自家培養酵母で独自性を出す - ブランスリー電子版

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特集/2013年6月号

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自家培養酵母で独自性を出す
 今回の特集では、自家培養酵母でパンを作るベーカリー3店を取材した。自家培養酵母のパンを揃えるベーカリーは以前よりよく見かけるようになった。その多くは、品揃えの中の何品かについて自家培養酵母を使っているという形だ。
 取材した3店では、自家培養酵母を使っているということについては、プライスカードにさりげなく記載する程度か、何の表示もしていないかのどちらかだった。自家培養酵母を使っているということ自体が購入の決め手になるということは、今の時代はほとんどないのだろう。客にとっては、おいしいパンであればよく、ウチキパンの打木豊工場長は、「結局は味がどうなるかが問題だ」と話す。
 一方で、「添加物なしの手作りのパンでも、日持ちすることを伝えたい」(ドゥエトゥレの川崎泰之オーナーシェフ)という声もある。おいしさの面ではもちろんのこと、日持ちの良さでもホールセールの商品に劣らないとすれば、リテールの強みは格段に増すだろう。

ホップ種使用の「イングランド」(360円)=ウチキパン
自家製のレーズン種で作る「バゲットカンパーニュ」(200円)=ラ・フーガス
自家製レーズン種使用の「ノアカレンズ」(中央、1000円)=ラ・フーガス
ランチメニューにはパンの盛り合わせが付く=ラ・フーガス
ルヴァンリキッド使用の食パン類=ドゥエトゥレ
イチジクから起こした酵母使用の「フリュイ」(500円)=ドゥエトゥレ


惣菜パンはルヴァンリキッド入りの食パン生地で作る=ドゥエトゥレ
客と会話するオーナーシェフの川崎泰之さん=ドゥエトゥレ



自家培養酵母を使って、どんな味を出すかが重要 - ウチキパン
「イングランド」はホップ種特有のもっちりとした食感と香ばしさが楽しめる。厚切りでトーストするのが打木さんのお勧め
工場長の打木豊さん
30種類もの生地から60〜70品目製造している。ルヴァン種は3品目に使っている
横浜市の観光地でもある元町の商店街の一角にある「ウチキパン」。厨房は3階と4階にある
ホップ種の材料となるホップの花は、乾燥したペレット状
ホップ種使用の食パン

 神奈川県横浜市の元町商店街に明治時代から佇む老舗「ウチキパン」の看板商品は、
「イングランド」(360円)という名の山型食パン。同製品は創業当時から、自家製のホップ種のみで発酵をとっている。
 ホップ種を作るのには、4日間を要する。乾燥したホップの花を煮出した液に、マッシュポテト、モルト、砂糖、ハチミツ、塩を投入し、専用発酵機で一定の温度に保つ。マッシュポテトなどはその後4日間で、時間をあけて3回投入する。
 「イングランド」は焼く前日の午後2時頃仕込むので、ホップ種を作るところから計算すると5日間かけて作られる製品だと言える。
 「手間がかかるので、決まった量しか焼けませんし、イングランドの生地を使ってほかの惣菜パンを作ったりということもできません」(工場長の打木豊さん)
 焼く数量は平日は3斤棒を36本、商店街の人出が増える土日は倍の72本だ。それが現在ある機材や厨房のスペース上、限界の量だという。
 具など何も練り込んでいないシンプルな食パンは、この「イングランド」と角食の「ゴールド」(300円)の2種類。山型と角食が1種類ずつだ。「ゴールド」はイースト臭の少ない海洋酵母を使っている。
 「ゴールド」は5枚切りと6枚切りになって店頭に並ぶが、「イングランド」はスライスせず1斤のまま並ぶ。レジで好みの切り方の注文を受ける。
 「お客様に対してお勧めの食べ方というのはないですが、個人的には、厚切りにしてトーストしたり、バターを塗ってもおいしいと思います。もっちりとした食感や、香ばしさは、ホップ種を使うからこそだと思います」(打木さん)

歴史のあるルヴァン種も
 125年続く同店にはホップ種のほかにも長い間使い続けている種がある。昔ヨーロッパからもらってきたとされる種を、小麦粉、水、モルトで継ぎ足し続けているルヴァン種だ。
 このルヴァン種は、ロングセラーの3製品に使用している。「クロワッサン」(160円)、「ビエノワーズショコラ」(170円)、「シナモンレーズン」(430円)に、味わいと日持ちを良くする目的で使う。
 ルヴァン種もホップ種と同様に、歴史のある種だが、使用している製品のプライスカードにはルヴァン種については記載していない。
 「ホップ種もルヴァン種も、材料や工程を説明できるという点で自家製である良さがありますが、結局は味がどうなるかです。同じ種を使っても、種は生きていて、扱うのは人ですから、使い方次第で最終的な製品の味は変わります。慎重に扱っていかなければならないのですが、それだけ作りがいがありますね」(打木さん)

店名:ウチキパン
住所:神奈川県横浜市中区元町1‐50
電話:045‐641‐1161
営業時間:午前9時〜午後7時
定休日:月曜日
品揃え:160〜70品目
スタッフ:製造10人、販売4〜5人(平日)、7〜8人(土曜日曜)
店舗面積:厨房48・4坪、売り場8・5坪
日商:平日30〜40万円、土曜日曜70〜80万円



自家培養酵母のパンは時間が経つとおいしさが増す - ラ・フーガス
東京・あきる野市の国道沿いにある「ラ・フーガス」
「パン・ド・カンパーニュ」(800円)は木曜日と土曜日に焼き上げる
日替わりの「気まぐれサンド」(350円)。ペッパーシンケンをサンドしているパンは、自家製酵母使用の「パン・ド・カンパーニュ」だ
オーナーシェフの仁礼正男さん
曜日限定で焼き上げる製品
 東京・世田谷区の住宅街から約5年前、東京西部のあきる野市に移転したベーカリー「ラ・フーガス」は、移転後も変わらず自家製酵母を使ったパンを焼いている。「ノアカレンズ」(1000円)、「バゲットカンパーニュ」(200円)、「パン・ド・カンパーニュ」(800円)の3製品だ。
 「移転後は、食パンやあんぱん、クリームパンなどが、より売れるようになりましたが、自家製酵母のパンの売れ行きはそんなに変わっていないと思います」(オーナーシェフの仁礼正男さん)
 自家製酵母は移転後、新しくレーズンで起こした。それをフランスパン用粉と内麦全粒粉で毎日リフレッシュして使用している。この自家製酵母使用のパンは曜日限定で焼き上げる。週に3日焼く「ノアカレンズ」は水、金、日の各曜日に、週に2日焼く「バゲットカンパーニュ」と「パン・ド・カンパーニュ」は、「バゲットカンパーニュ」が、水曜日と日曜日に、「パン・ド・カンパーニュ」は木曜日と土曜日に、それぞれ焼き上げる。店頭に並べるのは、焼いた当日とその翌日の2日間。「日持ちが良く、時間が経つと酸味のまろやかさや味わい深さが増す」(仁礼さん)からだ。
 カフェでは、ランチメニューのパンの盛り合わせとして、さらに熟成させた3日後のものを提供することもある。それを知ってか知らずか、「カフェで食べたパンがおいしかった」と、帰りがけにこれらのパンを買い足す客も多いという。
 また、日替わりのサンドイッチ「気まぐれサンド」(350円)にも、「パン・ド・カンパーニュ」を使っている。焼き上げ後2〜3日経った「パン・ド・カンパーニュ」にレタスとペッパーシンケンというシンプルなものだが、パンの少しの酸味が、風味豊かなペッパーシンケンのおいしさを引き立てる。 

様々な製法の中のひとつ
 同店のパンは、この自家製酵母で作るもののほか、サワー種を使って作るもの、ストレート法やポーリッシュ法で作るもの、一晩冷蔵発酵させて作るものなど、様々だ。
 「自分もいろいろなパンを食べますし、お客様もそうだと思います。自家製酵母のパンを買うお客様も、それだけ買っていくということはしなくて、菓子パンや惣菜パンなどまんべんなく購入されますからね」(仁礼さん)
 様々な製法で作るパンを揃えることは、作り手にとっても有益だ。仁礼さんは同店のパンをほぼ1人で作っている。作業時間の異なるいくつかの製法を組み合わせて作ることで効率性が増し、1人の手で作れる範囲の量がその分増やせるからだ。

店名:ラ・フーガス
住所:東京都あきる野市草花3492‐183
電話:042‐569‐6369
営業時間:午前8時半〜午後6時
定休日:火曜日
品揃え:40品目
スタッフ:製造1人、販売とカフェ3〜4人
店舗面積:厨房10坪、売り場25坪、カフェ10坪(別途テラス席)
日商:10万円

根気強く試食を提供し続け、少しずつ売れるようになった - ドゥエトゥレ
イチジクから起こした自家製酵母を使った「くるみいちぢく」(540円)
最も売れている「でか食」(220円=左)と、八王子産小麦粉で作った「八王子食パン」(350円=右)。どちらもルヴァンリキッド使用
ドゥエトゥレはJR西八王子駅から徒歩5分の場所にある
初めて取り組んだ自家製酵母作り
 東京・八王子市のベーカリー「ドゥエトゥレ」は2006年の開業から半年後、自家製酵母を扱うようになった。そして4年後、今から2年前にはほとんどのパンに自家製酵母を使うようになった。
 「以前は自家製酵母のことは考えたこともなかったのですが、自分で店を持ってから、必要性を感じて」(オーナーシェフの川崎泰之さん)
 開業直後は思うようにパンが売れず、川崎さんはそれまでしたことがなかったという、「人気ベーカリー巡り」を始めた。そのなかで、初めて食べるおいしさのパンに出合い、そのパンにグリーンレーズンで起こした酵母が使われているということを知った。
 川崎さんはこれを機に、自家製酵母について学び始めた。試行錯誤して半年後、イチジクから起こした酵母で作ったハード系の「フリュイ」(500円)と「くるみいちぢく」(540円)の2つを店頭に並べた。しかし、もともとハード系のパン自体売れ行きがよくなかったこともあり、1年間根気強く試食を提供した。
 「当時はハード系のパンを売る店が周囲になかったこともあって、ハード系は初めてというお客様がほとんどでした。おいしいからとにかく食べて、という思いで、トーストしてバターやハチミツを塗ったり、自分の好きな食べ方で試食を勧めました」(川崎さん)
 こうした努力が実り、「フリュイ」と「くるみいちぢく」は定番化した。また、日持ちもするので2〜3日に1度焼くというペースだったが、ここ1〜2年の間で、毎日焼いても売り切れるようになった。プライスカードに「自家製いちぢく天然酵母」と記載しているが、酵母について質問する客は滅多にいないという。実際食べてみて、おいしいから買っていくという客がほとんどだそうだ。
 毎日店頭に並ぶイチジクの自家製酵母を使った製品はこの2つだが、先日、イチジク酵母のクロワッサンと食パンも販売した。少し酸味のある分、客の反応は、壺にはまる人とそうでない人とに2分したという。

手づくりのパンでも日持ちする
 同店の品揃えの大半を占めるのは、惣菜パンや菓子パンで、それぞれ、食パン生地と甘めのバターロール生地で作っている。 これらに、仏産石臼挽き小麦粉で起こした酵母から作ったルヴァンリキッドを入れている。2年ほど前からだ。
 「余計な添加物を入れなくても日持ちするパンを作りたいとずっと試行錯誤して、完成したルヴァンリキッドです。入れる主な目的は、しっとり感を保持するためなので、ハード系に使うときのように酸味は一切出したくなかったのですが、その点が最も難しかったです。また、ルヴァンリキッドは自分の手で最初から作ることにもこだわっています。その方が入れたときにパンに深みのある味が出せます」(川崎さん)
 もちろん、同店の一番人気、角食パンの「でか食」(220円)にも入れている。
「添加物なしの手作りの食パンでも、日持ちするということを実感してもらえればと思っています」(川崎さん)
 川崎さんの現在の目標は、クロワッサンなどにも自家製酵母を使うことだという。
 「今の段階では、自家製酵母を入れてつくるとなるとかなり手間と時間がかかってしまいます。ですので、現実的には難しく、余裕があるときにたまに作る程度です。これからも試行錯誤を続けて、今の環境のまま作れるように努力していきたいと思います」(川崎さん)

店名:ドゥエトゥレ
住所:東京都八王子市千人町2丁目13番8号
電話:042‐682‐5066
営業時間:午前6時半〜午後7時
定休日:月曜日
品揃え:100品目
スタッフ:製造4人、販売2人
店舗面積:厨房10坪、売り場6坪
日商:平日15万円、土曜、日曜20万円

原価計算女王
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