一粒の麦から[3]‐本行恵子 / 子育てを終え主婦から社会人へ再出発 - ブランスリー電子版

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連載/2011年10月号

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一粒の麦から[3]‐本行恵子
子育てを終え主婦から社会人へ再出発


本行 恵子(ほんぎょう けいこ) パンと食のライター。家庭製パン教室を10年間主宰した後、パン業界専門誌『B&C』の編集記者、編集長として勤務。16年間の在職中、日本各地のリテイルベーカリーや欧米、アジア諸国を訪問し、パンと食文化を取材。現在はフリーの立場で、業界専門誌や企業ホームページでの執筆活動、関連団体への企画提案、アドバイジングを行っている。ライフワークは、パンのある食卓の提案。



家庭と仕事の両立

 子育てが終わったら社会に出て本格的な仕事がしたいと考えていた私は、愛読していたパンの情報誌『B&C』の仕事に魅力を感じていました。西川社長から「B&Cのスタッフになりませんか?」というお声がかかった時は、新しい世界が広がる予感にワクワクしました。しかし今までパン教室の主宰やアルバイト程度の会社勤めの経験しかなかった私にとって、記者として日々の仕事をこなすには相当な努力が必要でした。パンの作り方は知っていても、取材の心得や記事の書き方などは全くの素人。西川社長の指導を受けながら毎日を必死で過ごしていましたが、憧れのパン業界に関わりながら仕事ができる喜びの方が大きく辛いとは思いませんでした。夜の会合を取材することもあり、そんな時は予め夕飯の準備をしてから仕事に出かけました。最近は家事を上手に分担する夫婦も増え、パン業界で働く女性たちの負担もかなり軽減されてきました。
 2006年に設立された「クラブ・ド・サントノーレ」は、パンの仕事に携わる女性達の勉強会です。女性たちが十分能力を発揮し働きやすい業界にしていくことを目的に、活発な活動を続けています。年数回の外部講師や会員たちによる製パン講習会や講演会を通じ、自分たちが持つ能力を引き出しながら共に成長しています。幹事や会員たちの中には結婚・出産を経て仕事を継続させている人もあり、パン業界で働く女性の様々な生き方を知ることができました。



戦後のパン業界隆盛と共に歩んだ西川多紀子さん
2000年イバ展視察ツアー
ロンドンのポワラーヌ
 私がこの業界で働くきっかけを作りジャーナリストとして活躍したパンニュース社の西川多紀子現会長は、昭和24年に26歳の若さで会社を設立し、戦後のパン業界の歴史と共に歩んできた一人です。私が入社した当時、ご自身の仕事に対する思いを、次のように語っていたのが印象に残っています。
 「私が会社を始めた頃は、女性が会社を立ち上げることは珍しかった。
 その上古い体質が残るこの業界で仕事をするのは、相当な勇気が必要でした。でも今は女性たちが自由に活動できる新しい時代を迎えたのですから、もっと業界で活躍するべきです。私は日本のパン業界の発展を願い、国内だけでなく世界のパン食文化にも視野を広げ情報を提供したいと考えています」
 この言葉を聞いた時、私も西川会長のようにグローバルな視野を持ち業界のために役に立つ女性ジャーナリストになりたいと思いました。
 西川会長は会社を立ち上げてから2005年に病で倒れるまでの57年間、パンをこよなく愛し旺盛な好奇心と行動力で、業界の活性化のために奔走してきました。日本だけでなく世界中のパン屋さん、製パン技術者、製粉会社、機械メーカー、展示会、またそれぞれの国の食文化を自分で確認し記事を書き続けてきました。日本のパン業界のすべてを見てきた生き字引のような存在でしたから「パン関連で分からないことは、パンニュースの西川さんに聞けば解決する」と言われ大勢の人から頼りにされていました。海外旅行がまだ一般的ではなかった1959年、日本のパン業界を代表する方々と共に世界一周旅行を企画し実行したのも歴史に残る大事業です。そして日本の業界視察団としてフランスを初めて訪問し、現地のブーランジュリーやイーストメーカーのルサッフル社の工場などを見学しています。以来海外のパン業界視察旅行を毎年のように開催し、参加した多くの製パン技術者や関連企業の役員の方々から高い評価を受けました。また社員を積極的に海外に送り出し、現地のパンと食文化を学ぶことや人脈を広げる大切さを教え仕事に活かしてきました。私も1994年の関西の勉強会「ハートベーカリー21クラブ」が主催した海外研修ツアー「パンの源流を訪ねて(エジプト・トルコ)」や、パンニュース社が企画した2000年のイバ展(ミュンヘン)、2002年のベーカリーチャイナ(上海)、2005年ユーロパン(パリノール)の視察旅行に参加し、パン食文化の原点を学び世界のパン情報を知ることができました。そこに参加した皆さんとは、今でも親しく交流しています。
 西川会長は日本のパン業界のコーディネーターとしても活躍し、1994年にフランスのパリノールで開催された第2回クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー(パンの世界杯)に日本代表選手を送り出すために企業から募金を集め成功させました。自分の人生をすべてパンに捧げた、素敵な生き方です。2003年9月、西川会長はフランス政府から日本にフランスパンを広めた功績が認められ、フランス農事功労賞を叙勲しフランス大使館で盛大な祝賀パーティーが開催されました。エメラルドグリーンのシルクのドレスに身を包み、壇上でメダルを胸にした会長の晴れやかな姿は今でも目に焼き付いています。



原価計算女王
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