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特集/2011年8月号

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原材料高騰時代のベーカリーの価格戦略

 大手製パンメーカーが7月から一斉にパンの価格を値上げした。政府の輸入小麦売渡価格が4月に値上げされて、小麦粉の価格が上昇したことが理由のひとつだ。砂糖や油脂、卵など小麦粉以外の原材料も上昇傾向にあり、ベーカリーの悩みの種になっている。新興国の需要増などにより、農産物や畜産物の需給バランスが世界的規模で変化している時代の価格戦略について、ベーカリーを取材した。



生活者にとってのプライスラインを見極めて価格を決定‐ポラリス
大手スーパーの中にあり、道路にも面しているポラリス池尻大橋店
サンドイッチは、約25種類。スーパーの商品価格を意識して、価格帯は280〜360円と低めに設定し、かつボリュームをつけている。サラリーマンに人気
主力商品の「パンドミ」(280円)と食パンの「ポラリスブレッド」(300円)は、合わせて1日250斤ほど売れる。スーパーの売り場にも、陳列している
ポラリス池尻大橋店店長の福田尚道さんは、ムッシュイワンの経営元、ウィルベンの営業本部長も務める。
変化を実感するまで価格は据え置く
 東京都内に複数の店舗を展開する「ポラリス」は、都内大手スーパー内のインストアの形態をとるベーカリー。昨年3月にオープンした池尻大橋店も、同店専用の入り口から来店する客と、スーパーからの流動客で賑わう。
 取材日の6月21日、スーパーでは大手製パンメーカーの食パンが98円から200円以内の価格で販売されていた。
 「7月から、大手製パンメーカーが値上げするとのことですが、ポラリスではまだ、値上げは決めていません。原材料がすべて値上げになって、包材も上がりましたので、このままという訳にはいかないとは思いますが」(ポラリスの運営会社、ウィルベン営業本部長で同店店長の福田尚道さん)
 同店の主力商品である食パンや、フランスパンに使用する小麦粉も、一袋あたり300〜400円ほど値上げされた。フランス産小麦粉、内麦粉も値上げされた。一部、据え置きのものもあるが、じきに値上がると福田さんはみている。
 「現段階では値上げはせず、様子を見ていく」という福田さんの考えのもとにあるのは、生活者にとっての「プライスライン」だ。インストアという形態をとる同店だからこその視点がある。
 「飽きのこない味を目指しているのはそのためです。パンはケーキと違って、毎日食べてもらえるものです。パンの価格にも、お客様の生活で培われた『プライスライン』があります。購入する際の決め手は、価格と見た目のバランスだと思うのですが、精密に言うと、1センチ立方メートルあたりでいくらかというレベルで考えなくてはなりません。大きめのサイズで手頃な価格の商品は、当店でも売れますね。ホールセールの値上げが報道されても、実際スーパーで値上がったかというと、そうでもない。100円ショップで買えるものもありますし。値上げを実感できていない間は、当店でも値上げはできないですよね」

顧客のプライスラインを見極める
 204年に導入された総額表示方式による影響は大きかったという。
店頭価格の表示が、外税方式から内税方式に変わったときのことだ。
 「割高に感じてしまうのか、いっとき売れなくなりました。1カ月くらい経つと、お客様が2つのパターンに振り分けられました。当店の味に価値を置いてくれる人たちと、ほかの低価格なものに流れてしまう人たちです。初めて消費税が導入されたときも買い控えはありました。自分もそうでしたからね」
 客にとってのプライスラインを、福田さんは敏感に感じ取っている。材料の高騰などとは関係なく、「お客様にとって高いのかな」と感じたとき、山型食パンの値段を300円から280円に下げた。
 「当店は、スーパーからの流動客も多いので、様々な層の方が来店します。人員の体制が整えば、アイテムを増やして価格に幅を持たせていきたいんです。280円や300円の食パンだけでなく、例えば220円の食パンも、作れないことはないんです。幅広い層を受け入れるためには、食パン一つをとっても、価格の幅がないといけないと思っています」

原価計算はざっくりでは意味をなさない
 プライスラインはそれぞれ、惣菜パンなら210〜230円、菓子パン類なら150〜160円、サンドイッチは280〜360円程度と、パンの種類ごとに設定している。
 「サンドイッチは野菜の価格が大きく変動しますので、あまり変わった野菜は使わないようにしています。トマト、キュウリ、グリーンリーフ、キャベツの4種類は必ず使いますが、あとはその時々で旬の安いものを使うようにして、価格を維持します」
 設定したプライスラインを維持するためには、原価計算をして、細かく見ていくことが大切だという。
 「すべての商品の原価を見比べます。ざっくりでは意味がないので、小数点以下も細かく見ていきます。少しの違いでも、突出して高く見えてくるんです。細かく見ていき、包材も入れて1製品あたりの値段を見ていきます」
 原価のかかっている商品については、修正を加える。あんぱんに使用している餡は、1番上のランクから1ランク下げた。品質のこだわりを維持しながら、食べたときの違いが目立たない範囲で材料を変更する。また、仕入れ業者に価格の相談をすることも大切だという。「5円とか6円とかの世界ですが、その積み重ねです」

ポラリス池尻大橋店
住所 東京都目黒区大橋2−22−9
電話 03−5478−8275
営業時間 午前8時半〜午後7時
定休日 なし
品目数 約70品目
スタッフ 製造4人、販売1〜2人
店舗面積 厨房15坪、販売スペース15坪
日商 20〜25万円



「値上げしないの?」と顧客から聞かれる‐パン ド ナノッシュ
様々な商品が並ぶパン ド ナノッシュの店内。今回は値上げを見送り、秋に値上げの予定だという
 神奈川県茅ヶ崎市のベーカリー、パン ド ナノッシュは、カナダ産と国産の小麦を使って約150品目のパンを焼き上げている。
 オーナーの関谷勝美さんは、「今年の秋にもまた、小麦が値上げされるのではないかということを耳にしました。当店のパンの価格はそのときに値上げする予定なので、夏の間は据え置きです」と言う。
 「3年前にもかなり小麦が値上げされて、そのときは食パンやロールパン以外の製品に関して、10%ほど値上げをしました。ちょうど店のリニューアルと重なったので、タイミングとしては上げやすかったです」
 今年の秋に予定している値上げのときにには、3年前に据え置いた食パンやロールパンに関しても、他の商品とともに10円ほど値上げする。ほとんどの商品を一律5〜10%、値上げする予定だ。
 顧客に対しては、値上げを開始する日の1カ月前から告知していくという。
 「大手製パンメーカーの製品の値上げが報道されている影響もあって、お客様からは逆に『値上げしないんですか』と聞かれます。それと同時に『値上げしてもいいから、質を落とさずおいしいものを作ってね』とおっしゃってくれます」
 「問屋さんも、ぎりぎりまで価格を据え置いて下さっているようなので、使う材料を変えたり、仕入先を変えるつもりもありません」
 客と店、店と問屋それぞれの協力体制のもと、価格の改定がなされているようだ。
 「包材は、2年前もかなり値上げされたのですが、そのときにあまり使わないものを整理しました。使わない紙パックなどは、何千個と在庫を抱えることになります。代用できるものや、使わなくて済むものなどを整理していくことで、より簡易な包装を目指しました」

パン ド ナノッシュ
住所 神奈川県茅ヶ崎市共恵1-3-14-101
電話 0467−86−8757
営業時間 平日 午前8時〜午後7時、土日祭 午前7時〜午後6時
定休日 なし
品目数 約150品目
スタッフ 製造4〜5人、販売2〜3人
店舗面積 厨房13坪、販売スペース8坪
日商 22万円



構造変化を見据えた中長期的な戦略が不可欠に
原材料高騰を反映して7月から一斉に値上げ‐大手の対応
グラフ1 4月と10月の年2回、国際相場を反映させる形で政府売渡価格が改定される仕組みが始まった2007年からの小麦の政府売渡価格の推移(主要5銘柄の平均の価格で、単位は、「円/トン」)
原材料高騰を反映して7月から一斉に値上げ‐大手の対応
 7月1日から製パン大手各社が一斉に値上げを実施した。山崎製パンは、食パン類について平均で約6%、菓子パン類については平均で約2%の値上げ。敷島製パンは約160品目について、平均で約7%の値上げを実施。フジパンも食パン、菓子パンなど数十品目について、約6%の値上げを実施している。第一屋製パンは食パン、ロールパン、菓子パンなどについて、平均で約7%の値上げを行った。
 小麦の国際価格は、異常気象による生産量の減少や、新興国の急激な需要増、さらに、農産物市場への投機マネーの流入などにより、昨年から上昇基調が続いている。
 小麦は、政府が一元的に輸入を行っているが、4月と10月の年2回、国際相場と連動する形で、政府売渡価格が改定される仕組みになっている。この制度が始まった2007からの政府売渡価格の推移を示したのが「グラフ1」だ。2008年10月に7万6030円と高値のピークに達したあとは、下降に転じ、2010年は、2007年4月の水準を下回っている。しかし、今年の4月には、再び大きな上昇となった。
 ある製粉会社の担当者は「価格が改定になるたびに、ユーザーへの説明など煩雑な作業を強いられる」といい、製パン大手のマーケティング担当者は、「企業努力で原料高騰をなんとか吸収しようと必死で頑張っているが、それにも限界がある。値上げの報道ばかり多くて、値下げの時はあまり報道されないので、値上げばかりしている、と誤解している人も多いのではないか」と頭を悩ませている。
 いずれにしても、農産物需給のグローバルな構造変化を見据えた上での中長期的なマーケティングが不可欠な時代に突入したことは間違いないようだ。

価格の維持より品質の維持を‐消費者の声
 プランスリー報道社は、7月1日から9日まで、パンの値上げについてのアンケート調査を行った。ブランスリー報道社が運営するパンと菓子のオンラインショッピングモールの「パン菓子・COM」の懸賞企画として実施。273人から有効回答を得た。(詳細は21〜25ページ参照)
 その中で、大手製パンメーカーの値上げについてと、焼きたてを売りにするベーカリーの値上げについての意見を聞いた。
 「今回の大手パンメーカーのパンの値上げについてどう思いますか? ご意見をお聞かせください」との質問に対して、愛媛県の43歳の女性は、「以前原油の値段が上がった時にパンが値上がりして、その時にそれまで買っていたものよりも安いものを買うようになりました。そして今はさらにそれを特売の時にだけ買っています。だから値上げをしたといっても気づいていませんでした。でも本当に影響が出てくるのはこれからだろうと思います。とても不安です。これ以上となるとパンを買うこと自体を考えなくては、と思います」と答えた。
 また、埼玉県の19歳の女性は「値上げするのは嬉しくはないが、原材料の質を落として価格を維持するよりも、パンのの味を維持することを優先してほしいです」と答えた。
 一方、「焼きたてベーカリーが値上げするとしたらどうですか? ご意見をお聞かせください」との問いに対して、東京都の39歳女性は、「パン屋さんのパンを大手パンメーカーより割高でも選ぶということは、価格ではなく、味・安心に重点をおいているということです。美味しければ値上げしてもパンは買います」と答え、千葉県の42歳女性は「焼きたてベーカリーはバターもしっかり使ってくれているし、ちょっと値段が高めだけれど値上げしても美味しいから食べたいときは買いますよ。あまり大きな値上げだとちょっと買うのを控えるかもしれませんが5パーセント程度だったら問題ないですよ」との回答を寄せた。
 また、埼玉県の24歳女性は「仕方がないと思います。個人的には大手メーカーさんよりもベーカリーさんの値上げの方が許せます。それだけお金を出す価値のある美味しいパンだと思いますし。少々値上げしたところでお客様が減るという事はなさそうな気がします」と答えた。
 さらに、北海道の41歳の女性は、「小幅な値上げなら許容範囲ではありますが、大幅な値上げになると、パン屋さんから足が遠のくことが懸念されます。そうならないためにも、安定した原材料の供給を願いたいです」と回答した。



原価計算女王
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