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特集/2012年5月号

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■特集■効果的な試食の提供方法




試食販売に着実な手応え‐ピーターパン小麦の郷
製造担当の中村尚道さん
ピーターパン小麦の郷は、敷地面積1200坪。ほとんどの客が車で来店する
 千葉県内に5店舗を展開する郊外型ベーカリー「ピーターパン」(横手和彦社長)の鎌ヶ谷市にある「ピーターパン小麦の郷」は、平日でも100万円以上を売り上げる人気店だ。
 「夕方にも、満員電車並みに混雑する昼時に負けない『集客の波』を作りたい」(製造担当の中村尚道さん)と考え、様々な取り組みを始めた。その中で、試食販売に着実な手ごたえを感じているという。  



定番商品を試食に出す
取材日は「あんぱんの日」にちなんで、定番商品の「道野辺あんぱん」(136円)をピーアール。試食提供にも力を注いだ。
焼きたての熱いうちにすべて食べてもらえるよう、1回に出す量は少量に抑える
「アーモンドのチュイール」(500円)、「シナモン風味のココアクッキー」(400円)など、焼き菓子は15種類ほど揃う
 「よかったらお一ついかがですか。今焼き上がったばかりなんですよ」
 中村さんが、客一人ひとりに声をかけながら差し出しているのは、一口大にカットされた「道野辺あんぱん」(136円)の試食。中身のあんがとろっと顔を出し、焼きたての熱い状態でカットされたのが伝わってくる。陳列棚上では見ることのない「道野辺あんぱん」の姿だ。
 試食を差し出された客は、「まあ、焼きたてなのね」と、焼きたての「道野辺あんぱん」を目の前に、まだ口にする前から喜びの表情を見せる。
 この日は、日本で初めてあんパンが発売されたとされる日で、そのことにちなみ、「あんぱんの日」として同店の定番商品の「道野辺あんぱん」をピーアール。試食のほか、入り口横には中身のあんが見えるように、真ん中でカットされた「道野辺あんぱん」の展示もあった。
 しかし、「あんぱんの日」のこの日だけでなく、「道野辺あんぱん」の試食はかなり頻繁に行っているという。
 「当店が押していきたい、そしてお客様にぜひ買っていただきたいと思う商品こそ、試食を出すようにしています。おいしい商品の最もおいしい状態を知っていただきたいからです」(中村さん)
 「道野辺あんぱん」は、中に粒あんが「重量が生地の倍量以上、和菓子のような比率でたっぷり入っている」(中村さん)のが特徴。粒あんは1番人気の「自家製カレーパン」(136円)のカレーフィリングと同様、同店の自家製だ。同店は「焼きたて、揚げたて、作り立て」を重視しているが、手間暇かけて作った自家製フィリングも同店の自慢のひとつだ。そのあんがたっぷり入った「道野辺あんぱん」の味を知ってもらうことは、同店のファンを作る最善策と言えるのだ。
 「自家製カレーパン」の試食を出すこともよくあるという。1番人気とあって、顧客にその味は知られているはずだが、「おいしい商品の最もおいしい状態」を知ってもらうために試食を出すのだ。そして、カレーパンの購入頻度が低い顧客にも、その最もおいしい状態を知ってもらい、カレーパンの新たなファンを増やしていくのだ。
 「定番の人気商品がさらに売れるようになれば、製造数を増やせます。製造数が多くなれば生産性が上がりますし、たくさん作ることで新人を含め、スタッフ全体の技術力向上が図れます」



焼きたてのおいしい状態で試食を提供
レジに並ぶ客一人ひとりに試食をすすめる中村さん。焼きたてのパンを目の前に、客の表情もうれしそう
片手に試食のパンを入れたかごを持ち、もう片方の手に、商品をのせたトレイを持って、商品を紹介しながら試食をすすめる
「しあわせのショコラパン」(525円)の試食用のパンは売れずにロスとなったものを利用。電子レンジで温めて出している
「しあわせのショコラパン」は、温めて食べるとおいしいことを伝える紙を配布している
「野沢菜おやき」(130円)は、焼きたての試食を提供して、自宅に持ち帰って食べる際も、温めて食べれば、同じ焼きたての味が楽しめることをアピールしている
 試食は1日に少なくても15回は行っている。15回というのは、1日あたりに出勤するスタッフの人数と同じだ。
 「製造も販売も担当の部門に関係なくスタッフ全員が1日に1回、休憩に入る前に試食を提供するために売り場に出ます。1日の勤務の休憩時間の前に試食を出すことが習慣付いていると思います」
 交代でとる休憩とセットにすることで、店頭ではコンスタントに試食提供が行われることになる。また、手が空いたときや製造担当の人が売り場の様子を見に行くときにも試食を出す。
 「試食を出すのと、アイテムごとの売れ行きなど、売り場の情報を仕入れるのを同時にすれば効率的ですから」
 試食に出す商品はスタッフが各自自由に決めることになっているが、だいたいがそのときに焼きたてで用意できる商品だ。
 「おいしい状態の味を知ってもらい、購入していただくのが目的なので、できるだけ焼きたてを配ります。試食用にカットする量は、1人で配りきれるよう、少なくしています」
 店内にいる客に配り切れる量で、「道野辺あんぱん」なら、2個分を一口大にカットし、小さなかごに入れる。焼きたての熱が冷める頃には、かごの中身はなくなっている。
 試食のすすめ方はこうだ。片手に試食のパンを入れたかごを持ち、もう一方の手には商品がのったトレイを持って、客一人ひとりに声をかけながら、試食用のパンが入ったかごを差し出す。そして「今食べたパンはこのパンですよ」と、商品がのったトレイを目の前に示す。まさに「歩く陳列棚」だ。



夕方以降の試食を重視

1日の最初の試食提供は午前8時半頃。その後もコンスタントに試食が出されるが、中でも重視しているのは夕方以降。
 「当店は、夕方以降も焼きたてをお出ししています。他店との差別化を考えたときに、これだと思ったんです。夕方以降に焼きたての試食を出すことで、このことが伝えていけると思いました」
 夕方の試食提供を続けることで、同店の魅力の一つである「いつ行っても焼きたてがある店」というイメージを浸透させることができるのだ。
 「その商品を例え買ってもらえなかったとしても、『焼きたてがおいしかった』という感動がお客様に残ります。その感動が残像となり、再来店へと導いてくれればと思っています。焼きたてを食べたときのお客様のリアクションからは、その感動があからさまに伝わってきます」
 中村さん自身、焼きたてのパンの味を知ったのは同社入社後で、そのおいしさにびっくりしたという。中村さんにとって試食販売は、焼きたてのパンの魅力を伝える手段になっている。
 横手和彦社長は、中村さんのことを「試食販売を頑張っている社員」として高く評価している。

ShopData
店名ピーターパン 小麦の郷
住所千葉県鎌ヶ谷市東道野辺3‐5‐14
電話047‐441‐5901
営業時間午前7時〜午後8時
定休日木曜日
品目数80〜100品目
店舗面積厨房48坪、売り場26坪、倉庫24坪
スタッフ常時約20人
日商平日100万円、土曜日175万円、日曜日200万円

目でも味わう余裕のある試食‐神田明神下御臺所町 三井製パン舗
試食は木製のプレートの上に5種類のパンと、オリーブオイルが添えられて提供される。写真左から「バタール」「全粒50」「とまとぱん」「ライ麦60ミンスフルーツ」「カンパーニュ」。「カンパーニュ」はオーガニックレーズンで起こした自家製有機小麦酵母、そのほかはドイツ製の「有機穀物で作った天然酵母」を使用。5種類とも生地に砂糖は使用しておらず、自家製粉した粉のうまみ、甘味が引き立っている
混んでいないときは、試食がじっくり味わいながらできる。客から材料や製法などについての質問も多く、奥で製造しているオーナーシェフの三井宏生さんも売り場に出て、話がはずむ
オーガニックの玄麦を仕入れ、
オーストリア製の石臼で自家製粉する
 東京・千代田区の三井製パン舗の試食はまるで、前菜の1皿のようだ。5種類のスライスされたパンと高級オリーブオイルの入ったガラスの小皿が、木製のプレートの上に並べられて差し出される。
 同店は古くからある民家に囲まれているが、少し歩けば秋葉原電気街や神田明神などの観光名所があり、オフィス街も近い。そのため、昼や夕方は、こうした場所から来店する客が集中し、混み合う。同店では、こうしたピーク時と、それ以外の時間とで試食提供の仕方を変えている。
 「少し時間にゆとりのあるときにプレートにのせてお出しします」(販売担当者)
 ランチタイムなど混み合うときは、初来店の客や興味を持った客だけに提供する。その際の提供の仕方も丁寧で、一口大より大きめにカットしたパンを、薄紙で挟むように包んで手渡す。
 同店のオーナーシェフ、三井宏生さんは、商社勤務からパン職人に転身。商社勤務の時代に「食生活の大事さを、身を持って知った」と言う。野菜や果物から酵母を育て、その酵母を使った料理を作るという料理教室に通ったことを機に、酵母を使ったパン作りに興味を抱いた。都内の有名ベーカリーで3年間働いて昨年7月、同店を開業した。
 「小麦が有機であることや、石臼で自家製粉した粉を使っていることなどは、訊かれれば答えますが、特にこちらから言わなくてもいいと思っています。それを全面に打ち出すと、お客様に対して敷居を高くしてしまうと思います」
 同店のパンに使用する材料は「なるべくオーガニックを選ぶよう心がけている」と言う。「おいしいものを追求し、お客様になるべくいいものを食べてもらいたい」という気持ちでパン作りに励んだ結果、そうなった。試食で出される5種類のパンも、オーガニックの材料で作ったパンだ。
 オーガニックのパンと言えば、気になるのは価格。看板商品の食パン「全粒50」は1斤800円。「神臺(じんだい)あんぱん」は350円。価格を見ただけでは初来店の客は高いと感じるだろう。
 「1斤800円のパンを見たお客様の思いはそれぞれだと思います。多くの情報はときに邪魔になることもありますので、ただ、『どうぞ』と言って試食をおすすめします」
 試食に出すパンは「全粒50」(800円)、「バタール」(480円)、「とまとぱん」(800円)、「カンパーニュ」(1000円)、「ライ麦60ミンスフルーツ」(420円)の5種類。「ライ麦60ミンスフルーツ」はそれぞれオーガニックの、レーズン、オレンジピール、イチジクを、有機米の焼酎に漬け込んだものを練りこんだ製品。また、食パンの「甘食」(270円)も必ず試食提供する。
木製のプレートにのせる方法は、スタッフ全員で話し合って決めた。
 5種類がワンプレート上に一切れずつ並べられているので、それぞれを目で見て比較することができる。説明を聞かずとも、客自らが、クラムの大小や粉の種類など、それぞれのパンの違いを判断できるのだ。
 昼の混雑するときの提供の仕方も同じような効果がある。裸のまま渡されるのと違って、紙に包まれた状態で手にすれば、一度よく見てみようとする余裕ができる。
 試食用のパンの切り方は、例えば、食パンの「全粒50」なら、スライスしたものをさらに縦に3分の1程度にカット。上の部分と下の部分とで食感や風味が違うので、その違いを味わえるようにしている。カンパーニュも上下の両方の部分を残すようにカットし、バゲットは輪切りにする。このように、味や形など商品の全体像が把握できるような切り方をしている。

原価計算女王
原価計算女王
ジャムやオリーブオイルなども添えて
オリーブオイルとジャムはパンのショーケースの横に並べて販売している
10席のイートインスペースでは、パンとドリンクが楽しめる
菓子パン、調理パンはショーケース内に、ハード系はショーケースの上に陳列
木目を基調とした優しい雰囲気の佇まい。大きなガラス窓から店内の様子がよく見える。ベンチは年配客の休憩用に重宝されている
 一緒に添えて出すオリーブオイルは、「フォカッチャ」(450円)にも使っているスペイン産のオーガニックエクストラヴァージンオリーブ油。苦味がほとんどなく、飲用にも好まれるほどすっきりとした味わいが特長だ。試食用のパンは一口大よりも大きいので、最初は何も付けずそのまま、2口目にオイルを付けて食べることができるようになっている。
 「ライ麦60フルーツミンス」の試食には、ジャムをトッピング。ジャムと先述のオリーブオイルは販売も行っており、ジャムはメーカーで5種類製造されている中から、同店のパンに合う「ブラックカランツ」「アプリコット」「ストロベリー」の3種類を選んだ。
 「ブラックカランツより、ブルーベリーの方が一般的ですが、当店のパンと合わせた場合、ブルーベリーの主張が勝ってしまうんです。ブラックカランツは、野性味溢れる味わいがして、当店のほとんどのパンとよく合います」
 このように仕入れ販売の食品は、同店のパンとの相性を重要視して厳選する。
 オリーブオイルは500グラムで2980円と高価だが、試食で気に入り、「今使っているものがなくなったら買いに来ます」と言う客が多く再来店に繋がるという。仕入れ販売商品に関してもパン作りと同様、「お客様においしくてかつ、なるべく身体にいいものを食べてもらいたい」という思いで取り扱いを始めた。
 「年配の方も多くいらっしゃいますので、パンに何か付けるなら、バターより消化器系に負担がかからない植物性のオリーブオイルをおすすめしています」
 店名を日本語にし、店舗に木をふんだんに使って和風の印象に統一したのは、「どんな層の人にも入りやすく、間口の広い店にしたい」という思いから。その思いは「全粒50」の配合にも表れている。50とは、全粒粉の配合が50%ということだ。
 「普段白いパンを好む方にも小麦本来の香りとうまみを味わっていただきたくて、普通の食パン同様の食べやすいやわらかさに仕上げています。離乳食の始まった幼児からご年配の方まで幅広い層の方々に喜んでいただきたいと思っています」
 「全粒50」は、初来店の客に試食を提供する際に、必ず出す商品。試食品を、食べやすさを重視して選ぶことは店の間口を広げることに繋がる。そして試食は、高価格なものほど、価格に見合った価値を伝えるために、その重要性が増してくる。

ShopData
店名神田明神下御臺所町 三井製パン舗(三井製パン)
住所東京都千代田区外神田2‐8‐2
電話03‐6206‐8565
営業時間午前7時半〜午後6時45分
定休日日曜日、第1、第3月曜日
品目数40〜50品目
店舗面積厨房15坪、売り場・カフェ10坪
スタッフ製造3人、販売2〜3人


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