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特集/2016年5月号

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パン屋の女房


記憶が飛んでしまったのかと思うぐらい、忙しかった。 - ブーランジェリー ルボワ
パンを陳列する「ブーランジェリー ルボワ」のオーナー夫人、森葵さん
シェフの森朝春さんと、妻の葵さん
東京メトロ丸ノ内線・中野富士見町駅からすぐの「ブーランジェリー ルボワ」。植栽は常連客の花屋の人に外注している
店の外に取り付けられている葵さんが作った看板
 仏パリで修行する夫と共に渡仏し、同地で第一子を出産/夫と共に帰国し、ベーカリーを開業/店舗のデザイン、販売、事務作業、ホームページ作成管理などを担当/生活者目線で、夫の商品開発をアシスト

子育てをしながら修行と開業をアシスト

 東京・中野区の「ブーランジェリー ルボワ」は、フランス・パリで修業中、現地の飾りパンコンテストで金賞を受賞した経歴のある森朝春さんが、2001年に開業したベーカリーだ。
 森シェフの妻、葵さんは現在、同店のホームページやネットショップなどの運営や、経理、販売などを担当している。
 「最初は、私が少しでも作れれば、困ることはないのではないかと考え、製造補助として働くべきかなと思っていました。でも実際は、厨房にはほとんど入らず、売り場に出ていました。子育てもあったので、パートのスタッフに助けてもらいながら、販売を担当してきました」(葵さん)
 森夫妻には子どもが2人いる。子どもたちは開業時、まだまだ手の掛かる2歳と6歳だった。葵さんは開業してから数年間、育児と店の仕事に追われる日々を過ごした。
 「あの頃のことは、記憶が飛んでしまったのかと思うくらい、本当に忙しかったと思います」(葵さん)
 開業前、森シェフは3年間パリで修業している。パリには葵さんも同行したが、渡仏したとき、ちょうど第一子を妊娠していた。そのまま慣れない異国の地のパリで、出産と、2歳過ぎまでの育児を行った。
 「開業を考えていたり、仕事を続けていこうとしている中では、特に出産や子育てに関しては、先を考えても不安なことだらけだと思います。できるなら、仕事と子育て、それぞれ忙しい時期が重ならないように、しっかり予定を立てた方がいいのかも知れません。私の場合は、考えたらできない、やるしかないという感じで、今までやってきてしまいました」(葵さん)
 子どもの成長に伴って葵さんは、仕事に割ける時間が増え、店頭での販売だけでなく、ホームページの運営など仕事の幅を広げてきた。とは言え、ホームページは、開業後1年の間に、全く知識がないところから、義妹に手伝ってもらいながら独学で作っていった。
 「事務作業をしたり、ホームページを管理したりして、店内での販売業務から少し距離を取ると、今まで気付かなかった部分に気付くときがありますね。店の中にいるだけでは、外からの目線を持つことって、なかなか難しいのかなと思うんです。例えば、窓ガラスの汚れとか、物の配置の違和感に気付いたりします。最近は、少し気持ちに余裕が持てるようになってきて、気付くことが増えてきました」(葵さん)

売り場は対面式。ショーケースの外にあるパンや焼き菓子などの商品は、スポットライトや間接照明で照らしている
葵さんのデザインによる同店のマスコットが付いた、紙袋やシールなど包装資材
葵さんの要望で森シェフが開発した「クランベリーノワ」(税抜き280円)
内装のポイントとなっているシャンデリアは、再利用したもの
レジ横には、葵さんの妹でイラストレーターの杣本純さんによる、同店がモデルとなった絵画やポストカードが飾られている
そのままかじれるハード系のパン

 厨房でパンを作ることはない葵さんだが、商品開発のアイデアを出すことで、森シェフを支えている。
 ハード系のパンが珍しい時代だった開業時、葵さんが、どうしたら受け入れてもらえるかを考えて、森シェフにアイデアを出して生まれたパンが、クランベリーとクルミをたっぷり練り込んだ「クランベリーノワ」(税抜280円)だ。見た目は硬そうだが、サクッとした軽い食感が特長だ。
 「硬くて、ナイフでスライスしないと食べられないということが、ハード系を遠ざけている要因なのかと思ったので、そのままかじって食べられるハード系のパンを作って欲しいとシェフにお願いしたんです」(葵さん)
 「クランベリーノワ」は現在、定番商品としてハード系で最も人気のあるアイテムとなっている。

前職の経験を活かして店づくりに取り組む

 葵さんは結婚前、キッチンとその周辺のインテリアデザインの仕事をしていた。その経験を活かし、店舗設計は葵さんが行った。
 「シェフが前に働いていたお店の雰囲気が好きで、そのデザイナーさんにお願いしようと思っていました。でも、それが叶わず、私がデザインすることになったのですが、コストはかなり減らすことができました。その点は助かりましたね」(葵さん)
 同店は、店の中も外も至る所に、客への思いやりが溢れる造りとなっている。道路から入り口に繋がるスロープは、ベビーカーや車椅子を使う人の勝手を考えて設けた。
 「子育て経験者なので、ベビーカーを押しての買い物の大変さが分かります。売り場も、狭いですが、ベビーカーのまま入れるスペースを意識して設計しています」(葵さん)
 売り場は、大きなショーケースが設置されており、対面式販売となっている。
 「ベビーカーを押していたり、買い物帰りで荷物をたくさん持っていたりすると、トングとトレイを持って自分でパンを取るのって結構大変だと思ったんです。あと、クロワッサンやデニッシュなど、繊細で壊れやすいパンは、トングで掴むときに壊してしまうことがあるので、店側で取ってあげた方が親切だと思いました。あと、ショーケースの中に陳列した方が、衛生的ですしね」(葵さん)
 さらに葵さんは、設計だけでなく、施工業者の中に交じって、工事にも参加した。
 「前職でも、現場によく出ていましたし、工事は慣れているので、ペンキ塗りを手伝ったり、店の看板を作ったりしました。施主が毎日見に来るって、業者の方にしてみたら結構嫌なことだと思うんですが、工事中は細かい注文にも親切に対応してくださって、設計段階よりいい造りに仕上げていただけました」(葵さん)
 工事に参加したことで、得られたものもあった。店内の雰囲気づくりに欠かせない、2台のシャンデリアだ。居ぬき物件だったので、前のテナントのシャンデリアを活用できた。
 「ステーキ店だったので、シャンデリアは油がべったりと付いていて、業者の方たちは、当然のように捨てようとしていました。でも、前職で、そういった汚れのひどいものでも、掃除してお手入れすれば、使えるようになることを知っていたので、やすりで磨いたり、塗装をしなおしたりして、なんとか復活させました」(葵さん)
 現在も内装は、葵さんが少しずつ、使い勝手が良くなるように、手を入れている。
 厨房では森シェフが、厨房の外では葵さんが、それぞれの得意な仕事に励むことで、同店は成長し続けていく。

SHOP DATA
店名:ブーランジェリー ルボワ
住所:〒164‐0013 東京都中野区弥生町2‐52‐4
電話:03‐3229‐8015
営業時間:午前9時〜午後8時
定休日:月曜、第2・4火曜
品揃え:60品目
スタッフ:製造常時1人、販売常時2人
店舗面積:売り場5坪、厨房12坪
日商:10万円

妻の大胆さと夫の慎重さのバランスがうまくとれている。 - パン・ピジョン
「パン・ピジョン」のオーナー夫人、八村奈都子さん
夫婦で「パン・ピジョン」を経営する八村夫妻
埼玉県川口市のベーカリー「パン・ピジョン」の外観
様々なパンが所狭しと並ぶ「パンピジョン」の店内の様子
 夫婦二人だからできることが多い/看板商品のクリームパンは、夫婦二人で協力して作った/夫婦でパン屋をやるのが夢だった/妻の大胆さを仕事で発揮してもらうために、家族全員で子育てをサポート

二人で作り上げたクリームパン

 「夫と出会い、夫婦二人で店を立ち上げてこれまで頑張ってきました。大変ですが、二人だからこそできたと感じることが多いですね」
 埼玉高速鉄道線・鳩ヶ谷駅から徒歩3分ほどの所にある埼玉県川口市のベーカリー「パン・ピジョン」のオーナ夫人、八村奈都子さん(39)はこう話す。
 看板商品の「クリームパン」(税別160円)が有名で、1日2回の焼き上がり時の度に店の前に列ができるほどの人気だが、同店では1日500個に限定して販売しているという。
 人気の秘密は、中に入っている2層のクリームだ。同店のオーナーシェフで夫の八村努さん(43)と奈都子さんのそれぞれが考え出したクリームを天然酵母のきめ細かい生地の中にたっぷり入れている。努さんが考えたクリームは卵風味がこってり濃厚なカスタードクリームで、これを先に入れて一度生地を冷ました後に、パティシエの経験もある奈都子さんが考案した生クリーム風味が強いあっさりとしたとろとろのクリームを注入する。口にすると2層のクリームが重なり合う協和音のような味がなんとも心地よく、柔らかな生地ともぴったり合う。夫婦二人の力を結集させた製品だ。

夢は夫婦で経営するパン屋だった

 とても明るくエネルギッシュな感じの「パン屋の女房」の奈都子さん。努さんとの出会いは今から18年前に遡る。調理師の専門学校で製菓を学んだ奈都子さんは卒業と同時にフランス料理店のデザート部門に就職。しかしある時からベーカリーの仕事に興味を持つようになる。
 「製菓の仕事はとても楽しかったのですが、現実的に店を持つとなると、日常食であるパンの方が無理なく経営できると思ったのです。ただし、一人では絶対駄目だとも考えていました」(奈都子さん)
 実は当時からいずれ独立するのであれば「将来の旦那さん」と二人でベーカリーを経営することを夢見ていた奈都子さん。
 そんな時、埼玉県内の地元近辺にある著名ベーカリーだった「風見鶏」を訪れ、天然酵母生地で有名な同店のパンの魅力にとりつかれる。また将来のパートナーとなる「パン職人の旦那さん」探しもあり採用の門戸を叩くこととなった。そして同店の初の女性スタッフとして就職。
 しかし男性と同じ仕事をさせてもらうのが難しい場面もあり、悔しい思いもしたという。それでも一生懸命働く中で、夫となる努さんと出会うこととなる。努さんは、優しく、職人としても頼りになった。
 「この人となら一緒にお店を開いて頑張れる」と奈都子さんは直感的に感じたそうだ。
 一方、努さんの方も、明るく自信に満ち溢れた奈都子さんの快活な働きぶりに勇気づけられ、いつしか生涯のパートナーとしてぴったりな女性だと感じるようになる。
 そして奈都子さんが23歳で努さんが27歳の時に二人は結婚。
 当時は独立を視野に入れた準備のため努さんは「風見鶏」を辞め、ベーカリーの開業コンサルティングを行う「ダイユー」の派遣スタッフの仕事に従事していたという。一方、奈都子さんは再びパティシエとして南鳩ヶ谷のパティスリーで働き始めていた。
 現在の店「パン・ビジョン」をオープンしたのは4年後の2003年10月だ。立地条件も希望通りで、開業は結婚と同様、反対する人は誰もいなかったという。
 「本当に思い切って何かをする時って、反対や疑問の声って全く出てこないものなんですね。自分達の強い意志があり、自然と成功しそうな条件が揃って、それでこそできる事ではないかと思います」(奈都子さん)。

「タルトフロマージュ」(税別260円)。洋菓子は主にパティシエだった奈都子さんが担当
人気のカレーパン(税別160円)
「やきそばパン」(税別220円)も人気だ
「コロッケパン」(税別190円)。同店では、しっかりとした具材がたっぷり入っている商品が目立つ
看板商品の「クリームパン」(税別160円)は1日2回焼き上げる。焼き上がり時間の前には列に並ぶ人たちの姿が見られる。
自然な流れでそれぞれの役割が決まった

 実は性格的には、努さんは割と慎重で守りに入るタイプだが、奈都子さんは行動力があり、どんどん攻めるタイプ。お互い違う要素を補い合いながらバランスを取っているのだという。
 現在の店での二人の役割も、、自然な流れで決まっているそうだ。製造の面では、「風見鶏」にいた期間が長い努さんの方が、同店で培った天然酵母などの技術を生かした生地作りの工程管理を担当。一方、パティシエの経験のほか、フランス料理店での惣菜作りやチーズ専門店での勤務経験もある奈都子さんは、具材や惣菜作りの工程を担当。同店では手の込んだ具材が入った商品が多いが、これは奈都子さんの考案で作った商品が多いことが影響している。
 一方、店舗運営に関しては、経理など事務的な部分は努さんが担当。奈都子さんは、現場でのスタッフの管理・指導や全体の段取りの調整などを担当。新商品は奈都子さんが考え出すことが多いが、最終的に商品化できるかどうかは、月に一度夫婦で外食に出かけた時などに話し合って決めるのだという。
 「たまに二人で落ち着いた時間を持てた時に、訪れた店の観察も兼ねながら、話し合うといった感じですね」(努さん)

妻に感謝の言葉を伝えたい

 私生活では、八村夫妻には10歳と4歳の男の子がいるが、夫婦両方とも実家が近いので、子供が生まれたばかりの頃は双方の両親が交代で孫の面倒をよく見てくれたことが助けになったという。今では主に、食事や洋服を着せるなど日常の細々とした子育ては奈都子さんが担当するが、勉強を教えたり、どこか外に遊びに連れて行ったりといったことは努さんが担当。
 奈都子さんが店の現場をしっかり切り盛りしてくれる分、家事や子育てのサポートは周囲で協力し合える体制を作って、負担が一カ所に偏らないようにしている。
 「以前、私達二人の事を知っている恩師から『お前達、それぞれは1だが、合わせると2じゃなくて5にも6にもなるな』と言われたことがあります。結婚してから16年経ちましたが、夫婦二人の関係は結婚当初と基本的には変わっていないですね。妻とは共に励まし合う戦友で、二人で支え合ってバランスが取れている感じです。普通の夫婦っぽくはないかも知れませんが、今まで一緒にやってきて良かったと思います。妻には本当に感謝しています」と努さんは話す。

SHOP DATA
店名:パン・ビジョン
住所:〒334−0005埼玉県川口市里1245−1
電話:048―287―1050
営業時間:午前7時半〜午後7時
定休日:月曜、第2火曜
品揃え:80品目
スタッフ:製造5人、販売3人
店舗面積:売場約9坪、厨房約13坪


編集部からひとこと:
ベーカリ―の力はチーム力であって、その根本である夫婦間の仕事上の信頼関係は、ベーカリーのチーム力の源です。ベーカリ―の繁盛に、オーナーの奥様の力は絶大であることを、改めて思い知らされました。ブーランジェリー ルボワパン・ピジョンを取材しました。


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