第2回 望月康男の訪問対談 / 店の年齢や時代の変化に応じてフォーメーションを変えて営業 - ブランスリー電子版

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対談/2011年9月号

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第2回 望月康男の訪問対談

店の年齢や時代の変化に応じてフォーメーションを変えて営業
トツゼンベーカーズキッチンの岸本拓也社長。左は聞き手の望月氏
神奈川県・大倉山にユニークなベーカリーがある。突然出来たから、「トツゼンベーカーズキッチン」。プライスカードにも「毒りんご」「危険」などの過激な文字が躍る。しかし、岸本拓也社長に話を聞いてみると、そこには、計算しつくされた巧みな経営戦略があった。



地域密着へとシフトし、焼きたてを追求
看板商品のひとつの「幸せのバナナパン」は、数量限定で販売している
望月 5年前にオープンされたときは、スーツを着て接客されていたそうですね。
岸本 立地があまりよくないので、認知度を上げていくために、接客をスーツ姿でやったり、店名も「トツゼンベーカーズキッチン」と斬新な感じにしました。売り方についても、スーツを着てパンを宝石のように扱い、お客様に緊張感を味わってもらい、いい意味でも悪い意味でも「あの店はこんなだった」ということを、まわりの人に話してもらいたいと思いました。それをいいという人は全体の30%ぐらいと踏んでいて、残りの70%は捨てなければならないと思っていました。そこで、地域密着ではなく、東横線沿線という広い範囲をメインターゲットにしました。半径50キロぐらいでしょうか。お蔭様で色々な雑誌でとり上げていただいて、遠方からも多くの人に来店して頂きました。1000円以上のパンも多く販売していて、利益は出ていましたね。当時は客単価も2000円と高かったですよ。
望月 今日、私が店を見て感じたことは、レコードが飾ってあったりして、一般的なパン屋さんというイメージではないな、ということです。私の「パン屋」という概念を切り捨てなくてはだめだなという感じです。プライスカードにも「危険」とか「毒りんご」とか過激なことが書いてありますよね。
岸本 普通の商品説明では面白くないので、お客様を笑わせるようなプライスカードを作るようにいつも指導しています。例えば、ロングソーセージのパンはかなり原価率が高くて、赤字の状態なのですが、それなら「赤字パン」という名前にしてしまおう、みたいな感じです。オープン当初は、地域密着ではなく、東横線沿線をメインターゲットにしていたので、そういうプライスカードは採用していませんでしたが、いまは、地域密着型にシフトさせていますので、そういうやり方も面白いなと思っています。
 以前は、「晴れの日のパン」というのがコンセプトだったのですが、地域密着にシフトした今は「毎日のパン」がコンセプトです。しかしオープン当初からの「晴れの日のパン」のお客様もキープしていきたいので、青葉台に、ここ本店のオープン当初と同じコンセプトの店を作っているので、そちらから商品を持ってきています。
 9月からは、さらに客数を増やす戦略を実践していきます。コスト調整をして価格をさらに下げるのと、後は焼きたての回数を増やして、それを訴求していくことで、フィーバーさせていこうと考えています。
望月 流行っているベーカリーを見てみると、焼成回数をできる限り多くして、焼きたてを追求していますよね。
岸本 今は、週末は完全に焼きたて追求型でやっていて、平日はどちらかというと、販売スタッフがお客様に提案するスタイルになっているのですが、これからは平日も、焼きたてを追及するオペレーションに変えていきたいと思っています。客単価を追求するのではなく、客数を増やしていこうというスタンスですね。

Shop Data
店舗面積 30坪(売場8坪 製造16坪 倉庫・事務所6坪)
スタッフ 製造6人 販売6人
品揃え 70品目
平均日商 30万円
営業時間 午前7時30分〜午後10時(金曜日は深夜2時まで)
定休日 年中無休



深夜に手作りパンの需要が潜んでいた
トツゼンベーカーズキッチンは、東急東横線・大倉山駅から徒歩1分の場所にある。入り口は目立たないが、看板商品の黄色いのぼりが人々の目を惹き付ける
焼きたてを徹底的に追求しているカレーパン。カレーの具の手作り感とパンの部分のもちもち感が特徴だ
関根共生マネージャー(右)と永山卓弥シェフ
望月 製造に対しての製品のオーダーはどうされていますか?
岸本 以前は製造指令書という細かなものを出させていましたが、いまは大まかなコンセプト、例えば売上と予算を伝えて、その中で焼きたてを追求する商品として最低でも10回転させてほしいものなどを伝えています。それ以外は製造に任せていますね。ただ、日によって極端に動く商品がありますので、それは必ず報告させています。また、死に筋と売れ筋に関しても必ず、ボトムアップで報告させるようにしています。ロスと製造数は、すべての商品について数値管理をしています。
望月 商品の中間欠品についてはどのようにしていらっしゃいますか?
岸本 中間欠品があってはならない売れ筋商品については、中間欠品が絶対に起こらないようにしています。特にカレーパンはものすごく売れるものですから、1日中切らさないようにしています。1日200個以上売れる商品は、うちでいうと3人に1人が買っていくわけですから、そこはやはり切らしてはいけません。万が一切らしてしまった場合は、それに変わる商品を提案するようにしています。そして、再び切らさないようするための具体的な方法を考えさせます。看板商品のひとつに「幸せのバナナパン」という商品があるのですが、ブリオッシュ生地を使っていて、なかなか追加が難しいので、これについては個数限定で販売しています。
望月 営業時間は何時から何時までですか?
岸本 朝の7時半から夜の10時までです。金曜日は深夜の2時までやっています。
望月 かなり遅くまでやっているんですね。その狙いは何ですか?
岸本 ベッドタウンなので、朝と夜は人が多いのですが、朝は皆さん、余裕がないので、中々来店していただけません。夜は「ビデオを見ながらの夜食にしたい」というような需要が多いので、夜に手作りを打ち出せば、売れるのではないかと踏みました。結果は思惑通りでした。1日の売上の半分に達する折り返し地点が午後7時ということも多いんですよ。
 とはいっても、夜遅く販売するためには、夜遅くに人を呼ぶための仕組みが必要なので、駅の前に立って案内をしたりと、いろいろやっています。ただ単にパン屋が夜遅くまでやっているということだけではだめで、話題作りが必要になります。「金曜の夜は何かが安い」というストーリーを作って、「ただ今タイムサービス、9時から10時まではハンバーガーが20円引き、10時から11時はメロンパン30円引き」という感じでアピールするんです。
望月 従業員の育成で気をつけていることは何ですか?
岸本 バランス感覚ですね。パン作りに夢中になってしまうと、他が見えなくなってしまうんですね。パンばかりが重要になってしまって、お客様が見えなくなってしまいます。かといって、お客様にばかり目を向けていてもだめで、そのバランスが大事です。パン作りの技術も高めて、店作りも高めて、というようにバランスよくやっていかないとだめなんです。
望月 トップが優れているために2番手、3番手が育たずに、20年、30年たってトップが先頭に立てなくなったときに衰退してしまうというケースが多いと言われていますが、その辺はいかがですか?
岸本 現在、3店舗を展開していますが、それぞれに店長がいて、任せていますので、私がいなくてもまわるような仕組みになっていると思います。今一番心配なのは3番手が育つかということです。3番手は店を新たに出すときは、2番手にならなくてはならないわけですから、何かしらテーマを与えて、考えさせるようにしています。



対談後記
望月 康男
「MY 69」代表。販売アドバイザー。1946年神奈川県川崎市出身。1978年、株式会社ポンパドウル入社以後、販売マネージャー、販売課長、販売部長、販売促進部長、取締役広報宣伝部長として販売関連業務に携わる。2007年〜2010年、株式会社ポンパドウル顧問。全店舗を巡回し接客・品質・クレンリネス・品揃えの改善点をアドバイス。2011年、30年近くの経験をもとに販売アドバイザーとしてデビュー。「販売力の強化」を唱える。連絡先は、電話090-3334-9790、Eメール 4-mochi@mui.biglobe.ne.jp
対談後記
 金曜日の深夜2時までの営業時間やプライスカードの表示コピー、陳列されている商品の構成など、既存のベーカリーにはない発想が印象的であったが、対談で的確なマーケティングに裏付けされた感性豊かな経営戦略であることを知ることが出来た。市場の変化にスピーディーに対応する行動力も魅力がある。客数アップのための策を近々のうちに具体的に実施するとのこと。今後も注目し続けたい。(望月)

原価計算女王
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