一般住宅に埋もれる立地にも関わらず2カ月で多くの固定客 - ブランスリー電子版

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お店拝見/2011年1月号

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一般住宅に埋もれる立地にも関わらず2カ月で多くの固定客
隣近所の一般の住宅にすっかり溶け込んでいる佇まいの店舗
製造と販売を一人でこなす田中真司シェフ。「休むのも忘れるほど、パン作りが楽しい」と言う
「こだわりは、『おいしい』と思う価値観を大切にすること」と言う田中シェフが目指すバゲットは、さっくりとした軽い食感。ツイストしているが、焼く前にガチョウ油をぬることで、ひきを抑えた食感にできる
 東京・世田谷区の閑静な住宅街に9月3日、オープンした「TOLO PAN TOKYO(トロパントウキョウ) COFFEE&BAKERY」は、東急田園都市線池尻大橋駅からすぐの所にある「TOLO PAN TOKYO」の2号店。2店の距離は近く、約3キロしか離れていない。
 「近くに1号店がありますが、トロって何?って言われるほど、この辺りの人には全然知られていなくて。オープンして1カ月くらいの間、お客さんは本当に少なかったです」と話すのは、シェフを務める田中真司さん。
 商店街の中にある池尻大橋の店と違って、同店は隣近所が一般住宅という立地。かつ、一般住宅の建物をリフォームしたという同店は、店前まで来て看板を見なければ、ベーカリーだと分からない見た目だ。
 しかし、1カ月半が過ぎた頃から客足は徐々に増え始め、3カ月が経った今、平日は50人、土日は100人近くが訪れるようになった。田中シェフは「こんなにお客さんが来てくれるようになるまでには、もう少し時間がかかると思っていました」と、予想外のうれしさだと話す。



ちらりほらりといるありがたい客の存在
絹豆腐を練りこんだ「オリジナルベーグル」(180円)。もちもちとした食感だが歯切れがよく、サンドイッチのパンとしても最適。ローストしてマリネしたパプリカ、ルッコラ、モッツァレラチーズなどをベーグルでサンドした「ベジタブルサンドイッチ」(420円)は、オーダーを受けてから作る
2階にはカフェスペースがあり、ランチタイムからディナータイムまで便利に利用できるドリンクや食事メニューが豊富に揃う。ビールやワイン、カクテルなどアルコールの種類も多い
ランチタイムで人気のメニュー「牛ハラミのビーフシチューセット(パンまたはライスとドリンク付き)」(950円)。セットの盛り合わせのパンはバゲットなどハード系が3種類ほど。スライスして温められた状態で提供される
 目立たない立地にも関わらず、こうして客足を増やすことができたのは、クチコミによる効果が大きいようだ。
 「近所のフラダンス教室に通っているお客さんが、100人近くいる他の生徒さんたちに広めてくれました。今では小学生の子どもを持つ30代の主婦を中心に、60代の女性まで幅広い年齢層の人が買いに来てくれます。このようにして広めてくれるありがたいお客さんが、ちらりほらりといるんです」
 現在、製造と販売を田中シェフが一人で行っている。わずかな睡眠時間で一日のほとんどの時間、パンと向き合っている。しかし、「休むのも忘れてしまうくらい、パンを作るのが好き」と話す田中シェフの表情からは楽しさが溢れ出ている。
 「ちらりほらりといるありがたい客」というのは、こうした田中シェフのパン作りへの情熱が生み出しているのだろう。こんなエピソードもある。
 「初めての来店のとき『こんな見た目じゃないわ』などと、とにかく嫌なこと言うお客さんがいました。パンの説明をしても、聞く耳を持たないといった様子でした。それでも、また来てくれたんです。『本日のパン』として、毎日違うパンを作っているのですが、『明日は何作るの?』って聞いてきてくれて。そこから次第に打ち解けていったような気がします。今では、長年通っていたほかのパン屋さんに行かなくなったって言って、常連さんになってくれました」
 東京・世田谷は、下町とは違って気位の高い人が多く住んでいる。そのような環境で新しく常連客を作っていくのは容易なことではない。また、オープンした直後は興味本位で来てくれても、その次に繋げる何かがなければ、再来店はなく、クチコミが広がることもない。
 「最初は嫌なことを言っていたお客さんが、おいしいと言ってくれたり、褒めてくれるようになった瞬間が、一番うれしくて、やりがいを感じるんです」
 ベーカリーではよく、常に80点以上の出来を維持することが大切だと言われている。しかし、田中シェフは常に100点を目指すと言う。
 「100点は今出せなかったら、いつでもどんなときでも出せないという気持ちで作っています」
 田中シェフは高校生時代、ボクシングに打ち込んでいた。
 「ボクシングは試合の途中で休憩がありますが、この場所に立っている間は常に全力です」。厨房に立ち、客にパンの説明をしたり会話をする姿からは、楽しさが溢れ出ている。



気持ちの和むパン屋を目指す
昼時になると、周辺の会社員たちで賑わう(第1号店の「TOLO PAN TOKYO」)
池尻大橋駅近くにある1号店は、商店街の中にある
ジブリ美術館内、ミュージアム
ショップ「マンマユート」に展示
された飾りパン



 店名の「トロ」は、漢字で書けば「瀞」。「来店したときに瀞のように緩やかに、気持ちが和んでもらいたい」という気持ちで付けた。カフェのように、心が温まる雰囲気も提供したいという。
 田中シェフがパン作りに魅了されたきっかけは、学生時代に宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」を観たこと。「映画の中に出てくるパン屋さんが、店主も商品も店内もすべての要素がとても温かくて、人を包みこんでくれる存在だと感じた」のだという。
 「パンがおいしいことはもちろんですが、スタッフみんなで、気持ちの良い挨拶ができることを大事にしています」
 東京・三鷹市の三鷹の森ジブリ美術館に12月1日から26日までの期間限定で、田中シェフをはじめ同店のスタッフらが製作した飾りパンが展示された。今年の同館のクリスマス装飾のモチーフ、「麦」と「パン」を装飾に取り入れたい、という相談があり、依頼を受けたのだという。
 宮崎駿監督の映画から、パン職人を志すきっかけをもらった田中シェフ。今回は、同館を訪れた人々に飾りパンで目を楽しませ、パンの温もりを伝えている。
 ※ジブリ美術館は日時指定予約制、同館のクリスマス装飾は2010年12月26日(日)まで。



SHOP DATA

店名 TOLO PAN TOKYO COFFEE&BAKERY
住所 東京都世田谷区代田5‐3‐1
電話 03‐5787‐6732
営業時間 正午〜午後11時
定休日 火曜日
品目数 35種類
スタッフ 3人

原価計算女王
原価計算女王

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