ディンケルの種子を日本に持ち帰る-大地堂 - ブランスリー電子版

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お店拝見/2010年2月号

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ディンケルの種子を日本に持ち帰る-大地堂
中田さんの実家の蔵を改築した大地堂の入り口
10種類のパンなど、試食をしてから購入できる
店長の中田志穂さん。ドイツからディンケルの種子を持ち帰り、自家栽培をしている
 滋賀県の近江八幡駅から車で約1時間。畑や民家が点在するのどかな場所に大地堂はある。同店の営業日は週4日。店長の中田志穂さんは、パンに使う小麦を栽培するため、農作業もこなしているからだ。
 大地堂で使っている小麦は、パン用小麦の原種にあたる古代小麦(ドイツ語でディンケルという)。日本で栽培されていなかったディンケルを、中田さんは修行先のドイツから種子を持ち帰り、05年から栽培を始めた。日本国内で販売用としてのディンケルの栽培は、中田さんが初めてだ。「まず、ディンケルがどういうものかということから証明する必要があって。種子を持ち込むための手続きに苦労しました」(中田さん)。手続きには、修行先のマイスターとその知人の農家の協力が欠かせなかったという。
 中田さんと一緒にディンケルの栽培に励むのは、義兄で農業家の廣瀬敬一郎さん。「廣瀬さんの後押しがあったのでディンケルの種子を持ち帰ることができました」(中田さん)。日本では不可能だといわれていたディンケルの栽培だったが、廣瀬さんは手探りで取り組み、実現させた。「毎年気候も変わるし、収量の目処も立たないけれど、なんとか少しずつ収量が増えてきています」(廣瀬さん)
 中田さんがディンケルの魅力を知ったのは、京都の仏料理店でパンの担当になり、納得する味を追求しようとヨーロッパに渡ったときだ。「イタリア、フランス、ドイツと回った中で、ドイツパンのおいしさに惹かれました。おいしいパンを作りたい。そのためにも日本にディンケルを広めたいと思いました」(中田さん)
 ディンケルは単位面積あたりの収量が低い上、厚い殻に覆われているため、脱穀する手間もかかる。しかし殻が厚い分、ふすまが薄い構造をとっているので一般の小麦より、ふすまの粒子が細かい全粒粉になるという。そのため、小麦の栄養をしっかり吸収できる。また、風味が豊かでナッツのような香ばしさが特徴だ。
 製粉は中田さんが自ら行っている。製粉機は畑近くの作業所と店舗の2カ所にあり、自家栽培のディンケルと小麦だけでなく、北海道などから仕入れるライ麦も、粒のまま仕入れて製粉している。摩擦熱で粉の持つ風味を飛ばさないよう、石臼は低速で回す。



予約制を取り価格を抑える
左から「100%ディンケルブロート」(750円)、「発芽玄米ブロート」(650円)、「ディンケルのつぶつぶブロート」(300円)
ディンケルを粒のまま入れた「ディンケルのつぶつぶブロート」
醤油を塗ってトーストすると焼きおにぎりに似た味わいの「発芽玄米ブロート」
大地堂の店内。ディンケルやごまぞうなどが商品とともに展示されている
 大地堂のパンは、予約制を取っている。「自家栽培の小麦を使っているので、収穫できた小麦の分だけパンを作ります。材料に限りがあるのでロスは出せません」(中田さん)。売上げの半分以上は通信販売が占め、来店して求める客にも、事前に注文してもらうようにしている。「ロスを出した分が価格に影響します。ディンケルは、ただでさえ知名度が低いですから、もっと多くの人に親しんでもらえるように、価格をできる限り抑える努力をしています。そのためにも、お客様には協力してもらって、予約制を取っています」(中田さん)
 同店のパンは、ずっしりと重いドイツパンだ。「ドイツパンを作りたいというよりも、ディンケルのおいしさを伝えようと行き着いたのが、ドイツパンでした」(中田さん)。ディンケルは、粉にせず粒のまま生地に混ぜ込むと、プチプチとした食感が楽しめるという。アイテム数は10種類のパン、スコーン、8種類の菓子。そのどれもが、食材そのものが持っている食感や風味を重視して作られている。「米は炊いて食べるのが一番おいしいと思って」と作ったのは「発芽玄米ブロート」(650円)で、ディンケルとライ麦で作った生地に、炊いた玄米を50%配合している。口に入れるとしっとりとしてもごもごしない。醤油を塗ってトーストすれば、まるで焼きおにぎりを食べているような錯覚に陥る一品だ。
 「ディンケルのつぶつぶブロート」
(300円)は一晩水に浸したディンケルに、ひまわりの種、ごま、亜麻仁、燕麦、国産ライ麦の5種類の雑穀を合わせたパン。生地の中に雑穀がやっと収まっているように見えるが、どの雑穀も生地に馴染んで一体感があり、温めるとふっくらとした食感が楽しめる。「ディンケル特有の風味を楽しむなら」と中田さんが用意したのは「ホットケーキミックス」(210円/200グラム)。ディンケルは、ホットケーキやクレープなど、作る過程でストレスを与えないで済むものの方が風味がよく味わえるという。焼き上がりはふんわりとして、ディンケル特有の風味が口に入れた途端にふわっと広がる。



材料一つを取っても物語のあるパン
普通小麦(右)は殻がすぐに取れるのに対し、頑丈な殻に包まれた脱穀の手間のかかるディンケル(左)
ディンケルや普通小麦など、大地堂のパンの材料を栽培している農業家で、中田さんの義兄である廣瀬敬一郎さん。ディンケルの栽培を手探りで始め、実現させた
左は「自家栽培ごまぞうのクッキー」(250円)、右はからす麦、ひまわりの種、亜麻仁、粟をキャラメルで固めた「ドイツ菓子カヒェルキュルビスクッキー(6個入)」(350円)
地元で育った野性の鹿のもも肉を使った「鹿のリエット」(800円/70グラム)は、。甘みとコク味がある。ハーブとチリの2種類
ディンケルなど、大地堂のパン作りに必要な材料や、中田さんのパン作りへの思いが手作りのノートや写真などで展示されている
 店内は、大地堂のパンと材料について書かれた、中田さん手作りの本や貼り紙でいっぱいだ。「大地堂のパンにはたくさんの物語があります。材料の小麦一つをとっても、種子を手に入れることから自家栽培に至るまで、多くの出来事がありました。こういったことはなかなか伝えることができないので、来店してくださった方に見ていただけるように準備しています」(中田さん)
 中田さんはその小柄な体で鹿の解体までこなす。2年前に地域の食材を消費する一環で行われた、鹿肉を使った料理のセミナーに参加。鹿の解体の仕方を学び、実際に自ら鹿の解体から行い、「鹿のリエット」(800円/70グラム)を作った。現在は解体済みの鹿肉を使ってリエットを作っており、定番商品として販売している。鹿肉を地元日野町の養豚メーカー「蔵雄ポーク」の背油で作った自家製ラードで煮込んだ、甘みとコク味、ハーブの香りが豊かなリエットだ。
 現在畑で栽培しているのは、ディンケル、大豆、ごまの一種である「ごまぞう」。普通小麦は他の農家と協同で栽培、大地堂用には2〜3?収穫している。ディンケルの平成21年度の収量は約7?(作付け面積4?)で、22年度は作付け面積を増やし、9?の収量目指す。ごまは、国内に出回っているものの多くが中国産だが、ごまぞうは中国産のものよりも、抗酸化作用があるというセサミンが2倍ほど入っているという。中田さんはごまぞうの栽培も手探りで挑戦。「必要な農薬がわからなかったから、最初はほとんど芋虫に食べられてしまって。だけど何度か挑戦しているうちに、無農薬で育てることができるようになりました」(中田さん)。必要であれば無理をせず最小限の農薬を使おうとする中田さんの姿勢は、「食材の存在を知ってもらうこと」を第一とする考えから生まれている。生産する側と、消費者が協力し合って実現している価格設定が、商品の販売力に繋がっていくのだろう。



SHOP DATA

店名 大地堂
住所 滋賀県蒲生郡日野町村井1377
電話 0748-26-6090
営業時間 金曜・月曜日は午前12時〜
午後8時、土曜・日曜日は午前10時〜午後6時
定休日 火曜〜木曜日
品揃え 19品目(パン10品、スコ
ーン、菓子8品)
WEB http://www.daichidou.com/



原価計算女王
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