記事の閲覧
| <<戻る | 写真をクリックすると拡大写真が見られます。
|
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 新人のつもりで緊張感を持った接客 - ブレッド&サーカス |
| | 寒風が肌を刺すなか、「ブレッド&サーカス」の店の前には常に入店待ちの列が。サービスの使い捨てカイロの入ったカゴが入り口前に置かれていた | | | | 店主の寺本康子さん。惣菜パンも一つひとつが大きくて、両手を使わないと持てないほど。重くて途中でトレーを持ちきれなくなり、一旦レジに預ける客も多いという | | | | 約6坪の店内は定員を5人と決めている。常に満員だ | | | | ダークブラウンの重厚な棚に、ずっしりとした見た目のハード系のパンが並ぶ | | 神奈川県湯河原町のベーカリー「ブレッド&サーカス」は、厨房8坪、売り場6坪と小さな店構えながら、全国にファンを抱える人気店。店の前には、開店前から常に、入店待ちの列が延々と続く。通販も人気が沸騰していて、混乱を防ぐために全国をいくつかのエリアに区分けして順次予約を受けるという体制をとるほどだ。 同店のパンは、カンパーニュなどのハード系だけでなく、惣菜系から菓子パン系までどれもが、大きくて迫力があり、一つひとつに存在感がある。それら約80品目が、ダークブラウンを基調とした店内の、重厚なつくりの棚にずらりと並ぶ様は趣深く、同店は今年開業17年目だが、それ以上と思わせるような年季を感じさせる。 念願の初来店が叶ったという客が、「湯河原の老舗なんですね」と、店主の寺本康子さんに語りかけた。すると康子さんは、「100年以上続いている老舗が多い湯河原の中では、うちはまだ、新人のつもりでやっていますよ」と返した。 接客をする康子さんの眼差しは真剣そのものだ。さらにその立ち居振る舞いからは「新人のつもり」という言葉を反映するかのような緊張感が伝わってくる。6坪ほどの大きさの店内では、どこの棚もすぐそこの距離といったところだが、パンについて尋ねられると、さっとそのパンの置いてある棚の前に移動し、食感や味の違いなどを丁寧に説明する。 1996年の開業当初、パンの製造は康子さんと、夫の五郎さんで行っていた。そして現在、康子さんは接客にまわり、製造は五郎さんを筆頭にほか約3人のスタッフで行っている。 取材時も、康子さんは売り場で接客をしていて、製造担当の五郎さんは売り場の奥にある厨房にいた。しかし、康子さんと五郎さんは、それぞれが違う持ち場にいながらも、同じことを口にした。「お客様はこんなに寒いのに並んでくださっています」。 こうした客への感謝の気持ちが、康子さんの丁寧な接客と、「パンづくりは命がけです」と言う五郎さんのパン作りに対する思いに繋がっている。また、店の外には、「あたたかくしてお待ちください」とのメッセージが添えられた使い捨てカイロの入ったカゴが置かれていた。客を思いやる気持ちが店の至るところに溢れている。 店内はスペースの都合上、定員が5人と決まっている。取材日、外は肌を刺すような寒風が吹いていたが、入店を待ち侘びる人の列は途切れることはなかった。
|

| 自宅に持ち帰って試食する |
| | 「たまねぎのパン」(360円)はたまねぎやパプリカなどの野菜の甘味がたっぷり詰まっていて、かなりボリュームのあるパン | | | | 新商品の「スパイシーチーズブレッド」(430円)。食感はソフトでしっとりとしており、チーズやハーブの風味が豊か | | | | 人気の「芋南瓜小豆」(580円)。具は、小豆とさつまいもと南瓜とチーズ。チーズの塩気と芋類の甘味がよく合う | | | | 「バイキングのパン」(720円、ハーフ360円)は、細かなナッツやドライフルーツがたくさん入っていて甘くなく、料理と合わせやすい | | パンとは無関係の会社で働いていた五郎さんは、友人が住んでいるアメリカのボストンを旅したときに、パン作りに目覚めた。それは今から約20年前のことで、当時ボストンにはベーカリーで成功した人が多くいて、五郎さんはそのうちの1人からパン作りを習ったという。そして本屋でオランダの昔のパン作りについて書かれた本と出合った。その本には全粒粉で起こす酵母のことが書かれていて、そのテクニックはかなり難しいものとされていたが、五郎さんは挑戦した。現在同店のパンの味の決め手となっているのは、そのテクニックで作り出した酵母だ。 「お客様のために命がけです。それだけを考えて作っていて、それができなくなったらやめます」と、五郎さんはパン作りへの思いを語る。 五郎さんは60歳のとき同店を開業し、現在76歳。約16年間パンを作り続けている中で、ずっと続けていることがあるという。「ベーシックカントリーブレッド」(550円、ハーフ280円)や、「全粒粉カンパーニュ」(650円、ハーフ325円)など、同店の看板商品を自宅に持ち帰り、電気を付けずに何も見えない状態でそれらを食べ、味の確認をすることだ。 「おいしいと感じるのは五感でしょう。だから、おいしい、まずいと簡単に言えないんです。作ったら持ち帰って真っ暗な部屋で試食します。よく噛んで、味わって、そして飲み込んだあとに甘味、塩気、匂いがまた自分に返ってくるんですね」(五郎さん)
|

| 鳳凰が羽ばたいているような気泡 |
| | 看板商品のひとつの「ベーシックカントリーブレッド」 | | | | レジの手前で「全粒粉カンパーニュ」が存在感を放っている | | | | 店内に「ベーシックカントリーブレッド」の断面の写真が飾られていた | | 五郎さんはこの1年間、ある一つのことに着目し、「ベーシックカントリーブレッド」を焼き続けた。 「切って断面を見てみると、気泡が中央から上に向かって流れているように見えるんです。それはまるで、鳳凰(中国の伝説上の霊鳥で、孔雀に似ていて、5色に輝く美しい鳥)が羽を伸ばしているようにも見えるんですが、それが1カ所だけでなく、切っても切っても金太郎飴のように、どの断面もそうなるパンがあることに気付いたんです。この、端から端まで気泡が鳳凰のようになるパンを目指していて、前は20個に1個だったのが、最近では5個に1個くらいに増えてきました。販売しなければならないので、すべて切って見てみるわけにはいかないですけどね」(五郎さん) 五郎さんはきれいに揃った気泡に、トマトのペーストを埋めるようにして塗って食べるのが好きだという。 「料理に合うパンを作るとなると、気泡が大事なんです。料理が気泡に絡まって、『気泡がおいしい』ということになる訳です」(五郎さん) 店内には、「鳳凰の金太郎飴」のように焼き上がった「ベーシックカントリーブレッド」のスライスの写真が飾ってある。五郎さんは、その写真を見つめながら、「楽しみにしていてくださいね。ホームページやショップカードなどにも、この写真を掲載する予定ですから」と話した。 「自分のところが一番おいしいと自信を持って言えますが、パン作りはこうやったらおいしい、というものではありません。気泡も、匂いも、皮も、全体の見た目も、まだまだ探っていかないといけないと思っています」(五郎さん)
|

SHOP DATA 店名:ブレッド&サーカス 住所:神奈川県足柄下郡湯河原町土肥4‐2‐16 飛田ビル1F 電話:0465‐62‐6789 営業時間:午前11時〜午後5時 定休日:水曜、木曜、日曜 品揃え:約80品目 店舗面積:売り場約6坪、厨房約8坪 スタッフ:製造3人、販売2〜3人 日商:35〜40万円(通販分も含む)
|
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。