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特集/2011年6月号

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特集 ■「焼きたて」について考える■

焼きたてでの提供がパンの需要を大きく伸ばす‐PAUL 神楽坂店・東京都新宿区神楽坂5‐1‐4神楽坂テラス1F、電話03‐6280‐7723
焼きたてのパンが並ぶショーウインドーは通行人の足を止める
ショーウインドーには焼きたてのクロワッサンなども並ぶ。飾り用ではなく、販売用だ
カフェ利用客の目線の先には厨房がある。フランスのポールにならった店内の配置。パンが次々と焼き上がる様子を見ながら食事ができる
生ハム、ツナ、パプリカとチキン、カマンベールチーズをそれぞれサンドしたバゲットサンドの詰め合わせ「カトル サンド アソルティ」(500円)。バゲットは、プレーンタイプの「フルート・アンシェンヌ」、ケシの実のついた「フルート・パヴォ」、白ゴマのついた「フルート・セザム」を使用
フランス仕込みのレイアウトは…
 「焼成後3時間くらいが、焼きたての寿命でしょう。ハード系もヴィエノワズリーに関してもそうです」と日本国内のポールの運営元であるレアールパスコベーカリーズのPAULマーケティング部部長、古舘さんは言う。
 創業120年以上のポールの本拠地フランスでも、他店との差別化を図る上で、重視していることは焼きたてだ。
 「共通のレシピでパンを作っても、焼きたての味を提供できなければ、本場フランスのおいしさを伝えることができません」(古舘さん)
 2月にオープンした神楽坂店は、フランス直輸入のカーテンやランプ、床材が施されており、店内に入るとまるでフランスに来たような錯覚を覚える。内装だけでなく、入り口横のショーウインドーにパンが陳列されている風景なども、フランスさながらだ。店の設計から内装まで、フランスのポールの指定通りだという。
 こうした店の作りは一見、本場フランスの雰囲気を再現する小道具のように思われるが、焼きたてのおいしさを提供するために必要なもので、特にショーウインドーと、窓越しに見える焼成室が重要だという。
 「ショーウインドーに置いてあるパンは、飾り物ではないんです。レジ横にあるショーケースと同じ扱いで、販売用の商品を並べています。常に焼きたてのパンが並ぶようにしていて、それが外からも見えるようになっているんです」(PAULマーケティング部、林美智香さん)
 ショーウインドーを見て、「あのパンください」と入店する人もいる。
 「フランスでは、良い製品を作るだけでなく、きちんとお伝えする、そこまでがブランドです。日本のPAULでも、製品の良さを人、そして内装からもお伝えしたいと思います。ショーウインドーがあることで、外を歩いている人にも焼きたてのパンをアピールすることができます」(林さん)
 神楽坂店は、入って正面奥にヴィエノワズリー専用の焼成室がある。来店客は、パンを選んだりレジを待っている間、クロワッサンなどが次々と焼き上がっていく様子を見ることができる仕組みになっている。
 同店はカフェを併設しており、カフェで食事をする間も、厨房の様子を見ることができる。
 「オーブンは、ハード系用とヴィエノワズリー用と2台ありますが、常にどちらかが稼動している状態を保てるようにしています。カフェを利用されているお客様の目線の先に、パンの焼き上がる光景があるように務めています」
 フランスのPAULと同じように配置された店のつくり自体が、焼きたてを体感できる仕組みとなっているのだ。

焼きたて、作りたてのサンドイッチ
 ポールにおいて、焼きたてとともに、作りたてにこだわっているのが、サンドイッチだ。
 朝10時に開店する神楽坂店は、昼食前の11時頃からサンドイッチの需要がある。サンドイッチは、「バゲット・シャルマーニュ」(357円)を使用したバゲットサンドを5種類揃える。バゲット・シャルマーニュは、焼きたてを用意するため、生地は前日から低温冷蔵発酵させておき、朝一番に焼成する。ランチタイムに限らず、1日を通して様子を見ながら適宜製造する。
 「フランスでは、ランチタイムが終わればサンドイッチの需要はありませんが、日本ではおやつにしたり、土産用に買っていくお客様も多いですね」(古舘さん)
 ランチタイムのみの需要のフランスでは、陳列場所も常温で構わない。しかし、1日中需要がある日本の店舗では冷蔵保存が必要だ。
 「食パン使用のサンドイッチと違い、当店のバゲットサンドはパッケージングしていませんので、焼きたてのパンを使って、かつ、作りたてでなければいけません」(古舘さん)
 ハード系のパンを裸の状態で5度Cの冷蔵ケースに入れてしまっては、風味や味が落ちてしまう。そこで、鮮度を保ちつつ、おいしさを損なわない温度帯を調査した結果、冷蔵ケースの温度を約10度Cに設定することにしたという。少しでもおいしいものを提供したいと考えた結果だ。

「パンの冷めない距離」が店舗展開のキーワード
 PAULの国内20店舗はほとんどがスクラッチベーカリーだ。出店先のスペース上、スクラッチが難しい場合は、「ワンショップワンキッチン」の考えのもと、販売店に近い場所に専用の厨房を設け、ピストン輸送して対応している。
 百貨店内にあり、充分な厨房スペースをとれない店舗では、ヴィエノワズリーは自店で焼き、ハード系のパンは数百メートルしか離れていない大型店から運ぶ。「パンの冷めない距離」を徹底している。
 「焼成後3時間が寿命」と、古舘さんが言うように、ハード系のパンのおいしさは時間の経過の影響が大きい。普段ハード系を食べなれている常連客でも、焼きたての状態で試食したときには、その違いに驚くという。
 「やわらかさも違いますが、口に入れたときや噛んだときに広がる香りの強さが違います。試食では、できるだけ焼きたてを提供するようにして、ハード系のパンのおいしさを伝えられるようにしています」(PAULマーケティング部、井上友里さん)
 ハード系のパンの人気が定着してきた背景には、こうした焼きたてのおいしさを提供する店の存在があるようだ。



少量しか揚げられないようにフライヤーを小さくした‐ピーターパン 石窯パン工房店・千葉県船橋市海神3‐24‐14、電話047‐410‐1021
1番人気の「カレーパン」(136円)
小ロットで常にできたてを提供していくために活躍する、寿司屋からヒントを得たカウンター。客の要望を受けられ、売り場が見渡せる
コッペパンを使ったは惣菜系のパンは、約4種類。コッペパンは1日4〜5回に分けて焼成された焼きたてを使用する
12個ずつ揚げて1日1000個売る
 ピーターパン石窯パン工房店の1番人気は、「カレーパン」(136円)。土日は1日1000個、平均でも1日400個は売り上げる。
 「カレー2枚です」と、スタッフの声が店内に響く。2枚というのはカレーパンが並ぶトレイの数のことだ。1枚のトレイにのるカレーパンは12個。12個のったトレイが2枚、すなわち残りが24個になったら、追加作業に取り掛かる。1回に追加する個数は12個だ。
 「小さなフライヤーですよね。これはわざとなんですよ」と横手和彦社長。カレーパンだけでも、多いときは1日1000個揚げなくてはならない。その量に不適応と思える小型のフライヤーだ。それが2台ある。
 「大型だと、一度にたくさんの量を揚げてしまおうとする。常に揚げたてのカレーパンを提供するために12個ずつしか揚げられない仕組みにしたんです。販売数が増えればフライヤーの大きさはそのままで、台数だけ増やします」
 カレーパンを2種類作っていたときは、6個ずつにして1度に2種類揚げていたほど、小ロット生産にこだわる。「揚げたてを食べられるお客さんの数が増えますよね」と横手社長。
 フライヤーで揚げる時間は3分20秒。常に切らさず、なおかつ揚げたてのカレーパンを提供するためには、揚げる前段階の時間調節が鍵となる。
 カレーパンの生地は、3時間以上冷蔵発酵をとり成形した後マイナス2度Cで保存する。そのあと、常温で1時間、ホイロに30〜45分置いて、フライヤーで揚げる。
 「出庫数は、時間帯別に予測して決めておきます。その時間帯別出庫数に沿って、冷蔵保存しておいた生地を、常温に出していきます」(本間店長)
 出庫数の予測は時間帯別に細かく決めているので、適宜調節が必要だ。
 「売れ行きが鈍ってきたら、ホイロに入れず常温のまま置いておきます。常温だと、揚げるまでに2時間ほど置いておけるので、ホイロに入れる場合よりも30分ほど長く保存しておくことができます」(本間店長)
 こうして細かく時間を調節していくことで、揚げたてのカレーパンをロスのない状態で提供していけるのだ。

焼きたて、作りたての惣菜系コッペパン
 カレーパンに続く人気第2位は「コロッケコッペ」(126円)。ほか、惣菜系のコッペパンは「たまごコッペ」(105円)など約4種で、売れていくそばから次々と作りたてが補充されていく。飛ぶように売れる昼時のピーク時でも、1度に追加する個数は最大で12個。スタッフの「品切れにならないように気をつけています」という言葉も、作り置きではなく、アフターオーダー方式に近い体勢であることの表れだ。
 具材をサンドする作業は、寿司屋からヒントを得たというカウンター内で行う。カウンター越しに客からの要望を受けることができる上、売り場を常に見ながら作業ができるので、残数のチェックが1個単位でできる。さらに客の入り具合も把握ができるので、追加個数の増減も調節可能だ。こうして、小ロットかつ回転数の多い状態を維持していく。
 惣菜系コッペパンの4アイテムで、使用するコッペパンの数は約1000個。コッペパンも一度に焼いたものではなく、1日に5〜6回に分けて焼く。開店前と、午前8時、午前11時、午後1時、午後4時だ。
 サンドイッチのパンも焼きたての食パンだ。11時頃から出す分は、朝焼いた食パンを使う。「焼きたての状態だとどうしても潰れてしまうので、その分、1ミリ厚めにスライスしています。サンドイッチのパンに関しても、お客様から指摘を受けたことがあります。多少潰れてしまっていても、焼きたてが求められているようです」



焼きたての温かいパンは土の付いた野菜と同じ‐サンセリテ 埼玉県狭山市狭山台3‐11‐2、電話04‐2957‐8934
り場は12坪で、常に客でいっぱいの状態だ
看板商品の「天熟」は、レジの後ろに置いて、注文があれば、その場スライスして袋詰めする
サンセリテの高田知明オーナー

 埼玉県狭山市のサンセリテは、「焼きたて」でパンを提供することで、飛躍的に売上を伸ばしたベーカリーだ。オーナーの高田知明さんは「地域の人口は減っているし、高齢化しているし、同じ商圏内のどの店を見てもジリ貧でした。そんなときに、あるコンサルタントに出会って、自分の中で変化が起こりました」と、店の改革に乗り出したときのことを振り返る。
 当時、高田さんが最も自信があった「天熟」という食パンは、1日1回しか焼いていなかった。それを4回に分けて仕込み、焼成するようにしたのだ。
 「10キロ仕込みで1回だったのを、4で割ると2・5キロになりますが、確か3キロ仕込みで4回にオペレーションを変えました」(高田さん)
 午前10時、正午、午後2時、午後4時の1日4回焼き上がるようにして、4回の焼き上がり時間を書いた大きな垂れ幕を作って、顧客にアピールした。
 「やっぱり焼きたては売れるわけですよ。もうびっくりするぐらいすぐに反応が出ました。数カ月後には、1回5キロ仕込みの4回で、1日の仕込み量が20キロになっていました。そうなると、もう、いい方向に加速度的に動き出して、今では、24キロ仕込みを6回やっています。1回に仕込んだ生地は2回に分けて焼いています。天然酵母なので、発酵時間の調節は比較的楽にできるんですよ。だから、今は、12回食パンが出ることになり、1日350斤売れる看板商品に育ちました」と高田さんはいう。

焼きたてで食べなくても焼きたての感動は残る
 高田さんは、パンの一番のサービスは「焼きたて」だと考えている。
 「食パンなんて、朝一度に焼いてしまって、スライスして袋に入れて、店に並べておけばいい、みたいなことが一般的な考え方だと思うんですが、そうじゃなくて、焼きたての食パンを買ったときの喜びと感動はやっぱりすごくあると思うんですよね。焼きたてを買っても、焼きたての状態で食べないこともあるのだと思いますが、それでもお客さんにとって焼きたてを買ったという感動が残るんだと思いますね。野菜に例えれば、お客さんが畑から採っていく感じだと思うんですよね。畑から採っていった野菜は、例え次の日に食べても、どこか違うと思うんですよ」
 高田さんは、焼きたてのデメリットもきちんと把握している。「焼きたては、もって帰ったら形が崩れたり、湿気がついてしまったりと、実はデメリットもあるんです。でもそんなことを吹き飛ばしてしまうくらい焼きたてを買ったという感動はお客さんにとって大きいことなんですね」。
 サンセリテは売り場12坪で、現在平均日商は50万円だが、これぐらい売れ出すと、商品の回転がよくなり「すべての商品が焼きたて」になってしまう傾向があるという。しかし、商品によって、売れる個数と、焼きたての必要度が違ってくるので、アイテムごとの1日の焼成回数はおのずと決まってくるのだという。
 「例えば、クリームパンなんかは、僕の中では、焼きたてでなくてもおいしい商品だと思っています。形が崩れやすいですしね。でも、1日4回は焼いていますけれどね」
 調理パンに使うコッペパンなどは、かなり焼成回数が多い。生地は冷蔵で取ってあって、成形してホイロに入れて焼くという形だが、客の様子を見ながら、少しずつ焼いて、粗熱がとれたら、揚げたて、焼きたての具材を挟んですぐ店に出すという流れになる。「パンも具材も出来たて」がコンセプトなのだ。
 一方で、高田さんは、焼きたてを追求する前提として、パンのクオリティーを維持することの重要性を強調する。
 「焼きたてだったら何でもいいかというと、決してそうではありません。味がしっかりした上で、焼きたてを追求しなければだめだと思います」



「焼きたてを追求する」と創業時に決めた‐ ピーターパン横手和彦社長の話
 当社では、焼きたてというのは、窯出しから30分以内のことを言います。焼成後30分以内であれば、パンの芯の部分にまだ熱があります。お客様にも聞いてみたのですが、手を近付けてみて、温もりを感じず、常温になってしまったら、焼きたてとは感じられないようです。
 常連客が、パンに手の甲をかざしたり、パンをのせたトレイの下に手を当てて確認する光景も目にします。当店の商品には、揚げたて、焼きたての温かさが求められているんですね。
 店を開業したのは78年。その当時は駅前の大きなベーカリーを見ると品揃えが豊富で、そこには選ぶ楽しみがありました。
 一方、自店は売り場面積6坪で厨房10坪の小スペース。さらにベーカリーでの見習い期間はたったの8カ月です。腕に自信があるわけではありませんし、たくさんの種類の商品を揃えることも難しい。
 こうした状況で、どうしたらお客さんに喜んでもらえるかを考えたとき、常に焼きたてのパンがある店にしようと決めました。焼きたてのおいしさと出合ったのは見習いのとき。見習いに入って自分で作るようになる前までは、経験したことのないおいしさだったんです。
 スタッフ5人で40品目を作り、1日の売上げはだいたい8万円くらい。常に焼きたての状態で提供するためには、販売数が少なくても、回転率を上げなければならない。そのためにいろいろと試行錯誤をしました。
 当時は冷凍耐性のイーストもなかったので、仕込み回数を増やさないといけませんでした。最低2キロ仕込みは必要なところを、無理矢理1・5キロで仕込みました。また、焼成するまでの時間を稼ぐために、冷蔵庫で生地を保管してから常温に置いたりしました。こうすることで味が多少落ちたとしても、焼きたての状態で提供することの方が大事だったんです。選択と集中の考え方です。
 フィリングのあんことカスタード、カレーを、すべて自家製にこだわっていたのもそうです。パン生地自体の味ではかなわないから、どこにも負けないおいしいフィリングを作ろうと思ったんです。以前に飲食店で調理の経験があったので、フィリング作りには自信がありました。
 創業から30年以上が経ち、5店に店舗が増えた今も、焼きたてと、自家製のフィリングにこだわることは変わっていません。お客様が当店に対して、焼きたてを第一に求めているということです。ただ、昔は「ここのだけ、買って帰ったときにはつぶれちゃっているのよね」と言って喜んでくれたお客様がいましたが、今はそう言ってくれる方はいませんね。それほど、昔は焼きたてのパンが珍しかったということですが。
 これまで、テラス席や、サンドのオーダーもできるカウンターを設置したり、コーヒーのサービスを導入したりと、店舗の機能を充実させてきましたが、これらはすべて、焼きたてのパンをおいしく食べてもらうための方策です。テラス席は、創業当時の小さな店舗のときに「焼きたてだから早く食べたい。外に座って食べられるようなベンチがあるといいのに」という要望のもとに誕生しました。今後も経営していく中で、焼きたてのパンが中心にあることは変わることがありません。



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