「パン+α」のすすめ - ブランスリー電子版

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特集/2012年2月号

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「パン+α」のすすめ

 ベーカリーで、パン以外の商品を製造販売し、看板商品になっているケースは少なくない。神奈川県藤沢市のベーカリー「プルクワ」では、本格的ナポリピッツァを製造販売し、人気を博している。一方、神奈川県横浜市の「ベッカライ徳多朗」では、自家製のソフトクリームを製造販売、店の顔のひとつになりつつあるという。人気となっている「ベーカリーのパン以外の商品」に共通することは、パン作りに対するのと同じぐらいの、作り手の深い思いがあるということだ。



本格的なナポリピッツァを提供 ‐ プルクワ 神奈川県藤沢市
定番の「マルゲリータ」を作る神田淳オーナーシェフ。ピッツァの種類は約12種類
ピッツァは約12種類あるが、昼時は約4種類が店頭に並ぶ。中でも「マルゲリータ」と写真の「ゴルゴンゾーラモッツァレラ」(210円)は常に出ている人気商品
ナポリピッツァ専用の石窯で焼き上げる。元々は、コンパクトタイプの石窯だが、周りを装飾して、店の外から見ても目立つようにした
石窯の中は600度Cの高温。約2分で焼き上がる。途中直火にかざしながら回転させて万遍なく火が通るようにする
イートインスペースがあるので、温めなおしのサービスもしている。その際はデッキオーブンを使用する
店の中と外にイートインスペースがある
作り始めてから5分で提供。パンが品薄のときに便利
 「作るよと言ってから5分で提供できるのがピッツァです」と話すのは、神奈川県藤沢市のベーカリー「プルクワ」の神田淳オーナーシェフ。
 ピザ生地は、一晩冷蔵発酵させ、当日の朝分割、丸めをする。丸めておいた生地を伸ばして成形し、具をトッピングして焼き上げるまでに必要な時間は、およそ5分。そのために成形がしやすいよう、常に数枚分の生地は常温に出して控えておく。少量多品種生産と焼きたてにこだわる神田シェフは、厨房から客の入り具合を常に把握している。
 店内がどっと込み出せば「ピッツァがあと5分で焼き上がります」と声を出す。「パンのようにホイロをとる必要がないので、急な対応ができるんです」
 ピッツァを出すメインの時間帯は昼間だが、夕方パンが足りなくなったときにも、急きょ出すことが可能だ。そのためにも、ピッツァ生地は毎日多めに用意している。
 同店のピッツァ生地は、フランスパン用粉、塩、少量のイースト、ルヴァンリキッドなどが材料で、シンプルな配合。仕込み後、2日間冷蔵貯蔵できるが、余っても様々なパン生地に練りこむことができるので、ロスの心配はない。また、同じ生地から、「カルツォーネ」(210円)や「パニールカリー」(230円)も作る。 
 直径28センチの製品を6分の1にカットして210円で販売。ホールは1260円で、週末にはホームパーティー用などの需要が多い。昨年のクリスマスには約25枚の予約が入った。

ナポリピッツアを食べて目覚める
 「丸いピッツァを焼きたい」。約10年前、イタリアンレストランでナポリピッツァを食べた神田シェフはこう思った。
 それまで提供していたピッツァはフランスパン生地で作った四角い形。生地は厚めで食感はソフトな「パンピザ」タイプだった。
 ナポリピッツァを再現するには高温で焼くことがポイントとなる。当時使っていた4段あるオーブンの、1番下段を限界の300度Cまで上げて、ピッツァ専用にした。具をのせた生地を丸型の焼き網にのせてオーブンに入れて焼き上げた。ピザソースも、トマトから煮込む自家製ソースに切り替えた。こうして、形が丸くなっただけでなく、味自体がナポリピッツァに近付いていった。「その変化と同時にピッツァの売れ行きがよくなりました」
 都内のオフィス街から、6年前に現在の地に移転した。移転を機に、ナポリピッツァ専用の石窯を導入。外から窓越しに見える位置に設置した。
 同石窯は、600度Cまで高温が出せ、ナポリピッツァは2分ほどで焼き上げることができる。
 「高温だと、周りのふちが香ばしく焼き上がり、膨らみもいいですね。食感が全然違います」
 予約は1件につき6〜8枚と、複数枚入るときもあるが、短時間で焼き上げることができるので、客が指定した時間に一度に、焼きたてを提供することができる。
 神田オーナーシェフは昨年11月、クルック(東京・渋谷区、小林武史社長)とコラボして、東京・渋谷区の商業施設「代々木VILLAGE」内にベーカリー「プルクル」をオープン。小林社長は、音楽プロデューサーとして知られている。バゲットが1日100本出る盛況ぶりの中、すぐに出せるピッツァも、人気だという。



石窯ではピッツァのほか、ホットドッグも焼き上げる。オーダー後に石窯に入れて3分ほどで提供できる。「チリドッグ」(336円=左)、「ハーブチキンのグリル」(336円=写真右)など
ShopData
店名 プルクワ
住所 神奈川県藤沢市辻堂元町4‐17‐11
電話 0466‐33‐3676
営業時間 午前8時〜午後6時
定休日 月曜日、ほか月2回の不定休有り
品目数 平日70品目、土日80品目
店舗面積 売り場約6坪 厨房約13坪
スタッフ 製造常時3人、販売は平日1人、土日2人



オリジナルのソフトクリームが人気 ‐ ベッカライ徳多朗 神奈川県横浜市
店前の長椅子でソフトクリームを食べて一息付く客もいる
「徳多朗ミルク」(300円)。カフェでは焼きたてのパンをイートインできるほか、自家製のスープもオーダーできる
ソフトクリームにトッピングする「グラノーラ」は480円で販売
取締役の徳永久美子さん
天候の影響を受けずに売れるソフトクリーム
 「男性もソフトクリームが結構好きなんですね」と話すのは、「ベッカライ徳多朗」でソフトクリームの販売を担当する高森まりさん。
車で来店した男性客が、ソフトクリームを食べて一息付いている光景をよく見るのだという。ドライブイン感覚で利用しているようだ。
「ベッカライ徳多朗」(徳永淳社長)は昨年9月、20年以上店を構えた場所から約2キロ離れたところへ移転オープンした。
移転前はこぢんまりとした対面販売のテイクアウト専門店だった。移転後は、売り場に対面販売コーナーとセルフサービスコーナーの両方を設け、カフェスペースもつくった。さらに15台分の駐車場を完備。「この21年間で、周りに住宅がどんどん増えたんです。車で買いに来る方も多かったので、駐車場がないと近所迷惑になってしまうというのも、移転の理由でした」(取締役の徳永久美子さん)
 店の入り口前には、長椅子がある。カフェスペースを利用しなくとも、長椅子や店前でソフトクリームを食べる人も多い。パンは家に持ち帰るが、ソフトクリームは買い物やドライブ途中の休憩に食べていこうと思う人が多いようだ。
ソフトクリームは、オープン時は9月よりも、12月の方が売れた日もあった。
 「天気や気温の変化より、リピーターのお客様が増えてきたことの効果の方が大きいからだと思います。季節限定商品のモンブランソフトが最終日を迎えたときには、9月の暑いときよりも多く出ました」(高本さん)
 定番はミルク味の「徳多朗ミルク」(300円)。季節限定の味として、コーヒー、パンプキン、モンブランの順に約1か月ずつ販売。各330円。「モンブランはいつまでですか」「次のフレーバーは何ですか」と聞かれることが増えてきた。
 「飲んでおいしいと思える牛乳をベースにし、あっさりした味に仕上げています」(久美子さん)
季節限定のフレーバーはスタッフの意見を基にし、配合は乳業メーカーと相談して決め、同店のオリジナルの味を作り出す。トッピングはラスクやグラノーラ、ジャム。どれも自家製だ。
「ミルク味でもただ白い、というのではなくて、オリジナルのトッピングがあれば、ちょっと楽しいですよね。ソフトクリームは、子供も大人も気軽に食べられるおやつです。気軽に食べられるもので、ちょっとした楽しさとおいしさが提供できたらと思っています」と久美子さんは話す。
この思いは、「皆が食べる日々のパンを、当たり前においしく作りたい」(久美子さん)というパン作りに対する姿勢と重なる。

感受性豊かなスタッフを育てる

移転を機に、製造スタッフは、すべて入れ替わった。
久美子さんは、ソフトクリームやカフェのドリンクなどを提供する仕事を、新人を含めてスタッフ全員にさせている。
 「コーヒーは機械のボタンを押すだけで出ます。でも、ただボタンを押すだけじゃなくて、『本当においしいコーヒーが出てきているかな』という風に、常に敏感になっていて欲しいんです。夕焼けを見たら『きれいだな』とか、感受性が豊かであることが大事です。人がものをつくるのだから、その人自身が素敵じゃないと、おいしいものなんて作れる訳がないと思うんです」
 取材時、ソフトクリームを注文すると、やわらかさの具合を注意深く見ながら絞り出してくれた。そして右手で持ち、左手を添えるようにして、丁寧に差し出された。食べる前の気持ちの高まりが違った。

ShopData
店名 ベッカライ徳多朗
住所 神奈川県横浜市青葉区元石川町6300‐7
電話 045‐902‐8511
営業時間 午前7時〜午後6時
定休日 火・水曜日
品目数 40品目以上
店舗面積 厨房30坪、売り場・カフェスペース30坪
スタッフ 製造6人、販売6人
日商 平日50万円、土曜日60万円



ジェラートを販売して、様々な課題を発見 ‐ パン工房クーロンヌ たつのこ山わくわく店 茨城県龍ヶ崎市
ジェラートは、マイナス13度Cで管理するデリケートな品質で「生ジェラート」と呼んでいる。ふんわりとやわらかく、口溶けが良い
食事後、デザートを勧めるときに客にサンプルを見せる。手前は自家製ケーキ、奥がジェラート。トッピングは、ラムレーズン、ベリー類など
右から、クーロンヌジャポンマネージャーの鹿野大介さん、ピッツェリアたつのこのスーシェフ野口若葉さん、同ピッツェリアの武井孝雄店長。現在ジェラートは野口さんが製造している
ジェラート担当スタッフは「ジェラートマイスター」
 クーロンヌジャポン(田島浩太社長)は、千葉県と茨城県にベーカリー7店とピッツェリア1店を展開している。
40台収容の駐車場を備えた大型店の「パン工房クーロンヌたつのこ山わくわく店」は3年前、茨城県龍ヶ崎市にオープン。同社唯一のピッツェリア「ピッツェリアたつのこ」は、同パン工房の隣に同時にオープンした。
現在ピッツェリアで販売しているジェラートは、3年前はパン工房で販売していた。
「パン製造のスタッフからは『どうしてパン屋さんでジェラートなの』という声が目立ちました」と話すのは同社マネージャーの鹿野大介さん。
同店のジェラートは、ジェラートの本場、イタリア製のマシンを使って作る。ふんわりとしたなめらかな食感が特徴で、盛り付けた直後から溶け出していくほどのデリケートな製品。その品質を維持するためには、一般のアイスクリームよりも高めのマイナス13度Cで管理し、製造した当日に売り切ってしまわなければならない。
 鹿野マネージャーは、「作った当日に売り切らないといけないので、ロスの問題も大きいですが、この舌触りの良さは、作りたての『生ジェラート』でないと表現できません。とにかく食べてもらわないとこの価値は伝わらないと思いました」
 ジェラート担当のスタッフは、パンの製造チームから2人を引き抜いた。1人が盛り付けで、1人が試食担当だ。客に試食を勧めるタイミングは、パンの支払いでレジに並んでいるとき。「材料や製造方法など、なかなか伝えにくい部分も、試食してもらっている間にストーリーとしてお客様に伝えました」(鹿野マネージャー)
 ジェラート担当のスタッフを、「ジェラートマイスター」と名付けた。
「ただ、なんとなくジェラートを担当するというのではなく、自信を持って、やる気を出してくれればと思いました」
 ジェラートマイスター2人のうち、メインとなる1人は、アルバイトの若い女性スタッフ。
 「経験の浅いスタッフでも、ジェラートに関しては意見が言いやすく、特に女性はジェラートが好きなので、新商品のアイデアなどもよく出てきました」
 最も人気があったのは、自家製の生キャラメルをトッピングしたミルク味の生ジェラートで、1日5万円ほど売れたという。
 しかし、次第に売上げが低迷していった。同店はパンが焼きたての状態で食べられるのが売り。コーヒーの無料サービスもある。「当店のお客様は、『焼きたてのパンが食べたい』と思って来店します。焼きたてのパンとコーヒーがある中で、ジェラートも食べたいと思わせるのは、なかなか難しいことでした」

ジェラートを扱うことでベーカリー部門の課題を発見
 ジェラートの販売は1年間続け、その後1年間中止。そして1年前から再度販売を開始した。パン工房ではなく、同パン工房横にあるピッ
ツェリアでだ。
 同ピッツェリアの武井孝雄店長は「食事のあとのデザートとして、自然な流れでお勧めしやすいです」と話す。
 テイクアウトでも、大きいカップ入りは350円、小さいカップ入りは200円で提供している。味を知った同ピッツェリアの常連客は、ジェラートのみを買いに来店することも少なくないという。

パン工房では、結果的にジェラートの販売は止めてしまったが、イベント開催時や、夏場にパンの売上げが落ち込むときなどに重宝したという。
 また、パンだけを販売していたら気付かなかった問題点を洗い出すいいチャンスにもなったという。
 「もし、夏場にジェラートも売れないとしたら、販売方法や接客の仕方など、販売する製品自体に関係のないところに問題があることがわかると思うんです。さらに、ベーカリーでジェラートを販売するという「前例がなかった」ことに挑戦したことが、「自身の成長に繋がったと思います」と鹿野マネージャーは言う。
 鹿野マネージャーは、ジェラートの販売方法について、「試してみたいことはまだまだあります。パンの方に人手が取られてしまって、手が回らなくなったのが大きな原因でした。今度再開するとしたら、ジェラートの製造をパンの販売担当のスタッフに任せたいです。作る側の気持ちも持てれば、販売のチーム全体の志気が上がると思うんです」

ShopData
店名 パン工房クーロンヌたつのこ山わくわく店
住所 茨城県龍ヶ崎市松ヶ丘2‐1‐3
電話 0297‐61‐1233
営業時間 午前6時半〜午後7時
定休日 月曜日(祝祭日は営業)
品目数 80品目
店舗面積 売り場50坪 厨房30坪
スタッフ 製造12人、販売6人
日商 平日50万円、土日80万円

原価計算女王
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