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| 特別企画/2006年6月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 取材で出会ったこだわる人々
ベーカリーを取材していると、様々な発見がある。店ごとに独自の個性があって、こだわっているところが違ったりする。オーナーの価値観が、魅力ある形で、表現されている店は、ほぼ例外なく繁盛店、もしくは優良店だ。
この企画では、本誌記者がこれまで、多くのベーカリーを取材してきた中で、印象に残ったことを書き出してみた。ポイントは、どんなこだわりであれ、それが魅力となって、顧客に伝わっているかどうかだ。 |

| すべてはいいパンを作るところから始まる
油脂の劣化を防ぐための長時間発酵
これまで数多くのベーカリーを取材してきて、それぞれの店にそれぞれのこだわりがあることを知った。 ベーカリーRのオーナーは、学者顔負けの理論派だった。「自分はまだこの世界に入ってそんなに長くありません。それを補うために、パン作りを科学的な側面からも勉強しました」と話していた。 印象的だったのは、低温長時間発酵でパンを作る理由が、「生地に練り込んだり、折り込んだりした油脂の劣化を防ぐため」ということだった。オーナーは「バターは温度が高いと酸化します。それを避けるために、捏ね上げ温度や一次発酵の温度などをできるだけ低くしたいのです」といっていた。 なるほど、例えば牛乳を30度C以上のところにおいておいたら、いいわけがない。パン生地に練り込んでしまうと牛乳としては見えづらいので、気づかなかったが・・・。何度も確認したが、「確かに、焼き上がったパンに違いがある」といっていた。 とはいっても、生地の発酵という観点からすれば、一定の温度は必要なわけで、その点については「パン生地の発酵と、油脂、乳製品の劣化防止を両立できるぎりぎりのラインでホイロをとります」。 発酵の種類にもこだわる 材料にこだわる人も多かった。特にパンの主原料である小麦粉を厳選する人は多い。 前出のベーカリーRのオーナーもそのひとりだ。同オーナーによると、パンの味わいを決める要因には、発酵によって作られる味・香り、酵素の働きによって小麦粉のでんぷんが糖に変わって作られる味・香り、小麦が元々持っている味・香りの3つがあるというのだ。これらの要素ごとに適した小麦粉があるのだという。 発酵の種類にこだわるベーカリーもあった。 ベーカリーAは、乳酸菌活性のある元種を小麦粉やライ麦粉と混ぜ合わせて種を作り、食パン、フランスパン、全粒粉パン、バターロールなどの生地に約10%配合していた。 担当者は「パン生地の発酵に乳酸菌が関わってくることで、イーストだけで発酵させるのとは違った香りと味がかもし出されるんです。それと、しっとり感と日持ちもかなり違ってきます」と話していた。 パンの製法もいろいろだった。 パンの製法も、人によってこだわりどころが違う。 ベーカリーMのオーナーは、ミキサーで生地を最後まで捏ね上げてしまわないで、最後は麺台の上で、手で捏ねるのだという。 「最後までミキサーで捏ねた方が、スダチのいい均一なパンができるのですが、私はむしろ、内層が粗めの方が素朴でいいと思っています。同じ種類のパンでも、ひとつひとつ違う表情があった方がいいというか・・・。香りもよくなると思います」 ベーカリーTでは、冷蔵発酵法を中心に製パン工程を組んでいた。 「おいしいパンを作るために冷蔵発酵法は最適の製法だと思います」と製造責任者はいった。仕込む生地約20種類の多くを冷蔵の温度帯で長時間発酵させる。例えば菓子パン生地は「70%冷蔵中種法」と呼ぶ製法で、小麦粉を70%配合した中種を約30分常温で発酵させてから、冷蔵(3度C)で長時間(オーバーナイトで)熟成させ、翌日、本捏ね後、30分で分割。通常の方法で2時間半程度中種を発酵させて本捏ねに移る場合よりも、生地の香りが増し、いい結果が得られるという。 逆に発酵はさせない方がいいという人もいた。 ある製粉メーカーの技術者は、「発酵をできるだけ抑えて焼成すると、小麦粉がもともと持っている旨味が最もいい状態で残る」という。また、「イーストが発生するガスを生地が抱き込むことによらず、生地中の水分が水蒸気となって膨張することによって、パンのボリュームが出て、大きな気泡とあめ色の内相が実現する」と話していた。 |

| 経営者としての才覚を発揮して、発展する
従業員の働く姿を見ると分かる
店舗の数が増えてくると、経営者としての才覚を発揮するケースが多い。 ベーカリーPは、複数の大型店を展開しているが、オーナーは、従業員がやる気を出して、その能力を最大限に発揮できる環境作りに余念がなかった。 「お客様に喜んでいただくのは当然ですが、従業員にも喜んで働いてもらわなくては、企業の発展はないと思います」と話していた。 同ベーカリーは、休憩室など従業員のための施設が充実していて、ハード面でも、働きやすい環境を作ろうとしていることが、ひしひしと伝わってきた。 従業員たちは、息をつく暇もなく、動きまわっていたが、その表情には余裕があり、余裕があるからこそ、お客に対する気遣いが充分にできていたと思う。 取材に行って、オーナーではなく、従業員の働いている姿を見ると、なんとなくそのベーカリーが分かるような気がする。 ベーカリーPのオーナーは、「直営店をさらに増やしていくより、従業員が一人前に育ったら、のれん分けというか、独立する手伝いをしていきたいですね。この歳になると会社がどんどん大きくなるよりも、自分のところで人が育つということの方が嬉しいですね。うちで修業し、価値観を共有する人が、日本各地で、ベーカリーをやっているという感覚はとてもいいものです」といっていた。 |

| 客を喜ばせるために、様々な企画を行う
売るための様々な企画
いくらおいしいパンを作っても、客に買ってもらい、味わってもらわなければ、評価してはもらえない。そこで大切なのが販売促進や接客だ。 ベーカリーSは、ユニークな企画を行っていた。「パンの食べ放題」だ。 店の一角にある21席のイートインスペースが会場で、毎月2回行っているという。750円を払うと、パンとドリンク、スープなどが食べ放題、飲み放題というもの。 毎回混み合うため、1人45分という時間制限がある。取材した日がちょうどその日に当たっていて、約30品目のパンが用意され、それぞれ小さくカットして陳列台に並べてあった。「たくさんの種類のパンを食べていただきたいと思っています」とオーナーはいった。 ドリンクは、アイスコーヒーやアイスティー、オレンジジュースなど約10種類。 顧客へのアンケートも行っていた。アンケート用紙を入れた箱を入り口近くに置いておいて、意見を書いてもらうのだ。オーナーは「厳しい意見も多いですよ。でもそれを素直に正面から受け止めて、改善できることはすぐにでも改善するんです」といった。 アンケート用紙を入れた箱には、パンのアイデアを募集する用紙も入っている。 オーナーに聞くと、「お客様の感性から生まれるパン、そして若いうちのスタッフの感性から生まれるパンをどんどん形にしていきたいと思っているんです」と答えた。 販売の専門家になろうと思った ベーカリーKは、販売担当者がオーナーのベーカリーだ。パン職人を志したが、ある理由で断念せざるを得なくなり、販売の専門家になろうと思った。同オーナーはいった。 「多くの場合、販売がともするとおろそかになってしまいがちです。雑というか、お客様本位ではないというか・・・。お客様を、さばく対象としてしか見ないような態度というか・・・。例えば、言葉づかいです。『こちらへどうぞ』はいけません。まるでお客様に命令しているようですから。『こちらでお預かりします』の方がいいと思います。『少々お待ちください』ではなく『少々お待ちくださいませ』です」 さらに、「例えばお客様から半端の3円はありませんといわれて、あとからやっぱりありますといわれると、もらった半端のお金を、がしゃんとレジにたたきつける販売スタッフもこれまで幾度となく目にしてきました。『ありがとうございます』と素直に受け取ればいいと思うんです」。 おいしく作ったパンをおいしく見せる 一方、ベーカリーTOでは、出入りの問屋の担当者などから、様々な情報を得ていく中で、「客の立場でものごとを考えること」「おいしく作ったパンをおいしく見せること」の大切さを知ったという。それまでは、パンを作ることだけに熱心で、顧客にいかにして伝えていくかということについては、あまり関心がなかったという。 同ベーカリーの店内には、顧客の立場に立った様々な仕掛けが随所に見られた。売り場から見える場所に設置された大きなオーブンから出てきた焼きたてのパンは、天板ごとレジの横の作業台に置かれ、天板から陳列容器に入れられて「○○パン焼きたてです」という元気な声と共に、売り場の陳列台や、陳列棚に運ばれていく。そして、パンをこまめに焼き上げているので、パンを売り場へ運ぶ頻度が高い。 昔懐かしい「コッペパンの付け売り」のコーナーもあって、客の注文を聞いて、ジャムやピーナツバターなどをはさんで販売していた。子供連れの主婦などが安心してパンを選べるように、子供が遊べる小さなスペース、キッズコーナーもあった。 |
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