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| お店拝見/2011年8月号 |
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| 職人としての厳しさが客を惹きつけた | ||||||||||
故高橋さんの指導は営業中でも容赦なかった。厨房から聞こえてくる大きな声に、売り場の空気は張り詰めたという。しかし、客からは「一所懸命教えているから、おいしいのね。今時、そういう職人さんいないよね」と言われ、「そこまできつく言わなくてもいいのに」と止める人はいなかったという。販売で売り場に立っていた郷子さんにとって、こうして応援してくれる客の存在は救いだった。 これは高橋さんの人柄が客に伝わっていたからこそのことだ。その人柄は、妥協しないパン作りに対する姿勢や、従業員一人ひとりを思って真剣に指導している姿を通して、多くの顧客に伝わっていたのだ。 ブノワトンは年商3億円を売り上げ、常に行列が絶えない人気店だったが、オープン後半年間は厳しい状況が続いていた。 オープン当日は300人が来店したが、3日後には10人に。同店はバゲットやカンパーニュなど、ハード系のパンがメインだった。その当時、今から10年以上前は、同店周辺にはほとんどハード系のパンはなかった。「もっとやわらかいパンを作って」「メロンパンはないの?」と言われても、高橋さんは「この町をフランスパンの似合う町にしたい」と言い、意志を曲げることはなかったという。 また、高橋さんは、湘南小麦に対する思いや、パンに留まらず政治に関する考えなどを綴った「ブノワトンニュース」を配布していた。 「売上げがよくなかったときでも、『自分のパンが好きだと言ってくれる人だけが買いに来てくれればいい』と言っていたのですが、そのためにはまず『自分という人間をよく知ってもらう必要がある』と思っていたようです」(郷子さん) 半年が経った頃、人気店の頭角を現すようになっていた。「ハード系のパンを都内まで買いにいかなくて済んで助かるわ」と話す地元の客が増えてきたのだ。その数は予想外に多かったことに、驚いたという。 郷子さんは、客の存在を「店の姿勢に共感して、応援してくれる方」と表現する。 「接客のとき『せっかくおいしいパンを買いに来たのに、そんな顔で出てこないで欲しい。自分が好きな店なのに、他の人にそんな店だと思われたくない』と注意を受けたこともあります。そこまで言って下さるということは、それだけ店がお客様に愛されているということで、店の成長に繋がります。こうしたお客様と店との関係性を築くことができたのは、チーフの人柄があってこそなんだと思います」 | ||||||||||

| 「捨てたくない」からヒット商品が生まれた | ||||||||||
惣菜パンのコーナーには、バゲットの上に色とりどりの野菜がのった「グリルバゲット」(300〜360円)が並ぶ。前日のバゲットを利用したものだ。故高橋さんはフランス料理のシェフを務めていた経験があり、パンを料理の付属品として捉えるという料理人としての発想が、パン作りにおいても常にあった。グリルバゲットなどの惣菜パンは、ハード系のパンを普段食べない人でも「そのままおいしく食べられる」と人気の品だ。 ラスクは、食パンにグラニュー糖をのせた定番品というよりも、豆やチョコの練りこまれたパンを利用したものなど、パン自体の味を生かし、トッピングを最小限に抑えた製品が豊富に揃う。食パンに限らず様々なパンが利用されている。 閉店後に売れ残ったパンを捨てるということが、高橋さんは嫌でしょうがなかったという。これは、修行時代から、ずっと思い続けていたことだそうだ。 ブノワトンをオープンさせて売れなかった半年の間、冷凍庫は残ったパンでいっぱいになっていた。グリルバゲットや、1日に100個売れたことがある「フレンチトースト」(200〜320円)はこうした状況の中で、苦肉の策として生まれたヒット商品だ。価格に幅があるのは、使用する食パンがその時々で異なるためで、「山型」や「角食」、「みるくブレッド」などの食パン類の中から、売れ残ったものを使用する。取材時は、人気商品の「フレンチトースト」は店頭に並んでいなかった。 「基本的には、前日にパンが残らなければ作りませんが、他県から旅行感覚で来て下さるお客様の多い週末は、作るようにしています」(郷子さん) 捨てないのは、売れ残ったパンだけではない。ミル・パワー・ジャパンで製粉した際に出る小麦のふすまもそうだ。ブノワトンで多いときに1日60個売れていた、人気の「ネギ焼き」(250円)は、生地に2割ほどふすまを配合した。 「ふすまは毎日の製粉で必ず出るものです。使い道を考えた結果、グリッシーニ生地にふすまを入れることにしました。ふすまが入った黒っぽい生地を、円形にのばして焼き、その上に手作りのたまり醤油、マヨネーズ、キャベツ、ネギ、チーズの順にトッピングしてさらに焼いて出来上がりです。トッピングする前の生地は、冷凍保存ができます」 客数が日によって大幅に変わる麦師では、「ネギ焼き」のように、適宜焼きたてを提供できるアイテムが活躍する。 「ネギ焼き」は、製品としてだけでなく材料の段階から、ロスを出さないという高橋さんの思いが結集した製品。 毎日の製造個数は、販売責任者の本城政子さんと、製造責任者の棚橋美佳さんの連携で決定する。毎朝焼く量は、売れ残ったパンを見ながら決める。 麦師の買い物袋は有料。このことも、無駄を極力減らすためにしている努力の一つだ。常連客の多くは、同店の方針を理解しており、不要になった買い物袋を店に持ってきてくれるという。同店で再利用するためだ。高橋さんが亡くなっても、その人柄によって築き上げられた客と店の協力的な関係性は今もなお続いている。 | ||||||||||

| SHOP DATA
店名 足柄麦神 麦師
住所 神奈川県足柄郡箱根町湯本71‐5 電話 0460‐83‐9600 営業時間 午前10時〜午後7時、土日祝は午前9時〜午後7時半(現在は節電のため全日午後6時半まで) 定休日 火曜日(そのほかに不定休日もあり) 品揃え 平日60品目、土日祝70〜80品目 店舗面積厨房(倉庫を含む)14.8坪、売り場9.2坪 スタッフ4人 年商3000〜3300万円 |
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