きめ細かな仕事こそリテールの独壇場スーパーマーケットのインストアベーカリーを始めとし、低価格志向を顧客に訴求するスーパーセンター、24時間営業の便利さを提供するコンビニエンス・ストアなど、各種の異業種と激しく顧客獲得争いを展開するアメリカのリテールベーカリーであるが、「高品質」 「きめ細かな顧客サーピス」に加えて「地元の顧客ニーズ」を取り入れた商品開発こそがリテールベーカリーが生き残れるための最重要要素である。
あらゆる人種が混在するアメリカは食生活においてもエスニックの集合体でもある。
リテールベーカリーどうしの話でも「自分の店の常連客に、こんなパンを焼いて欲しい」とか「子供たちのピクニックに珍しいペイストリーを食べさせたいが何かアイデアはないだろうか?」といった顧客からの要望や質問が多いとの事だ。このような細かい仕事こそがリテールの独壇場であろう。
そこで今回は彼らがどのような手段で商品開発をしているかというテーマで、その実例のいくつかを紹介したい。
まずRBA(リテーラーズ・ベーカリー協会)が発行した「ワークショップ ブック」というベーカリー商品のレシピ集に書かれている「商品開発のための年間イベント」は次の通りだ。
内容は祝日にあたる「ホリディ」、催事にあたる「スペシャル イベント」に分かれており、さらに月別に見たべーカリー商品の特性が書かれている。
年間のイベントスケジュールを参考にするイベントスケジュールをRBAが提案▼1月
寒い時期なのでクリームを使った各種商品がお薦め。またホットコーヒーと組み合わせた各種コーヒーケーキが売れる時期である。
○ホリディ=ニューイヤー ディ(新年)
〇1月はホワイト・セール(エンジェルフード ケーキ、スノーボール、バルチモア ケーキ、ホワイトコーヒーケーキ、ホワイト マウンテン ロール、ココナッツクリームケーキなど)
▼2月
真冬の時期なので甘味の物が良く売れる。
〇ホリディ=リンカーン誕生日(12日)、ヴァレンタイン ディ(14日)、ワシントン誕生日
〇2月はチェリーの月(チェリーパイ、チェリー タルト、チェリー ロール、チェリー コーヒーケーキ、チェリー クッキー、チェリー マフィンなど)
▼3月
寒い時期から春へと季節が移り変わる時期。
○ホリディ=セントパトリック ディ(17日)
〇3月はアイルランドのお祭りの月(アイリッシュ レーズン ブレッド、クローバー ロール、グリーン サンドイッチ ブレッド、ホット クロス パン、バターナッツ ロールなど)
▼4月
春到来の季節、またイースター(復活祭)が最大の祭事。この時期の商品はイースター ブレッド、ラムケーキ、エッグ ケーキ、バニー コーヒーケーキなど。
▼5月
春盛りの季節で新鮮なストロベリーが出始める。
〇ホリディ=母の日(第2日曜日)
〇5月は「レーズン週間」が開かれる。レーズンを使った各種商品
▼6月
初夏の季節、ピクニックシーズンの到来、卒業式の季節。
○ホリディ=父の日(第3日曜日)
〇六月は新鮮なブラック ラズベリーが出始める。結婚式が多い時期でもある。
デコレーション ケーキの注文が増える。卒業式パーティ用の各種サンドイッチで忙しい。
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| アイリッシュ レーズン ブレッドは、アイルランド出身の人々のお祭り「セントパトリックディ」にちなんだ商品。 | ジンジャーの香りが食欲をそそる。ジンジャー ブレッドはクリスマス前後の冬の風物詩だ。 |
リンゴ週間、ドーナツ月間など▼7月
学校が夏休みでピクニックや各種イベントが盛ん。
〇ホリディ=独立記念日 (7月4日)
アメリカ最大のイベント、国旗をあしらった各種商品が人気。
〇七月は新鮮なブルーベリーが出始める。バーベキューが人気で、関連ベーカリー商品が売れる。
▼8月
夏の盛りの季節。学校のイベントが盛ん。
〇八月はサンドイッチの日でバンズ類が良く売れる。新鮮なピーチが出まわる。
▼9月
季節は夏から秋へと移る。学校の新学期が始まる。
〇ホリディ=レーバーディ (第1月曜日)
〇九月の新学期に向けた各種商品。クッキー、子供の昼食用商品。また「プロティン ブレッド」月間が行なわれる。
▼10月
秋の到来。パンプキン(カボチャ)の収穫時期。
○ホリディ=「コロンブスの日」
○十月はハロウィーン祭りの月(31日)。また各地でパンプキン祭りが行われる。「ドーナツ月間」「リンゴ週間」が開催される。ハロウィーン クッキー、パンプキン パイ、ジンジャー ブレッドなど。
▼11月
晩秋の季節。農作物の収穫の時期。
○ホリディ=ベテランズ ディ=退役軍人の日、 感謝祭(第4木曜日)
〇11月は収穫された農作物にべーカリー商品を組み合わせた各種イベントが盛ん。「レーズン ブレッドの日」
▼12月
クリスマスに向かって何かと忙しくなる時期。ベーカリー商品開発で最も重要な時期。
〇ホリディ=クリスマス(25日)、ニューイヤー イブ(大晦日)
○クリスマス用の各種商品が店頭に並ぶ。
オーナーの創意工夫でユニークなイベント「月世界旅行を考える日」「親子のきずな月間」などさてリテールベーカリーは実際にどのようなアイデアを商品開発に取り入れているのだろうか? その実例を調べてみた。
実例(1)
オハイオ州にある「セルバッチイ」ベーカリーの場合
▼6月の販売促進イベント
「親子のきずな月間」=夏休みに入った子供たちと親がきずなを確かめ合うための各種イベントに参加。
「ターキー月間」=焼き立てパンに夕ーキーを組み合わせた販売促進。
「ピクニックの日」=6月の第2土曜日は親子でピクニックに出かける日。アップル マフィン、シュトルーデルなどが良く売れる。
▼7月の販売促進イベント
「ブルーベリー月間」=新鮮なブルーベリーを使ったパイが人気。
「子供たちのベーカリー工場見学の日」=夏休みも半ばとなり毎日が退屈するので、パンやケーキを作っているベーカリー工場を子供たちに見学させるイベント。
「うっかり忘れてしまっていた家族の誕生日や結婚記念日を改めて祝う日」=きれいにデザインされたクッキーに家族からのメッセージを書いたカードを添えてプレゼントすれば、お互いにハッピーになれる、というアイデア。
「双子を祝う日」=ベーカリーに双子の兄弟を連れて行けば、お祝いにクッキーを差し上げます、というイベント。
「月世界旅行を考える日」=月を型どったチョコレート ケーキを作って将来の夢を語り合おうーーそんなイベントのための商品開発。
「両親に感謝する日」=化粧箱に入れて感謝の言葉を添えたクッキーを準備。
このようなアイデアはベーカリーオーナーの創意工夫により無限に沸いてくると思う。また固定客確保につながるのであろう。
サンドイッチで品揃えを強化する
実例(2)
ミシガン州で5店舗を持つジンガーマン ベーカリーの場合
このベーカリーはおそらくオーナーが前向きな経営をしているようで、本店がベーカリー、支店がベーカリー・カフェ、さらに若手のべーカーを集めて製造技術を教えるという活躍ぶりだ。
基幹商品であるブレッド類はどのような物だろうか、調べてみた結果を紹介しよう。そのコンセプトは極めて明解で、次のように分かれている。
〇アメリカン オリジナル
8種の雑穀、3種の種入りブレッド、地ビール入りブレッド、チリ・チェダーチーズ入りブレッド、地元風デトロイト サワーブレッド、パルメザンチーズ入りペッバーフレッド。
〇ヨーロピアン ブレッド
ファーマー ブレッド、モンタンヤ ブレッド、パエザノ ブレッド(オリーブオイル入り)、シチリア風セモリナ ブレッド。
〇ジューイッシュ(ユダヤ風)ブレッド
キャラウェイ ライブレッド、ハラ ブレッド、チェンヌシュカ ライブレッド、オニオン ライブレッド、プンパーニッケル、ツイステル ブレッド。
このベーカリーで注目されるのは、これらのベーカリー商品を使った百種類以上のサンドイッチを季節に応じて選んで店頭に出している事だ。つまりお客を確実につかむ手段としてベーカリー商品の多品種化ではなく、サンドイッチという加工商品をワイド化している事だ。当然ながら粗利益率は高くなるし、従釆のベーカリー営業形態と異なる昼・夕時間帯をターゲットとした、いわゆる「アフタヌーン ベーカリー」の発想である。
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| アメリカ南部ルイジアナ州のニューオルリンズで開かれる有名なお祭り「マルチグラ」にまつわるケーキの一例。 | 同じくキングスケーキ。 |
歴代大統領の横顔をデザイン
実例(3)
イリノイ州で創立110年以上という古い歴史を持つディアフィールド ベーカリーの場合
このベーカリーの商品開発もまことにユニークである。というのは顧客の職業に関連した、まさにライフスタイル密着であるからだ。
その実例をあげてみよう。
〇プレジデント ディ
それぞれの時代のアメリカを担う大統領 の横顔をデザインしたべーカリー商品化で地元で評判になったという。
〇ナース ディ
看護婦さんがかぶる帽子をデザインしたクッキーを地元の病院で販売してヒット商品となった。ちなみにアメリカには自分が好みのデザインをすれば、それをもとにしてクッキーの金型を作ってくれるメーカーがある。日本でも会社の創立記念のお祝い商品アイデアなどにいかがであろうか。
〇セクレタリー ディ
会社経営に専念する社長は有能な秘書が必要だ。その秘書が仕事に欠かせない携帯電話や電子アドレス帳をデザインしたブルーなどの色つきクッキーを売り出して評判となった。
これら商品開発例を見ていくと、いろいろな発想とパターンがある事が分かる。
ちなみにRBAが持っている会員用の「配合集」には2000種以上が載っていて、必要に応じて公開してくれる。
また民間の会社でも年間会費を払えば同じようなレシピー・サービスを提供してくれる。特に時間に追われるリテールベーカーにとっては、ありがたいシステムと言えよう。