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特集/2013年5月号

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製品への思いが顧客に通じたとき




「焼きたて」と「手作り」を「クリーパン」で表現
●パン工房アイグラン豊田店
店長の宍戸謙一さんは午後2時、この日8回目の「クリームパン」(130円)の焼成を行った
「本日のおすすめ」の「クリームパン」は、入店後最初に目に入る場所に置き、A4サイズのPOPを2枚添えていた
入り口前の看板には「本日のおすすめ とろっと手作りクリームパン 1品お買い上げごとに『10円金券』プレゼント」と書かれていた
レジ横にも「クリームパン」は置かれていた
店の特徴を表現できる商品に育てる

 東京・日野市のベーカリー「パン工房アイグラン豊田店」の入り口前には、「本日のおすすめ とろっと手作りクリームパン 1品お買い上げごとに『10円金券』プレゼント」と書かれた看板が立っていた。
「『クリームパン』は当店不動の人気ナンバーワン商品でもあるのですが、『本日のおすすめ』とした今日のような日には、いつも以上によく売れます」(店長の宍戸謙一さん)
 その「本日のおすすめ」である「クリームパン」は、店に入るとまっ先に、目に飛び込んできた。艶々としてパンパンに膨れた焼きたての状態で、店内中央に位置する平台に並んでいる。
宍戸店長によると、午後2時から4時まではアイドルタイムだというが、そのアイドルタイム内の午後2時を回った頃でも、店内は焼きたてのパンの匂いが充満していた。
 「『クリームパン』は、一度に焼成する個数は普段は12個ずつなのですが、今日は売り出しの日なので20個ずつに増やしています。午後2時の時点で、本日8回目の焼成です」(宍戸店長)
 窯を担当している宍戸店長は、まめに売り場に出て、商品ごとの売れ行きをチェックしている。一度に多くの量を焼かず、売れ行きを見ながら少数ずつ多数回に分けて焼成していくことで、店頭に並ぶパンを常に焼きたての状態にキープするためだ。
 クリームパンが、「艶々としてパンパンに膨れた焼きたての状態」で並んでいたのも、こうした努力があるからだ。
 焼きたての「クリームパン」は、パンの部分も中身のクリームも非常にやわらかい。そのため、トングでつかむ際は、優しく扱わなければ潰れてしまう。
 ある常連客は、トングでつかんで潰れかけてしまったクリームパンを見ても、まったく驚いた様子はなかった。そのやわらかさが、同店のクリームパンの特徴だと認知しているからだろう。
 同店の人気ナンバーワンを保持している「クリームパン」は、6年前の開業時から、レシピはほぼ変わっていないという。
 「開業時、焼きたてであることと、手作りであることを当店の特徴として打ち出していこうと決めました。パン生地も中身のクリームもすべて手作りの『クリームパン』なら、こうした当店の特徴を最も表現できます。そこで、『クリームパン』を当店の看板商品として売っていこうということになったんです。また、材料や配合だけでなく、常に焼きたてを並べるということにもこだわってきました。焼きたてで中身のクリームが温かい状態というのも、当店の『クリームパン』の特徴です。そのこともこれまでの6年間で、お客様には大分浸透して
きたと思います。また、すべて手作りであるという点で、スタッフにとっても愛着の湧く商品となりますし、当店のオリジナル商品として自信を持って販売していくことができますしね」(宍戸店長)
 6年前の開業時、同店の斜め向かいにはライバル店となるベーカリーがあったが、3年前に閉店してしまったという。その店は店内に厨房はなく、販売専門だった。「アイグラン」は、焼きたてのおいしさを打ち出すことで、その店と差別化を図ることができたのだろう。焼きたての「クリームパン」を看板商品として打ち出していくことで、同店の特徴を客に浸透させることができたのだ。



店内中央に平台が一つある。ほとんどの客がその周りを反時計回りに進み、レジに行く
JR豊田駅からすぐの場所にある「パン工房アイグラン豊田店」。朝は通勤途中の客が多い
「本日のおすすめ」の購入客にプレゼントする10円分の金券
今シーズン販売開始後間もない「ずんだ大福ぱん」(150円)は、入店後2番目に目に入る位置(中央)に置かれている
塩気をきかせた枝豆を練り込んだ湯種のもっちりとした生地で、あっさりとした甘さのずんだあんを包んだ「ずんだ大福ぱん」
おすすめ商品を徹底して目立たせる

 看板商品として打ち出していくためには、定期的に「本日のおすすめ」として売り出していくことは効果的だ。
 同店では、「本日のおすすめ」として、日替わりで、商品を1つ売り出している。どの商品にするかは、販売スタッフたちが集まる毎月の「レジ会議」で決定している。
 「販売スタッフは、売り場でのお客様の様子や売れ行きを常に見ていますし、全員が女性なので、ほかの店の売れ筋などにも
敏感です。こうした情報も考慮して、もっとお客様に食べていただきたい商品は何か、売っていきたい商品は何かを考えて決定しています」(販売統括の松本眞幸さん)
 「本日のおすすめ」は、商品は毎日変わるが、陳列場所は定位置だ。入店してすぐ正面に見える、平台の手前の部分と決まっている。
 「当店のお客様の動線は、入店後反時計回りに奥のレジまで進んでいくという風に決まっています。ですから、どの場所が何番目に視界に入ってくるかということもほぼ決まっています。最初に目に入る場所に『本日のおすすめ』を並べて、次に目に入るところに新商品などを置くという風に、陳列場所は使い分けをしています。店内のすべての商品を見てくれているとは限りませんからね」(宍戸店長)
 最初に目に入る平台に置かれた「本日のおすすめ」には、A4サイズのPOP2枚が添えられていた。「本日のおすすめ」はさらに、レジ横にも置かれていた。

不満を克服した商品づくり

 春の季節商品として、ずんだあんをもっちりとした生地で包んだ「ずんだ大福ぱん」(150円)を開発し、昨年の春に販売を開始した。春夏の季節限定の予定だったが、昨年は好評につき秋口まで販売期間を延長したという。今年度も春の季節商品として同製品の販売を開始したが、まだ売り出して間もないため、「本日のおすすめ」の次に視界に入るとされている場所に陳列し、春の季節商品としてアピールしていた。
 「ずんだあんを使った商品は馴染みがあると思うのですが、『好きだけどあんの甘さがくどい』という意見をよく耳にしていました。そのため、あっさりとした甘さのずんだあんにしました。生地は、『もっちりパン・ド・ミー』と同じ湯種の生地で、もっちりとした食感にしています。生地には、塩気を少し効かせた枝豆を練り込んで、甘さと塩気の全体的なバランスをとっています」(宍戸店長)
 馴染みのある商品をこだわりを持ってオリジナルの味に作り上げたことで、リピーターが増え、販売期間の延長となったのだ。また、同商品も「クリームパン」と同様に「本日のおすすめ」として売り出し、一般的なずんだあんを使ったパンとは違うということを多くの客に伝えた努力も実を結んだのだろう。

パン工房アイグラン豊田店
住所:東京都日野市多摩平2‐3‐3
電話:042‐584‐1866
営業時間:午前7時〜午後8時(土日祝は午前8時〜午後7時)
定休日:なし
品揃え:約80品目
スタッフ:製造3人、販売2〜3人
店舗面積:厨房16坪、売り場10坪
日商:20万円



材料と製法にこだわり、販促も徹底的に行う
●ブンブン小麦の郷
金属製の缶の中に牛の模様が印刷された紙で包まれた「ミルクバトン」(147円)が入っている
「立てたて」のクリームは、ふんわりとした食感
「ミルクバトン」のクリームは、絞る直前にミキサー(写真奥)で立てる。クリームを絞ったら、牛の模様の紙で一つずつ包み、店頭に並べる。20〜30個ずつ売れ行きを見ながら小出しにしていく
「ミルクバトン」など売れ筋商品は、平台の上にまとめて陳列している
地主将人社長(左奥)と製造スタッフ
「ブンブン小麦の郷」は昨年6月にオープンした。国道に面しており、車で来店する客が多い
新店オープンを機に大幅に改良したアイテム
 神奈川県相模原市の国道沿いにあるベーカリー「ブンブン小麦の郷」は、県内に同店を含めベーカリー3店舗と菓子店1店舗を展開する地主将人社長が、昨年6月にオープンした新店だ。
 同店のオープンを機に、地主社長が大幅なリニューアルを図ったアイテムが、ソフトな生地にミルククリームをサンドした「ミルクバトン」(147円)で、商品名も以前の「ミルクフランス」から改めた。
 地主社長は「『ミルクバトン』は自分の一番好きなアイテムなんです」と言う。その「ミルクバトン」と地主社長とのかかわりは、地主社長が開業を果たす前にさかのぼる。ベーカリーを営む家に生まれ育った地主社長は、20歳からパン作りを始め、実家のベーカリーのほか数軒のベーカリーで修業した。
 「ミルクバトン」と出合ったのはある修業先のベーカリーで、当時「ミルクバトン」(当時の商品名は「ミルクフランス」)は、人気トップ3とまではいかなくとも、1日に何百本と売れるその店の人気アイテムの一つだったという。
 そして今から7年前、地主社長が初の開業を果たした「ブンブン厚木店」の店頭にも「ミルクバトン」を並べた。修業先と同様に、人気トップ3にまでは入らなくとも、着実に「ブンブン厚木店」の人気アイテムの1つとなっていった。
 「自分では1番好きなアイテムなのですが、実を言うと、売上げ10位から20位の間に留まっていたんです。自分の好きなアイテムですからやはり、もっとたくさんのお客様に食べていただきたいと思い、今回の新店オープンを機に、改良し、販売方法なども変えていこうと思いました」(地主社長)
 陳列場所に関しても、これまでは特に工夫はしていなかったという。
 「目立つような場所ではなく、『ミルクバトン』のファンのお客様なら、すぐに分かるというような場所に並べていました。しかし、それでは、食べたことのないお客様の目に触れることは、なかなか難しいかも知れません。ですが、それでも安定した人気がありましたから、特別に何かやらなくても、それなりにおいしいと認められている商品ではあったのだと思います」(地主社長)
 新店の「小麦の郷」では、入店後まっ先に目に入る平台に陳列場所を確保した。さらに金属製のバケツを横に寝かせた中に並べるという遊び心のある演出がされていて、「当店おすすめNo・1」と書かれたPOPも飾られている。そして「ミルクバトン」の周りには売れ筋商品の「カレーパン」(158円)や「メロンパン」(126円)などを並べ、コーナー全体として目立たせていた。

クリームの食感にもこだわる
 「ミルクバトン」のレシピの改良は、頻繁に行っているが、今回を含めて大幅に変えたのは7年間の中で3回だという。
 「改良はしょっちゅうやっています。自分の中で納得いかない部分が課題として常にあるので、それを改善するためにいろいろと試しています。大幅に変えた1回目のときは、クリームを変えました。グラニュー糖から粉糖に変えて舌触りを滑らかにしたんです。2回目のときはパン生地を変えました。脱脂粉乳の配合量を増やして、よりしっとり感を持たせるようにしました」(地主社長)
 「ミルクフランス」から「ミルクバトン」に商品名も変えることとなった3回目の今回は、クリームも生地も両方変えた。
 「とにかく、新店では自分の好きな『ミルクバトン』を看板商品として売っていきたかったんです。クリームは、バターを水分量の少ないものに変えて、風味をよくしました。生地に関してはクリームにも使っている練乳をたっぷり配合するようにして、よりしっとりさせるようにしました。もはや生地はフランスパン生地ではないので、商品名の『フランス』を『バトン』に改めたんです」(地主社長)
 材料にもこだわったために、原価は8パーセントほど上がったが、商品価格は変えていない。
 「原価がどれだけかかったとしても、お客様の中には手に取ってくれる価格帯というのがありますから、変えられません。『カレーパン』の158円も、当店の基準にしている原価率からすると、高くなっていますが、価格以上の価値を出していかなければ、お客様にリピートしてもらえません」(地主社長)
 「カレーパン」も「ミルクバトン」もどちらも原価が高い商品だが、一方で原価の安い商品の販売にも力を入れることで、バランスをとっている。
 「原価の安い『メロンパン』(126円)の販売を強化しています。実際は人気トップ5にも入っていないのですが、1番人気の『カレーパン』などと一緒に並べて、当店のおすすめ商品としてアピールすることで、ついでに買ってもらえるようにしています」(地主社長)
 また、「ミルクバトン」は、材料を変えたほかにも、製法もさらにこだわって、変えた。
 「クリームの『立てたて』にこだわりました。クリームは、バターを使っているので時間が経つとどうしてもかたくなってきてしまいます。立てたばかりのふんわりとした状態でお客様に食べていただきたいので、パンに絞る直前にたてるようにしています。売れ行きを見ながら20〜30本ずつ、立てたてのクリームを絞って、店頭に出すようにしています」(地主社長)
 こだわり抜いて改良した「ミルクバトン」は、「ブンブン」の全店で販売しており、売れ行きは好調だという。その影響もあってか、春の売上は前年比108パーセントと、伸びを見せている。
 「焼きたて、揚げたて、作り立て、の『3たて』を実践しているベーカリーが増えてきたなかで、『3たて』にさらにプラスアルファーをしていきたいと思っています。そうしたなかで、クリームを『立てたて』にするというこだわりが生まれたんだと思います」(地主社長)

ブンブン小麦の郷
住所:神奈川県相模原市中央区田名4437‐1
電話:047‐703‐9750
営業時間:午前7時〜午後7時
定休日:火曜日
品揃え:80品目
スタッフ:製造6人、販売常時2〜3人
店舗面積:厨房24坪、売り場16坪
月商:750万円



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