経験と想像力 - たま木亭 - ブランスリー電子版

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お店拝見/2003年12月号

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経験と想像力 - たま木亭

濃紺の看板が印象的なたま木亭の外観
天職・・・。
そのパン作りに、この言葉が似合うパン職人がいた。
京都府宇治市、たま木亭の玉木潤さんだ。
ドンクでおよそ10年間修業し、2年半前に独立。
全身全霊をかたむけてパン作りに励んできたことの副産物として、強烈な個性が生まれた。

京都府宇治市五ケ庄新開14‐91
電話0774-38-1801
営業時間 午前7時〜午後7時
定休日 月曜日、第2、第4火曜日



小麦粉をどう加工して、どんな食材と組み合わせるか

狭い店内は来店客でぎっしり。


オーナーの玉木潤さん
 JR京都駅から奈良線に乗り継ぎ、7つ目の黄檗駅近くの街道沿いにたま木亭はある。こげ茶色を基調とした趣のある店構えだ。
 こぢんまりとした売り場は、客でごった返していた。
パンを選ぶ人たちにもまれながら、陳列棚を見渡すと、他では見たことがない多くのパンが目に飛び込んできた。
 照明を抑え気味にした店内で、パンだけがライトを浴びて鮮明に浮かび上がっていた。
 オーナーの玉木潤さんは、有名ベーカリーチェーンのドンク出身で、根っからのパン職人だ。ベーカリーワールドカップの日本代表選手として活躍したこともある。
オープンは、2001年2月28日。生まれ故郷の京都府宇治市での開店だった。
 店舗面積13坪のうち、製造スペースが9坪、販売スペースが4坪。
 平日で約20万円、土日には25万円以上を売り上げるという。
 製造スタッフは、玉木さんのほかに男性が2人、女性が1人。販売は、真央美夫人を中心に女性スタッフ3人でこなす。
 「コンセプトなんていうものはありません。小麦粉をどう加工して、どんな食材とどう組み合わせたらおいしいかを考えているだけです」と玉木さんは淡々と話した。パンがすべてを語っていた。
 「強烈な個性」「素朴さ」「気品」「飾らない美しさ」「まじめさ」「想像力」。たま木亭のパンは、そんな言葉が似合う。



「コンセプトなんてない」。経験と想像力で淡々と作る

上生地がカステラの配合に近いという「長崎メロンパン」(130円)。


アーモンドクリームとラム酒にスポットをあてた「ラム・アマンド」(140円)。


有塩バターを折り込んだ「バターロール」(80円)。


ドライイチゴ、ドライパインなどを赤ワインでマリネしたものを包み込んだ「桜」(160円)。
 「長崎メロンパンですか? リッチな感じのメロンパンがいいなと思って、上生地の配合をリッチにしてみました。カステラの配合に近い生地なので、『長崎メロンパン』と名づけました」。玉木さんは淡々と話す。
 「ラム・アマンド」(140円)については「そんな特別なことはありません。ホイロ後カットを入れて、アーモンドクリームを絞り、ラム酒をかけて、チョコチップを散らして焼いただけです」。
 「バターロール」(80円)も独特だ。見た目からはバターロールとわからない。「バターロールだからバターと一緒に食べたら美味しいと考えて、バターロール生地をのばし、有塩バターをのせて2つに折ってまたのばし、さらに有塩バターをのせて折るんです。バターをのせて折る作業を3回繰り返します。それをホイロをとって焼くと面白い形になるんですよ」(玉木さん)。
 「コンセプトですか? そんなものありませんよ。頭の中にバターロール生地と有塩バターがあって、それらをこういう風に加工したらこういう味と形になり、それは自分にとっておいしくて魅力ある商品で、多分お客様もおいしいと感じてくれるだろう――そう思っただけです」
 「次から次へと魅力的なパンが作れたらいいですよね」との質問に玉木さんは「実は昔から、この食材とあの生地をこういう風に組み合わせて、こういう風に加工したらこんな面白いパンができる、という具合に年がら年中考えていました。ドンク時代によく同僚と飲みに行ったり食事をしに行ったりしたのですが、料理が出てくるといつの間にか、『これはこういう風にパンに使える』と考え出しているんですよ。職場で扱ういろいろなパンの材料についてもいつもあれやこれやと考えていました。そうしてできたストックをその時々で吐き出しているだけなんです。自分にとってそれはすごいことでもなんでもなく、ごく普通のことなんですよ」。
 玉木さんは、商品を考案する際、試作する前に頭の中ですでにその商品が完全に完成しているのだという。
たま木亭のパンはまだまだ続く。「桜」と題した商品(160円)は、ドライイチゴ、ドライパイン、ドライクランベリー、くるみなどを赤ワインでマリネして、ハードトーストに近い生地で包み、ホイロ後上面にカットを入れて有塩バターをトッピングし、焼成した商品。
 「シフォンミラノ風」(160円)は、ホイロをとったブリオッシュ生地に「マルタパーネ」と呼ばれる、卵白、アーモンドプードル、グラニュー糖から作った上生地をかぶせて、粉糖をふって焼成する。フロアタイム後、冷蔵し、水あめ、ハチミツ、バター、発酵種を加えて、再びミキシングする製法を採用している。「フルフレーバー法と呼ばれる製法を応用しました。ソフトさが増して一味違う製品になります」と玉木さん。



パンとしてのおいしさを追求。食材には使う必然性が必要

ブルーチーズがうまく生かされた「クレーム・ド・ブルー」(160円)。


正午に1回だけ店頭に並ぶ「メンチカツフォカッチャ」(280円)。


もちっとした食感が特徴の「パンリュスティック」(140円)。


レジ横のショーケースには、量り売りの商品や、べとつくなど扱いづらい商品を陳列するようにしている。
 「パン生地(パンのクラムとクラスト)のおいしさが生きているパンを作りたいという思いが常にありますね」。
 玉木さんは自分に言い聞かせるようにこういった。
 「例えば料理をパンにのせて焼くのなら、そうする必然性がないとだめだと思うんです。よく、惣菜をのせて『どこどこのなになにの料理のパン』などといって店頭に並んでいるのを見かけたりしますが、へたをすると冷めた料理を変な器で食べさせているだけ、なんてことになってしまうと思うんです」
 玉木さんのパンにはさまざまな食材が使われるが、商品化のカギは、「パンにする必然性」なのだ。
 「クレーム・ド・ブルー」(160円)は、ポテトと生クリーム、ブルーチーズを合わせて加熱したものをトッピングして焼いたパンだ。
 ホイロ後、みじん切りにしたクロワッサン生地とパン粉を混ぜ合わせて冷凍しておいたものを、トッピングの上にさらに散らす。生地はハードトーストに近い。ブルーチーズの味が印象的で、パンと一緒にオーブンに入れる必然性が強く感じられる商品だ。
 この商品だけは、たま木亭で働く製造スタッフの一人、山崎弘樹さんが考案したものだそう。「おいしいと思います」と玉木さんも満足気だ。
 「メンチカツフォカッチャ」(280円)は、正午に1回だけ店頭に並ぶ商品だ。
 デミグラスソースをからめた手作りのメンチカツを千切りキャベツと共にはさんだ商品で、おにぎりのように立てた状態で陳列棚に並べられる。アーモンドスライスをトッピングする。
 シンプルなパンにも人気がある。例えば「パンリュスティック」(140円)。
 「種を配合して、ミキシングを可能な限り抑え気味にします。あとはパンチでつないでいきます」と玉木さんは説明してくれた。
もちっとした食感が特徴のパンだ。

食材の香りを最大限に活かす。量り売りの商品も人気

豆の香りを引き出したという「アリコベール」(100円)。


シナモンとバターの香りが印象的な「ブリオッシュカネル」(160円)。


量り売りで人気を集める「焦げパン」(100グラム180円)。


サンドイッチのほか、デニッシュ類も冷蔵ショーケースに陳列している。
 「アリコベール」(100円)は、もっちりした生地にうぐいす豆と黒豆が入った商品。うぐいす豆と黒豆はパンチの際に折り込むようにして混ぜ込む。生地はハードトーストに近いそうだ。
 「シンプルな生地なので豆の香りがいきてきます」と玉木さん。
 「ブリオッシュカネル」(160円)も人気商品だ。円盤状にのばしたブリオッシュ生地に、ホイロ後、シナモンシュガーをふって、指で複数のくぼみを作り、バタークリームを入れる。焼成途中で窯から出して、生クリームを塗り、再び焼成する。
 小豆を生地に混ぜ込んだ「ブリオッシュカネル(あずき)」(170円)もある。
 バタークリームと生クリームがブリオッシュにしみ込んで独特の食感になる。フランス・アルザス地方のブリオッシュだという。
 「焦げパン」(量り売りで100グラム180円)は、パン・オ・ルバンの種を使ったカンパーニュをダイス状にカットして、バターと黒糖をすり合わせたものとあえて、焼成した商品。レジ横のショーケースに陳列している。

個性あふれるパンの魅力が心に深く刻まれていく

 取材後記 JR奈良線の小さな駅、黄檗駅を降りて歩くこと約3分、線路と平行して走る街道沿いに、濃紺の「たま木亭」の看板がかかったこげ茶色の建物。
 看板に描かれたコック帽をかぶったキャラクターで食べ物屋さんであることはわかるが、ベーカリーであることはすぐにはわからない。
 しかし、入り口に近づくとパンがガラスのドア越しに見えてくる。
 入店すると目に飛び込んでくる個性あふれるパンの数々。1種類づつ見つめていくと、それらのパンの魅力が、濃紺の「たま木亭」の看板とともに、ひとつづつ心に深く刻まれていく。
 「他のどこにもない、まさにたま木亭のパン」。
すくなくても記者にはそう映った。
 初めて来た人は、多分、パンを選んでいるときに、次に来るときに買うパン、その次に来るときに買うパンも同時に選んでいるに違いない、と思った。
 バターロールは、パンと中に入れられたバターがとても自然な感じでマッチしていて、おいしかった。
 「桜」はドライフルーツのフルーティーさと酸味を、赤ワインがやさしく包み込んでいる感じがして、やはりおいしかった。
 「クレーム・ド・ブルー」を味わったときは、「ブルーチーズってこんなにおいしかったんだ」と驚いた。

原価計算女王
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