の価格は、近年では、2008年春に強力粉1袋が500円以上値上がりしたのが、最も大きな値上げ幅だった。
 当時、製パン大手各社も相次いで値上げを発表した。その苦しい時期を乗り切った横手社長は、当時のことをこう語る。
 「2008年の小麦粉価格の上昇は、上げ幅が大きかったため、消費
者にとっても値上げを止むなしと受け入れる余地がありました。しかし、今回は小麦粉の値上げ幅だけ見るとそう大きくはない。それだけに、お客様がパンの値上げをどう感じるか。そこが非常に難しいですね」
 原材料のほとんどが輸入品を占めるパンは、円安の進行で、主材料の油脂類、乳製品から包装材に至るまで価格が上がっている。
 「飼料が値上がりすれば、肉の価格も上がり、石油が上がれば野菜の価格も上がります。さらに、光熱費も水道代も上がっているのが今年の状況です。小麦粉が最後の砦だった。もう、コスト増加を吸収する逃げ場がないんです」と横手社長はいう。
 この夏には、値上げに踏み切るベーカリーも出始めている。

原価と製造工程の把握にヒントが
 「値上げにはお客様からダイレクトな反応が来るものです。大変なことですが、期待されている証拠ととらえ、値上がり分に見合う値ごろ感を出す工夫をすることが大事です。もし、これまで原価や製造工程を細かく考える機会がなかったとしたら、じっくり見直してみると、ヒントがあるかもしれません」と横手社長は話す。
 同ベーカリーは、製造工程も含めてトータルに考え、厳密なシミュレーションを行って、価格改定を検討しているという。
 「価格設定の工夫でいえば、例えば、カレーパンやあんぱんのような人気商品は思い切って安い日をつくるなど、我々は値上げの中でもお客様にサービスするポイントを維持してきました。そういうサービスをするためにも、自社の原価や製造工程をよく把握しておくことが大事です」と、横手社長は長い経験から語った。

価格改定の時期を慎重に検討する
 小麦粉価格の改定は7月からだが、リテールベーカリーの価格改定時期はどうなるのだろうか。「当店は秋から冬にかけてのどこかを想定しています」と横手社長はいう。「消費者の気分をよく見ていきたいんです。アベノミクスで8割の消費者が消費に意欲的、というデータを見たことがありますが、給料の上がった企業はまだ少ないでしょう。自分の店のリピーターの消費心理はまだわかりません。ホールセールがこれからパンの価格のどんな相場観を作っていくかにも、絶えず注目しています」。
 同店の主義に「情緒的価値の提供」がある。来店者が、楽しい、嬉しいと感じる店であろうとすることだ。「お客様が満足できる工夫をしながら、利益を損なわない価格設定をするんですよ。お客様にとって嬉しいことが、店の売上を伸ばすことになるんです。価格改定でも同じで、工夫を考えると結局そこに行き着くんです」と横手社長は笑顔を見せた。



値上げに見合う価値を追及し顧客の期待に応えていく - ムッシュイワン
小倉孝樹社長
立川の新緑が爽やかなショッピングモールに立地する「ムッシュイワン」
「イタリアンフェア」のコーナー。トリコロールのイタリア国旗と赤や緑の具材の色がよく調和している
高品質志向の店が求められる兆しも
 「ムッシュイワン」(東京・立川市)のシェフであり、ホテルベーカリー出身の小倉孝樹社長は、今回の小麦粉値上げについてこう語った。
 「今後、高くても高品質で高級なベーカリーが求められるのではないかと思います」。
 同店の特徴について小倉社長は「パンの消費の内、ホールセールの利用は約7割で、残りの3割をリテールベーカリーで取り合っています。当店は3割の中の、価格にこだわらず上質なパンを食べたい消費者をターゲットにして来ました。ホールセールとの価格競争よりも、シェフ自身が良いと考える味を追求して提供していくことが、当店の存在意義です」と話す。
 そんな小倉社長はこのところの原材料の高騰に対し「お客様の限度予算を見つつ、品質維持のために必要な値上げはしていく」という姿勢だ。
 同店の値上げは7月半ばからスタート。「良い品を作っていたら、代替材料を使ったり、ポーションを調整たりしてまで、価格を抑えようとは思えません。ファンの方は必ず品質低下に気付きます。粉やフィリングの味の違いがわかるからこそ、当店を支持して下さっているのですから」(小倉社長)。
 では、同店はどうやって消費者に値上げを浸透させているのか。「根本にあるのは、お客様との信頼関係です。『この店なら良いパンを作ってくれる。原材料の値上がり分の値上げはやむを得ない。適正価格なのだ』と我々の技術を信頼してもらうということです。そして、それを伝えるのに効果的なのは、販売員の説明だと考えています」と小倉社長。
 小倉社長は、ポップやポスターで解説するよりも、お客様に適切なアテンドと説明のできるスタッフの接客技術が有効と考える。その理由は、「ここは高級な店だ」と客に感じてもらうことが鍵だからだという。内装やインテリア、包装材料にも高級感をプラスし、店全体のイメージを高級志向にする計画もあるそうだ。 「価格競争は、やればやるほど苦しくなるものです。景気動向はまだ見通せませんが、大企業は給料アップしています。そういった層や、暮らしに余裕があり高品質を求める年配世代をターゲットに、高品質志向のベーカリーを追及していくのも、有効な生き残りの道ではないでしょうか」(小倉社長)。

高級店の考える原価圧縮と価格改定
 価格改定に当たって、小倉社長は、▼新製品や、季節性、流行を取り入れた製品を開発すること▼イメージ戦略で高級感を出し、価格に納得してもらうこと▼主力製品は、品質を落とさないために適正価格で出すこと、の3つが大事だと語った。
 主力製品を値上げ対象とするのは、ファンのいるアイテムは値上がりが理解されやすいため。消費者は日頃食べ慣れない製品が値上りすると全く買わなくなるのだという。
 同店で好評なのが、毎週金曜日のバゲットの割引だ。定価260円を70円引きで販売する。
「毎週金曜日はいつもよりバゲットの売れ行きが良い傾向が続いていたので、割引サービスを取り入れました」と小倉社長。その結果、定価時の2〜3倍の売上を記録しているという。ブランドに信頼が得られると、値下げのサービスにも興味を持ってもらいやすいのだという。
 また、流行をテーマにしたイベントとして、7月は「イタリアンフェア」と題し、欧州やイタリアの食材を使った「ピザ」や「チャバタ」(120円)」「フォカッチャ」(100円)などを売り出す。洒落た雰囲気を出し、同店のブランドイメージを損なわない戦略だ。
 では、原価の圧縮についてはどうだろう。「ロス対策は重要ですが、当店の場合は、お客様の期待する品質を考えると、二次加工で有効なのは、ハード系のラスクへの加工か、レーズン入りのような甘いパンの加工のみです。だから二次加工による原価圧縮比率は低いですね」と小倉社長。また、代替材料については、「当店の製品は97%がバターを使用しています。しかし、例外的にコンパウンドを使ったほうが、バターよりおいしくなる製品があります。代表はメロンパンです。こういった代替が映える製品もありますので、そういうアイテムが多い店の場合は、使い分けを研究するのも原価圧縮に繋がるでしょうね」と語った。

飽くなき品質へのこだわり
 同店の根本にあるのは、飽くなき品質へのこだわりだ。販売戦略よりも、まず小倉社長の信じる製パン技法があり、焼き上がった上質なパンがある。そこから売場のイメージが生まれ、販売戦略がスタートする。
 「問屋やメーカーを回って仕入れをきるだけ工夫するのは大事なことです。しかし、高品質のパンを提供するためには、人件費は下げられません。だから、味わいでお客様に価格を理解してもらわなくてはなりません。ホールセールを愛好するお客様は、値上げしなくても、あるいは多少値下げしても、我々のパンの相場感に理解は得られません。それよりも、我々の店をリピートしてくれる大切なお客様の期待に、応えていきたいですね」。
 高級志向は、高い技術が生んだ必然のようだ。





原価計算女王
原価計算女王

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