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特集/2010年12月号

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地場産品とベーカリー
中沢さんが栽培した旬野菜を使ったキッシュ
中沢さんの栽培する無農薬、無化学肥料で作った野菜。毎朝採り立てたてで鮮度抜群だ。値段の書いてある紙には野菜の特徴と、中沢さんの携帯番号も記されている
10月、「日本全国ご当地パン祭り」(全パン連主催)が初開催されるなど、各地元でしか食べられないパンが話題になっている。
それらのパンの多くが、地場産品を使った、地元の人々に愛され続けているものだ。
パンに地場産品を使うことは、希薄になりつつある近所付き合いや、地域の交流を生む良いきっかけとなっているようだ。



近くの直売所で買った野菜のおいしさをパン作りで伝える
渡辺聡シェフ(左)と、旬のさつまいもを手にした、無農薬、無化学肥料で野菜を栽培している中沢聡さん(右)
 朝採れたばかりのニラ、さつまいも、里芋。横浜市青葉区にあるベーカリー「鴨志田パン」には、これらの鮮度抜群の野菜が並ぶ。
 鮮度の良さだけでなく、無農薬・無科学肥料栽培にもこだわった、一層の手間がかけられた野菜だ。それにも関わらず、値段は100〜200円と、ものによってはスーパーよりも安い。野菜は購入するだけでなく、キッシュやイートインのスープでも味わうことができる。
 同店のある青葉区は、都内へ向かう電車が「田園都市線」というように、都心にありながら田園風景が残されている。また、男性の平均寿命が全国1位という結果からも、住環境の良さが伺える地区だ。
 「商業施設や教育機関が充実していて便利な街なんですが、緑が多くて、畑も結構あるんです」と渡辺聡シェフ。
 渡辺シェフは7年前、都内から自然環境に恵まれた青葉区に引っ越してきた。自宅付近には畑が広がり、そこで収穫された野菜は、畑の前の直売所で買うことができる。直売所の野菜を購入して食べるごとに、採れたて野菜の美味しさを改めて実感したという。
 越してきた当初は考えもしなかったが、「地元で採れたばかりの野菜が、こんなにもおいしいんだ、ということを伝えていきたい」
 この思いが強まった結果、ベーカリーのオープンに至った。また、オープン当初は、2種類ほどだった野菜のキッシュは旬野菜の出来に応じて種類を増やし、野菜自体の販売をするまでに至った。
 同店で扱う野菜を栽培しているのは中沢聡さん。今年2月から農業を始めたという中沢さんは、他の仕事をしながら農業をするという今話題の「半農半X」。半農と言っても、中沢さんのやり方は農薬と化学肥料を使わないので、畑に出るのは毎日欠かせないという。
 中沢さんの畑は、同店から徒歩5、6分という近さ。毎朝、収穫したばかりのものを配達してくれるので、「お客様に、さっきまで土にいた野菜を提供できます。遠くから運んで来ると、その間に鮮度がどんどん失われていきます。無農薬、無化学肥料だと、高価だと思われがちですが、配送にかかる時間やコストが最小限に抑えられるので、低価格で提供できるんです」(中沢さん)
 鮮度の良さだけでなく、中沢さんの作る野菜は味が濃いと評判だ。「ここの自然の中で採れたものを食べていけばいいんです」と、中沢さんの畑ではハウス栽培をしていない。自然の土と気候の中で育てると成長が遅く、じっくりと育っていく分、味の濃い野菜になるからだ。



旬野菜があってこそ生み出されるレシピ
「かぼちゃのキッシュ」(248円)
「さつまいもとカマンベールチーズのキッシュ」(278円)。鮮やかな色の紫芋の角切りがたっぷり入っている
 こうして自然に逆らわないやり方で作る中沢さんの野菜には、旬がある。
 「夏のある時期、棚が茄子一色になったんです。パンを買いに来たお客さんも、棚が茄子で埋め尽くされている様子に買わずにいられない状況で(笑)。皆さん買っていってくれました」(渡辺シェフ)
 スーパーの野菜コーナーなどでは、品揃えが良いことから、今何が旬なのかが分かりにくくなっている。しかし、中沢さんの畑でそのとき採れたものが並ぶ鴨志田パンに来れば一目瞭然だ。
 「茄子が旬だった頃は、茄子によって鍛えられました」と渡辺シェフ。
 「今一番おいしい野菜は茄子、そして茄子しかない」という状況では、あらゆる調理法で茄子を使おうとすることで、料理のレパートリーの幅が広がったのだ。
 「商品作りのために必要な野菜を仕入れるのではなくて、まず、旬野菜がある。その野菜をどうしたらおいしく調理できるのかと考えることからレシピ作りが始まります。発想の展開が逆になるんですね」(渡辺シェフ)

旬の野菜で作るキッシュ
キッシュは、フォークとナイフで食べるフランス料理というよりも、旬のおいしい野菜を食べるための家庭料理として作っています。野菜の味を楽しんでもらうことが一番なので、色味や食感などをできるだけ生かしています。惣菜パンのような感覚で気軽に食べてもらえればうれしいです」と渡辺シェフ。ホールでの注文もあり、誕生日などのイベントによく利用されるという



ベーカリーと地場の野菜が地域の交流を生む
鴨志田パンが愛犬の散歩コースとなっているという男性客と、野菜を栽培している中沢さん。地場野菜を介し、店内で地域の交流が生まれる
店内にはカフェスペースがあり、旬野菜を使ったスープや、ドリンク、パンが楽しめる。午前11時半から2時までのランチタイムには、キッシュ、クロワッサンやクルミパン(いずれか1つ)とドリンクがセットになった「ランチセット」(500円)のお得なセットがある

 夏の暑さが過ぎるとともに、夏の茄子が終わり秋茄子へと変わった。そして「この前、茄子の木が倒れました。今年の茄子は、もう終わり」と中沢さん。こうした生産者の話を聞けるのも、毎日配達に来てくれるからこそだ。
 秋茄子が旬だった頃は、中沢さんは渡辺シェフに「秋茄子は水分の多い夏の茄子よりも皮がやわらかくて味が濃い」などと話した。そしてこのことは、渡辺シェフが来店客にも伝える。さらにシェフがレシピ作りの過程で感じたことなども話に加えるので話が膨らむ。
 「都心に通勤している人は、地元との繋がりがなかなか持てません。でも、何か地元のモノがあれば、交流のきっかけが生まれます」と渡辺シェフ。
 生産者、加工者、消費者、その3者が地場の野菜によって結ばれる。野菜が地場のものだからこそ、地域の人同士の一体感も生み出す。
 また、都会では昨今、近所付き合いが希薄になってきている。
 「わざわざ出掛けるのではなく、普段の移動の中で付き合える。女性一人でもふらっと入れる。そういった場に
パン店はなれるんだと思います。近所の人同士の交流が、面倒でない形でできる場になれるのではないでしょうか」
 また、twitter(ツイッター)やブログの活用も欠かせないという。パン教室開催の日時や、季節の野菜や新しいパンの情報を発信している。



販売・実績データを作るより、毎日来店してもらう
野菜の棚とカフェスペース
同店はスーパーの前の立地
 渡辺シェフは同店をオープンし、オーナーシェフとなる前、コンビニや飲食業などで新規事業開発などを手掛け、美容院を120店舗経営した。現在は、経営コンサルティングも行っている。
 「美容院では、顧客管理を徹底しています。顧客一人ひとりについて、髪質から予約のタイミング、住所などデータが細かい。そうするのも、客単価が一カ月に平均すると5000円くらいあるからでしょうか。でも、一カ月の客単価で考えると、パン店もほとんど同じ。販売・実績データよりも、顧客データを重視し、お客さんとの交流を大切にしています。毎日野菜やパンを買いに来てもらえれば、お客さんのことを知ることができる上に、互いの信頼関係も生まれます」
 同店の立地はスーパーの前。「価格では競争しません」と渡辺シェフ。特に休日は遠方からわざわざ買いに来る客がおり、「おいしいものや好きなものは、探してでも買いに来てくれます。この場所にある当店でしか作れないものを作っていきたいです」
 店名の「鴨志田パン」は、同店がある場所の地名から名付けられたものだ。「鴨志田のご当地パンが買える店」として、地域にますます根付いていくだろう。

SHOP DATA
住所 神奈川県横浜市青葉区
    鴨志田539‐2
電話番号 045‐962‐5855
定休日 水曜日
営業時間 午前11時〜午後8時
スタッフ 3人
店舗面積 厨房5坪、売り場5坪

◆ブログhttp://ameblo.jp/kamoshidapan/

原価計算女王
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