一粒の麦から[5]‐本行恵子 / パンの源流を訪ねる夢のような企画に参加 - ブランスリー電子版

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連載/2012年1月号

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一粒の麦から[5]‐本行恵子
パンの源流を訪ねる夢のような企画に参加


本行 恵子(ほんぎょう けいこ) パンと食のライター。家庭製パン教室を10年間主宰した後、パン業界専門誌『B&C』の編集記者、編集長として勤務。16年間の在職中、日本各地のリテイルベーカリーや欧米、アジア諸国を訪問し、パンと食文化を取材。現在はフリーの立場で、業界専門誌や企業ホームページの執筆活動、関連団体の支援、企画提案、アドバイザーを行っている。ライフワークは、パンのある食卓の提案。



素朴で味わい深いパンとの出合い
パンを捏ねる人のレプリカ
 私がパンの仕事に関わるようになって初めての海外視察旅行は、関西のパン屋さんの勉強会「Heart Bakery 21 Club(HBC21)」が主催した「パンの源流を訪ねて エジプト〜トルコ」でした。パンの原型ともいえるような素朴で味わい深い平焼きのパンとの出合いは、今でも印象深く心に残っています。紀元前からパンを食べていたエジプトとアジア、欧州の文化が交差するトルコの中に息づいているパン、そして日本のパンとの繋がりなど発見の多い旅となりました。
 当時の私にとってエジプト・トルコは遙か彼方の国であり、パンの源流を訪ねるという夢のような企画に参加できるとは思ってもみないことでした。



エジプト〜パンを食べる人々
アイシを焼く女性
 最初の訪問国エジプトのカイロ国際空港では、銃をかまえた兵士たちの出迎えを受け、初めての海外視察にワクワクしていた気分がいっぺんに吹き飛んだのを覚えています。当時イスラム過激派によるテロが頻発に起こり、それに対して厳重な警備態勢がとられていたのです。戦争のない平和な国で暮らす私にとって、武器と隣り合わせで生活する人が世界中に大勢いることを改めて認識させられる出来事でした。
 カイロではエジプト考古学博物館を見学し、黄金に輝くツタンカーメンのマスクや当時のパンづくりの様子を伝えるパンを捏ねる人のレプリカを目の当たりにしました。そしてキザ地区では3大ピラミッド(古代エジプトのファラオであるクフ王、カフラ―王、メンカウラー王が埋葬されている)の一つに入り、古代エジプト時代に引き込まれるような不思議な感覚を感じました。またナイル川沿いにあるレストランでは、主食に食べる「アイシ(ish)」という平焼きのパンを、昔ながらの製法でドーム型の窯を使って焼き観光客を集めていました。大麦の混ざった粉と塩とイーストと水を混ぜた生地は、吸水が90%にもなりドロドロ状態。最近は高加水の生地を見慣れていますが、当時はこれでパンになるのかと不思議でした。ペールに一掴みの生地をのせ、300度C以上の窯で一気に加熱するとボール状に膨らんだパンが焼き上がります。紀元前からパンを食べ続けてきたエジプトで、その原型を見ることができました。
 その後見学した国営のパン工場には、日本の製パン機械メーカーのラインが導入され大量のパン生産に大活躍。カイロ市内の大きなパン屋さんはヨーロッパスタイルの店構えで、バゲットやクロワッサンなど多品種のパンと洋菓子・チョコレートが販売されていました。また伝統的なフィーロ(紙のように薄い生地)で作る、ナッツと蜂蜜たっぷりのお菓子も良く見かけました。町外れにも個人経営のパン屋さんはありましたが、平焼きパンだけを焼く質素な店でした。
 エジプトの食事は主としてアイシと野菜中心で、レンズ豆やヒヨコ豆をペースト状にしたものを挟んだり塗ったりして食べます。特別な日には鳩や羊肉のロースト、茄子やピーマンに詰め物をした伝統料理やモロヘイヤスープも登場。素材の味を生かしたシンプルな料理とアイシの相性の良さは、毎日食べても飽きない組み合わせでした。



トルコのパン・料理は日本人好みの味
シミットをリヤカーで移動販売するパン屋さん
 アジアとヨーロッパの文化が融合するトルコ最大の都市イスタンブールでは、リヤカーや自転車にリング状のパン「シミット」を積んで売り歩く人の姿が多く見られました。このパンは主食というよりスナック感覚で食べるもので、主食には胡麻が表面についた平焼きのパン「エキメック」やバゲットが食べられています。
 イスタンブールのトプカピ宮殿内にある100年の伝統を誇るレストラン「KONYALI」で食べたトルコ料理は、世界3大料理に挙げられる宮廷料理の味を引き継ぎ、東西の食文化の優れたところを活かし、日本人好みの馴染みある味付けでした。またガラダ橋のたもとで売られていたサバの塩焼きをバゲットに挟んだ「サバサンド」は、庶民的な味で観光客だけでなく、一般市民も手軽に食べるファストフードです。トルコのエキメックもエジプトのアイシと同じように、シンプルで素朴な味。しかし何故か心に残る美味しさがあります。
 日本でも「エキメック」が食べられるトルコ料理の店「ボスボラスハサン」が、新宿3丁目にあります。来日24年になるオーナーシェフのハサン・ウナルさんが焼く平焼きのパン「エキメック」と、現地の味を忠実に再現した料理が評判の店です。
 肥沃な大地に豊かに実る穀物から人間が生み出したパンは、これからどのような形で未来に受け継がれていくのでしょう。最近自分で小麦を育て、パンづくりをするパン屋さんも増えてきました。大地に種を蒔き、実った穀物を粉にして自分で作った石窯でパンを焼く。まさにパン職人のロマンです。



原価計算女王
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