プロ意識の強い完璧な製品づくりと販売-ラトリエ ドゥ プレジール - ブランスリー電子版

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お店拝見/2012年6月号

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プロ意識の強い完璧な製品づくりと販売-ラトリエ ドゥ プレジール
オーナーシェフの田中祐治さん。ほとんどの製品の生地は、吸水が100%前後と高い。手ではなく、スケッパーやヘラで生地を扱う
食用バラの生花、ドライイチゴ、フランボワーズ、オレンジピールが入った「スペシャルローズ」(1グラム4円)
バジルの香りが豊かで、クラムはふんわりとしている「バジリック ユイール ドリーヴ」(1グラム2・5円)
販売担当の宮田敦子さんは材料や製法について熟知している。製品の食感や味の特徴を伝えるために、使用材料だけでなく、製法にも触れて説明してくれる
 「今日、おすすめがあるのでちょっと説明聴いてください」という厨房からの声に続いて、「昨日お買い上げくださったものよりも、こちらは少し酸味と甘味が強く感じられると思います」と販売担当者の声。
 こうした来店客への声掛けがされているのは、東京・世田谷区にあるベーカリー「ラトリエ ドゥ プレジール」だ。
 「厨房をラボのようなもの」と捉える田中祐治オーナーシェフは、「毎日同じものは作りません」と言う。定番商品ですら、客には分からない部分で変えている。おいしさを追求するため試行錯誤を重ねているのだ。「守るべきルセットはありません」とも言う。
 プライスカードの商品名に「本日のおすすめパン」や「日替わりバゲット」などと書かれたものもある。取材日の「日替わりバゲット」(450円)は甘味が強めのバゲット。見た目だけなら、昨日のものとほぼ変わっていない。ここでいう「日替わり」とは、姿形の違う別の商品ということではなく、甘味や酸味、うまみといった味わいの違いを指しているのだ。これを説明をするとなると、使う酵母や粉、製法などに関してまで自然と会話が流れる。
 そのため、販売担当の宮田敦子さんは、田中オーナーシェフと製造スタッフの久米直美さんの2人の作り手と同等と言っていい程、同店の製法について熟知している。
 田中オーナーシェフは取材中「プロとして」という言葉を繰り返した。同店のスタッフは現在、田中オーナーシェフ含め3人。窯担当は久米さん、そのほかの製造は田中オーナーシェフ、販売は宮田さんと、担当がはっきりと決まっている。これまでいろいろと人を入れてきたが、「今は代わりの人がいない状態」(田中オーナーシェフ)となった。
 「工程のたった一つでも間違えたらリペアがきかないので、完璧でないと困るんです。そのため最小人数で製造しています。いつも捨て身の覚悟で作っています」。田中オーナーシェフは1日のほとんどの時間を厨房で過ごす。布団に入る時間がないときもしばしばだ。
 同店の立地は田中オーナーシェフが4年半前、「パン好きが多いところに開業したい」という思いから選んだ。常連客の大半は、商品の食感や味わいだけでなく、製法に関わるまでの細かな説明にも興味深げに聴き入る。
 また、常連客の中には、ワインやチーズを買った帰りに同店に寄って、「これと合うパンをください」と買い求める人もいる。
 その一方で、淡々としたやりとりをする人もいる。
 「スィトゥロン」(180円)を購入した常連の男性客は、「もっちりしたパンですがよろしいですか」という宮田さんの会計前の一言にただうなずき、会計を済ませた。



マニアックな製法
1日に並ぶ30品目の製品はそれぞれ、そのためだけに仕込んだ生地から作られる。そのため、仕込み生地数も30だ
 田中オーナーシェフは自分のパン作りについて「マニアック」と表現する。同店が作る30品目のパンは自家培養した30種類の「自家培養自然酵母種」を用いて作り出す。自家培養自然酵母種は、毎日使う分だけ作り使い切るのが大半。フルーツ種、ビール種、ヨーグルト種の3つの液種と、小麦粉、小麦全粒粉、ライ麦粉、ルヴァンリキッド、ルヴァンデュール、ルヴァンムーなどを合わせて起こし、それぞれ異なる温度に設定された7箇所の保存庫に入れて管理する。
 さらに使う粉にも相当のこだわりがあり、有機小麦や、「カムット」「スペルト」「エンマー」といった古代小麦を自家製粉している。
 こうした田中オーナーシェフのマニアックなパン作りは業界の中でも注目されている。同店の客は、一般客以外にパン職人やパン教室の講師なども多い。
 最近は台湾などアジア人のグループが視察に来ることもある。こうした業界関係者は製法について、徹底的に訊ねてくるという。そのようなとき、田中オーナーシェフは30種類の自家培養自然酵母種のことなどについて解説し、厨房の中まで案内することもある。「開業当初、毎週土曜日は見学希望者に対して厨房を公開する日としていました。『自家培養自然酵母種だけでなぜこんなに膨らむの?』と疑問を持つ職人さんが多かったんです」
 田中オーナーシェフは今でこそ、100%自家培養自然酵母種でパンを作っているが、以前は「100%自家培養自然酵母種ではパンはおいしくならない。パン酵母と併用して使う必要がある」との考えを持っていた。自家培養自然酵母種の扱いは、「全否定の見地からの出発だった」と当時を振り返る。
 「自家培養自然酵母種とパン酵母、どちらを使うのかに関しては全くこだわりはなかったのですが、自家培養自然酵母種をパン酵母と合わせるとおいしくなることはわかっていました。でも、自家培養自然酵母種に関してはあいまいな部分があまりにも多かったと思います。パンは毎日食べます。それに使うのだから、成分データをとり、安全性を裏づけることが必要です」
 同店の顧客は、大病を煩っている人も多いという。自家培養自然酵母種の力を発揮させて作ったパンは、乳酸菌など、体調を整える効果のある成分が市販のパン酵母で作るパンより多く含まれているようだ。「パンには食べる人の命がかかっています」と、田中オーナーシェフは言う。



ラボでは味の深みを追求する
「ラボのような厨房」の作業台には、日々の研究の蓄積とも言える資料の山があった
 「ふくらますのは簡単だけど、味に深みを出すのは難しい」
 田中オーナーシェフは、「ラボのような厨房」で、味だけを追求してきたという。
 「甘さの中にある酸味や、酸味が引き立てるフルーツのコクのある甘さといったような、深い味を出すために、材料と製法をいろいろと試しています」。自家培養自然酵母種に関しては、1つの製品につき3〜5種類組み合わせて配合する必要があることが分かった。食べ比べれば、味の違いは歴然なのだという。
 「自家培養自然酵母種を1種類だけ使った場合は、味に深みが出ないんです。味噌汁で例えれば、味噌をだしを取ったお湯の中に入れるのと、ただのお湯に溶かすのとの違いと一緒です」



一見華やかさのないパン
ラトリエ ドゥ プレジールの外観。厨房の様子まで外から見える
 店内は、白を基調としたすっきりとした印象。そこに並ぶパンは、成形はいろいろだが、フルーツや惣菜などがのった鮮やかな見た目のものはない。一見ハード系しか置いていないようにも見える。
 それでも来店客は、新しい発見をしたかのような輝きに満ちた表情をしている。見た目に華やかさはなくても、味、食感、風味が、個性的な製品であることを知っているからだ。
 これらのパンをスライスすると、ハーブやフルーツが練りこまれた表情豊かなクラムが顔を出す。ほとんどが計り売りの商品なので、スライスされた状態で陳列されているものもある。スライスされる度に、陳列棚は華やかさを増していく。
 「バジリック ユイール ドリーヴ」(1グラム2・5円)は、クラムは、みずみずしくふんわりとしており、バジルの香りが豊か。「スペシャルローズ」(1グラム4円)は、食用バラの生花、ドライイチゴ、フランボワーズ、オレンジピールを練りこみ、食用バラの生花から起こした自家培養自然酵母種を配合した、香り高い製品だ。
 様々な練りこみ材料だけでなく、自家製粉している粉自体の風味も豊か。同店のパンは、素材の持っている味や香りが、これほどまでに強いものだったのかと気付かせてくれる。

SHOP DATA
店名 ラトリエ ドゥ プレジール
住所 東京都世田谷区砧8‐13‐8ジベ成城1F
電話 03‐3416‐3341
営業時間 午前12時〜午後7時 
定休日 月・木曜日
品目数 30品目
店舗面積 売り場5坪 厨房9坪
スタッフ 製造2人、販売1人



原価計算女王
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