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| いろいろ、エッセイ/2009年10月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 一人旅の小さな出来事 - 武市 多美夫(パンを売り続けてきた男)
いろいろ、エッセイ(34)
地方のシャッター通りと称される商店街を歩く機会がこのところ続いている。「あそこも」「あちらも」「アララ、こっちもだ」と、そんな状況だ。店のシャッターが、人待ち顔のようにも見えるし、大型車が走り去った後の風に吹かれて泣いているようにも見える。 東京でも賑っていることで有名な商店街を歩いていた時のこと、地方からの修学旅行の中学生の声が耳に入った。「東京だから賑やかだと思ったら、俺らの街と変わらない」「どこもシャッターが閉まっている」と話していた。 その商店街は火曜日が定休日なのだが、それをシャッター通りと勘違いしたようだ。シャッターや店頭に、定休日や営業時間を表示してあるかを確認したが何の表示もない。これでは退店したと思われても仕方ない。 今の時代、昼間にシャッターが閉まっていれば、退店したと思われても不思議ではない。小さな誤解が大きな確信に転換するのに時間はかからない。 久しぶりに東北地方を一人旅した。ローカル線の車窓から見える田んぼの稲は黄金色に色付き始めている。自然の色は心を癒してくれる。日本の美しさは秋が一番だとつくづく思う。 駅に到着してもなかなか開かない扉に戸惑っていると、後ろにいた高校生が開閉釦(ボタン)を押して開けてくれた。こんなことも旅での嬉しい経験だ。都会では自動で動く物が多くて、誰かが遣ってくれることに慣れ過ぎていることに気づく。 あてもなく小さな駅で降りて、あてもなく小さな町を歩いた。「静か」というより「寂しい」と感じさせる東北の町だ。 パンを焼く香りがする方に歩いていくと、ベーカリーというよりパン屋という方が似合う、古くて小さな店があった。 顔のシワが経験の深さを感じさせるご主人が、使いこなした窯の前に静かに立っていた。親しみのこもった顔には余裕すら感じさせたのだが、「もう、今日でこの店もお終いだ」と独り言のようにつぶやいた。 突然、身も知らない私に終りを告げたことに驚いたと同時に、今日までのご主人の言い知れぬ苦労を感じた。 「客もいないし、継ぐ者もいない」 重く悲しい言葉だった。こうして一つのパン屋の歴史が終わる。 同業の身として、小さな声で「お疲れ様でした」と、ご主人に別れの挨拶をさせていただいた。一人旅の小さな出来事だ。 |




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