天然酵母って何? - ブランスリー電子版

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特集/2005年1月号

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天然酵母って何?

「天然酵母」というと、人によって捉え方が様々。
「天然酵母」はいったい何を表す言葉なのか?
「天然酵母」という言葉は、実態を的確に表現しているのか?



包み隠さず説明して、あとは買い手の判断に任せる - パン屋ラ・プース(静岡県)の話

私どもは添加物を可能な限り使用しないでパンを作っています。
ショートニングについては、メーカーに聞いて、添加物がなるべく少ないものを選んでいます
天然酵母とイーストの違いについて、お客様からいろいろと聞かれることがありました。当店は、私が調べて得た知識を包み隠さずお客様に伝えて、後はお客様に判断してもらう、というスタンスをとっています。
天然酵母とイーストについては次のように説明しています。

工業生産に適した酵母を選び出す。
「酵母は植物の一種で『かび』や『キノコ』に近い仲間であり、同じ真菌類に属している単細胞で下等植物の一種です。
一口に酵母といっても、種類も多く地球上の至る所に生息しています。たとえば現在使用している酵母を考えてみても、パン酵母、ビール酵母、酒酵母、ワイン酵母、醤油酵母、飼料酵母など、あげれば切りがありません。
さらに、酵母を使用している食品は、世界中に数え切れないくらいあります。
しかし酵母は、人間にとって有用なものばかりではなく、食物を変質変敗させるなど、有害な物も数多く存在します。このような数多くの酵母の中から製パン、そして工業生産にも適した性質を持つ酵母を選び出し培養増殖させたものがイーストなのです。
パン酵母は植物の一種であり、主に出芽により増殖しますが、葉緑素を持たないため光合成などで栄養を作ることが出来ず、外部から栄養分をとり入れています。
酵母の最大の栄養源は糖類を主体とした炭素源であり、そのほか一般の植物と同じように肥料の3代要素といわれるチッソ、リン酸、カリウム、ビタミン、ミネラルなどを必要とします。
このことが一部の雑誌などで誇大に表現され「パン酵母は化学薬品を使用している」という警戒感を生み出しています。

酵母の選別をしない。
一方「天然酵母」と呼ばれている自家製酵母は、酵母の選別をしないところ、工業的に作った培地で培養するのではなく、その酵母が付着していたフルーツなどを培地にして培養するところに、イーストとの違いがあります。
市販のパン酵母(イースト)はパン酵母だらけですが、自家製のものの中にはパン酵母をはじめ、その他の酵母、微生物も入っているのです。
自家製の「天然酵母」は味わいが深くなるといえばその通りなのですが、私たちに利益をもたらす酵母だけがいる訳ではなく、その逆もあるはずです。

単純に体にいいと思ってしまう。
地方都市で商売をしていると、例えばテレビで『何々の食品がいい』(こういう栄養素が多く含まれていて、その栄養素はこういう働きがある)と放送すると、うちにもその何々を使ったパンを買い求めて来るお客様が多くいます。
しかし、時間が経つと見向きもしなくなります。
きちんと理解せずに『何々は体にいい』と単純に思い込んでしまう傾向があると思われます。



「他の多くの材料と同じレベルで捉えています」 - メーアコルンのパン(東京・町田市)の大田憲裕さん

どんな材料と組み合わせるか
「メーアコルンのパン」の大田憲裕さんは、天然酵母パンの担当。レーズン種、サワー種、レモン種、りんご種の4種類を作り、約15品目の天然酵母パンを作っている。
人気の商品は「パンドリーナ」(640円)、「天然酵母の食パン」(1斤半320円)、「天然酵母のクランベリーとクリームチーズ」(200円)などだそうだ。
太田さんは、「天然酵母といっても別に特別なものではなく、どんなパンを作りたいかによって決まる多くの材料と同じレベルで捉えています。どん材料と組み合わせるかで、天然酵母のそのパンにおける意味合いが変わってくると思います。例えば『天然酵母のクランベリーとクリームチーズ』は、クランベリーとクリームチーズのマッチングを前面に出しているので、天然酵母のパンの味はあまり目立たないと思いますし、逆に『天然酵母の食パン』は、副材料があまり入っていないので、天然酵母のパンの独特の味と香りが分かりやすいと思います。天然酵母を作る場合は温度管理に相当神経を使う必要があります」と話した。



同じサワー種、ルヴァン種でも、店によって違う味と香りがある。 - パンダーチザンニコラ(茨城県水海道市)の杉山洋春さん

ライサワー種とルヴァン種
茨城県水海道市のパンダーチザンニコラは、現在ライサワー種を起こしてライ麦パンやカンパーニュなどに使用している。今後は、小麦粉と水などから起こすルヴァン種を使ったパンも作っていきたいという。オーナーの杉山洋春さんは「天然酵母のパンは、発酵の過程で出るいろいろな副産物によって、イーストのパンにはない独特の香りが出ます。しかし、天然酵母もパンの製法の一部だと考えています。サワー種にはサワー種の特有の味と香りがあるし、ルヴァン種にはルヴァン種の独特の味と香りがあります。また、同じサワー種、ルヴァン種でも、店によって違う味と香りがあります」と話す。
さらに「うちでは、ライ麦パンだけではなく、カンパーニュにもライサワー種を使っていますが、それには自分の中できちんとした理由があります。つまり、少し重めで、かすかな酸味があるカンパーニュにしたかったのです。目的をはっきりとさせて、天然酵母を使うことが大切だと思っています」。
杉山さんは、天然酵母とイーストの違いは、工業的に大量生産しているかいないかにあると考えている。イーストを使う場合も、天然酵母を使う場合と同じように、目的をはっきりさせてから使う。「イーストの場合は、発酵による味が充分出る前にホイロが出てしまうので、発酵による粉の味をじっくりと引き出したいパンは、イーストの配合量を減らして、長時間発酵させるようにします」(杉山さん)

イーストはエリート酵母。天然酵母は個性あるパンができる。 - ベーカリー・スタッフ(東京・武蔵野市)斉藤睦男社長の話

斉藤睦男社長


ベーカリー・スタッフが運営するPONZY
イーストと天然酵母について
「イーストと天然酵母はどちらが体によいか」などの質問をよく聞くのですが、結論から言えばどちらも酵母自体は安全なもので、結果としてどういうパンができるかで選べばよいと思います。「イーストは天然酵母ではないので安全ではないのでは?」と言う人もいますが、これはあくまでもイメージから来る不安です。イーストは自然界にある酵母菌のうちパンの発酵に適したものをスクリーニングして、砂糖キビなどの糖蜜を主にした栄養源(培養基)で培養されます。発酵力が強く、確実性があり、トータルバランスの取れたエリートパン酵母がイーストなのです。
これらのイーストはその細胞内に持ち合わせる「酵素」の違いによって、いくつかのタイプがあります。
一方天然酵母は、どのようなものかというと、大きく2つに分類されます。一方は自家製天然酵母、もう一方は市販天然酵母です。前者はイーストと違い、いろいろな穀物や果物などから自然の力で培養(経験や勘で)したものをいいます。数種の酵母菌、乳酸菌、バクテリアなどが混在しているのが普通です。発酵の確実性は低く、発酵管理が難しいのが欠点ですが、独特な個性あるパンができるというメリットがあります。
他方、市販の天然酵母は、自家製天然酵母と同様に培養基は穀物や果物などですが、再現性や安定性があり、イーストと天然酵母のよいところを持ちあわせたものといえます。

サワー種が天然で、イーストが人工という単純な分類は間違い - あるイースト専門家の話


「天然酵母」ではなく「サワー種」
まず、「天然酵母」という呼び方は適当ではない。サワー種ということばが実体を的確に表現している。または、培地として使用した材料名のあとに「種」をつけて、例えば「レーズン種」「いちご種」と呼ぶのが正しいと思う。
パン種を起こす(培地で酵母などを培養する)場合、培地の中には、培地自体や空気中に含まれていた数多くの細菌や微生物が含まれている。その中には野生酵母(単一種類の酵母だけを菌株として保存したものなどではなく、培養を始める直前まで自然の状態にあった酵母の意味)と乳酸菌も含まれている。
培地中で菌類はそれぞれ活動を開始するが、野生酵母と乳酸菌は相性がいいので、両者の好む環境に培地を保ち、栄養分を与えると、乳酸菌の働きで培地は弱い酸性になる。
その時、酸性を好む野生酵母は、酸性に弱いその他の菌類の繁殖を抑えて、活発に繁殖を続けることができる。
続けて定期的に新しい栄養分を与えると、酵母の活動と培地の弱酸性が保持され、野生酵母の力はだんだん強くなり、約1週間後にはパンを膨らませることができる状態になる。
こうして出来上がったものを種と呼ぶ。培地の材料には、ライ麦粉や小麦粉、じゃがいも、とうもろこしなどが用いられる。培地には水、酸素とともに窒素源やリン、カリウムなどの栄養分を含む材料を用いる必要がある。
注意しなければならないのは、培養中の温度が不適切だったり、栄養分が足りなかったりすると、有害菌の繁殖などが起こり得ることだ。

イーストとサワー種の違い
サワー種もイーストも元をたどれば、自然に存在した酵母にいきつく。サワー種が天然のもので、イーストが人工的に作られたものという単純な分類は間違いだ。
サワー種とイーストは、▼パン生地を炭酸ガス生成によって膨化させることを目的としている▼管理された培養条件で増殖させたものである▼培地の原料も、培養される酵母も自然界に存在するものである、という点で同じだ。
一方、両者の相違点は、▼パン生地を膨化させる速度と効率(イーストの方が早くて高い)▼原料純度と給源(培養を始める直前の菌類の種類と状態のことで、イーストの場合は多くの場合製パンに適するもの1種類で、サワー種の場合は培地に存在するすべての菌類と空気中から入ってくるすべての菌類が混在している)▼培地に含まれる栄養成分のバランス(イーストの培地は、熱殺菌された廃糖蜜を主原料にして、窒素、リン、カリウムなど酵母が増殖するために必要な栄養分を添加し、酵母増殖のために理想的な栄養バランスを実現するが、サワー種の場合は、培地の材料に元々含まれるものを酵母の栄養源とするため必ずしも理想的な栄養バランスになっているとは限らない)、などがある。

サワー種の生地は複雑な味わい
イーストが開発される以前は、パンはサワー種を使って作られてきた。そのため世界各国・地域に様々なサワー種が伝わっている。
具体的には、ドイツ、ロシア、北欧などに伝わるライサワー(培地の主な材料はライ麦粉と水)、アメリカ西海岸に伝わるサンフランシスコサワー(培地の主な材料は小麦粉と水)、イタリア北部に伝わるパネトーネ種(培地の主な材料は小麦粉と水)、日本で考案されたホップス種(培地の主な材料は、小麦粉、ホップ煮汁、ポテト、水)や酒種(培地の主な材料は、米、炊いた米、麹、水)などがある。
一般的にサワー種の生地には、酢酸、乳酸、コハク酸、酒石酸などの有機酸や、アミノ酸、ペプチドなどが多く生成され、パンに固有の味わいや風味をかもし出す。
イーストの生地の場合は、こうした効果が出る前に、ホイロが出てしまうことが多い。

原価計算女王
原価計算女王
培養の過程で化学合成物を添加しているかいないかの違い - ピッコリーノ(東京・町田市)伊藤幹雄氏の話

温度管理が極めて重要
私の「天然酵母」の定義は、人間が化学的方法で作り出したものを加えていない培地で、空気中から呼び込んだ、直前まで自然の状態にあった酵母と、培地の中にもともと存在した酵母を培養したものです。一般的に天然酵母と呼ばれているものは、培地の中にもともと存在した菌と空気中から培地へ入り込んでくる菌が多種多様なため、培養過程の管理が重要になります。製パンに向いている酵母菌と乳酸菌が主に繁殖するようにするためには、培地を18度Cから20度Cに保つことが好ましいと思います。

麹菌を配合して、パン生地中に旨味成分を醸成する。 - ホシノ天然酵母パン種(東京・町田市)星野益男社長の話

一般にイーストといわれているものも、天然酵母といわれているものもパン酵母のことで、糖を分解して炭酸ガスとアルコール、有機酸、香気成分を生成する働きがあります。
この意味では、両者は同じです。
しかし、両者の違いは3つあると思います。

香りと発酵力、化学合成物添加の有無
一番目は、もとになる酵母を選ぶ時の考え方です。
製パン用の酵母を自然界から採取し、テストをしていて分かった一般的な傾向ですが、パン生地中に人間にとって芳香と感じられる香気成分を多く出す酵母は、発酵力が弱く、逆に香気とはいえない臭いを出すような酵母には、パン生地中で発酵力が強いものがよくあります。
香りのよさを第一条件に選んだ「天然酵母」はどうしても発酵力が弱くなります。
一方、パン生地中での発酵力を第一条件に選んだイーストは、香りはよくないが生産性はよいとの結果になっています。余談になりますが、日本の吟醸酒(大吟醸も含む)の90%以上は、日本醸造協会の保有する7号、9号、14号の3種類の酵母のいずれかで作られています。これらの酵母も分類上は製パン用の酵母と同じものですが、パン生地中の発酵力はきわめて弱く、パンは作れますが、パン生地の1次発酵に25度C位で24時間もかかります。
ある大学の醸造微生物研究室の実験で分かったことは、イーストでも日本酒が作れますが、香りが悪くて、とても飲む気になれないということです。
ちなみに、ある酒造家がテスト目的で、ホシノ丹沢酵母を使用して大吟醸酒を作ってくれましたが、日本醸造協会の酵母菌に負けない香りのものができました。
2番目は、培養の過程で人間が化学的方法で作ったものを添加しているかいないかの違いです。イーストと呼ばれるものは添加していて、天然酵母と呼ばれるものは添加していません。
これは例えば野菜の例を考えてみると参考になります。すなわち、化学肥料や農薬などを使った通常栽培の野菜と、化学肥料や農薬などを使わない有機栽培の野菜の違いにニュアンスが似ています。
私どもの酵母が、昔から自然食品を扱う人たちに支持されてきた理由はそこにあります。

味と香りに関する問題
3番目は、パン生地の中に生成されるアミノ酸や有機酸の量の違いです。これはパンの旨味と香りに関わってきます。
一般に天然酵母といわれるものの多くは、酵母以外に、乳酸菌(ラクトバチルス)の含有量が極めて多く、酵母と同じくらいかそれ以上含まれていることが分かっています。
イーストにも乳酸菌は含まれていますが、天然酵母と比較するとごくわずかです。乳酸菌もまた、香気成分を作ったり、アミノ酸発酵をしたりして、旨味成分となる遊離アミノ酸を出します。
ホシノ天然酵母パン種の場合は、さらに麹菌も配合されているので、アミラーゼ、プロテアーゼを始めとする多数の酵素は、酵母菌、乳酸菌といっしょになると、一挙に活性化し、小麦粉のでんぷんを糖化してブドウ糖を作ったり、タンパク質を遊離グルタミン酸にしたりして、パン生地中に旨味成分を醸成します。
パン生地の中に醸成される旨味成分の代表は遊離グルタミン酸ですが、日本食品センターで分析して比較してみたところ、▼小麦粉+塩+水+インスタントドライイーストのパンの遊離グルタミン酸の量=8mg/100g▼小麦粉+塩+水+ホシノ天然酵母のパンの遊離グルタミン酸の量=16mg/100g、ということで、インスタントドライイーストのパンとホシノ天然酵母のパンとでは、遊離グルタミン酸の量に2倍の開きがあることが分かりました。
「天然酵母」という呼び名ですが、これは確かに誤解を招きやすいと思います。
タカキベーカリー研究室顧問の森治彦氏が「天然酵母というより、『発酵種』との呼び方に変え、カッコの中に、果実酵母、小麦粉酵母などと、その由来を入れ、さらに乳酸菌や麹が入っているならそれを表記する方が、実際の効能がよく理解できるし分かりやすい」と提案しておられますが、もっともなことと考えます。
しかし、弊社製品の名称をある日突然変えると、培養基に何か化学合成添加物を入れたのではないかと誤解されないかと、決断いたしかねております。


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