ベーカリーの焼き菓子 / 「ただ普通においしい」で終わるものは売れない / 焼き菓子は、ごく一般的な、しかし高品質のものを揃える - ブランスリー電子版

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特集/2013年1月号

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。


ベーカリーの焼き菓子

「ただ普通においしい」で終わるものは売れない
焼き菓子は、ごく一般的な、しかし高品質のものを揃える
「ムッシュ イワン」は立川市内の商業施設の一角にある
「シュトレン」は小型サイズの方がよく売れる
「パネトーネ」(1280円)も、ホールだけでなく4分の1にカットされたものも320円で販売
今年初めて売り出した「ショコラシュトレン」(480円)
「オレンジはちみつのシフォンケーキ」(350円)。4分の1サイズで販売
ムッシュ イワン

焼き菓子も粉主体で味を表現する
 「焼き菓子を作る際、粉にメッセージ性を求めるのはパン職人特有のことだと思います。パン屋は究極を言うと粉屋だと思っていますから」
 こう話すのは、東京・立川市のベーカリーカフェ「ムッシュ イワン」と、都内に6店舗あるベーカリー「ポラリス」を経営するウィルベンの小倉孝樹社長。
 「パティシエの菓子作りにおいて、使う粉はほぼ薄力粉と決まっていて、バターの産地を変えたり、そのほかの副材料を使ったりして、味の変化をつけるとしたら、パン職人は、種と、様々な粉を使い分けることで、香りや食感、味の違いを作り出そうとします。ですので、マドレーヌやフィナンシェなどシンプルな配合の焼き菓子は特に、粉の持ち味を活かして、『なんかひと味違うな』と思わせる製品が作れるんだと思います」(小倉社長)
 味に深みを出すために、必ず2、3種類の粉をブレンドし、発酵を十分にとって粉のうまみを引き出すパン作りを基本とするホテルベーカリーで腕を磨いた小倉社長は、焼き菓子においても、粉から味を作り出すという発想なのだという。
 クリスマスを控えた取材時、リボンやカゴでクリスマス仕様に包装された「シュトレン」(大1890円、小480円)や「パネトーネ」(1280円)が、ムッシュイワンの店頭を飾り、クリスマスの雰囲気を放っていた。
 マドレーヌとフィナンシェは、「シュトレン」などクリスマス向け製品に力を入れている間は製造を中止している。同店の焼き菓子は、パン職人がパン作りを最優先させていく中で、無理のない範囲で揃えていくという位置付けだ。
 「シュトレン」などのほかには、「抹茶大納言」(150円)、「オレンジケーキ」(140円)、「マカダミアといちじくのチョコレートケーキ」(180円)など5種類のパウンドケーキのカット売りや「オレンジとはちみつのシフォンケーキ」(350円)などを製造販売。さらに、冷蔵ショーケースには、「ガトーショコラ」(250円)と「チーズケーキ」(150円)が並んでいた。
 「生のフルーツやクリームのトッピングなど、焼成後さらに加工が必要なものは、極力避けるようにしています。パン作りの合間に作るので、手間ができるだけかからないということは重要なことですからね」(小倉社長)



パウンドケーキの「マカダミアといちじくのチョコレートケーキ」(180円)。パウンドケーキはカットした小分けの方がよく出る
5種類のパウンドケーキとラスクが並ぶ。これらの焼き菓子があることで、パンが品薄になっても、店全体の品揃えのボリュームがキープできる
「ムッシュ イワン」と「ポラリス」を経営する小倉孝樹社長
クリスマスを控えた取材時は、店内は「シュトレン」や「パネトーネ」などのクリスマス菓子で彩られていた
クリスマスを控えた取材時は、店内は「シュトレン」や「パネトーネ」などのクリスマス菓子で彩られていた
小分け販売でついで買いを促す
 パウンドケーキは1本そのままではなく、一切れずつの個包装の方がよく出ている。1製品あたりの価格を150円前後に抑えて手軽さを出し、パンを求めに来た客についで買いを促す。
 「焼き菓子は、1年通して売上げの変動がなく、コンスタントに店全体の売り上げの5パーセントを占めています。この数字はかなり大きいと思っています。値段設定などで買いやすさを重視してついで買いをしてもらえるようにすることで、客単価を上げることに繋がります」(小倉社長)
 「シュトレン」も、大型のものよりも小型のものが圧倒的に出るという。
 「以前は大型のものしか作っていなかったのですが、小型のものを用意するようになってからシュトレンの人気は定着してきました。大型のシュトレンはクリスマス時期だけの販売ですが、小型のものは近年、通年商品として販売しています。また、大きさだけでなく、スパイスの量を減らすなど、日本人の食文化にあった優しい味わいに変え、食べやすくしたこともよかったのだと思います」(小倉社長)
 今年は初めて、「シュトレン」にチョコレートをコーティングした「ショコラシュトレン」(480円)を売り出した。
 同製品は、同店のある立川市のタウン誌の企画で誕生した。その企画とは、同店が開発した5種類のシュトレンの中から、試食した人による投票で1位に輝いたシュトレンを実際の店頭で売り出すという内容で、1位になったのが「ショコラシュトレン」だった。フルーツ、ナッツ、チョコレートがバランスよく配合されていて、食べやすさを重視した製品に仕上がっている。
 「焼き菓子は奇をてらわないで、ごくごく一般的なものを揃えていきたいと思っています。マドレーヌやフィナンシェ、クッキーなど、それらをいかにおいしく、ある程度リーズナブルに作れるかが重要なことだと思います。これらは、今はコンビニでも簡単に手に入るアイテムですので、『ただ普通においしい』で終わるのではなく、コンビニの菓子とは明らかに違うおいしさを打ち出していかなければいけないですよね」と小倉社長はいう。
 さらに「お客様の中には、パンは頻繁に食べても、焼き菓子は年に数回しか食べない人や、特にこだわりを持たずに食べている人もいると思います。そういった人にも、明らかに分かるおいしさというのを意識して作り出していかないと、わざわざパン作りの傍らに作っていくほどの意味をなすことができないと思うんです。また、今後は食事制限のある方にも安心して食べてもらえるような製品開発も必要になってくると思います。菓子はやはり、ヘビーなものの方がおいしいと思います。そうした中で、食べたときの満足感や食べたときの喜びをちゃんと得ることができる製品作りを、油脂などの材料を代替することで実現させていくことも求められていくのでしょうね」

ムッシュ イワン
住所:東京都立川市若葉町1‐7‐1
電話:042‐538‐7233
営業時間:午前10時〜午後8時
定休日:なし
品揃え:パン80品目、菓子20品目
スタッフ:製造5〜8人、販売2〜5人
店舗面積:売り場20坪、厨房25坪
日商:平日20万円、土曜日曜40万円



サブレを7枚の袋詰めにして販売

5、6袋をまとめて購入していく年配者が目立つ
通りからガラス越しに商品がよく見える
「パン・ド・ロア」のオーナーシェフ、中村明さん
底に紙皿を敷き、サブレが隙間なく詰められている。座りがよく、割れを防げる
1センチほどの厚みがあり、食べごたえがあるサブレ。左は「オニオンサブレ」、右は「サブレ・ショコラ・ダマンド」
パン・ド・ロア

焼き菓子はまとめて購入する客が目立つ
 「サブレの売れ行きがいいのが意外なほどでした。1人で5、6袋まとめて買われるお客様も結構いらっしゃいます」
 東京・足立区に2012年4月下旬、パンとケーキの店「パン・ド・ロア」をオープンした中村明さんは、これまでの半年間を振り返る。
 ダロワイヨジャポンで19年間パンと菓子作りの腕を磨いてきた中村さんは、「パンを主軸に生ケーキと焼き菓子を揃えていこう」という考えで同店を開業。開業して間もない頃は、生ケーキまで手が回らなかったというが、半年経った現在は、「モンブラン」(400円)や「ショートケーキ」(380円)などの生ケーキがショーケースを飾るのが常となった。
一方サブレは、パン作りの合間を利用して無理なく作れるため、開業当初から揃えているという。
サブレの種類は、「紅茶サブレ」(320円)、フライドオニオンで風味付けをした「オニオンサブレ」(320円)、プレーンな味の「サブレ・ディアマン」(280円)、「サブレ・ショコラ・ダマンド」(320円)、「ゴマサブレ」(320円)の5種類。
「どの味も、粉、砂糖、塩、バターの配合量を変えていて、また、それだけでなく、使う粉の種類も変えて、大きく食感の違いを出しています。例えば『紅茶サブレ』は、茶葉の香りを引き立たせるために、たんぱく量が少なめの中力粉に近い粉を使ってホロホロとした食感にしています」(中村さん)
それぞれ7枚の袋詰めにし、「300円前後の買いやすい値段に設定」(中村さん)して販売。袋の底部分に紙皿が敷かれており、座りがよい。こうした包装形態も、好調な売れ行きを手伝っているようだ。
「当初、反応をみるために1枚ずつ個包装して販売したこともありましたが、ある程度の枚数をまとめて袋詰めにした方がよく売れるみたいですね。実際、現在の包装形態にしてからの方がよく出るようになったと実感しています。5、6袋まとめて購入していく年配者が目立ちますね」(中村さん)
パンについても、まとめ買いをする年配者が目立つという。
 ソフトな生地にチョコレートを練り込んで食パン型に入れて焼き上げた「チョコブレッド」(380円)は、取材時も年配客から10本の予約が入っていた。チョコ味のほか、メープル味の「メープルブレッド」(420円)もある。2種類とも比較的日持ちがして、焼いた当日より翌日の方が、よりしっとりとしておいしく味わえると人気だそうだ。
「チョコブレッド」と「メープルブレッド」をまとめて購入する客の中には、県外から来る人もいる。
「夏の暇な時期を利用して、スーパーの催事に出店しました。そのとき販売したのが、『チョコブレッド』と『メープルブレッド』だったので、その影響が大きいと思っています。当店に普段買いに来られるお客様が住んでいるエリアから少し外れた場所にあるスーパーだったので、これを機に少し商圏範囲が広がったと思っています」(中村さん)
 同店の立地は最寄駅の東京メトロ北綾瀬駅から徒歩20分の住宅街で、団地など集合住宅も多い。店前の道は車通りは多くないが、川沿いに整備された遊歩道があり、1日中よく人が通る場所だ。そのため、駅へ行く途中に店に寄る人や、歩いて近所から買いに来る人が多い。しかし、夏の催事後は特に、車や自転車で来店して「チョコブレッド」やサブレなどをまとめて購入していく客が増えてきた。このような客の中には県外など離れた場所から、友人たちの分もまとめて買いに来る人も多いという。



サブレは、「紅茶サブレ」(320円)など5種類。各7枚入りで値段は300円前後に設定
前の店の人気商品をもとに開発した「チョコブレッド」(380円)と「メープルブレッド」(420円)
「フィナンシェ」(150円)、「マドレーヌ」(140円)なども人気
入り口正面に設置されたショーケースには生ケーキが並ぶ
自宅用と贈答用の両方に利用できるサブレ
 同店が開業するまでこの場所には、自家製のパンや菓子のほか、せんべいなどの袋入り菓子や、種類豊富なジュース類まで幅広く揃う、「パンとケーキ、贈答品」と書かれた看板を掲げた店があった。その店は約30年続いたが、店主が高齢となったため店をたたまざるを得なくなった。周辺ではかなりの人気店だったため、大変惜しまれてのことだったという。
そのため、パンも贈答品も自宅用のおやつも手に入る店としての印象が、近隣住民に根強く残っている。
 「『今でも、おせんべいはないですか』と聞いてこられるお客様がいるんですよ」(中村さん)
 中村さんが切り盛りするようになった現在の店では、せんべいや和菓子などはないが、生ケーキやサブレなどの焼き菓子を今後さらに充実させていくことで、前の店からの顧客の期待に応えていく。
 「サブレは5種類しかないですが、本当は20種類以上揃えたいと思っているんです。自宅用と贈答用の両方に使ってもらえるように、箱詰めも用意したいですね」(中村さん)
 また、パンは、ダロワイヨに勤めていた時の経験を活かし、ハード系を中心に揃えていきたいと思っていたそうだが、前の店の売れ筋商品であった、カレーパンやラウンド型の食パン、焼きそばパンなどのドッグパンも、ハード系と両立するようにして、揃えるようにしている。
 「前の店が閉店する前に、引き継ぎのような形で、その店主と一緒にパンを作らせてもらったんです。そのときにこの地域の客層を肌で感じました」(中村さん)
 中村さんは、前の店の人気商品を絶やさないよう、努めている。見た目や味を少しずつ、中村さん流に変えた状態で販売している。「チョコブレッド」も、前の店の人気商品だった。型に入れて焼くというのは同じだが、生地のねじり方など成形を変えて、食感に違いを出したという。こうして、前の店の人気商品に中村さんの技術を融合させた製品を揃えることで、前の店からの客を離さないようにしている。
 せんべいは置かなくなり、売れ筋であったパンの味も中村さん流に変えているが、客にとっては、自宅用と贈答用の品が揃う店としての位置づけは変わらない。
 自宅用として食べているアイテムを、ときに贈答用として使いたい人たちにとって、サブレは欠かせないものとなっているのだろう。

住所:東京都足立区大谷田3‐22‐8
電話:03‐6802‐6548
電話:午前7時〜午後7時
定休日水曜日
品揃え:パン約60品目、菓子約20品目
スタッフ:製造3人、販売1〜2人
店舗面積:売り場約9坪、厨房約9坪
日商:平日8〜10万円、土曜日曜10〜13万円



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