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| 特集/2012年8月号 |
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| リテールベーカリー繁盛例(小規模ベーカリー) 「自分のペース」に客を巻き込む | ||||||||||||||||
東京・世田谷区の京王線千歳烏山駅から線路沿いに7分ほど歩いた先にある「ブレッダルワン」は、 店主の山岸充さんが1人で製造するベーカリー。 午前11時20分、開店40分前にして店前にはすでに並ぶ人の姿がある。そして12時、シャッターが上がってようやく開店したかと思えば、その2時間後にはもうシャッターが下りている。午後2時から5時までは一時閉店だ。そのあと5時から再開し、7時頃閉店する。同店の営業時間は昼と夕に2時間ずつの2部制で、1日合計4時間という狭き門だ。 「いつ行っても閉まっている」 客からこう言われたのは開店した最初の頃で、半年も経つとこのようなことを言う人はほとんどいなくなったという。4月で開業丸8年。これまでを振り返りながら、 「お客様には自分のわがままを許していただいているという思いで営業しています」と山岸さんは語る。 開店の40分前に店前に着いた客は読書を始めた。待つことを覚悟の上で来ているのだと思わせる、常連客の姿だ。 その常連客らの多くが目当てとする品は、「角食パン」(300円)と「イギリス食パン」(300円)。「角食パン」は11時、「イギリス食パン」は12時半に焼き上がるのみで、それぞれ本数も決まっている。「角食パン」は2斤棒が9本、「イギリス食パン」は2斤棒が8本。このほか、菓子パンなど合計20品目ほど揃うが、どの製品も9〜12個ずつと少量だ。これらは1枚の天板にのりきる数で、それぞれ1度しか焼かないからだ。 「余力はないが、自分のペースです」(山岸さん) 山岸さんは開店時刻を正午に設定。午前3時または4時に厨房に入り、その日のパンの仕込みを始める。こうした日々が8年間続いている。 「作業性が上がってもその分新しい仕事を加えてしまうのでいつも余裕はない状態です」(山岸さん) 山岸さんは人より仕事のペースや考えるペースが遅いと自己分析し、「他の人の4分の1歩ずつ、少しずつやっていきたいんです」と話す。店舗面積6・5坪の小規模で開業したのも、「自分のペースが守れるから」との理由から。 店の営業中、厨房の中の山岸さんを見ると、次々と途切れなく作業を進めていた。山岸さんにとっての自分のペースとは、余力のない状態まで常に自分を追い込むことを言うようだ。 完全な分業体制で自分のペースを活かす 山岸さんは最初、1人で販売もやろうと考えていた。開業して間もない頃、並べたパンが一気に売れた。売るものがなくなったので店を一旦閉め、仕込みに入った。こうして「製造、販売、仕込みと順よくこなせれば、1人で営業できるかもしれない」と思うこともあった。 「都合良く、短時間で一気に売れるなんていうことは毎日続くとは限りません。仕込みをしながらお客様に応対するのは、実際やってみると自分には無理なことだと思いました」 そうして開業後すぐに、製造は山岸さん、販売はアルバイトという2人体制が確立した。 取材日の昼、販売を担当していたのは今年6年目のベテラン、今野さん。今野さんは昼のみ週2日の出勤なので、ほかにも3人ほど が入れ替わり出勤するが、そのほとんどが長年続けているベテランだ。スタッフがベテランだからこそ、山岸さんはパン作りに専念できる。今野さんが厨房に入ることは一切なく、山岸さんもレジの後ろにある棚にパンを並べるとき以外は厨房から出ない。製造と販売は完全な分業体制だ。 今野さんが「いらっしゃいませ、こんにちは」と言うと、山岸さんの「いらっしゃいませ」という声が厨房から聞こえてくる。今野さんが「ありがとうございました」と言えば、山岸さんもそれに続く。 完全な分業体制をとる2人だが、客を歓迎する姿勢は共有されている。2人での声出しは店内に一体感をもたらしていた。 昼担当の今野さんが出社するのは開店30分前の11時半。厨房をさっと通り抜けて売り場に入ると、1人しか入れないレジ横スペースにすっぽりと収まって作業開始。山岸さんが平台に置いて用意しておいたプライスカードを見て、こ の日のラインナップを確認。プライスカードを設置したら、ラックから焼きあがった製品を取り出して、該当するプライスカードの横に陳列していく。淡々とこなしていく動きには無駄がなく、まさにベテランがなせる技だ。山岸さんに改めて確認するようなこともなくスムーズに作業を終え、12時の開店を迎えた。 人気の「角食パン」と「イギリス食パン」が売り切れた後も、客足が絶えることはない。店内の定員はスペース上3人ほどなので、常にガラス越しに入店を待つ人の姿が見える。今野さんは、客との会話を、注文を受けてから会計を済ますまでの間にうまく収めていた。今野さんは、同店でアルバイトをする前、インストアベーカリーで販売をしていた。 「スーパーでは、とにかくたくさん量を出していかないといけないので、並べるだけで精一杯でした。今は、1品目あたり9〜12品と決まっていますので、製品1つひとつに愛着を持つことができます。熱を冷ましてから袋詰めをしなければ味が落ちてしまうことも、ここに入ってから知ったことですし、お客様においしく食べてもらいたいという気持ちが強くなりました」 量が決まっているとは言え、2時間という短い時間内に売り切る という使命がある。 あんぱんは「直焼きあんぱん」(150円)、「クルミとマカダミアのあんぱん」(160円)、「フランス風あんぱん」(150円)の3種類あり、どのあんぱんにしようか迷っている客には、食感の違いだけを伝え、中身のあんには触れなかった。中身については、「見ただけで何が入っているのかわかるように書いた」(山岸さん)プライスカードが十分に伝えているからだ。 午後2時から5時までの間一度店を閉める時、販売員は入れ替わる。昼担当の今野さんは、昼の開店準備と販売、一時閉店の際の片付けを行う。すべて4時間以内に収まる。 「ほかの人に合わせる必要がなく、1人きりで集中して作業ができるので、だらだらすることがありません」(今野さん) 山岸さんと同様に、今野さんも「自分のペース」を活かして業務に取り組めている。 店の環境も材料のひとつ 山岸さんは大手チェーンベーカリーのポンパドウルで18年間勤務した後に同店を開業した。 「入社当時、開業は30歳を目標にしていましたが、それはとんでもない話で、実際はその10年後となりました。結果として、それで良かったと思っています。店を開 いた後は、インプットができずアウトプットをしていくのみで、ネタが尽きてきたら、それでもひねり出すようにして考えていかないといけません。会社にいる間に、悔いのないように勉強しておくべきだと思います」 看板商品の「角食パン」と「イギリス食パン」の製法は、ポンパドウルとベースは同じ。 「いろいろな製法を試すことはできますが、自分が実際、店をやっていけるほど、モノにできている製法というのは限られているんですよね」 18年間の勤務で身につけた製法を、粉の配合や発酵時間などを自分なりにアレンジした。 「同じレシピでも店によって違う味になるのは、作り手が誰であるか以外に、その店の立地などの環境が影響しているからだと思います。目指す味を追求するのが理想ですが、その環境を材料のひとつにして味を作り出していってもいいと思っています。こうして個性ができていくのだと思います」 SHOP DATA 住所:東京都世田谷区給田3‐5‐2 電話:03‐3308‐6599 営業時間:午前12時〜午後2時、午後5時〜7時 定休日:月・木曜日、月1回不定休 品揃え:約20品目 スタッフ:製造1人、販売1人 店舗面積:厨房5坪、売り場1・5坪 年商:1800万円 | ||||||||||||||||


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