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ここにもパンの現場/2012年2月号

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飛躍的に広がった冷凍パン生地市場。新機軸を打ち出せるかが今後のカギ

2010年度の冷凍生地の市場規模は1410億円(矢野経済研究所調べ)。かつて省力・省コストで注目された冷凍生地市場も、ここ数年はほぼ横ばいの状況が続いている。焼きたてパンの普及に大きく貢献した冷凍生地は、今後、どういう展開を見せるのか。



バブル経済崩壊後も高成長した異例の市場

 いまやパン業界において、冷凍生地は欠かせない存在だ。この冷凍生地を用いれば、短時間に、かつ比較的容易にパンが焼けるため、作業を短縮しつつ「焼きたてパン」を店頭に並べることができる。とりわけ、チェーンベーカリーやインストアベーカリーといった、作業スペース的にも人件費的にも限られた店舗で焼きたてパンを販売するベーカリーでは、なくてはならないものなのである。
 こうした冷凍生地を用いた製法のことをベイクオフという。ちなみに、現場で仕込みから焼き上げまでを行う製法はスクラッチ。
 かつては、「やはり焼きたてパンはスクラッチでなければ」とこだわりを持つパン通も多かったが、いまではそんな声はあまり聞かれなくなった。冷凍に強いイースト菌の開発や技術の向上などにより、味や食感などもスクラッチに勝るとも劣らないベイクオフのパンが数多く登場。
 おそらく一般消費者は両者の違いを意識することはないだろう。ベイクオフ専門のベーカリーも珍しいものではなくなった。
 比較的手軽に焼きたてパンが製造できる冷凍生地が注目を集めたのは、1980年代半ばのことだ。旧食糧庁の調査によれば、冷凍生地の生産量は86年から96年まで、10%以上の伸びで増え続けた。その後は一桁台に落ち着いたものの、バブル経済の崩壊で国内の景気が低迷する中、拡大基調を続け、数少ない高成長市場のひとつに数えられていたのである。
 その背景には、焼きたてパンのニーズの多様化があった。かつて焼きたてパンといえば、街のいわゆるリテールベーカリーで買うものと相場が決まっ
ていたが、消費者のフレッシュ志向の高まりから、スーパー、コンビニエンスストア、コーヒーショップ、ファミリーレストラン、あるいはショッピングモールや、駅ビル内のインストアベーカリーなど、焼きたてパンの販売チャンネルが飛躍的な広がりを見せたのだ。



微減傾向が続く近年の冷凍生地市場
「食パン」とは、普通食パンのほかコッペパン、レーズンパンなど。「菓子パン」とは、アンパン、デニッシュなど糖類配合10%以上のパン。「その他パン」とはフランスパン、欧風堅焼きパン、ロールパン、クロワッサン、調理パンなど
社団法人食品需給研究センター調べ
 しかし近年、冷凍生地市場にも陰りが見えてきた。
 2つの折れ線グラフ(表1、表2)をご覧いただきたい。折れ線の「食パン」とは普通食パンのほかコッペパン、レーズンパンなど、「菓子パン」とはアンパン、デニッシュなど糖類配合10%以上のパン、「その他パン」とはフランスパン、欧風堅焼きパン、ロールパン、クロワッサン、調理パンなどを指す。
 表1の「年度別冷凍生地生産動向」を見ればわかる通り、平成19年(2007年)以降、若干の起伏はあるものの3分野とも冷凍生地の生産動向はおおむね微減傾向にある。かつて、バブル経済崩壊後の景気低迷下でも成長を続けていた冷凍生地市場は、その後10年足らずで早くも成熟期に達したと見ることができる。
 要因を端的に言えば、パン市場全体の伸び悩みである。矢野経済研究所の調査によると、2009年度のパン市場規模は1兆3825億円で、前年比101%。2010年度予測では100・7%にとどまる見込みだ。市場規模的にはごく僅かながら成長と言えなくもないが、原材料高騰の製品価格への反映分を考慮すると、実質的にはよくて現状維持、もしかするとマイナスかもしれない。
 いずれにせよ、パン市場全体が低迷している以上、冷凍生地の市場も伸び悩んで当然だ。
 「とりわけ、冷凍生地を多く取り扱うチェーンベーカリーやインストアベーカリーの店舗が減少傾向にあるので、いきおい冷凍生地市場もそれにともなってジリ貧の状態だった」と、ある業界関係者は話す。
 実際、一時期もてはやされた「焼きたてパン」も、いまや市場的には飽和状態にある。
 パンの中でも近年人気を高めているのは、「ランチパック」(山崎製パン)などに代表されるいわゆるミニシリーズのパンだ。一つひとつが小さいこうしたパンは、「持ち運びやすい」「好きなときに少しだけ食べられる」といった利便性や手軽さが受けて、売上を伸ばしている。
 「個々の製品を見れば伸びているも
のもあれば、落ちているものもあり、パン市場全体は依然として低迷している。当然だが、そんな中で冷凍生地市場だけが高成長するのはむずかしい」(前出・業界関係者)



なんとか下げ止まりも新たな機軸が必要

 一方で、「急激な市場縮小には歯止めがかかり、下げ止まりしつつある」という見方も間違いではないだろう。
 上掲のグラフを細かく見ると、全体としては微減傾向ながら、個別分野ではわずかに上昇している年もある。これはヒットパン商品の出現や、ホームベーカリーブームなどの流行によるものかも知れない。
 これらは、市場全体を回復させるほどの原動力は持たなかったが、冷凍生地の可能性を示すものとしてとらえることができるのではないだろうか。
 今度は、表2の「月別冷凍生地生産動向」をご覧いただきたい。グラフは平成22年1月から翌23年3月までの生産動向を示したものだが、3月になると生産量が急激に増加しているのがひと目でわかる。もちろん、原料である小麦の収穫時期なども関係してくるのだろうが、春には新製品が多数販売されることも大きな要因のひとつであろう。
 とりわけ伸び率が高い「菓子パン」は、新生活を向かえた消費者向けに各パンメーカーやベーカリーがこぞって新作を店頭に送り出す。消費者も新たなパンを求めて購買意欲を高めるのがこの時期なのだ。
 こうした「パン祭り」が継続しないのが悩みではあるが、要するに、新たなる挑戦が必要だということだ。もっともこれは、冷凍生地市場に限ったことではなく成熟した市場では当たり前の話なのだが。
 矢野経済研究所は「冷凍生地市場は、当面横ばいから微増で推移する」と予測している。
 よく解釈すれば、幸い、大幅な縮小はいまのところ見込まれないというわけだ。
 ならば、いまのうちに新たなる挑戦に踏み出すべきであろう。前出・業界関係者はこう語る。
 「現実問題、今後ベーカリーが出店数を続々と増やしていくことは考えにくい。市場を拡大させるには、大ヒットするようなパン製品を生み出すよう努力すると同時に、これまでになかったようなベイクオフの新たな販売チャンネルを開拓していく必要があるのではないか」
 新たな販売チャンネルとはどういうものか。
 たとえば、一部のファミリーレストランでは数年前から焼きたてパンのバイキングサービスを実施して人気を博しているところもある。パンという食品自体はいまや日本人にも欠かせないものだ。
 パンはパン屋で買うもの、という既成概念を取っ払い、時間、場所を限定せずに人が集まる場所――たとえば、居酒屋・娯楽施設・公園・劇場など――での販売も視野に入れた展開が求められるだろう。むろん、こうした施策は冷凍生地業界だけではなくパン業界全体が一体となって取り組まなければならない。
 省力・簡便が冷凍生地の最大の「持ち味」のはず。小回りは利くはずだ。(K)



原価計算女王
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