延期はしたけれど…収穫は大きかった! - 私の開業物語(6最終回) BY 鈴木紀美枝 - ブランスリー電子版

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私の開業物語/2004年12月号

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延期はしたけれど…収穫は大きかった! - 私の開業物語(6最終回) BY 鈴木紀美枝
毎土曜日のサンドイッチマンは、
中々好評?である。リピーターも何人か現れたし、
初めてのお客さんと話し込んだりもした。
40分ぐらい全く売れない時を過ごしたり・・・。
いろいろあるけど、とにかく楽しい!



TV『マネーの虎』に応募

起業家セミナー(『市民事業ビジネススクール』)最後のカリキュラムの発表会でのこと。国産で減農薬、有機栽培。粉や素材の味を生かすシンプルな味付け、エコバックを作って配る・・・などなど自分の思いを話した。
正直に、貯金ゼロだと言うと、横で聞いていた代表の片岡勝氏の意外なリアクションが―。間髪入れず「今までなにやってたの?」と言われてしまったのだ。
WWBジャパン(女性のための世界銀行)の『ひろう・もらう・つくる、お金をかけない起業法』という本があるが、資金ゼロはないよってことだ。
資金作りの最終手段には、テレビ番組『マネーの虎』に出ることも考えているとも言ったので、全員が終わってからの私へのコメントは、たったひと言「マネーの虎、頑張ってください」だった。それも悲しい・・・。
帰宅すると、パソコンを持っている友人に電話をして、その場で『マネーの虎』に応募してもらう。翌日、初めて番組を見たら、個性も話題性も極めて高い事業をぶつける出場者ばかり。しかも、2週後で番組打ち切りとは・・・。



配当はパンで

以前、リコーダーアンサンブルのサークルに所属していたことがある。月2回、公民館の音楽室に集まり、バロックより前の昔の曲を楽譜を見ながら演奏する。
リコーダーと言っても侮ることなかれ。ソプラノからグレートバスまで、20センチから、身長程もあるものまで何本もあるのだ。
たいていは4つのパートに分かれ、全く違うメロディーだったり、リズムもバラバラなものを合わせることが多い。合った時は味わい深いものだ。大学時代にリコーダーのサークルに入っていたメンバーやブラバン出身者に混じって、バイエル程度のピアノ経験の私が続けていられたのは、ひとえに周りの皆さんが温厚だったから。
その後も発表会には欠かさず足を運び、打ち上げにも残っていた。今年は2月に行われたので、宴たけなわの中、思い切って開業計画の話をしてみた。1口10万円で、配当はパンでどうでしょう。居合わせた9人のうちの1人が「鈴木さんのお店が傾いたら、元も子もなくなるってことか!?」と笑って、話は冗談ぽく終わったのである。
少し打診したというところだが、人に借金を頼む辛さを、ちょっぴり味わった気がした。
私の算段はこうだ。大口?の出資者が2人、同窓会役員の先輩A氏に献身的恋人のS氏である。A氏は自分から話を持ちかけてきたわけだし、S氏も借金には応じると言ってくれていた。この2人の出資金を元手に、国民金融公庫と市民バンクに融資を申し込む。さらに小口の出資者も増やしていく。



ジャカルタのパン屋の入社試験とは

もう4年近く前の話になるが、製菓学校時代のことである。実をいうと、退学寸前にまで陥ったのだ。
授業料その他、学校に納めたお金は百数十万円。それがパーである。やる気をなくして夏休み前は欠席続きで、担任の先生にはやめる相談をしていた。
が、幸いなことに、9月からの授業には無欠席で出られるようになった。さらに年明けからは就職活動にもチャレンジ。当時38歳だった私は、年齢不問のところに面接に行くも、次々不採用。
どこへでも行きますよオ、と思っているところへ、ジャカルタのパン屋の話を小耳に挟む。学校に来た求人票を所持していた、私より少し年下の女生徒の部屋に訪ねていくと、先生に薦められたが、ジャカルタなんて冗談じゃないッ、ってな具合にスンナリ渡してくれたので早速応募。
店を経営している小さな商社を訪ね、大森まで行った。今から思えば、遠くインドネシアの話だというのに、店の写真もなく、経営内容も口頭で聞かされただけだった。
気温が高くて不衛生。日本の店なら少人数で作るパンを、現地の従業員が数十人、卵を割るだけの人もいるという。月給20万円は日本の口座に振り込まれ、別途生活費が支給され、メイドと運転手付き、とういう好条件。
業界新聞にも求人広告を出したそうで、経験10年の男性が1人応募してきた。面接のときはしきりと「女性に働いてもらいたいのよねェ」などと言っていたが、未経験の私は実技試験を受けることになった。
八丁堀にある、取引先の商品開発室が試験会場である。言われた作業をするのかなナァ、ぐらいに考えていたら、ここにある材料で何でもいいからパンを作って、と言われてビックリ。手ぶらで来たし、配合なんてまったく頭に入っていなかったのだから・・・。
何をどう作っていいのやら。置いてあるスパイラルミキサーにも自信がない。強力粉200グラムとクルミを使って、手ごねで作ることにしたのだった。
配合はテキトーで、ハサミでカットするタイミングを間違えてしまい、ハラハラ、ドキドキ。発酵中はのんびりおしゃべり。
出来上がったクルミパンは、配合もちょうどよく、試験官の研究室の方と商社の方両方に褒めていただいた。
AV監督の知人に話すと、「絶対に行った方がいいですよ。ジャカルタで働くなんていう経験、なかなかできないですから」と言われ、かたや和食の板前氏は、自分が3年間ハワイの店で働いた経験からすると、劣った店で働くのは人生の無駄遣い、だそうだ。
結果は不採用で、そんな心配も無用となった。不採用の理由を教えてくれるというので、試験官氏に電話をした。
「もう1人の方が、男だから、という理由だけで採用した。技術的には問題なかった。もしよかったら、知ってるパン屋を紹介しましょうか?」――このひとことが、放浪パン職人人生の幕を開けたのである。

出資募集説明会

「融資のお願いをしたいのですが、お時間をとっていただけますか?」「いよいよですね」、A氏とこんなメールのやりとりをして、名簿部会終了後に説明会をすることになった。
相手は、60代の男性3人、女性1人、40代の男性3人の計7名。場所は居酒屋。
A3用紙3枚綴りの事業計画書を配布。パソコンもワープロも所有していない私の、手書きの力作である。
冒頭の基本理念は、(1)おいしいパン屋が近くにあったら、という地元地域の人たちの要求に応えたい(2)一生の仕事にする、とある。
キャッチフレーズは『週いち、月いちの特別なパン』ではなく、『毎日パン』である。
続いて、マーケティング、提供するサービス、提供するメニュー、競合優位性(品質、サービス、コスト、立地条件、店のイメージ、ターゲット像)、市場アクセス(価格、販売、コミュニケーション)、経営プラン(仕入れ、生産工程、人員)、事業収支(売上予想、経費予想)、投資計画、これらをコンパクトに書き上げた。
説明後に頂いたコメントは、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)、NPV、リスク分析・卸業者に倒産店のことを聞く、とメモってあるが、不勉強で今もって分からない。
計画書の出来栄えは褒められたが、「甘い」「労働時間が長すぎる」との指摘もあった。
肝心の出資だが、お目当てのA氏が、なんと、10万円だ、というではないか。世の中甘くない、男のいうことはアテにならない、・・・のだった。リクルート出身、30歳で会社を起こした先輩が、ここにいる全員、10万円ずつ出資するから、と言ってはくれたが、この時、今回の開業計画を諦める決断をした。
数日前、恋人S氏からは、前言翻して、融資も保証人も断られていた。理由は、商売がうまくいってもいかなくても、お金がもとで2人の関係が壊れるのが嫌だからだそうだ。
電話で保証人を頼んだ妹も、やるからには成功してほしいので、今の状態では断る、とキツク言われてしまった。
さらに何人かに融資を頼み、拒否された。こんな自分が恥ずかしく、情けない。
翌日、まず店の大家さんに、電話で計画の白紙撤回を告げた。設備屋の社長、設計しているはずの建築屋さん、製パン再生機械屋さん、次々電話をした。
預かり金として納めた2カ月分の家賃はいいですよ、と大家さんに言うと、「そおォ?」と言われてしまい、でも半分は返してもらえることになった。法律的には預かり金(申込み証拠金)というものは、全額返すことになっているそうだが、お金を渡すときに、計画中止の場合のことを決めておかなかったのは失敗だった。
しかし、2軒続きで借り手がついた可能性もあったのに、天ぷら屋の後釜の方は9カ月たった今でも決まっていないようだ。

3年後目指して

仕事の傍らの焼き菓子の露天販売は、これからも続けていくつもりである。毎日卸す先も1軒見つかった。
カットしたパウンドケーキを、友人どもに手みやげとして持っていくと、何人かからは「1本買い」の注文が入った。この方式が吉と出るか凶と出るかは分からないが、『マールツァイト』の白井さんも、『自宅でパン屋を始めました』の著者でソムリエの大和田聡子さんも通ってきた道である。道が閉ざされたら、戻って別の道を探せばよい。
つい最近、相棒のBさんに電話をした。土曜日はカゴを下げてケーキ売ってるから、見においでよ、と。行く、行く、と元気な声が携帯電話から聞こえてきた。(終)

原価計算女王
原価計算女王

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