アメリカのリテールベーカリー業界が抱える問題点を探る - 高橋秀尚 - ブランスリー電子版

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海外情報/2003年7月号

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アメリカのリテールベーカリー業界が抱える問題点を探る - 高橋秀尚

同種の類似商品から脱却した商品開発
カード支払いの希望が出始めた

インターネットによる情報交換システム
すでにお伝えしてあるがアメリカのリテールベーカーで結成された業界最大規模のRBA (リテーラーズ・ベーカリー協会)は会員相互でBtoB(ベーカー・ツー・ベーカー)というインターネットによる情報交換システムを持っている。
筆者もメンバーの1人であるが、日本における唯一の参加者ということで、お互いに距離を隔てた場所に住んでいるにもかかわらず、リアルタイムな情報交換が出来る。インターネットが発達した事の恩恵であろう。
ところが最近は単なる情報交換の域を超えて、お互いに悩み事の解決方法や日頃抱えている色々な問題にどのように対処するか、といった切実なテーマで意見交換をする事が多くなってきた。
まさに彼らが抱えている種種雑多な悩み事やビジョンを知る事が出来る。そこで今月はここ一ケ月の間に意見交換された諸問題をまとめた結果をご報告しよう。

プライス・フィクシングの2つの意味
▼1 リテールベーカリーのオーナーが陥る孤独感から抜け出るには?
この発言に関してはズバリ「それは我々が持っているBtoBを活用する事」と断言している。
このシステムが始まって以来、すでに7000通のメールが交換されたという。eメールの良い点は一通のメールが全員に瞬時に行き渡る事、電話と異なり相手が不在でもかまわない事などであろう。
また言葉では表現出来ない内容のメッセージもeメールでは表現出来てしまうのが不思議である。これは一度体験すれば良くわかる。
▼2 プライス・フィクシング
和訳すれば「価格設定」という事になるが、これが問題となっている理由の一つに適切な利益を確保したい、という願いがこめられている。
と同時にベーカリーという仕事は大衆生活そのものに密着しているので顧客の信頼を失いたくない、自分は 「グッド アメリカン」でいたいというジレンマがあるという。何とも正直な感想だ。
確かに筆者が知っているリテールベーカリーのオーナーは皆さん良い人ばかり。彼らと話していると心の安らぎを感じる。
さてプライス・フィクシングは経営の重要課題であるが、焦点は次の2点に絞られる。
(1)異業種ベーカリー対策
異業種とはスーパーマーケットのインストア・ベーカリーおよびウォルマートのインストア・ベーカリーである。
筆者は特にWAL・MART社(以下WMと略す)のベーカリー・オペレーションに興味があり、既に5年ほど前から実際に店舗調査、資料入手をしているが、先月もラスベガスで開催されたデリ・ベーカリー展示会視察の機会をとらえて周辺の店舗を公式訪問した。
WM社がいかに巨大であるか、そしてアメリカ流通業にいかに多くの影響を与えているかは広く知られている通りである。
同時にベーカリー部門のみを冷静な目でつぶさに観察してみると、同社は多くの問題点を抱えている事がわかる。
その内容のすべてを明らかにするには時期早尚であるが、要は利益確保と商品の均等性の問題である。
WM社にはべーカリー部門を統括する優秀な人材がいて、この難問題の解決に努力をした結架、ほぼ問題は解消したと聞いている。
先日もWM社の巨大店舗スーパーセンターにあるベーカリーで参考のためにドーナツを購入して食べてみた。
リテールベーカリーにおけるドーナツの価格は1個が70セント(約85円)前後だがWMの場合は12個で2ドル、1個が約18円という驚くべき安さである!
そのお味はというと、過度の甘さばかりが印象に残り、正直な感想として決してお薦めできるものではなかったが、案内をしてくれたべーカリーマネージャーの話しでは、売れ筋商品であるという。おそらく「価格の安さ」で売れているとしか思えない。
これは何を意味するかと言えば、リテールベーカリーとWM社に代表される大量販売を武器とする大型店舗における商品開発の考え方は、根本的に異なるという事であり、アメリカの消費者もこの差異を理解しているはずである。
つまり低価格志向か、高品質志向かという選択肢である。RBAは「我々は低価格戦略に巻き込まれてはならない。自分の作る商品に自信を持とう」とつねに戒めている。
(2)同じリテールベーカリー間の価格競争
これが問題となっている。特に価格比較されやすい商品、例えばホワイトブレッド、ベーグル、ドーナツ類は競合する同一商圏内にある他店鋪の価格が気になるのは当然である。そこでRBAが薦める方法は「同種の類似商品から脱却した商品開発」である。つまりお客に他店舗との価格の相違を指摘されても、例えば「当店はオーガニックの豆を使ったフィリングを使っています」というような説明をする。
また表1に紹介するようなケーキ類の価格比較例がある。
さらに配送を依購された場合は1マイル(1・6キロ)あたり1ドルの手数料を取るという。にもかかわらず売り上げが落ちていないのは、やはりお客は自分の店の商品価値を理解してくれている、というのがオーナーのコメントである。

表1


そして「我々リテールベーカリーがお客に売るものはQUALITY(クオリティ=高品質)、VALUE(ヴァリュー=商品価値)、CUSTOMER SERVICE(カスタマーサービス=顧客サーピス)である事を強調している。何とも心強いではないか!また毎年少なくとも5%は値上げしているそうだ。そして前年度売り上げ伸び率が10%以下の商品は販売中止し、新商品と入れ替えるという。

コンサルタントの上手な使い方
▼3 コンサルタントの選択
「良いコンサルタントを見つける事」は白本でも商売繁盛の秘訣であろう。アメリカにも会社組織にしたコンサルティング会社が相当数ある。特に最近はコンピュータを使ったソフトウェアを駆使した市場調査、商品開発、製造・財務管理をする会社が増えている。
例えばデータパックスという会社はリテール、ホールセールベーカリー用の各種ソフトウェアを開発し、次のような項目に対応させている。
投資管理、仕入管理、商品栄養分析、栄養ラベル管理、商品・資材在庫管理、売り上げ分析、受注管理、特別注文受注管理、商品グルーピング、売り上げ予測、売り上げ分析、製造コスト変更管理、商品期限管理、売れ残り商品管理、POS、顧客クレーム対処、パスワード管理、配送ルート管理、インボイス管理、生産・販売日報およぴ月報、製造コスト管理、販促予測など。
実際にはアメリカにおいてもリテールベーカリーに最も密接なつながりがあるのは個人でコンサルティングをしている人たちであろう。
これは日本もほぼ同じであるが、かっては製粉や資材メーカーでパン作りに携わっていた人が自分でコンサルタントを始めるというケースは多いようだ。
ところが問題となるのは教えられて実行した販売促進の効果、製造技術指導、そして最近とくに問題となっているのが請求される(または見積り)金確の基準が不明確である事だという。
BtoBでも、自分はあのコンサルタントに依頼しようと思うが、どうであろうか?などという問い合わせを見かける。
そこでコンサルティングの上手な依頼の仕方をまとめたベーカーがいるので、内容をご紹介しよう。
(1)依頼する意図を明確に伝える
(2)自分が払える予算を最初に伝える
(3)自分の担当者を絞り込む
(4)その会社またはコンサルタントがリテールベーカリーという業種を専門としているかどうかを確かめる
(5)自分が依頼したコンサルティングの内容に対して絞りこんだ回答をもらう(抽象的な内容ではない)。
(6)同業種の人に評判を開いて確かめる。
その一方で「世の中にマジックは存在しない。最終的には自分自身の努力が必要」と、さとしている。

プライドがスクラッチへのこだわりを支える?
▼4 パーベーク導入の是非
ついに出たか、というのが実感であるが、次のような一通のメールがアメリカのリテールベーカーで大論争を巻き起こした。
「私の店における製造方法をスクラッチ方式でパンを焼き、その日のうちに売ってしまう今のやり方から、冷凍保存するバーベークに変えようと考えている。毎日二百本ほどのブレッドを焼いている小さな店だが現在はリードタイムが長すぎる。パーベークに変更する事で無駄が無くなり、商品も十種類ほどに増やせると思う。
また必要な時にだけ焼けるので欠品ロスも減るはずだ。これに関しての仲間の意見を開きたい」。
この提案に対して極端な反対論が出なかったのは何故だろうかと考えてみた。
筆者の憶測ではアメリカのリテールベーカーの多くは同じ悩みと意見を持っているのではなかろうか?しかしながら自分の職業に対するプライドと意地がスクラッチヘのこだわりを支えているのではなかろうか?
彼らの回答をまとめてみた。
(1)自分の地域ではバーベークは人気が無い。しかしバー・プルーフならば製造設備も簡単でコストも低いので推薦出来る。実際にこの方法で製造した商品を卸している会社もある。
(2)当社は仕込量が少ないので生地玉を冷凍保存している。この場合はイースト量を50%ほど増やし、PURITO社のS500を入れる。焼成後の商品のバラツキも無いので、この方法を薦める。
(3)パーベークの最大の難点は、より大きな冷凍スペースが必要となる事だ。また冷凍技術も今なお改良する余地が残されている。
この問題はいずれ日本でも論議されるのではないかと思われるが、ベーカリーカフェなどのいわゆるフードサービス業界ではパーベークは導入されつつあるので、今後の動きが注目されよう。

カード導入により客単価が3倍になった
▼5 クレジット・カード 支払いの導入
アメリカ人は少額の現金しか普段は持ち歩かないと言われている。
したがってリテールベーカリーのような支払い金額が少ない商売にはクレジット・カードは無縁のように言われていた。ところが最近では一部の顧客層からカード支払いの希望が出始めたのでRBAとしても無視出来ずにカード会社と契約をして導入の手助けを始めている。
結論としてはカード支払いの導入により売り上げが伸びた店が多いという。その報告の一部を紹介する。
(1)客単価が3倍になった。
(2)売り上げが3倍に伸びた。
(3)カードによる支払い額が売り上げの30%を占めるようになった。
(4)カード支払い導入後は顧客層が変化した。今までのような個人客に加えて、ビジネスオフィスで働く人たちも買い物をしてくれるようになった。
(5)留意点としてはカード会社によって異なる手数料をよく調べる事。一般的には3・5%であるが、RBAが斡旋する会社の場合は1・5〜1・7%で低い。いずれにせよお客は便利さを買ってくれているのだから導入に異存は無い。

リージョナルマーケティング
▼6 商品開発の最新トレンド
この課題は常に永遠のテーマであるが、このところ最重要視されているのが「リージョナル マーケティング」つまり地域密着の市場開発である。
その中でもベーカリー業界はスペイン語を話すヒスパニックと呼ばれるメキシコ、南米諸国の人たちが食へるべーカリー商品の開発に注目している。
筆者は今年すでに2回の展示会視察と市場調査をしたが、これらの商品が最新トレンドの1つである事が話題となっていた。
そのいくつかを添付写真で紹介するが、日本のメロンパンに似たものもあって、懐かしさを感じた。
自分の店がある地域にスペイン語を話す人々がどのくらい住んでいるかを知る事から市場謂査は始まるのだが、今後はこのような地域密着の商売が、ますます重要視されよう。





アメリカのベーカリー業界における商品開発の最新トレンドはスペイン語を母国語とする人々 〈ヒスパニック〉向けの商品。今年5月にラスベガスで開催された食品展示会でも各種製品が見られた。
COCADASU(コカダス)。大型のクッキーでココナッツをまぶしたものを焼く。 POLVORON(ボレポロン)いかにもカラフルなメキシコ名物のシュガークッキー。
POLVORON(ボレポロン)。メキシコ国旗の色付をしたもの CONCHAS(コネチヤス)。粉糖をまぶしたメキシコの代表的なスイート ブレッド





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