ドイツにおける特別座談会レポート - 高橋秀尚(株式会社パンワールド代表取締役、海外情報研究会主宰) / - ブランスリー電子版

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海外情報/2003年11月号

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ドイツにおける特別座談会レポート - 高橋秀尚(株式会社パンワールド代表取締役、海外情報研究会主宰)


 ドイツを中心とする最新情報
 周知の通り10月3日から9日までドイツの商業都市デュッセルドルフにおいて世界最大規模の製パン製菓業界「iba(イパ)展示会」が開催された。日本からも相当数の業界関係者が視察に訪れたが、筆者は日本パン技術研究所主催の研修旅行のお世話でこの展示会を参観する機会を得た。なにせ全部で9ホールを使用するというおそらく世界最大と思われる展示面積であるから、限られた時間の中で展示物のすべてを見る事は不可能に近い。
 参加者はそれぞれ独自のテーマを持って見て歩いたと思われるが、それにしても十分な時間がとれなかったのが残念だ。
 さて展示会の成果は別として、筆者の大きな期待は会場で古い友人や普段なかなか会えない業界の仲間に再会する楽しみと情報交換の場を持つ事にあった。今回も幸いにして彼らに会う事が出来たが、お互いに忙しい日程をやりくりして近況報告や情報交換をする事が出来た。ドイツを中心とする最新情報の交換が座談会形式で実現したので、特別レポートとしてまとめてみた。
 まず参加者のプロフィールを紹介する。
 〇訪日経験が4回あるドイツの製パン技術指導者(文中でRと表示)
 ○その先生の弟子で32才になるリテールベーカリー勤務のベッカーマイスター(J)
 ○ドイツ最大のべーカリー店舗設計会社営業部長、訪日経験も多く日独の業界事情に精通(P)
 ○司会は筆者(T)
 規制緩和が手作りベーカリーに追い風!?
 T 私は日本からの団体に付き添ってドイツに着いてから展示会場に直行したのだけれど、毎回の事ながら展示会場の広いのに驚かされる。
展示会は3年ごとの開催なのでここにいる全員が揃うのも3年ぶりというわけ。今日はそれぞれの立場で最新の業界事情を話してもらいたい。まず、ドイツもEUの一員として経済的にも再出発をしたのだけれど、もう新しいEuro(オイロと発音する)には慣れましたか?
 R 新通貨になってだいぶ日数が経過したので慣れたつもりだけれど年寄りなどは今なお古い通貨の方が分かりやすいと言っている。だから店によっては価格表示やレシートも新旧両方の表示をしている。でも大きな課題は時代変化に対する頭の切り替えだろう。
 P その通りだと思う。私の息子も昔は考えられなかった「アメリカのハンバーガー大好き人間」だし、コカコーラも愛飲している。一般商店の営業時間も月〜金曜日が午前9時から午後6時まで、土曜日は午後4時まで、日曜日は休みという従来の規制もやがて緩和されるだろう。そうすれば買い物もしやすくなるし店の活性化につながると思う。
 R それ以上に問題なのはべーカリーの製造ラインの規制だろう。操業開始が午前4時以降、店の開店が7時以後という今までの規制は良いパンを作りたいという職人気質のベーカーには無理を強いる話だ。
 T だからドイツのホテルやレストランで午前7時以前に朝食をとるとすれば、出て来るパンは冷凍かパーベークのものと思って良い。焼きたてパンではないと判断するのが正しいと言われた。それでも本場ドイツで毎朝食べるブロイチェンは美味しいと思う。
 R 私は生来の手作りべーカーだから言う立場にないけれど、最近の傾向としてベスト(最良)のパンを求めると同時にべ夕―(ホドホドに良い)のパンを甘受するという風潮が強い。寂しい事だと思うけれど早朝労働を嫌う若い世代も増えてきているし、何らかの時代変化が起こっても不思議はないとも思う。
 J 私は先生に5年ほど指導してもらってベッカーマイスターの資格をとり、将来は自分の店を持ちたいという夢と希望を持っているが、最近はドイツでも出店のための費用が高騰し、私のように他人の店で働くケースが増えている。ちなみに私の給料は税金込みで1500オイロ(約21万円)。
 T 32才という年齢から見ると安い給料と思うけれど生活は出来ますか?
 J 今は南ドイツの地方都市にある製造が3人ほどの小さなベーカリーで働いているが、居住費を店が負担してくれるので特に不満はない。けれども将来を考えれば、やはり自分の店を持ちたいし、他の店で修業したいとも思う。ちなみに私はフランクフルトにあるパン学校でマイスター資格を取ったけれど、南ドイツには良いパン学校が多いのでマイスターの数も必然的に多くなる。私の感想ではドイツではマイスターの数が多すぎると思う。



独最大のCAMPが、直営店を展開、ライバルは同業他社にあらず

 マルチリテールの増加傾向、くっきりと
 R さて私はドイツ製パン手工業組合(ベッカーハントヴェルク)が今年出した資料を持ってきたので、その内容をお話ししましょう。
 まず2002年度のドイツ製パン市場は次の通り。
 店鋪総数=4万7369(本店が1万8169、支店が2万9200)
 従業者総数=30万200人
 修業途中の見習い=3万1482人
 1企業の平均従業者数=16・8人
 年商総額=168億オイロ(約2兆2680億円)
 (注)この金額は日本をしのぎ米国に次ぐ世界2位となる。
 1企業の平均年商額=72万7146オイロ(約9816万円)
 T そこでドイツの市場規模は伸びているのですか?
表1 店舗総数(本店、支店)の数
> 総数 本店 支店
1999年 47404 20604 26800
2000年 47413 19813 27600
2001年 47388 18888 28500
2002年 47369 18169 29200
2003年 47378 17878 29500

 R さらに詳しい資料があるので見てください(表1)。そこには重要な変化を見ることが出来ます。
 この数字で分かる事はべーカリー企業数が滅少しているにもかかわらず支店数が増えている事、つまり本店に加えて支店を持ついわゆるマルチリテール・ベーカリーが増えている事です。これは最近のドイツで見られる傾向ですが、本店で製造販売し、支店は販売のみという方式の増加です。
 こうすれば支店にはべッカーマイスターを置く必要がないので人件費の節約にもつながります。逆の見方をすればドイツの新しい消費者は店頭での焼きたてパンにそれほど固執しなくなったとも言えます。
 P そこで店舗設計を担当する私から一言。そのような場合、支店は本店に比べて異なる店作りが必要となります。最も多い例としてはべーカリー・カフェです。朝にブロイチェンのような生活密着度の高い商品を集中的に売る代わりに、例えばランチ用にブロイチェンをサンドイッチ化させた「ブロイチェン・ベレクテ」を売ります。ブロイチェンはどのベーカリーでも必ず売っていますから、どうしても価格比較の対象となり、粗利益も低いか、まったく無いに近い。ブロイチェン1個の値段は約20セント(約27円)、これにフィリングを入れてサンドイッチ化すると売価は約1オイロ50セント(約202円)となるが粗利益は約45%となる。何よりフィリングに変化を凝らせば個性化が出来て固定客の確保につながる。
 R ドイツでも最近は成形冷凍やパーベーク商品が増えている。支店を増やす場合にこのような新しい技術革新をとり入れることに躊躇しない経営者が増えているのも事実だ。

 大手ホールセールがリテールに進出
 T 最近ドイツの各都市を歩いてみて気づいたのだけれど白地に赤いロゴでKAMP(カンプ)と書かれたベーカリー店舗が多いのはどのような経緯からですか?
 P それは良いところに気がつきました。実は、それがドイツの製パン業界における最近の大変化なのです。ご存知でしょうが、KAMPはドイツで最大級の卸売りベーカリーでした。それが3年程前から直営店の展開を始めたのです。店頭における品数は従来のトラディショナル ベーカリーと比較すると少なく、平均して40〜45種類ほどでしょうが、大企業の資本力を利用して主として大中都市を中心に積極的に進出しています。もし今後このような卸べーカリーの直営化が加速すれば、従来の個人店舗はさらに衰退の道を歩むと思います。とすれば今までのような「ドイツの製パン業界は手作りの小規模ベーカリーが支えている」という時代が終焉することになります。
表2 年商総額の推移
>1999年 135・5億オイロ(1兆8292億円)
2000年 135・0億オイロ(1兆8225億円)
2001年 134・5億オイロ(1兆8157億円)
1999年 130・1億オイロ(1兆7563億円)

 T おそらく卸ベーカリーの将来を案じての進路転換と思いますが、日本にも示唆するところが大きいと思います。それでは次の資料をお願いします。
 R 過去4年間の年商総額推移を見ましょう(表2)。
 T おや、この数字を見るとドイツの製パン業は過去3年で最低の売り上げなの!
 P 私も理解に苦しんでいるのだけれど製パン業以外でパン製造販売に参入し始めた異業種が多いという結果だと思います。これは訪日経験が多い私だから推測がつくのですが日本でも同じ傾向にあるのではないでしょうか。従来の製パン業界が警戒すべきは異業種の参入です。これからのライバルは同業他社にあらず、と思うべきです。
表3 従業員数の推移
> 従業員数 見習い者数
1999年 320800 36194
2000年 318200 34884
2001年 309500 32988
2002年 302000 31482

 T さきほど若いべーカーの将来は甘くないという話が出たけれど業界の就業者数は減少しているの?
 P 残念ながら次の資料(表3)でも分かるように減少傾向にあります。しかしながらこの数字では表わせない事実があると思います。それは製造ラインの近代化、自動化の促進などだと思います。そのために今回の展示会にはこれほど多くの参観者が来ていると思う。
 T 皆さんの話と資料を見聞する限りではドイツの製パン業界は大きな曲り角に来ているという印象を受けますが、同じ事はヨーロッパの他の国についても言えるのではないかと思います。そして、この変化の波が日本にどのよう形で波及するかも慎重に見極める事が必要だと思います。



2003年度「イバ展示会」で出品の、ドイツにおけるベーカリー店舗の最新コンセプト。

レジをはさんで、対面方式とセル方式のショーケースが並んでいる。


客が手でふたを開けて商品をとる仕組みになっている。
 かつてドイツで主流であったカウンターサービス販売方式(対面販売)を、日本では主流のセルフサービス方式と組み合わせた新方式が注目される。(2003年10月4日、筆者写す)


こちらの方は従来のドイツ式対面販売。





原価計算女王
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