リテールベーカリー繁盛例(大型ベーカリー) / 多くの人材と広いスペースを活かして活況を維持 - ブランスリー電子版

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特集/2012年8月号

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リテールベーカリー繁盛例(大型ベーカリー)

多くの人材と広いスペースを活かして活況を維持
千葉県内にベーカリーを5店舗経営する横手和彦社長
活気に満ちた店内。従業員の元気の良さや商品の豊富さだけでなく、多くの客も、店を盛り上げる要素のひとつ。集客が常に課題となっている
次々と焼きたての商品が上がってくる
客がすでにトレイにのせていた品と、作りたての品を交換するサービスは、「お客様が喜ぶ店づくり」のためにスタッフが考えたものだ
空きスペースを利用した地元野菜の即売会場
店内入ってすぐの場所にある石窯。客の期待感を高める
一番の課題は集客をどうするか

 千葉県船橋市のベーカリー「ピーターパン石窯パン工房店」は、50台収容可能な駐車場を備える大型店。横手和彦社長は、同店を含め県内で5店舗を経営している。インストアが1店舗、敷地面積100坪の中型店が1店舗、500坪の敷地面積の大型店が3店舗だ。
 横手社長に大型店の強みを問うと、「人、そして広い場所ですね」と即答した。
 現在同店の従業員は50人以上。店に一歩入ると「いらっしゃいませ」の一声だけでなく、「カレーパン焼きたてです」「ご試食いかがですか」などといった声が、複数の従業員らから、重なるようにして聞こえてくる。
 「おいしいパンがあることはもちろんですが、店に来ること自体が楽しみだと思ってもらえるような店にしたいんです。臨場感とか、密着した感じがあることが大事だと思っています。そのためには、従業員に元気があることと、商品が種類、品数ともに豊富であることが必要です。そして、お客様もたくさん来てくれないと、楽しい雰囲気の店にはなりません」
 1日あたりの来客数は、平日で
も800〜900人、土日となれば1500人ほどにもなり、常に活況な店として地元に根付いている。しかし、集客が今も昔も変わらぬ課題だと横手社長は言う。
 「石窯パン工房店を開業したときから、大型店こそ集客に力を入れなくてはならないと思ってきました。売り場が広くて、そこにお客様がまばらだったら、逆に入りずらい店になってしまいますから」
 取材日は、パンを1000円以上購入した客に、エコバックをプレゼントするというイベントを開催。入り口横にテントを張り、1000円分のレシートと、エコバックを引き換えるための特設会場が設置されていた。また、その横にも同様にテントを張って、地元で採れた野菜や果物などの即売会が行われていた。まさに、「人、そして広い場所」を強みとして活用することによって、集客に務める。
 「エコバッグのイベントは1日だけですが、フェアは常に開催している状態にしています。これからは『スパイシー』『北海道』『夏休み』『収穫祭』のテーマで順番に1カ月単位で開催していく予定です。各テーマにあったパンを開発して販売していきます」

客の喜ぶサービスを実践できる規模の店へ
 横手社長は2001年に本店である石窯パン工房店を開業する前、売り場7坪、厨房15坪の小型店のオーナーシェフを務めていた。
 「あれもやりたい、これもやりたいと、次から次へとお客さんにやってあげたいサービスが思い浮かぶのですが、スタッフの人数が少ないと、思うだけで実行に至らないんですね」
 横手社長夫妻、20代の若手社員、パートが2人ほどの4〜5人の体制では、通常の営業が精一杯で、イベントの開催などまで手が回らなかったという。また、パン作りの講習会などにもなかなか参加できなかった。「いいとわかっていることができない」という状態だった。
 若手社員が育ってくると、横手社長はその社員の将来設計を考えて、「店長という役を譲らなければならず、そのためには自分が店を出ていかなければいけない」と思ったという。そして横手社長が店長を務める店として新たに2店舗目を開業。同じようにして3店舗目を開業させたとき、「人を育てることの面白さに目覚めた」という。こうして従業員の育成に務め、小型のベーカリー3店のほか、宅配ピザ店5店の合計8店の経営者となった。8店舗とも軌道に乗っていた。
 「人も育ち、収入も増えましたが、物足りなさを感じ始めました。そんなとき、お客様と会話ができるのが一番楽しいことなんだと再確認できたんです。お客様も、スタッフと話すのを楽しみに買いに来てくれます」
 会話をすることは従業員にとっても、モチベーションが維持できるなどのメリットがある。「『おいしい』と直接言われるのは嬉しいことです」(横手社長)
 客の満足と、従業員のモチベーションの維持という点から、横手社長は中規模のベーカリーの開業を考えた。宅配ピザ店は手放し、「客と直接やりとりができる」(横手社長)ベーカリーに絞った。
 「10坪の売り場と20坪の厨房、スタッフは20人くらいいる中規模の店なら、これまで思いつくだけで終わっていたサービスが実行できると思いました。商品は、種類が豊富で季節感のある彩りの良さがあって、店内は人の温かみがあり、豊かさや楽しい雰囲気に包まれているような、そういう店をつくっていきたいと思いました」
 本店の石窯パン工房店を開業する前の1999年、中型店として、小麦工房店を開業した。売り場12坪、厨房21坪の規模で、日商60万円を売り上げる人気店となった。「ただパンを買いに店に行く」のではなく、「楽しい店にパンを買いに行きたい」と思える店づくりがブレイクしたのだ。
「いつも考えていることは『お客様がもっと喜ぶことはないの?』
ということです。石窯やテラス席の設置なども、この考えからです」
 客が喜ぶサービスの実践の積み重ねが、小麦工房店を開業した2年後の2001年、大型店としての石窯パン工房店のオープンを導いた。客の喜ぶサービスの増大と、店舗の規模の拡大が比例していった結果だといえるだろう。
「自分がオーナーシェフを務めていた1店舗目の店では、余裕がありませんでした。こんなサービスをしたらお客さんは喜ぶだろうということがわかっていても、見て見ぬ振りをするしかなかったんですね」
今夏はテラス席に、涼を感じてもらうため、ヘチマのつるを利用した「緑のカーテン」や、ヨシズを取り付けようかと思案している。「客がもっと喜ぶことはないの?」という問いかけが源泉となって、次々とアイデアが沸いてくる。

モチベーションの維持と分業制
石窯パン工房店の魅力の主要素となっている従業員の元気の良さ。横手社長はこれを毎日の朝礼で維持している。
「従業員同士、互いにいいところを見付けてそれを発表するということを行っています。お客様と関わることだけでなく、例えば、番重を取ってくれたとか、内々のことでもいいんです。助け合い、元気付け合うことが自然にできる社風にしています。人から認められるということが、成功体験となり、自信に繋がります。人間はバイオリズムがありますから、調子の良いときも悪いときもあります。そんななか、モチベーションを維持していくためには、やはり仲間が必要なんです。自分1人だけでは、モチベーションが落ちたらなかなか復活できません。チームでやるから、こうして褒め合ったり、互いにエネルギーを与え合って、ちょっとしんどいと思う仕事でもできてしまうんです」
また、横手社長はスタッフとの面談を重視している。各従業員に、それぞれに合った担当部署に付かせるためだ。
 「例えば私は、パンを作るより、スタッフの育成や店づくりをすることの方が向いています。楽しいと思えるからです。スタッフも同じです。それぞれの得意分野で仕事を分業できるのも、大型店の強みだと思います」
客は、話すことが好きな従業員と会話を楽しめ、製造を得意とする従業員が作ったパンを味わえる。大型店は、各サービスにおいて高い満足度を客に提供できるのかも知れない。

Shop Data
住所:千葉県船橋市海神3‐24‐14
電話:047‐410‐1021
営業時間:午前7時〜午後8時
定休日:木曜日
品揃え:100品目
スタッフ:製造20人、サンドイッチなどの調理10人、販売20人
店舗面積:厨房46坪、売り場22坪



リテールベーカリー繁盛例(小規模ベーカリー)

「自分のペース」に客を巻き込む
紺色のひさしがトレードマークのブレッダル ワン
パンの陳列は、レジの後ろにある棚だけが山岸さんの担当
定員3人ほどの小さな売り場の外には、常に入店を待つ人の列がある
厨房と売り場の間に焼き上がったパンをのせるラックが置かれている。店主の山岸さんがラックの後ろから笑顔で客に対応
開店前のパンが出揃った状態。平台、平台下のショーケース、奥の棚に約20品目がぎっしりと並ぶ
「自分のペース」がつくり出した店
 東京・世田谷区の京王線千歳烏山駅から線路沿いに7分ほど歩いた先にある「ブレッダルワン」は、
店主の山岸充さんが1人で製造するベーカリー。
 午前11時20分、開店40分前にして店前にはすでに並ぶ人の姿がある。そして12時、シャッターが上がってようやく開店したかと思えば、その2時間後にはもうシャッターが下りている。午後2時から5時までは一時閉店だ。そのあと5時から再開し、7時頃閉店する。同店の営業時間は昼と夕に2時間ずつの2部制で、1日合計4時間という狭き門だ。
「いつ行っても閉まっている」
客からこう言われたのは開店した最初の頃で、半年も経つとこのようなことを言う人はほとんどいなくなったという。4月で開業丸8年。これまでを振り返りながら、 「お客様には自分のわがままを許していただいているという思いで営業しています」と山岸さんは語る。
開店の40分前に店前に着いた客は読書を始めた。待つことを覚悟の上で来ているのだと思わせる、常連客の姿だ。
その常連客らの多くが目当てとする品は、「角食パン」(300円)と「イギリス食パン」(300円)。「角食パン」は11時、「イギリス食パン」は12時半に焼き上がるのみで、それぞれ本数も決まっている。「角食パン」は2斤棒が9本、「イギリス食パン」は2斤棒が8本。このほか、菓子パンなど合計20品目ほど揃うが、どの製品も9〜12個ずつと少量だ。これらは1枚の天板にのりきる数で、それぞれ1度しか焼かないからだ。
 「余力はないが、自分のペースです」(山岸さん)
 山岸さんは開店時刻を正午に設定。午前3時または4時に厨房に入り、その日のパンの仕込みを始める。こうした日々が8年間続いている。
 「作業性が上がってもその分新しい仕事を加えてしまうのでいつも余裕はない状態です」(山岸さん)
 山岸さんは人より仕事のペースや考えるペースが遅いと自己分析し、「他の人の4分の1歩ずつ、少しずつやっていきたいんです」と話す。店舗面積6・5坪の小規模で開業したのも、「自分のペースが守れるから」との理由から。
 店の営業中、厨房の中の山岸さんを見ると、次々と途切れなく作業を進めていた。山岸さんにとっての自分のペースとは、余力のない状態まで常に自分を追い込むことを言うようだ。

完全な分業体制で自分のペースを活かす
 山岸さんは最初、1人で販売もやろうと考えていた。開業して間もない頃、並べたパンが一気に売れた。売るものがなくなったので店を一旦閉め、仕込みに入った。こうして「製造、販売、仕込みと順よくこなせれば、1人で営業できるかもしれない」と思うこともあった。
 「都合良く、短時間で一気に売れるなんていうことは毎日続くとは限りません。仕込みをしながらお客様に応対するのは、実際やってみると自分には無理なことだと思いました」
 そうして開業後すぐに、製造は山岸さん、販売はアルバイトという2人体制が確立した。
 取材日の昼、販売を担当していたのは今年6年目のベテラン、今野さん。今野さんは昼のみ週2日の出勤なので、ほかにも3人ほど
が入れ替わり出勤するが、そのほとんどが長年続けているベテランだ。スタッフがベテランだからこそ、山岸さんはパン作りに専念できる。今野さんが厨房に入ることは一切なく、山岸さんもレジの後ろにある棚にパンを並べるとき以外は厨房から出ない。製造と販売は完全な分業体制だ。
 今野さんが「いらっしゃいませ、こんにちは」と言うと、山岸さんの「いらっしゃいませ」という声が厨房から聞こえてくる。今野さんが「ありがとうございました」と言えば、山岸さんもそれに続く。
完全な分業体制をとる2人だが、客を歓迎する姿勢は共有されている。2人での声出しは店内に一体感をもたらしていた。
 昼担当の今野さんが出社するのは開店30分前の11時半。厨房をさっと通り抜けて売り場に入ると、1人しか入れないレジ横スペースにすっぽりと収まって作業開始。山岸さんが平台に置いて用意しておいたプライスカードを見て、こ
の日のラインナップを確認。プライスカードを設置したら、ラックから焼きあがった製品を取り出して、該当するプライスカードの横に陳列していく。淡々とこなしていく動きには無駄がなく、まさにベテランがなせる技だ。山岸さんに改めて確認するようなこともなくスムーズに作業を終え、12時の開店を迎えた。
人気の「角食パン」と「イギリス食パン」が売り切れた後も、客足が絶えることはない。店内の定員はスペース上3人ほどなので、常にガラス越しに入店を待つ人の姿が見える。今野さんは、客との会話を、注文を受けてから会計を済ますまでの間にうまく収めていた。今野さんは、同店でアルバイトをする前、インストアベーカリーで販売をしていた。
 「スーパーでは、とにかくたくさん量を出していかないといけないので、並べるだけで精一杯でした。今は、1品目あたり9〜12品と決まっていますので、製品1つひとつに愛着を持つことができます。熱を冷ましてから袋詰めをしなければ味が落ちてしまうことも、ここに入ってから知ったことですし、お客様においしく食べてもらいたいという気持ちが強くなりました」
 量が決まっているとは言え、2時間という短い時間内に売り切る
という使命がある。
 あんぱんは「直焼きあんぱん」(150円)、「クルミとマカダミアのあんぱん」(160円)、「フランス風あんぱん」(150円)の3種類あり、どのあんぱんにしようか迷っている客には、食感の違いだけを伝え、中身のあんには触れなかった。中身については、「見ただけで何が入っているのかわかるように書いた」(山岸さん)プライスカードが十分に伝えているからだ。
 午後2時から5時までの間一度店を閉める時、販売員は入れ替わる。昼担当の今野さんは、昼の開店準備と販売、一時閉店の際の片付けを行う。すべて4時間以内に収まる。
 「ほかの人に合わせる必要がなく、1人きりで集中して作業ができるので、だらだらすることがありません」(今野さん)
 山岸さんと同様に、今野さんも「自分のペース」を活かして業務に取り組めている。 

店の環境も材料のひとつ
 山岸さんは大手チェーンベーカリーのポンパドウルで18年間勤務した後に同店を開業した。
「入社当時、開業は30歳を目標にしていましたが、それはとんでもない話で、実際はその10年後となりました。結果として、それで良かったと思っています。店を開
いた後は、インプットができずアウトプットをしていくのみで、ネタが尽きてきたら、それでもひねり出すようにして考えていかないといけません。会社にいる間に、悔いのないように勉強しておくべきだと思います」
看板商品の「角食パン」と「イギリス食パン」の製法は、ポンパドウルとベースは同じ。
「いろいろな製法を試すことはできますが、自分が実際、店をやっていけるほど、モノにできている製法というのは限られているんですよね」
18年間の勤務で身につけた製法を、粉の配合や発酵時間などを自分なりにアレンジした。
「同じレシピでも店によって違う味になるのは、作り手が誰であるか以外に、その店の立地などの環境が影響しているからだと思います。目指す味を追求するのが理想ですが、その環境を材料のひとつにして味を作り出していってもいいと思っています。こうして個性ができていくのだと思います」

SHOP DATA
住所:東京都世田谷区給田3‐5‐2
電話:03‐3308‐6599
営業時間:午前12時〜午後2時、午後5時〜7時
定休日:月・木曜日、月1回不定休
品揃え:約20品目
スタッフ:製造1人、販売1人
店舗面積:厨房5坪、売り場1・5坪
年商:1800万円





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