
焼き上がったパンを石窯から出す中川さん

南部小麦粉が75%、ライ麦粉が35%の「石窯プレーン」

有機くるみ、オレンジピールなどを練り込んだ「石窯オブースト」

フォルコンブロートの生地に有機くるみなどを練り込んだ「石窯フルーツ」

ホイロから出て、窯入れを待つ「石窯プレーン」(手前)などの生地

オーナーの中川泰照さん。後ろに見えるのは、昨年秋に種まきをした中川さんのライ麦畑。秋からはここで収穫したライ麦の粉をパンに使用する。

石窯で焼き上がったパンを陳列トレーに入れる尚子夫人

ブロートヒューゲルの外観。ななめに通されたこげ茶色の木材が印象的だ。ドイツの家屋をイメージしているという。

店の入り口には、石窯で使用する薪が、装飾用として積んであった。

石窯のパン用に箪笥を改造して作った木製ホイロ
長野県松本市に、昔ながらの石窯を築造し、パンを焼くベーカリーがある。同市郊外に店を構える「ブロートヒューゲル」だ。
「燃えている薪の位置を、炉の床や側面、天井の温まり具合を見ながら、変えてやらなくてはなりません。炉内のどの場所がどのくらいの温度になっているかは、その場所の色でわかります」
土曜日の午前10時過ぎ、同ベーカリーオーナーの中川泰照さんは、鉄の棒で、石窯の炉内の薪をかきまわしながらこう話した。
炉内の床と天井、壁面がほぼ均一に約500度Cに達したら、薪の燃えカスをていねいに取り出し、水に浸したモップで炉床をきれいに拭く。濡れたモップが炉床に触れたときの音で、炉床の温度がわかるのだという。炉床を拭き終わってパン生地を入れる時の温度はおよそ250度Cだ。
石窯では、「石窯プレーン」(660円、ハーフカット340円)、「石窯オブースト」(同)、「石窯フルーツ」(同)の3品目を2日に1回、焼成している。
「石窯プレーン」は、南部小麦粉が65%、ライ麦粉が35%の生地で、酵母は、山ぶどうから起こした自家製のものを使用。製法は中種法だ。 「石窯オブースト」は、石窯プレーンの生地に、有機くるみ、オレンジピール、カレンズを練り込む。
「石窯フルーツ」は、フォルコンブロートの生地に、有機レーズンとくるみを練り込んだ商品だ。
3品目とも、焼成時間は約30分。生地の窯入れと同時に、窯で熱しておいた石を入れた容器も入れて水を注ぎ、蒸気を炉内に充満させる。
窯入れから10分後と20分後に、炉内のパンの焼け具合を確認し、それぞれのパンの位置を入れ替えて、最終的に均一に焼き上がるように調整する。
「石窯でのパン作りは、五感をフルに使います。使用する薪の種類でもパンの香りが違ってきます。薪が燃える音や香り、煙の出具合や色、炉の床や天井、壁の色、焼けていくパンの色や香り、そいったものを五感全てを使って感じ取りながらの作業になります。まるで石窯が自分のからだの一部になったような感覚です」
中川さんは、焼き上がったパンを取り出しながらこう話した。
中川さんは、横浜出身で、1968年生まれ。パン職人を志し、東京・銀座や表参道のベーカリーで修業を積んでいるときに、石窯に強く惹かれるようになった。
観光でふと立ち寄った長野県乗鞍高原の「ル・コパン」というベーカリーで、薪を炉床に入れて燃やし、かき出してパンを焼く昔ながらの石窯が活躍しているのを見て、「自分がやりたいのはこれだ」と思ったという。中川さんは、10年間、ル・コパンで、石窯によるパン作りに没頭した。
現在の店をオープンしたのは、2006年11月だった。
「本当はもっと山の方でやりたかったんですが、極端に人が少ない場所では、商売として成り立たないということで、この場所になりました」(中川さん)
品揃えは約40品目で、石窯で焼く3品目以外は、3段の電気オーブンで焼成している。年配者が多い土地柄なので、菓子パン系に人気があるが、徐々に中川さんが好きな、石窯のパンを浸透させていきたいという。