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特集/2004年12月号

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この職人にこの道具


職人にとって、道具は自分の手の延長であり、
最も重要なものの一つだ。「この職人にこの道具」のテーマで、
パン職人3人に話を聞いた。



ハード系からソフトなパンまで幅広く、高いレベルで焼けると思った - ラ・フーガスの仁札正男さん

ラ・フーガスオーナーの仁札正男さん


石板を敷いたオーブンの内部


使い込んだ陶器のクグロフ型


仁札さんが愛用するオーブン
窯を大改造した。一長一短があった。
ラ・フーガス(東京・世田谷区)の仁札正男さんは、10年前に独立するに当たって、ほとんどの製パン機械を中古品で揃えたが、窯とミキサーだけは、新品を購入した。
いろいろな人に聞いて情報を集め、知り合いのベーカリーオーナーなどを廻って、実際にどのようにパンが焼けるのかを見せてもらったりした。そんな中で、今使用している窯に出合った。
「ハード系からソフトなパンまでオールマイティーに高いレベルで焼けると思ったのが、今使っている窯だったんです」(仁札さん)
独立から5年が過ぎた時、仁札さんは、窯の大改造を行った。3段の焼成室のうち、上2段について、炉床を厚い石板に張り替えてもらったのだ。窯の蓄熱性がよくなって、フランスパンやカンパーニュなどのハード系のパンの出来が飛躍的によくなった。
しかし、デメリットもあった。低温で焼く商品がうまく焼けなくなってしまったのだ。例えば、焼きプリン。それまで上火140度C、下火160度C程度で焼いていたが、その温度を維持できず、どんどん温度が上昇してしまった。焼き上がった製品は焼きプリン独特のなめらかさがなく、ざらざらとした食感になってしまった。焼きプリンは、炉床を張り替えていない最下段の焼成室でしか焼けなくなった。
バターロールや菓子パンなど下火をある程度抑えたい製品については、下天板をかませるなど工夫を施している。
「窯の改造については一長一短がありましたが、全体としてパンの焼き上がりはよくなったと思っています。パンの焼成についての考えが深まりました」

陶器の型に、特別な思いがある。
仁札さんにとって、こだわりの道具がもう一つある。クグロフ型だ。
「柔らかな火があたって、表面までソフトにしっとり焼き上がるような気がします。長時間じっくりと焼き込むのにとても適していると思います」
仁札さんはそういって、使い込んでなんともいえない味わいがあるクグロフ型を棚から出して、見せてくれた。
独立して店を出すにあたって、合羽橋の道具街で購入したフランス製のクグロフ型。今ではバターがしみこむなどして、独特の深い色合いになっている。
独立する前は、金属製のクグロフ型を使っていた。「陶器の型ということに、特別な思いがあります。何かかきたてられるものがあるんです。ベーカリーで使う型で陶器でできたものは他にないような気もしますし」(仁札さん)



「この窯、10年使っているとは思えないでしょう」 - パン・ド・ラサの田中朗さん

窯を前に田中朗さん


コンパクトなリバースシーター
ドイツ製の窯とリバースシーター
パン・ド・ラサ(東京・世田谷区)の田中朗さんは、「こだわりの道具はありますか?」との質問に、間髪を入れずに「オーブンとリバースシーターです」と言った。
パン・ド・ラサは、ハード系のパンが売上のおよそ4割を占めるベーカリー。 田中さんが丹精込めて作ったバゲットやバタールなどは、クラムに独特のしっとり感があり、多くの顧客にとって、日常のパンになっている。
セルリアンブルーとホワイトなどで統一された店舗は、 田中さんの作るパンを引き立て、田中さんのパンに対する思いをさり気なく表現している。
オーブンとリバースシーターは、ドイツ製。およそ10年前、田中さんが独立しようかどうか迷っていたときに、製パン機械の展示会でたまたま見つけたものだ。「私が独立した頃は、『ハード系を焼くなら、フランスやドイツ製のオーブン』という価値観がありました」
その展示会で、ある商社のブースに入ると、欧州天板2枚差し3段の窯と卓上型のコンパクトなリバースシーターが田中さんの目に留まった。
「両方ともちょうどいい大きさだ。これで独立したいな」と思った。約半年後、その商社に電話してみると、「展示会で展示した窯とリバースシーターはまだ残っています」との返事だった。かなり割り引いてくれるとも言われた。
「この窯、10年間使っているとは思えないでしょう」と田中さんは言った。
窯の外観は、この上なくきれいに保たれていた。丁寧に使ってきたことが一目でわかる。
「やはり、蒸気の出方が違いますね」
田中さんの説明によると、蒸気の粒子が細かくて、生地にムラなくかかって、表面につやのあるフランスパンが焼き上がるのだそうだ。

「人がやらないことがしたい」
一方、リバースシーターも同じ会社のドイツ製のもの。「卓上型で、折りたためるので、狭い厨房でも使い勝手がいいんですよ。それと、生地を送るローラーの直径が長いので、生地へのダメージが少なく、自然に送られていきます。極端な話、生地を冷やさなくてもシーティングができます」
田中さんは、「人がやっていないことをやりたいと常々思っています」という。当時日本でメジャーだった、フランス製のオーブンより、まだそれほどメジャーではなかったドイツ製のオーブンに惹かれたのだという。
田中さんが作るパンも、「人がやっていない」ものが多い。
例えば、どこにでもあるクリームパンも、田中さんの手にかかると、白焼きの、そして表面に輝きのある個性豊かな商品になる。



夜の間中、自分の力で、どんどんおいしくなっていく。 - プレーゴの長塚慶一さん

冷蔵発酵法に注目。効率化より味
千葉県柏市にあるプレーゴの長塚慶一さん(伊藤忠ライスベーカリー事業部商品開発室長)は、「キーワードは冷蔵発酵法です。効率化の目的ではなく、パンの香り、食感、味を向上させる目的での冷蔵発酵法です」と話す。
「天然酵母のパンがもてはやされていますが、天然酵母もイーストも元は天然の菌です。ポイントは長時間じっくりと発酵させることだと思います。私は少量のイーストを使って、低温で長時間生地を発酵させることで、パン本来の旨味が充分出せると考えています」
プレーゴでは現在、クロワッサンの一次発酵を一晩かけて低温で、またホイロも長時間、比較的低温で、とっている。「クロワッサンの追加出しは一切しません」と長塚さん。
さらに、ポーリッシュ法のフランスパンの水種も低温長時間発酵だ。
「もし、製造が3人以上いるのなら、冷蔵発酵法はうってつけです。一次発酵が済んだ生地の分割と、最終発酵が済んだ生地の窯入れを手分けしてやれば、開店時間の1時間前からの作業で充分間に合います。パン生地は条件さえ整えてやれば、夜の間中自分の力で、どんどんおいしくなっていくのですから」

ドウコンの性能が問われる
そんな長塚さんにとって、ドウコンディショナーの性能は非常に重要だ。選ぶポイントはただ一つ。「入れた生地が乾燥しないこと」だ。低温域でどれだけ過湿できるかが問われる。
「なかなかいいドウコンはありませんが、2つだけ私の基準を満たしてくれるものがあります」
長塚さんは、ベーカリーのプロデュースも手掛けている。現在はあるスーパーのインストアベーカリーの準備を進めている。
「一般的に、スーパーのインストアベーカリーは、効率化を推し進めた結果、パンの品質が落ち、苦戦を強いられています。冷蔵発酵法は、効率化とパンの品質の維持を両立させる方法でもあります」(長塚さん)



原価計算女王
原価計算女王

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