作る過程が大切。「みんなで作る」味が一流品になるまで - ブランスリー電子版

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食のトレンドを追う/2009年11月号

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作る過程が大切。「みんなで作る」味が一流品になるまで
葡萄畑から見下ろす遥かな景色
1房1房の葡萄を丁寧に育て、最高のワインを作る
ランチを提供するワイナリー併設のカフェでは地元の無農薬野菜や旬の食材を使った季節の料理が食べられる
 パンとワインは、キリストの血と肉に例えられるほど、長い歴史の中で身近であった食べ物である。「作ること」自体が癒しとなるパン作りや、「作ることに意義がある」だけでは駄目だと品質にとことんこだわるワイン作りのキーワードは、「仲間とともに作ること」。心を込めて、みんなで作った味は、大手メーカーにはない美味しさがある。



的障害者が心を込めて作るピカ一のワイン
1月の収穫祭には、全国からファンが集う、ココ・ファーム・ワイナリー
自家製ワインのほか、グッズなども扱うワインショップ
 栃木県足利市にある「ココ・ファーム・ワイナリー」。毎年11月、第3週目の土・日の2日間で行われる収穫祭には全国から1万6千人ものワイン好きが集まるという、人気のワイナリーだ。
 ワインは全国のレストランやスーパーにも卸しており、一級品の味は有名である。ソムリエ・田崎真也氏に選ばれ、2000年の沖縄サミットでは、首脳の晩餐会に用いられた。このワインを作り出しているのは、知的障害者更生施設「こころみ学園」の園生たち。
 ワイナリーは、こころみ学園の園長・川田昇さんが、戦後、中学校の特殊学級の担任になったとき、作業学習を兼ねて校庭で子供たちと一緒に葡萄を育て始めたことに遡る。川田さんは「山ほどの仕事を用意することで、精神的に鍛えられ、互いに助け合う心も生まれる。知的障害者が誇りと責任の持てる仕事を用意したい」と、1969年、私財を投じてこころみ学園を開設、1980年に、園生の父母らの出資でワイナリーが作られ、4年後に初出荷となった。
 アメリカのカリフォルニアから、ワインの醸造専門家であるブルース・ガットラブ氏を顧問に迎えた。厳しい品質チェックに応えることで、園生たちのワイン作りへの誇りも高まっていった。彼らは、労働基準監督署の担当者に「休みはありません」と言ってしまうほど、生活が労働とともにある。自然のリズムの中にとけこんで働いているという。
 「葡萄は、週休2日で育つものではありません。近代的な労働の枠にとらわれない彼らの働き方は、現代人よりも、より人間らしい、人と労働のあり方だと思います」(職員の池上さん) 園生は、毎日膨大な仕事に明け暮れる。平均傾斜38度の斜面を往復、除草剤は撒かず、草刈も彼らの手によって行われる。草を刈ることも、彼らの大切な仕事だからだ。障害を持っているからといって甘えは一切許されない。しかし、昼間、力いっぱい働くことで、規則正しい生活となる。
 現在、園生のほとんどが中高年者だ。しかし、それは、彼らが長い間ワイナリーで働き続け、ワイン作りの職人となったことの証でもある。作業の流れは身体にしみこみ、季節の移り変わりとともに、すみやかに次の仕事に取り組み始める。1粒1粒良質な葡萄の実を選別し、1房1房、丁寧に袋をかけると、その数は約12万枚にもなるという。その徹底的な緻密さと葡萄への思いやりは、ビジネスとしてのシステムを優先せざるをえない他社ワイナリーやメーカーでは真似できない点である。
 結果として、現在流行の「有機農業」や「オーガニック」などという呼び名で区分されることになったが、決して「オーガニックなワイン作り」が目的ではない。1つ1つの作業過程そのものが、園生たちにとって欠かせない「誇りある生活」なのである。
 さまざまな「こだわり」をウリにする商品があふれているが、市場で勝つためではなく、心からよい葡萄を作りたい、という思いが一級品として結実しているようだ。



「ムッシュ」が呼びかける心の病に悩む人の社会復帰サークル
現在再スタートに向けて準備中のムッシュ・ド・カフェには、ボランティア希望の問い合わせが多数届く
さりげなく置かれた看板だから、構えることなく入れるムッシュ・ド・カフェ
「今日一番の出来!」という固焼きパンの、丸いフォルムやキツネ色、香ばしいにおいに癒される
「うつ病患者の人たちが自分のペースで居られる場所づくりを」と、手作りパンサークルを開く阿川さん
「ムッシュ手作りパンの会」が開かれる、ムッシュ・ド・カフェの店内
 東京のJR八王子駅から10分ほど歩いた住宅街にある「ムッシュ・ド・カフェ」では、パン作りを通して心の病から社会復帰を目指すサークル、「ムッシュ手作りパンの会」の活動が行われている(05年3月設立)。ムッシュこと阿川好夫さんは、自身もうつと付き合いながら、同じ悩みを持つ人々の灯台として、「心の病で悩んでいる人たちが外に出て、社会復帰できるきっかけになれば」とボランティアスタッフとともにうつ病患者の安らぎの場所を作っている。 
 朝10時にカフェを訪れると、女性1人、男性1人のボランティアの方がパンを焼いていた。席には1名、ボラン
ティア希望で訪れた男性が座っていた。
ボランティアの女性に「中に入って」
と呼びかけられ、お茶や果物、「ちょ
っと失敗しちゃった」という焼きたてのパンをいただいた。ゆっくりとした時間の流れを感じながら、阿川さんが配達から戻るまでのわずかの間に、すっかりくつろいでしまった。
 配達から戻った阿川さんに取材中、さらにボランティア希望の女性が2名ほど訪れ、阿川さんは3名のボランティア希望者に、現在休業中で再オープン予定のカフェ運営について説明をしていた。現在、八王子市内に加え、新宿や世田谷、練馬などからもボランティア希望者が来るという。「カフェは、08年3月に開設してから2度ほど、ボランティアスタッフが足りず休業になり、今回が再々オープンなんです。ボランティアの方には、一般の喫茶店のように忙しく働くのではなく、ゆったりとリラックスしながら手伝ってほしいです」と話す。
 現在、阿川さんは、ボランティアスタッフとともに、月・水・金曜日に、約100個程度のパンを焼き、市内各地に販売に出る。そして、これらの日で、午前10時から「ムッシュ手作りパンの会」が開かれる。患者の体調には波があるので、1人も来ない日も、もちろんある(取材日は1人も来なかった)。
 「イースト菌という生き物に接しながら、菌がうまく発酵して上手に焼きあがったとき、パン作りの楽しさを感じるのだと思います」と阿川さん。1つの対象と向き合い、最後に形になるという一連の工程が、参加者の心の癒しにつながるのだろう。
 阿川さんが他の曜日で開いている、市の施設などのパン教室ではさまざまなパン作りを教授する。しかし、「ムッシュ・ド・カフェ」と「ムッシュ手作りパンの会」で作るパンは、2時間で焼きあがる固焼きパン1種類のみ。朝早く起きる必要がないので、心の病にある患者も無理なく取り組めるレシピだからである。
 このパンは、市役所や病院など市の施設の売店などで売っている。卵と牛乳を使わないので、アトピーなどのアレルギーを持つ子供の親には人気だそう。しっとり、もちもちとした食感でとても美味しい。「部屋の温度がわずかに違っても美味しさに差が出ます。毎回、同じように最高のパンを作るのは難しいですね」。スタッフの女性はやりがいを感じていた。
 大量の消費者に選んでもらうことを目指したパンが持つインパクトはない。しかし、パンを作る人の思いや、パンを作るプロセスが、素朴な味や優しい食感の中に織り込まれ、食べる人にゆったりとした時間を過ごさせてくれた。(U)



原価計算女王
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