記事の閲覧
| <<戻る | 写真をクリックすると拡大写真が見られます。 |
| 特集／2020年8月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| インスタに刻印されたパン屋物語 客とスタッフが参加し盛り上がる。非常時は地域のライフラインに - どんぐり | ||||
店名：どんぐり本店 住所：〒００３-００２２北海道札幌市白石区南郷通８丁目南１−７ 電話：０１１-８６５-０００６ 営業時間：午前8時〜午後8時 定休日：１月１日 品揃え：約１７０品目 スタッフ：常時製造２０人、常時販売４人 日商：平日６０万円、土日１００万円 | ||||
まだ記憶に新しい２０１８年９月７日、北海道の胆振地方中東部を震源として発生した地震。 この地震の影響により札幌市を中心に９店舗を展開するベーカリー「どんぐり」も、発生当日は停電と断水のため急遽休業することとなった。 しかし地震発生の翌日の昼ごろからすぐに営業を再開。９月14日のインスタグラムには「電気はないけど元気がある！」とのメッセージをつけた写真を投稿。地域住民のライフラインとして営業する頼もしい姿を見せた。 材料の調達ができたものと食事パンが中心の商品構成で販売し、朝11時から午後２時くらいまでの限られた時間内に営業する日々が続いたが、インスタグラム上には、フォロワーからの「今日のお昼ご飯に買いました。地震後の停電中からずっとどんぐりのパンが食べたくて、やっと食べられて幸せでした！」「本日、震災以来始めて麻生のどんぐりさんへ行きました。種類は通常より少ないものの、定番どころのみんなが大好きなちくわパンが、沢山あって安心しました。まだまだ大変だと思うけど頑張って下さいね！」などといった温かいコメントが数多く寄せられていた。 また「今日、札幌へ帰省するので明日 買いに行きます。早く ちくわパン食べたい」といった遠方からのコメントもあった。 星野源さんも｢ちくわパン｣好きを公言 ベーカリー「どんぐり」は１９８３年に創業、今では全国的にも有名になった「ちくわパン」（税別１５０円）の発祥の店としても知られる。 売り場には常時１７０種類位のパンがあり、定番商品のほか、月に何度も出る新商品、各店舗の限定商品など様々な種類のパンが溢れている。また「どんぐり」のパンは地元住民のみならず、遠方からはるばる北海道に来る旅行者にも人気があるという。 実は「ちくわパン」は創業後まだまもない頃、常連客との雑談で「お弁当に入っているちくわをパンにしたら面白いのでは」という話が出たのをきっかけに誕生。中の具材をいろいろ試した末、今のようにツナサラダを入れた「ちくわパン」になった。 同店のインスタグラム上の投稿でも何回か「ちくわパン」は登場。中でも今年１月20日の投稿では、「どんぐり自家製具材シリーズ第4弾」として「どんぐりアリオ札幌店」の担当者が「ちくわパン」の秘密を紹介。 まず、ちくわはパンに負けない食感にする為に「どんぐり専用」で作っている事、焼いても溶けないマヨネーズを使用している事、さらに、ちくわにツナサラダをたっぷりと詰めて「ふわもち生地」でぐるぐる巻きつけて発酵を取っている事などを、製造風景を撮影した動画と合わせて明かしている。 「焼き上がりはマヨネーズがじゅわっとしていて、生地はふっくらしていて、とても美味しそう」（どんぐりアリオ札幌店担当者） また、２０１９年２月23日には、「ちくわパン」好きを公言するミュージシャンで俳優の星野源さんが札幌公演で来訪したため、その前日にアップした「ちくわパン」の投稿画像には反響コメントが多数寄せられた。公演日の前後は増産体制で臨んだが、その結果「ライブ会場で食べるちくわパンもおいしい」などといった温かいコメントももらうる事となった。 閉店、そして開店の節目にもＳＮＳが活躍 ２０１８年５月11日には森林公園店を閉店し、代わりの店舗となる大麻店を５月25日にオープンした。 また麻生店を２０１９年９月に閉店させ、同年11月には山鼻店をオープン。 インスタグラム上には森林公園店最終日の様子や山鼻店オープン後の店内の様子をリポートした動画なども投稿された。 各店舗閉店時の投稿には、長く親しんできた店がなくなることを悲しむフォロワーからのコメントで溢れていた。 | |||||||||||||
店舗ごとに独自性を出して、情報発信 「どんぐり」の各店舗には、自店でしか販売しない限定商品がある。さらに各店が頻繁に新商品を出している。 こうした商品もインスタグラムに投稿され、北海道の冬にぴったりなほくほくの惣菜パンや、人気の「おしりたんてい」のキャラクターをモチーフにしたキャラパンなどが注目を集め、多数のコメントが寄せられた。 アイデアコンテストの応募作品を商品化 「どんぐり」は新商品を開発する際に、客からアイデアをもらうことがある。顧客とのコミュニケーションを大切にしながら店を作り上げていく顧客参加型の店舗運営を心掛けている。 桑園店では、２月から３月にかけて、新商品のアイデアコンテスト「『愛でぃあぱん』・リクエストパン」を開催し、客から広く新商品のアイデアを募った。 過去にも客からのアイデアを商品化し店頭で販売した例は多い。例えば麻生店の秋期限定商品となった「さつまメロンパン」（税別１２０円）は２０１８年10月に発売。安納芋を練り込んだクッキー生地でパン生地を包んで焼き上げた商品だ。 チームリレーでおすすめ商品を紹介 ２０１７年からインスタグラムを始めた「どんぐり」も、２０１９年の10月にはインスタを投稿する専門のチームを立ち上げ、それ以降は毎日１、２件の投稿を続けているという。また毎月１回、任意で参加できるミーティングも開催。そのミーティングの中で出された案の一つが、テーマを決めて、各店がでリレー形式で順番に投稿をしていく、というものだった。 ４月６日から４月18日にかけては、各店のおすすめ商品を順番にリレー形式で発表。４月14日に投稿のあった「どんぐり大麻店」のおすすめ商品は「クリームまみれ いちごの誘惑」（税別２２０円）。ふわふわパンの間にインパクトの強いたっぷり苺クリームを挟む動画を交えた投稿だった。 「インスタグラムは売り上げに直結するようなメインの業務ではありませんが、店舗に来て楽しんでもらうためのきっかけになればという気持ちが強いですね。ただ、最近は外出自粛が求められていますので、しばらくは実際に店舗に来てもらえるかどうかはともかく、インスタグラム自体を楽しんでもらえたらいいかなとも思っています」（どんぐり広報担当の滝進也さん） 店舗ごとに販売商品が異なる事が多い「どんぐり」にとっては、各店舗のインスタチームが、それぞれの新商品や限定商品を投稿することが、結果的に、社内の情報共有に繋がっているという。 巣篭り生活が増える中レシピ動画が大反響 最近ではもっぱら静止画像より、動画のほうの投稿をする頻度が高くなってきた。主に食べ方提案として出しているパンのレシピ動画が多いが、中でも最近特に反響が大きかったのは、「カレーパン」（税別１５０円）の上部をくりぬいて半熟卵とチーズを入れて食べるアレンジレシピの動画だ。 ２０２０年７月２日時点で、「チーズと半熟卵で簡単アレンジ、早速やってみよ、どんぐりさんのパン大好きでいつも買ってます」などといったコメントも多数寄せられ、「いいね！」も627件集まるなど、反響が大きかった。 「レシピ動画は外出自粛による巣篭もり生活もあって、需要は高まっていると思います。見やすさに特に気をつけてアップしていますね」（滝さん） | |||||||||||||
| 日常の流れを映し出す毎日の素朴なパンと沖縄の風景 - 宗像堂 | ||||
店名：宗像堂 住所：〒９０１-２２２６沖縄県宜野湾市嘉数１-２０-２ 電話：０９８-８９８-１５２９ 営業時間：午前１０時〜午後５時 定休日：水曜日 品揃え：５０品目 スタッフ：常時製造５人、常時販売２人 店舗面積：厨房１５坪、売り場５坪 | ||||
那覇空港から車で30〜40分ほど、沖縄県宜野湾市の自然豊かな場所にあるベーカリー「宗像堂」は、一見、ベーカリーには見えない外国人住宅を改装した白い平屋の建物にある。 ここは地元住民ですら知らなければ通り過ぎてしまうような隠れ家的な場所だが、沖縄の天然酵母パンの店の草分け的存在として、また全国のパン好き達の「聖地」として多くの人が集まってくる場所だ。 生命のエネルギーを循環させる 店長の宗像誉支夫（むなかたよしお）さんはもともと大学院で微生物の研究をしていたが、縁あってパンの道へ進む事に。以来、他のベーカリーやパン職人の元で修行した経験はなく、全く独学で様々な経験を積みながら、天然酵母のパンを作り続けてきたという。 実は同店では宗像さん自ら作った石窯を使用していて、燃料は薪だ。薪の火を消して燃え殻を書き出した後に残る余熱で焼く。 ウミガメの形のドーム式の窯に、前日の夕方から火を入れ始め、深夜11時くらいには一旦火を落とす。そして早朝3時過ぎくらいからまた火を入れ、だんだんに火を落とし6時くらいには灰を掻き出し、長いモップで床をきれいに拭いて、パン生地を入れ焼き始めるという。 薪の火は日によって燃え方が異なり、酵母の働きによってパン生地の膨らみ方が毎日異なるように、同じ燃え方をする事は二度とないそうだ。 そして灰が掻き出された後も燃え尽きた後に石窯へ蓄えられた薪のエネルギーが微生物であるパン生地の酵母に伝わり、この世に二つとないパンが作られるのだという。 「石窯が蓄えた命が生地に伝われば、パンという、新しい命に生まれ変わります。生まれてきたパン達は、人の生命をそっと支えるのです」（同店） パンの底にはレンガの跡が付いている 「裏表シリーズ」の「ライ麦カンパーニュ」（税別５２０円）。九州産小麦、読谷（よみたん）全粒粉、ライ麦を使用。 石窯に直接生地を置いて焼いているので、底の裏側にはレンガの跡がついている。この底の部分が熟成されたチーズのようだという意見があったとのこと。 石窯のレンガ跡と熟成チーズの間には時間をかけてじっくり蓄えられたエネルギーが伝播させる共通項があるのかもしれない。 | ||||||||||
また沖縄に行きたいと思ってもらいたい コロナ禍により、全体の半分位を占めていた沖縄県外からの客は減少、代わりに巣篭もり生活で昼食用のパンを買う地元住民や、県内でも普段はあまり来ないような少し遠方からの客が増えた。 それでも宗像堂のパンを食べたいという県外のファンに向けて通信販売の３０００円セット（価格は内税、送料は別）の一例をインスタグラム上で紹介。 写真は、右上から下に、「ライ麦カンパーニュ」「プレーン角食パン」「黒糖食パン」。左上から下に、「黒糖シナモンロール」「黒糖チーズパン」「バナナ・コクルレ」「黒糖あんぱん」。その横は「イチジクくるみショコラ」。内容は、日によって変わるという。 メッセージ欄には、県外にいるフォロワーからの「世界が落ち着いて沖縄に行ける日に想いを馳せながら」とのコメントが投稿されていた。 食材は自家製にこだわり地産地消も実践する 同店は５年前から、沖縄県中頭郡読谷（よみたん）で小麦の栽培も行っている。収穫した小麦「読谷麦」は全粒粉パンを作る時などに使用。 目印として、宗像堂のパンで『読谷麦の』と書かれているものは全てそこで育てた麦を使用したものだ。 また、土曜だけ焼いている「とうま１００」は、一緒に麦を育てている無農薬農家の当真嗣平氏へのリスペクトを込めて、「読谷麦」の全粒粉１００％で作っているという。 宗像堂は、東日本大震災以降は、自家製小麦でなくてもできるだけ九州産小麦を使用するなど、環境のためにできるだけ近い場所の原材料を使用するようにしているという。 小麦以外にもできるだけ沖縄県内の食材を積極的に活用。 写真１は、読谷で麦を共に作っている当真嗣平氏が育てた紅芋を使用した「読谷紅芋パイ」（税別２８０円）。割った瞬間の断面図が見られる動画を公開した。「紅芋、美しい色！」といったコメントが寄せられた。 「読谷紅芋パイ」については、「トースターでリベイクして食べるとさらに美味しくなります」といった食べ方提案も行なっている。 宗像堂の焼き菓子で看板商品の「黒糖カトルカール」（税別１０００円）の製造動画も公開（写真２）。 カトルカールは、九州産小麦、高千穂バター、沖縄産の卵ときび糖といった４種の素材を４分の1ずつで作ったシンプルなパウンドケーキ。それを黒糖とメイプルシロップ、ほのかに香るエスプレッソの蜜にとっぷりと浸したものが「黒糖カトルカール」だ。 愛知県の森道市場への出店 県外の様々な店やイベントに商品を卸販売する事はあっても、実際に沖縄を離れて現地へ赴く事は少ない宗像堂のスタッフだが、愛知県蒲郡市の森道市場には毎年訪問し出店している。 森道市場では読谷村の畑で育てた自家製小麦も販売。２０１８年には、玄麦と石臼挽きの小麦粉のそれぞれ１キロ袋入りを販売した。 | |||||||||||||||||||
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
