駅からの帰路に佇む心安らぐベーカリー - いのいちベーカリー - ブランスリー電子版

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お店拝見/2012年10月号

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駅からの帰路に佇む心安らぐベーカリー - いのいちベーカリー
ユニークなオレンジの看板が特徴の外観。「かわいい」と好評
右から神田恵一郎店長、妻の神田仁美さん、販売スタッフ。皆、雰囲気がとても優しく、明るい笑顔で出迎えてくれる。
注文を受けると厨房からパンをとって来て包装し、客に渡す
 京王井の頭線・三鷹台駅を降り、徒歩1分足らずの「いのいちベーカリー」に向かい、店が近づいてくると、焼き上がったパンの香りが迎えてくれる。まん丸なオレンジ色の看板が目を引く小柄な店舗。その温かな色味の木の引き戸を開けて入店すると「いらっしゃいませ!」と販売スタッフの優しい声と明るい笑顔の出迎え。一仕事終えた帰り道に心惹かれる店だ。
 「いのいちベーカリー」は、2011年5月開業の約7坪のベーカリー。販売スペースは2坪。店内に入れる客は1人か2人。ショーケースに並ぶ商品を客が選び、販売スタッフに注文する対面販売のシステムだ。ショーケースの対面の壁側に設置された棚に並んでいるのは、主力商品の食パン。買物は基本的に客がスタッフと会話をしながら行う。客と販売スタッフの距離も近く、会話が弾むことも多いという。
 店長はドンクで9年間の修業を積み、30歳で独立を果たした神田恵一郎氏。製造やメニュー開発を主に店長が担当し、同じドンク出身の妻の仁美さんが販売の中心を担っている。「地域に必要とされる、毎日買いに来てもらえるベーカリーを目指しています。駅からの帰り道に寄って下さる方が多く、立ち寄りやすい店にできたと思います」と神田店長。



職人夫婦の「気付き」が適切なサービスを生む
人気商品の食パン(半斤130円、1斤260円)
雨のため店内に掲示された焼き上がりのお知らせ。雨が上がるとすぐ店の前に掲示される。足元のワンちゃんも表に出て「ペットのつなぎ場所」を案内する
子供のために置かれたおもちゃ。インテリアとしても内装と調和
 店を伸ばすためのメニュー開発と改良には余念がないという。
 「元々、パンづくりの面白さを感じたのは、簡単には思うように仕上がらない点でした。新メニューの開発も、既存メニューに工夫を重ねるのも好きです。気が付いたことがあれば、どんどん改良しています。また、お客様に毎日食べてもらいたいと思うから、毎日食べ続けてみたときの味や気分も自分で試していますよ。一度おいしいと思っても、何度か食べていると印象が変わることがありますから」(神田店長)
 開業から一年が過ぎ、順調にリピーターが増えている。現在、週1回以上の頻度で来てくれるリピーターが30人程度いるという。対面販売でのコミュニケーションも好評だ。「小さい売場なので、お客様とのコミュニケーションを大事にしています。僕は製造主体ですが、販売もします。スタッフ全員販売ができる体制は続けていきたいですね」と店長。また販売担当の仁美さんは「リピーターさんとは、スタッフと親しくなることでよりお店にも親しみを持って頂けるようです」と語る。
 顧客を観察することで得られる情報を、店舗、製品、サービスのあらゆる面に生かしている。
 「お客様のことを来店一回目で覚えることが目標です。顔や、聞いたお話、どんなパンをお買い上げになったかなどを覚えるようにしています。次にいらしたときに、反応を見ながら覚えていることを示してみると、喜んで下さる方が多いですね」と仁美さん。こういったコミュニケーション能力と観察による「気付き」から生み出されたアイデアは、店内に散りばめられている。
 そのひとつが、ショーケースの対面の壁側に設置された、食パンが並ぶ棚の最下段を利用したおもちゃ置き場だ。「子供の待ち時間が長くなりやすいお店なので、子供が楽しめるお絵かきやおもちゃを選びました。パンに触らないようにする工夫でもあります」と仁美さん。また、このおもちゃの造形が、店内のポップなデザインを彩るインテリアとしても見栄えする点も特徴だ。見渡せば、店内の配色や小物までもが、とても洒落ていることに気付く。
 「実は雑貨が好きなんです」と仁美さん。店内のポップや内装コーディネートも仁美さんによるもの。店舗のデザインや配色も「明るくて斬新なイメージにしたかった」という店長と仁美さんのアイデアだ。神田店長の商品開発力と、仁美さんの販売技能が見事な二人三脚を果たしている。
 また、製品開発では、神田店長のこだわりが見られる。「新しいパンを試すのが好きです。研究が楽しくて仕方ないんです」と日頃から研究熱心な店長。「製品へのお客様の意見はもちろん大切にしています。しかし、アイデアが浮かぶときは自分の中から出ることが多いですね」。その姿勢には、表面的な顧客の言葉ではなく、言葉の奥の潜在的なニーズを探ろうとする職人気質が感じられた。



栄養士の知識を生かし食材に細やかな工夫を
「気まぐれ野菜パン」(160円)。小さく刻んだ野菜とベーコンが生地に練りこまれ、もっちりとした食感
ショーケースの様子。7番が「ずんだあんぱん」(140円)。外国人や小さい文字が読めないお年寄りのために、ケースの製品には番号札を導入
繁忙期は店外に列ができる。窓から様子を確認し、スタッフ同士で作業を分担し回転を早める。販売の手際の良さは小規模店の要だ
手作りのPOPの色味と高低差を出したレイアウトでメリハリを効かせ、限られたスペースを生かし切る。カゴや敷物の「抜け感」も空間を感じさせる要素に
 製品構成の比率は食パン4割、食事パン3割、菓子パン3割。主力は狙い通り食パンと食事パンだ。午前中の間に次々と製品を焼き上げ、その後は焼き上がり時間を表の看板に掲示し、客にアピールしている。
 人気を集めているのは、デイリーユースの「食パン」(半斤130円、1斤260円)。神田店長が栄養士としての知識を生かし、食材を研究して開発した品だ。大豆が日本人に馴染みのある点から選んだ豆乳や、塩角が立たずミネラル豊富な沖縄のシママースという塩を材料としており、噛むほどに甘みの広がるしっとり柔らかな食パンとなっている。10枚切りから3枚切りまで、スライスのバリエーションも豊
か。ニーズへの細かな対応はここにも見られる。
 食事パンでは、店長のセレクトで定期的に違う野菜を練りこんだ「気まぐれ野菜パン」(160円)と、スパイシーな香りが食欲をそそりビールに合うと好評の「ピリ辛チョリソ」(120円)。菓子パンは、季節物の「ずんだあんぱん」(140円)が人気を博している。また、フランスパンにバター、ドライブルーベリー、ひまわりの種を練り込んだ「ブルーベリーパン」(180円)が一日約25個売れる開店以来の人気商品。
 今後の展望について神田店長は「今、アルバイト2人の5人体制なので、スタッフ1人ひとりの存在感が大きいです。急な欠勤が出たとき、品質を落とさずにいつも通り営業するための、よりよい工夫を考えています。今は体力があるので私の無理が利きますが、将来的にいいペースをつくっていきたい」と話す。目下の目標は、夏に低下する売上を、冬場のレベルに持っていくこと。「空き時間ができれば、メニュー開発にももっと力が入れられますし。工夫を重ねて、達成していきたいですね」と神田店長は語った。

SHOP DATA
店名:いのいちベーカリー
週所:東京都三鷹市井の頭1−30−22青山店舗1階
電話:0422−24−7197
営業時間:午前11時〜午後6時頃
定休日:日曜日、月曜日、祝日
品揃え:約45品目
店舗面積:厨房5坪、売場2坪
スタッフ:製造2人、販売3人
日商:平日7万円、土曜10万円





原価計算女王
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