商品開発の秘訣 / 試食を提供しながら根気強く定番化に務める - ブランスリー電子版

2026年10月21日に公表されたPHPの脆弱性(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)については、いずれも対策を完了しています。

ブランスリーアーカイブ(創刊号からの全記事)
記事の閲覧
<<戻る写真をクリックすると拡大写真が見られます。
特集/2012年11月号

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。


商品開発の秘訣

試食を提供しながら根気強く定番化に務める
パンとケーキの店「デイジイ」の本店
デイジイでは、焼き菓子だけでなく、生ケーキも50種類以上揃える。ケーキが並ぶショーケースの奥には、同店で購入したパンや菓子が食べられるイートインスペースがある
パンは160種類以上が所狭しと店内に並ぶ
デイジイの倉田博和社長と、9月にドイツから来日したマイスターのヤセミンさん(右)とアントニアさん(左)
パンと菓子の垣根をなくした商品開発
 埼玉県川口市を中心に7店舗あるパンとケーキの店「デイジイ」。川口市弥平の本店は160種類以上のバラエティー豊かなパンが客を出迎え、毎日600人ほどの来店客がある人気店。客単価は平均約1200円と高い位置で維持している。
 その繁盛の鍵を握るのは、パンだけでなく、50種類以上の生ケーキと約30種類の焼き菓子の存在だ。
 倉田博和社長は同店の強みについて「パンだけでなく、生ケーキなどの菓子も作っていることだ」と話す。生ケーキや焼き菓子などは、売上げ維持に効果的な新商品や季節商品の展開、フェアの開催などに力を発揮するという。ハロウィンなど、季節のイベントに合わせた商品展開がしやすいからだ。例えば、ハロウィンなら、かぼちゃをかたどったクッキーなど、一目見てハロウィンを実感できるような、わかりやすく、かつオーソドックスで受け入れやすい商品を売り出していける。
 同店のスタッフはパンも菓子も両方作る。パン製造、菓子製造、販売の各部門をローテーションを組んで順番に担当している。
 「パンと菓子の垣根は作らないようにしています。パン作りだけでなく、生ケーキのデコレーションだってできる職人になってもらいたいですね。洋菓子も作ることができれば、使える材料の種類も増えるし、アイデアの幅が広がりますからね」(倉田社長)
 同店には、数々のコンテストで、農林水産大臣賞などを受賞したことのある「クロワッサンB・C・」(180円)という商品がある。約20年前の発売以来、売れ続けている同店の看板商品だ。クロワッサン生地でアーモンドケーキを包み、そぼろ状のクッキーをトッピングしたもので、商品名の「B・C・」はバタークッキー、バターケーキ、バタークロワッサンを意味する。まさにパンとケーキを融合させた商品であり、「パンと菓子の垣根を作らない」という同店だからこそ、生み出せたといえる。
 今でこそ常連客で知らない人はいないほどの「クロワッサンB・C・」だが、約20年前は新製品として店頭に並んだ。
同店では通常、新商品を発売する際は、売り場で最も目立つ場所に陳列し、試食を提供する。常連客に新商品を見てもらい、どんな味かを知ってもらうためだ。
 しかし、「クロワッサンB・C・」は試食の必要はないくらい最初から好調な滑り出しを見せた。
 「『クロワッサンB・C・』は賞をもらったり、マスメディアに取り上げてもらったりして、話題になったので、発売当初からよく売れていました。でもこれは特殊事例です。新商品は、開発も販売も慎重に行っていかなければいけないと思っています」(倉田社長)

新商品は「お客様に食べてもらいたい味」
 新商品は、毎月決まって出しているわけではないという。「基本的には、ほかのベーカリーや講習会などで『これをお客様にも食べてもらいたい』と思ったものしか作りませんからね。そうすると、定期的に出していくというより、おいしいものと出合ったら、それを自分の店のお客様の舌に合う形に作りかえていくという流れになります」(倉田社長)
 製パンの国際コンテスト「ibaCup」の日本代表選手の応援者でもある倉田社長は、同コンテストが開催された9月にドイツへ行った。そこでも「お客様にも食べてもらいたい」という製品と出合った。その製品とは、同店で毎年クリスマス時期に販売している定番のシュトーレンとは違い、イーストを使用せず、チョコレートでコーティングする甘めのシュトーレンだ。それをもとに同店の客の舌に合うよう開発し、「定番のシュトーレンとは別の菓子としての位置付けで販売できたら」と考えている。
 また、9月から12月初旬までの予定で、ドイツからマイスターの女性2人が同店の厨房で腕を振るっている。店頭にはそのマイスターたちが作った「シュプリッツキプフェル」(140円)などの焼き菓子が並んでいる。「本場のマイスターが作る焼き菓子を食べてもらいたい」という思いからだ。
そして11月と12月には「マイスターが作る菓子」をテーマにしたフェアを予定している。クリスマスをさらに盛り上げる効果がありそうだ。
 「夏に無理して売っていこうとするよりは、売れる時期、すなわちお客様がパンを食べたいと思ってくれる時期に頑張った方がいいと思っています。パンをおいしいと思う時期に、おいしいパンをたくさん食べて、喜んでもらいたいですね」



来日中のドイツのマイスターが作る「シュプリッツキプフェル」(140円)などの焼き菓子が並ぶ
入店して最初に目に入る位置の平台には季節商品、新商品、看板商品の「クロワッサンB・C・」が並ぶ
リバイバルした「きりあん」(250円)
新商品は、慎重に製造販売する
 取材した9月下旬、季節商品として並んでいたのは「マンゴーヨーグルト」(130円)、「ミックスベリーデニッシュ」(130円)、「白桃ヨーグルト」(130円)で、入店して最初に目に入る位置の平台にあった。これら季節商品の右隣には「金胡麻ゴボウサラダのおやき風パン」(180円)、「もちもち匠の焼きカレーパン」(150円)が新商品として並び、左隣には看板商品の「クロワッサンB・C・」が置かれていた。来店する人が必ず目にする場所に、季節商品と新商品、そして看板商品が集結されている。
 「新商品はある程度の数を作れないと、出しても意味がないと思っています。せっかく時間と労力をかけて考案しても、すぐに売り切れてしまっては、どんな商品か知ってもらうこともできないですからね。例え手間のかかるものでも、客数の3分の1くらいには最低でも用意できるように、製造体制を整えておく必要があります。レシピも、それだけ作れるものでなければなりません」(倉田社長)
 4月から売り出しているという「ソ
フトブレッツェル」(180円)は、横に試食が用意されていた。同店の中ではまだ新製品の位置付けだ。試食は、長くて半年ほど、短くても3カ月は続けていく。お客様に食べてもらおうと慎重に開発し、おいしさに自信を持っている商品だからこそ、根気強く売り込み、定番化に務める。ドイツのブレッツェルよりもソフトな食感で食べやすいと人気のソフトブレッツェルは、一般にその認知度が急速に高まったのは、都内を中心に専門店ができはじめた2年ほど前のことだ。「時流には、乗るのはいいけれど、流されてはいけないと思っています」(倉田社長)
 ソフトブレッツェルを取り入れた理由は、ブームと知ったからではなく、ほかのベーカリーで食べて、自分の客にも食べてもらいたい、と思ったからだ。
 「新商品がヒットしたとしても、特に甘いものは飽きが早くきます。そうすると、またそれに代わる新商品を作っていかなければなりません。新商品開発は慎重にやらなければ、短命な流行の商品を連発しなければならないという悪循環に陥ってしまいます。まず、売り上げの基本となる定番商品をしっかり作っていき、季節商品や新商品はそのプラスアルファーとして位置付けておかないといけないですね」(倉田社長)
 新商品については「奇をてらわないことも重要だ」という倉田社長は、昔ながらの製品のリバイバルに着目している。現在同店では、たまごぱんや切りあん、シベリアなどを今風にアレンジして新商品として販売し、好評を得ている。ブームに単純に乗ることなく、常連客の舌を知り尽くし、何が求められているかを考えた上で、新商品を開発しているのだ。

デイジイ
住所:埼玉県川口市弥平2‐9‐170
電話:048‐227‐6060
営業時間:午前8時〜午後8時
定休日:火曜日
品揃え:パン160品目、菓子80品目
スタッフ:製造と販売25人(レジは3台)
店舗面積:売り場50坪、厨房50坪、セントラル工場50坪
日商:平日70〜80万円、土日祝120万円



商品名やPOPなどを考えることが勉強になる
「ブーランジュリー オーヴェルニュ」のスタッフ。後列左から2番目が井上克哉オーナーシェフ
扉を開けて正面にある平台が新製品コーナー。毎月新商品が約10品目並ぶ
窯、仕込み、麺台、リバースと各パートに分かれて分業体制をとることで、毎月新商品を無理なく作っていけるという
取材日に初めて店頭に並んだ「十勝ゆめぶらんど食パン」(273円)」を窯出しするスタッフ
独立したときに「自分のパン」が作れるように
 東京・葛飾区のベーカリー「ブーランジュリー オーヴェルニュ」では、新商品を毎月10品ほど開発し、販売している。取材した9月下旬、きのこのソテーを具にしたおやき風のパン「きのこづくし」(178円)や、酒種生地で紫いもあんとかぼちゃを巻き込んだ「黒ゴマの紫いもロール」(189円)など秋の味覚を盛り込んだパンが新商品として並んでいた。
 新商品開発のテーマを常に「季節」としているので、新商品が季節商品を兼ねていることになる。
 10人のスタッフは5人1組に分かれ、各組が交代で開発する。1人1品が必須なので5品集まる。さらに同店オーナーシェフの井上克哉さんが、スタッフらの開発した5つの製品の味や原価、手間のかかり具合などとのバランスを考えて、さらに3〜5品開発して、追加するので、毎月8〜10品ほどの新商品が店頭に並ぶこととなる。
「講習会や他店で見たり食べたりしたものをヒントにして開発しているスタッフが多いですね。講習会で学んできても、どのくらい手間やコストがかかるかということは、実際作って店頭に出してみなければ実感できません。商品名やPOPの決定、原価の計算などを、1つ1つ考えていくことが各自の勉強になっていきます。こうして、『自分のパン』を作っていかないと、将来自分の店を持ったとき、自分らしさが出せず、ほかの店と変り映えしない店になってしまいます」(井上さん)
同店のスタッフは独立開業志望者が多く、9月には5年ほど勤務していたスタッフが開業を果たした。開業して9年となる同店から4人目の独立開業者となる。
井上さんは、開業前から自分で作った製品のレシピを書き留めている。
開業後は主にパソコンでデータ保存しており、新商品開発の際に見返すこともあるという。スタッフにも、レシピや写真を保存しておくことを勧めている。



入り口の手前に設置した黒板で、新商品やフェアについて告知している
写真右から2番目の「イタリアンレモンパイ」(210円)は、8月に出した新商品で、好評のため続けて販売
約4年前に新商品として発売し、ずっと販売を続けている「ふわふわパンプキン」(199円)。デニッシュ生地でかぼちゃのクリームを包んだ商品
冬に新商品として発売してから売れ続けている「ザクザクコロネ」(189円)。スタッフが講習会のレシピをもとに考案
陳列棚の上段に並ぶ食パンは同店の売れ筋で約10品目ほど揃う
重視するのは店のイメージアップ
 新商品開発において重要視していることは、季節をテーマにすることにのほかに、同店らしさがある商品を作り出すことだという。他店の人気商品やちまたの流行を意識しすぎて、同店らしさを見失ってしまわないように、注意しているという。
 「やはり売れるものでなければいけないですが、最も重視しているのは、店のイメージをよくしていける商品であるということです。当店としては、丁寧さを感じるような、また、どうやって作ったのか立ち止まって考えてしまうような商品を揃えていきたいと思っています。売れることだけを追求していくと、次第にそこから外れていって当店らしさが薄れることになりかねません」(井上さん)
 また、スタッフらは「今月は手のこんだ商品を作ったので、来月は売れる商品を作ろう」という風に、その時々の売り上げ状況を考慮して開発に取り組んでいるという。
 同店の仕込み生地は約20種類あり、新商品開発は、この20種類の生地を使うことを基本としている。
「いろいろ新商品を作っても、お客様には生地主体で味わってもらいたいですから」(井上さん)
現在の品目数は約160。これだけ多くの種類を維持しながら毎月新製品を販売できている秘訣について井上さんは、「窯、仕込み、リバース、麺台と各パートに1〜2人ずつ置いて分業体制をとっているからだと思います。1人が何でもやるよりも、分業体制の方が仕事を整理して取り組めるので、ある程度の変化に
も応じていけるようです」と話す。
毎月の新商品およそ10品は、売り場の最も目立つ位置にまとめて陳列していて、常連客にとっては毎月の楽しみになっている。一方、初来店の客に対しては、同店との初対面の印象を与える役割を果たしている。
 売れ行きの良かった新製品は、翌月も販売を続行。従来品と入れ替えるようにして種類を増やしすぎないように調節する。店全体のラインナップをこうして少しずつ進化させていく。

国産小麦使用の食パンを開発
 取材時、初めて店頭に出す新商品として北海道産小麦を100%使用した「十勝ゆめぶらんど食パン」(273円)が焼き上がった。このほか食パンの新製品は、米粉を使用した「米粉食パン」(294円)を今春から売り出した。
 「米粉や国産小麦を使った商品に関しては、お客様からずっと要望がありました。どちらも別仕込みになってしまうので手間がかかりますが、『米粉食パン』は早速ファンがついてきてくれています。『十勝ゆめぶらんど食パン』に関しては、今後様子を見ながら数を調整して出していきたいと思っています」
 今回「十勝ゆめぶらんど食パン」を別仕込みで開発したことについて井上さんは、「食パンは当店の主力商品で10種類以上揃えていますが、そのほとんどに卵や乳製品を使用しているので、今回はそれらを使わないで作りました」と話す。「国産小麦使用」のリクエストに応えるだけに留まらず、「乳製品と卵不使用」の付加価値を付け、さらに幅広い層を取り込める商品に仕上げたのだ。仕込み生地自体の開発は、より一層慎重に行われている。
 約20種類の仕込み生地のおいしさが安定しているからこそ、それらを使った毎月の約10品目の新商品は、常連客に毎月の楽しみとして歓迎されているのだろう。

ブーランジュリー オーヴェルニュ
住所:東京都葛飾区立石6‐5‐7
電話:03‐3691‐5102
営業時間:午前7時〜午後7時30分
定休日:なし
品揃え:160品目以上
スタッフ:製造と販売10人
店舗面積:売り場4・5坪、厨房16・5坪、折り込み室7坪
月商:850万円

原価計算女王
原価計算女王

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。

今月の公開記事

  1. POLINの高性能オーブンを日本市場へ 。450℃の焼成力と緻密なヒーター制御 - スズキ産業の下河拓磨社長
  2. 見やすい売り場と旬の味で、地域が誇れるベーカリーへ - アリマベーカリー
  3. 「ちいかわ」の世界観を表現したパンと店づくり - ちいかわベーカリー
  4. 掲載から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文を公開しています。
    ブランスリーアーカイブ
ブラ立ち読み
(記事の無料メール配信)
詳細はこちら