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| 特集／2024年12月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| パン製造技能検定試験
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| パン業界の技術向上が目的 - 東京都パン製造技能検定推進協議会の長谷川敬洋さん | ||||||||||
パン製造技能検定は、パン職人の技術向上を目的に、１年に１回、毎回12月初旬から翌年２月中旬にかけての約２か月間実施される。対象はパン製造に関わるすべての人で、リテールベーカリー のパン職人から、大手パンメーカーの工場で製造業務や管理業務に従事する人などが受験している。 試験は２級、１級、特級があり、それぞれ学科試験と実技試験がある。受験資格を有するのは、２級が２年以上の実務経験がある人、またはパンの専門学校などで指定の学科を卒業した人で、１級が７年以上の製パン実務経験がある人、または２級合格から２年以上の製パン実務経験がある人となっている。特級は１級合格後に５年以上の製パン実務経験があることが受検資格だ。 受検申請者は全国単位で見ると、２０２３年度が３７７１人。２０１８年度から２０２４年度までの平均年間受検申請者数は３８２５人となっている。 東京都だけでみると、毎年約１３０人の受検者がいる。そのうち２級が70人、１級が約60人を占め、特級は毎年数人程度となっている。 受検生１人を検定委員と補佐員が監督 パン製造技能検定は、厚生労働省が所轄する国家検定で、試験問題は同省管轄の中央職業能力開発協会が作成。ただ実務的な運営は技能検定の実施計画に従い、各都道府県の職業開発協会にその実施を依頼している。 「各都道府県の職業開発協会の指導の下、実際に実技の検定試験を行うのが、東京都の場合は、我々、東京都パン製造技能検定推進協議会です。毎年、大手製パンメーカー３社から、持ち回りで推進協議会の運営メンバーを選出しています」と話すのは東京都パン技能検定推進協議会で窓口対応などの業務を担当する長谷川敬洋さんだ。 現在東京都パン製造技能検定推進協議会は、東京都で実施されるパン技能検定の実技試験における事務全般を行っている。具体的には、検定委員の募集や、パン製造技能検定試験の公正性と一貫性を確保するために行う水準調整会議の運営などだ。 「１級と２級の実技試験では受検者１人に、検定委員１人と補佐員１人を付けます。検定委員らも１級レベル以上の知識と長い経験を持つメンバーで構成されていて、各受検生の様子を注視しながら試験を進めていきます。検定委員のうち、３人に１人は主任検定員で、３人がチームとなって監督作業を進めます」（長谷川さん） ストレート法で山型食パンを作る パン製造技能検定の試験内容は、学科の場合、１級、２級とも「食品一般」「パン一般」「パン製造法」「材料」「関係法規」「安全衛生」など。特級は「工程管理」「作業管理」「品質管理」「原価管理」「安全衛生管理」「作業指導」「設備管理」といった製造現場での管理能力が試される高度な内容が出題される。 実技試験は１級、２級の場合、決められた時間内に決められた条件のもと、指定の作業を指定の道具や材料を使って実施。作業内容は今のところ、ストレート法によって山型食パンを指定の型を用いて、２級の場合は３本、１級の場合は４本作るというもの。ただし１級は材料を計量する際に指定された配合から水の最適な配合量を自分で算出する必要があるなど、製造計画を自分で立てる能力が求められる度合いが高くなる。 一方、特級の実技試験は「計画立案等作業試験」と呼ばれ、パンの製造者ではなく製パンの厨房や工場の管理者として、製造工程や品質の管理、作業指導などができるかが問われる試験となる。 具体的には、材料や工程の管理、効率的な生産スケジュールなどを実際に計画立案する実技テストになっている。 合格のボーダーラインは、学科試験が65点以上、実技試験は60点以上とされており、合格率は、全国全等級平均で68・３％、東京都の場合２級が65％、１級が75％、特級が50％となっている。 「特級は難関のため受検者自体が少ないのですが、管理経営に必要なスキルを身につけることができます」（長谷川さん） 高度な知識と技術を持つことの証になる 実技試験での採点の基準は、正確で詳しい情報は非公開だが、作業手順のほか、パンの焼き色、ボリュームなどを含めた山型食パンの出来上がりの状態を見て総合的に判定される傾向にある。 「試験を実施する各地の気候や気温などで、できあがりも変わりやすいのですが、それぞれどこで作っても出来上がりは同じ基準でみられるよう、合格の判定基準は毎年、他府県の製パン技能検定の実施実務を担当する団体にも慎重に周知しています」（長谷川さん） 東京都パン製造技能検定推進協議会では毎年12月にその判定基準や採点方法を他の都府県の実務実施団体にも周知させる目的で、水準調整会議を実施している。 「パン製造技能検定は職業能力開発促進法に基づき実施される厚生労働省所管の国家検定ですが、パン製造に携わる方の技能と地位の向上のみならず、技能習得への意欲を促進してもらうことでパン製造技術に対する社会的な評価の向上、しいては経済や社会の発展につなげていって欲しいという思いもあります」（長谷川さん） 同じパン作りでも試験の形で行うと、制限時間もあり大変だが、第三者に認定されている標準的な方法で作業をこなすことができるという技術力の証明になる。 「知識や技術が身につくと、作っているパンの品質もアップし、売り上げが伸び、作業工程全般への意識も高まります。忙しくても何とか時間を見つけて勉強して試験に挑んで欲しいですね」（長谷川さん） | ||||||||||
| 技能士の資格は信頼と品質の証 - 特級取得ベーカリーカルテットの高崎俊介さん | |||||||||||||||||||
東京・大田区の「ベーカリーカルテット」の店長、高崎俊介さんはパン製造技能士の特級資格を保有する。 同店は２０１８年の２月にオープン。16年の修業を経ての独立だったが、その直前で思い切って受検し合格したのが特級の試験だった。 「１級の資格は特級を取得した９年ほど前に取得していたのですが、独立する上での強みになると思い特級の資格もとりました」（高崎さん） 食品業界が多様化し、本物の品質がますます求められるようになってきている中、製パン技能士の資格には単に技術の証明に留まらない大きな価値があると高崎さんは感じている。 「パン製造技能士の資格を持つことは、パン作りに対する真剣さを示す強力なアピールポイントで、信頼と品質の証になると思っています」（高崎さん） 勤め先の勧めで１級から受検 業界経験が20年以上になる高崎さんだが、最初の勤め先であるベーカリーに就職した当初は、パンの専門学校を出ていたわけでもなく、製パンの知識は全くない状態だったという。 「もともとデザイン系の学校に行っていたので、ものづくりには興味があったのですが、就職氷河期で就職活動が難航していたところに、ちょっとした縁がありパン業界に入る事になりました。製パン技術は、それから現場で作業しながら覚えていった感じで、業界に入って何年かは、パン製造に関する専門的な本を読んでも知識がないのでいまいちわからない感じがありましたね」（高崎さん） 転機は就職して７年ほど経った頃、勤め先の社長に「パン製造技能検定」の資格を取得してはどうかとすすめられたことだった。 高崎さんは「当時は１級の受験資格である実務経験７年を超えていたので、１級から受検できました。勉強法は今ではあまり開催されていないかも知れませんが、当時は１級を受験する人のための講習会があったので、それに参加して出題範囲を把握し、学習内容の重点を理解しました。それでも学科問題の対策のための教本などはありませんでしたので、当時販売されていた「パン技能士試験問題集１２００題」を購入し、その反復をひたすらしていた感じですね。実技は普段の仕事の中で、講習会で教えてもらった傾向と対策に沿って作業できるように準備をしました」と高崎さんは振り返る。 さらに「当時は休日にまとめて覚えて、残りは毎日１〜２時間勉強して補いました。ただ実技は会場の機械類になじみがなく、それらの癖がわからないことが大きなハードルでした。また実技の問題はストレート法で山型食パンを作るというものでしたが、ストレート法以外の方法でパンを仕込んでいる人は苦労するかも知れませんね」。 ｢計画立案等作業試験｣に対応した勉強に重点 １級取得後は、忙しさもあって、特級の資格をとることはしばらく考えなかったという。しかし長く経験を積みながら独立も間近に意識するようになって、改めて難関資格である特級を取得しようと考えるようになった。 「現在の自分の力がどれくらいなのか知りたかったことと、店を開くにあたり大会やコンクールなどでの受賞歴もなかったので、資格取得はアピールポイントとして店のＨＰなどにも載せられると考えました。そのため思い切って特級にも挑戦する事にしたのです」（高崎さん） 特級の実技試験は１級までと異なり、管理・監督者としての知識を問われる難易度の高い「計画立案等作業試験」があった。そのためそれに対応した勉強ができる本をさがした。 「現在はわかりませんが、特級は、過去に出題された問題を集めた問題集が少なかった上、中央職業能力開発協会がネット上で公開している過去の問題も、問題と回答しかなく、途中の解き方などの解説が出ているものがなかったため苦労しました。今ならＡＩに問題と解答を示せば解き方を教えてもらえると思います」（高崎さん） 勉強法は苦手分野を洗い出した後、「計画立案等作業試験」に対応した勉強を重点的に行い、あとは、過去に出た問題を解くことをひたすら繰り返したという。 それでも普段のパン作りではふれない損益分岐点や原価計算、運営管理などが覚えられるので、店を出してリーダー的な仕事をするのには役に立つと感じた。 「問題の言葉づかいや数字が巧みだった記憶があります。丸暗記だと引っかかる内容でした」（高崎さん） 「特級の資格を取得したことで得た知識はパン作りの指導者になるために活用できますね」（高崎さん） 特級を一緒に受検した人と会場で話す機会があったが、高崎さん以外はリテールベーカリー関係者ではなく、大量にパンを製造する工場で製造管理や指導を行う立場にある人ばかりだった。 「実際、パン製造技能検定は幅広くパンの製造現場で仕事をする人を対象にしているので、試験問題は工場系の機械の使い方や作業の流れも範囲に含まれていました。そのため大手製パン工場と個人店との段取りの違いを知る事ができて、面白かったですね」（高崎さん） | |||||||||||||||||||
| 特級資格取得で得た知識を活用 | ||||||||||||||||
現在、高崎さんがオーナーシェフを務める「ベーカリーカルテット」は全粒粉や雑穀、シリアルなどの栄養価の高い食材を用いた独自のパンの開発に力を入れることで注目を集め、根強いファンを獲得している。看板商品は、全粒粉をベースに雑穀や穀物を加えた食パンのシリーズや、乳酸菌を配合し「氷温熟成」で発酵させた食パンなど。 同店のインスタグラムのプロフィールには特級パン製造技能士のほか、雑穀エキスパートの資格も記載。技能検定の資格取得は高崎さんのアピールポイントの一つで、店での作業管理にも役立っていると感じている。 「パン製造は一見シンプルに見えますが、実は科学的な知識や細やかな技術が求められる専門的な仕事と考えています。技能検定の資格取得を通して得られる知識と技術は、パンの味や品質を安定させ、長期的なキャリアにもつながるのではないでしょうか。また、他店との差別化を図るための重要な資産となり、新しい価値観を生み出し、お客様のニーズに応えることにも役立つと思っています」（高崎さん） また、高崎さんが１級、特級の資格を取得した時と比べて、パン製造技能士の認知度は高まっているので、資格を取得することでのアピールも年々しやすくなってきているのではないかと、高崎さんは考えている。 「パン製造技能士の資格を持っていることは、雇用する立場の人にとっても、雇用される立場の人にとっても、大きなメリットをもたらすと考えています。雇用する側にとって資格を持つスタッフは即戦力として期待できますし、資格を持つ人材がいると公表することで、店の高い技術力を証明するためのブランディングがしやすくなります。一方、雇用される側は資格を持っていれば給与面での優遇を受けやすくなり、責任ある役割を任されるチャンスも増えると思います。製パンのプロフェッショナルとしての誇りも得られるのではないでしょうか」（高崎さん） 少子高齢化が進む中、確かな技術を持った人材が求められている現状についても高崎さんはふれる。 「パン製造技能士の資格を得ることは、日本の将来の食文化を支える一員としても認識されることに繋がり、食品業界の中でのポジションを確立する大きなステップになるのではないでしょうか。日本のパン文化の発展に貢献する技術者として、一歩踏み出すためにも受検をおすすめしたいですね」 SHOP DATA 店名：ベーカリーカルテット 住所：〒１４４-００４７ 東京都大田区萩中２-７-12 ＳＴ萩中１０１ 電話：０３‐６７１５‐１３７０ 営業時間：午前10時〜午後５時 定休日：木曜、金曜 品揃え：約30品目 スタッフ：製造常時２人、販売常時２人 店舗面積：売場6坪、厨房20坪 | ||||||||||||||||
| 目標に向かって成長するために - １級取得西神中央グーテの水野歩実さん | |||||||
「試験は２級の時はすごく緊張しましたね。実技も普段と違って時間制限があったのが大変で、何とかギリギリで時間内に終わらせた感じでした」と話すのは兵庫県神戸市西区のベーカリー「西神中央グーテ」の製造スタッフを務める水野歩実さん。水野さんは２０１７年に神戸製菓専門学校を卒業後、その年の12月から翌年の２月にかけて行われた２級のパン製造技能検定に合格。「専門学校で受検を後押ししてくれていたので良かったと思います。学友で同じように検定を受ける人も多かったので励まし合いながら合格できた感じでしたね」（水野さん） 受検した理由は「自信をつけたかった」というのがまずあるという。水野さんには将来自分の店を持ちたいという目標があった。以前、あるベーカリーを訪れたときに壁にパン製造技能検定の合格証書が貼ってあった。 「店を持ったら、壁にパン製造技能検定の合格証書を貼りたいと思いました」（水野さん） １級はリラックスして挑めた 水野さんは神戸製菓専門学校を卒業後、大阪市に本社を構えるエーワンベーカリーグループに就職。同社が運営するベーカリー「グーテ」の店舗で働き始めたが、専門学校で取得した単位が２級の受験資格に該当したため、入社一年目で受検して資格を取得することができた。 さらにその４年後には１級にも挑戦。見事合格証書を手にする事ができたが、「１級は２級より難易度は高かったものの、社会人経験と実務経験を積んだ後だったのでリラックスして挑めたと思います」と水野さんは話す。 勉強法は２級の時も１級の時も過去に出た問題の反復解答が中心だったが、過去に出題された問題の公開サイトを見ても問題と回答だけで、途中の解き方などに関する解説がなかった。そのため途中の解き方は自分なりに考えて解釈しながら勉強することも多かったが、専門学校の時に使った教科書をよく見たら思わぬところにヒントになるような情報が出ていた事もあった。 「学生の時は深掘りして考えなかったようなところが問題として出ていたこともありました」（水野さん） 機械類に関する問題では、普段の仕事では使った事がないものが出てきたこともあり、難しかったという。 全体の工程を把握する力がついた 「職場では慣れてきて流れ作業になっていたり、分担作業のため全体の工程を考えなくなってきてしまっているようなところを、改めて考え直す事ができたのは良かったです」（水野さん） 学科の勉強は、パン作りの工程の最初から最後までを理解できて、自分の技術に責任を持てる自身が付いたという意味で良かったと感じている。 今でも現場で作業しながらふとした瞬間に身につけた知識の意味をすとんと理解することがあるそうだ。 「腑に落ちるというのでしょうか。何となくやっていた作業が、こういう事だったんだとわかるようになったのはとても良かったですね。やはり勉強は必要だと思います」（水野さん） ある製パン作業で、仕事の流れを優先して、実際はもっとベンチタイムを長くとるべきところを、短くしてしまった時などに、ふと技能検定の過去に出題された問題を見返したくなるという。 実技試験は時間制限があるのがとにかく不安だったが、職場で練習させてもらう機会をもらえたのは良かった。 「エーワンベーカリーは資格手当もありますし、会社が協力的な点は良かったですしとても感謝しています」（水野さん） 現在、パン製造技能検定の実技試験は２級も１級も山型食パンを作る作業だが、「山の高さや生地の伸び具合、割れ方などで個人差が出やすいのが山型食パンだと思います。事前情報を集め、減点されそうなポイントはチェックして対策をした上で、本番に挑めたのは良かったですね」と水野さんは話す。 途中、道具の使い方で混乱するというトラブルもあったが、そこは正直に会場の検定委員に聞いたら問題なく答えてくれたので乗り越える事ができたという。 １級は２級と同じ会場だったので、それほど緊張しなくて済んだ点も良かった。 技能検定は信用につながる資格 パン製造技能検定の資格を取得したことは水野さんにとって自信につながったが、実際、キャリアアップや転職活動などに役立つ事もあるのではないかと感じている。水野さんは２０２１年の３月から２０２４年の３月までの３年間、一度現在の職場を離れ、出身校である神戸製菓専門学校で講師のアシスタント業務に従事していた事もあった。 「資格を評価してもらい自分の技術力や知識を証明できたので、職場を移る時にも動きやすかったなという感じはします」（水野さん） 今後については、夢だった独立もまだ焦ってすることはないかなと感じている。最近、東京を訪れ何日かかけて色々なベーカリーを巡る機会があったが、パンと様々な食材の組み合わせが斬新だと感じるベーカリーが多く、パンを料理の一部としてうまく成り立たせているなと感じた。 さらに色々な経験を積んで色々な事を吸収し、独立については、30代半ば位までじっくり考えてから判断しようと思うようになったという。 「パン製造技能検定は、自分の実力を確認し、自信を深めたい方に最適な資格です。この検定を取得することで、業界内での信用を得やすくなり、将来にわたってパン業界で活躍するための基盤を築けます。また、スキルアップや成長の貴重な機会になると思います」（水野さん） SHOP DATA 店名：西神中央グーテ 住所：〒６５１‐２２７３兵庫県神戸市西区糀台５丁目２‐３プレンティ１番館１階 電話：０７８‐９６３‐５８８２ 営業時間：午前10時〜午後10時 定休日：なし 品揃え：約160品目 スタッフ：製造常時５人、販売常時４人 店舗面積：厨房１５坪、売り場４坪 | |||||||
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