コロナ禍を経て辿り着いた会話を楽しむ対面販売 - hnn - ブランスリー電子版


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お店拝見/2024年3月号

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コロナ禍を経て辿り着いた会話を楽しむ対面販売 - hnn
店主の島村吉人さん
店舗の中の様子。島村さんが小窓越しに接客する。販売用のパンは木箱やかごなどに入っている
客は小窓越しにパンを選んで購入する
「カンパーニュ」のホールサイズや4分の1サイズ(税抜400円)などが並ぶ
こんがりと焼き上がった「バゲット」(税抜250円)
「フォカッチャ」(1/4サイズ税抜450円)は、必要量をその場でカットしての販売も行う
開業後すぐに地域の日常に溶け込む

 東京・世田谷区梅丘の細い道路が入り組む住宅街の一角に2023年11月、ベーカリー「hnn(んんん)」がオープンした。十字路に面しているが通り過ぎてしまいそうな目立たない店構え。目印は古布を利用して作ったという、店名やパンのパッチワークが施されたのぼり旗と、室外機の上に置かれた小さな木製の看板だ。
 同店は客の出入り口はなく、小窓越しの対面販売となっている。小窓を覗くと、店主の島村吉人さんが顔を出す。オーブンやミキサー、木箱に並んだパンも見える。
 昼の12時に開店するや否や客は途切れず訪れる。製造は島村さんが一人で朝と夜に行い、日中は販売に徹する。
 客の姿が見えると島村さんは「こんにちは」「今日はお休みですか」などと話しかける。オープンしてまだ2カ月余りだが、頻繁に通う客が増えてきた。ほとんどが、通りすがりで同店を知ったという近所の人たちだ。ある客は島村さんに「この前は大笑いしたよね」と切り出し、会話が弾む。同店を訪れる人々にとって、島村さんとの会話も楽しみの一つになっている。挨拶程度の言葉を交わすためだけに来る近所の人や、帰りがけに島村さんと話そうと立ち寄る小学生たちもいる。オープン間もない店とは思えないほど、すっかり地域の日常に溶け込んでいる。
 同店の商品ラインナップはシンプルだ。日替わり商品を含め7〜10種類で、「カンパーニュ(4分の1サイズ)」(税抜400円)、「バゲット」(税抜250円)、「食パン」(税抜480円)、「フォカッチャ(4分の1サイズ)」(税抜450円)などの食事系が中心。「カンパーニュ」と「フォカッチャ」は一つが直径30〜40センチと大きいので、必要量を聞き取りながらその場でカットする。一人暮らしだという客には数種類を1〜2切れずつ包む。
 「住宅街ですから小回りの良さは欠かせないですね。お客様の要望に沿えるようにしていくことで、地域に根付いていけるのかなと思っています」(島村さん)
 食事系以外では「チョコパン」(税抜200円)と、有機のバナナを使用することで香りの良さを際立たせた「バナナブレッド」(大サイズ税抜600円、小サイズ税抜300円)が定番商品だ。
 「『チョコパン』は、子どもだけで買いに来られるような商品をと思って作りました。『バナナブレッド』は、外はサクサク、中はしっとりしたパン寄りの味わいにしたいと、自分の好みを追求して開発しました」(島村さん)

アフターコロナのコミュニケーション

 島村さんは以前、劇作家になるため勉強していた。しかしコロナ禍で演劇などの公演中止が相次ぎ、それがパン職人へ転向する転機となった。
 「俳優達が集まって一つの劇を作り上げる作業と、色々な微生物の働きを利用しておいしいパンを作る作業は、集団でよりよいものを創作するという意味で同じだなと思ったんです。ちょうど発酵食に興味が沸いていた頃だったのでそういう発想に至ったんですね。パンを作るということは、微生物をディレクションしていく作業だと考えると、コロナ禍でもできる演劇的な仕事なのではないかと思ったんです」(島村さん)
 会話を重視しながらの対面販売は、コロナ禍を経て変化したコミュニケーションの取り方を考えた結果だという。
 「コロナ前は人々の距離感が近かったですよね。元通りにしたいかしたくないかは、人それぞれ意見が違うと思います。でも、昔のコミュニケーションで感じた人の温かみというのは、皆さんの中で感覚として残っているはずで、少なくとも自分にとっては、そういう温かみのある付き合いは必要だと思っています。対面で会話をしながら窓越しに販売するというのは、世の中の流れから感じとれる空気感の中で、温かみの感じられる店の在り方を、自分なりに表現した形なんです」(島村さん)
 会話の中で島村さんが客によくする質問がある。「今日はどんな一日でしたか」。驚いた表情をする客もいたという。
 「意外とあまり訊かれないことかもしれないですね。パンを提供する身として、お客様がどんな気分なのかとか、どうしたいのかとかを知りたいんです。どんなパンを提案したらいいかの手掛かりが掴めますから。さらにお客様ご自身も、質問に答えることで自分の今の欲求を認識できるのではないかと思います。お客様には、自分の気持ちに気付いてもらって、のびのびとした気持ちでパンを選んでもらえるように、店としてアシストできたらいいなと思っています」(島村さん)



東京・梅丘の住宅街の一角にあるベーカリー「hnn(んんん)」
「チョコパン」(税抜200円)は丸形と長い形の2種類があり、丸形はもっちり感が強い
「バナナブレッド」(大サイズ税抜600円、小サイズ税抜300円)は大きさで食感が違う
「食パン(一斤)」(税抜480円)は角食と山型の2種類があり、全粒粉配合の同じ生地で作っている。写真は山型
息苦しさを生まないパン作りの哲学

 島村さんは自家製酵母を使ったパンの製法を習得するため、「ルヴァン」(東京・渋谷区)で働いたり、「SONKA(ソンカ)」(東京・杉並区)などで研修を受けたりした。
 「学ばせていただいたり、気になるお店に行って食べてみたりして、自分はどんなパンを作っていきたいか考えました。今パンに使用している自家製酵母は2種類で、小麦由来とライ麦由来のものです」(島村さん)
 この2種類の自家製酵母を入れている「カンパーニュ」には、イーストも極微量入れている。
 「極端なものにしたくないという思いがあります。それは、例えば自家製酵母しか使わないと決めてしまったら、その縛りが息苦しさを生んでしまうような気がしたからです。普段色々なものに支えられて生きていることを思えば、中庸でありたいと思うんです。そして、重くずっしりというよりは、少しふんわりとした軽さを感じられるパンにしたいと思って作っています。また、しっかり焼き込むことで、皮はおいしくて深い味わいに仕上げ、保存も効くようにしています」(島村さん)
 島村さんは開業した今でも、他店での研修を検討している。頻繁に買いに来てくれる客の要望の変化に細やかに対応していきたいからだ。
 「食べたいものって毎日変わりますし、体調も同じではないですよね。そうした変化に応えられるようなパンを提供していけたらと思っています」(島村さん)

SHOP DATA
店名:hnn(んんん)
住所:〒154−0022 東京都世田谷区梅丘3−14−14
営業時間:午後12時〜午後6時(売り切れ次第閉店)
店定休日:日曜、月曜
品揃え:7〜10品目
スタッフ:製造1人、販売1人
店舗面積:厨房約5坪
日商:5〜6万円



この記事の読みどころ

●客の要望に沿ったパンを提供することで、地域に根付いていく。
●子どもだけで買いに来られるようなパンも作りたかった。
●パン作りは、微生物をディレクションする作業。
●自家製酵母しか使わないと決めてしまうと、その縛りが息苦しさを生んでしまう。




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