(続)私はこうやって独立しました。 - ブランスリー電子版


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特集/2018年2月号

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(続)私はこうやって独立しました。
独立開業を果たした2人のパン職人にスポットを当てた。ポイントは、妻の夫とパンへの想い。



今が自分にとってベストと考えた時に開業した - スタンダードベーカリー
店長の岡田義高さん(右)と妻で販売担当の絵里さん
埼玉県越谷市のベーカリー「スタンダードベーカリー」。閑静な住宅街の中を横切る大通り沿いで以前美容室が入っていた場所を居抜きで改装し作り上げた
「スタンダードベーカリー」の店内。白を中心とした空間で、木製のL字型カウンターを設置
人気1位の「クリームパン」(税込200円)
売場の様子。美しく規則性のあるシルエットが印象的なパン達
オーブン(奥)は以前の勤務先で使っていたものと同じものを新品で購入
漠然とした想いを実現させていく

 いずれ独立したいという漠然とした想いを抱き続けてきた岡田義高さん(34)が、今がその時だと直感的に感じたのは一昨年、2016年9月頃の事だ。
 当時は無印良品の飲食事業のベーカリーカフェの社員で、店舗間で部署異動をしたばかりの頃だった。25歳から勤務していた同社のベーカリーカフェでは、パン製造のほか、商品開発などの企画にも携わっていた。
 もともと岡田さんは大学卒業後、音楽や美術などの芸術活動をしていたが、アルバイト生活を経てベーカリーの世界に飛び込んでいる。ベーカリーの世界に入ったのは、「パン」というツールを通じて音楽や美術のように何らかの自己表現ができると考えたからだ。そのためいつか独立し自分の店を持つ事を意識し、25歳の頃から毎月の給料のうち一定額を定期預金として貯蓄するといった事もしてきた。
 もう少し経験を積んだ後で独立するという選択肢もあったが「それでも、今から10年後のビジョンを考え、店を成長させていく事を考えると、まだ若くて体力のある今が自分にとってはベストだと思いました」と岡田さんは話す。
 そして思い立ったら岡田さんの行動はとんでもなく早かった。「まず毎日、近所の書店に通い『独立』『開業』に関する本を片っ端から読み始めましたね」(岡田さん)
 実は、残念ながら岡田さんの周りには独立・開業を考えるような人が全くいなかったため、全て手探りで進んでいくしかなかったという。

設計事務所に開業計画を相談

 独立に向けて具体的な計画を考え始める際、岡田さんはまず店の内装を任せる設計事務所を選ぶ事を考えた。
 実はその前から岡田さんの妻の絵里さん(34)が、埼玉県内のとあるカフェの内装に興味を持ち、どこの事務所が設計したものか興味を持って調べていた。神奈川県川崎市内の設計事務所であることがわかったが、同事務所は商業空間や飲食店などを対象に内外装の設計を行うほか、資金調達や物件探しといった開業に関する総合的な相談にも対応してくれていた。
 岡田さんは開業資金の3分の1ほどを自己資金、残り3分の2ほどを日本政策金融公庫からの融資でまかないたいと思っていたが、同設計事務所を通じて専門知識のある税理士も紹介してもらい、融資計画に関する相談をする事ができたという。 
 「税理士さんに助言を頂きながら融資審査のための資料作成などを行いました。開業後の状態を想定しての資金繰り表なども作りましたね」(岡田さん)
 おかげで計1100万円位の独立資金をなんとか集めることができた。資金としてはけして多くはないが、岡田さんと妻の絵里さんが二人でやりくりできる程度の小規模店を想定し、岡田さんの出身地である埼玉県越谷市内で物件を探した。
 ただ、駅近は家賃が20万円位で高く、今後を考えると、とても手が出せない。そのため駅からだんだん離れていく形で最終的には家賃が10万円弱の物件に決めた。東武伊勢崎線の越谷駅、新越谷駅、JR南越谷駅といった最寄り駅からいずれも徒歩10分以上かかる場所だったが、越谷市内では世帯人口が3番目に多い赤山町に位置する物件だった。
 最終的には開業資金のうち400万円位かけて内外装工事を行う事となった。またオーブン、ドウコン、冷蔵庫、ミキサー、作業台などの機械設備に400万円位を費やした。



東南からの光が入り明るい店内の様子。道路の向こう側にUR団地と公園が見える
厨房の作業台と売場が近いので、厨房にいながら接客ができる
大通りを挟んだ店の向かい側にはUR住宅の団地群と公園がある
天井からもやさしい照明の光が店内を演出する
「スタンダードベーカリー」のレジ付近の様子
限られた定番商品に注力していく

 新店は埼玉県越谷市赤山町の閑静な住宅街の中を横切る大通り沿いで、以前美容室が入っていた物件を居抜きで改装し作り上げた。大通りを挟んだ店の向かい側にはUR住宅の団地群と公園がある。外観は白を基調にシンプルで落ち着いた雰囲気にまとめた。道路に面したフロントは美容室だった頃のまま、全面透明のガラス張りにしたが、中の様子が奥の厨房に至るまではっきり見える上、方角が東南のため日差しが優しく入ってくる明るい雰囲気の店となった。
 店内も白を中心とした空間にし、柔らかい質感の木製のL文字型カウンターをセルフサービスの売場として設置。また岡田さんが設計事務所と相談し、セルフの売場でも厨房の作業台と近い位置に置く事で、厨房にいながら岡田さんも接客ができる動線をあえて取り入れた。
 そして売場には、美しく規則性のあるシルエットが印象的なパン達を並べた。岡田さんが昔から粘土アートに造詣があるため、パンの成形にも美しく見せるためのこだわりがあるという。
 実は開業に向けた準備をする中で、岡田さんは店のコンセプトとして強く打ち出していきたいある思いを抱えていた。
 「食パン、カレーパン、メロンパンといったどこのパン屋にもあるような標準的な商品(定番商品)をとにかく徹底的に追求していきたいという思いがありました。商品数を増やすより、あえて限られた数の商品のみに力を入れていきたいと考えています」(岡田さん)
 そのため店名を「Standard Bakery(スタンダードベーカリー)」と命名。値段も買い求めやすい150〜200円位で固めた。

厳しい競争環境で育てる個性

 岡田さんが念願叶ってついに「スタンダードベーカリー」をオープンしたのは2017年5月のことだ。
 驚いた事にオープンしたら、しばらくは予想を超える多くの客が朝から押し寄せた。工事中の様子を見ていた人などが多く、同ベーカリーの存在が広まっていたようだった。
 ただし、スタッフは岡田さんと販売担当の妻の絵里さんのみ。売れる商品はクリームパンや食パンなど特定の商品に集中していた。それらの商品を品切れさせないため、しばらくは鉄板に焼きたての商品をそのまま置いて出す日々が続くようになり、結局、常時出す商品は15品目位に絞らざるをえなかった。開店後2カ月近くは朝、行列ができる位の盛況が続いた。
 しかし、岡田さんにとってその後は苦戦が待っていた。ベーカリーにとって低迷期である夏季は予想していたほど落ちなかったが、その後、秋に入ってから、台風などの天候不順が続いた事や、同じ越谷駅周辺で新規ベーカリーの出店が相次いだ事もあり、伸び悩んだ。
 開店早々、競争環境の厳しさを目の当たりすることになった岡田さんだが、試行錯誤の末、商品数は当初よりいくらか増やし、35種類ほどの商品を販売するようになった。この近辺はベーカリーも含め飲食店関係の激戦区であると身をもって実感する事となった。
 ただそれでも安易に商品を変えるのではなく、同店のコンセプトとして岡田さんの中で今、育てているものを大切にしていきたいという。
 「商品1品1品に愛着を持ってもらう事で、お昼のちょっとした1品や間食、または近所の友人同士で会う際のちょっとしたおもたせ品など、さりげなく日常に取り入れて食べてもらいたいという思いがあります」(岡田さん)。
 現在、岡田さんは、店の情報を外部発信する事の重要性も感じ始めている。近々ワークショップを開催し、春頃からマルシェなどの催事参加も積極的に始める予定だ。
 「自分達の方からも動いて模索する事でビジョンに向けて何とか成長していきたいですね」と岡田さんは語ってくれた。

SHOP DATA
店名:スタンダードベーカリー
住所:〒343-0807埼玉県越谷市赤山町3−11−2
電話:048−940−8962
営業時間:午前10時〜午後6時
定休日:日曜、祝日
品揃え:35品目
スタッフ:製造1人、販売1人
店舗面積:売場7坪、厨房7坪
日商:平日2万5000円、土曜3万5000円



憧れのパン屋を目指して一途に努力してきた - アカリベーカリー
子どもの時にパン屋になろうと決意した店主の高山顕さん
「アカリベーカリー」の外観。外からも温かな雰囲気が伝わってくる
厨房と売り場は隣り合わせとなっており、売り場から作っている様子が見える
オープン時の高山さんの志が書かれた紙が掲示してある
木工作家に依頼した看板
看板商品は食パンで、「アカリブレッド」(税込330円)と「イギリスパン」(税込280円)の2種類
実際住んで気に入った町で物件探し

 東京・国立市の「アカリベーカリー」は、2015年12月に開業した。店主の高山顕さんは、開業準備で最も苦労したのは物件探しだったと言う。
 「国立は、製菓の専門学校に通っていたときから5年間住んでいました。都心に近いのに緑が多く、町も人も落ち着いた雰囲気なところが気に入っていて、店を持つなら国立がいいと思い続けていたんです。しかし、実際物件探しを始めると、なかなかいいと思うところが見付からなかったので、隣の市まで少し範囲を広げたりしました。でも、いろいろと考えた末、やはり国立がいいと改めて思って、探し続け、ようやく今の場所に出合えました。当時勤めていたベーカリーの退職を決めてから4〜5カ月経ったときです」(高山さん)
 立地は、最寄りのJR国立駅から、珈琲店や雑貨店などが点在する通りを約4分歩いた場所だ。向かいには青果店がある。
 「決め手になったのは、目の前に八百屋さんがあることなんです。近所に住んでいる方々に、普段使いしてもらえるパン屋を目指しているので、八百屋さんに行くついでに寄ってもらえたらと思いました。ですので、駅からの近さは、歩いて15分以内であればいいと思うくらいで、そこまで重視していませんでした」(高山さん)

開業は子供の頃から決意していた

 店内は、木や白熱灯の温かな色調でまとまり、ぬくもりのある雰囲気となっている。店名の「アカリ」は、家族が集まる温かな「食卓の灯り」をイメージしたという。看板やパンを入れる木箱、商品を入れる袋などのデザインは、木工作家や地元在住のデザイナーに依頼した。
 「看板などで、視覚的にも、自分の作りたいパンを、お客様に伝えたいという思いからです」(高山さん)
 売り場の隣にある厨房は、ガラス窓で中の様子が売り場から見えるようになっていて、その窓には、オープン時の高山さんの志が書かれた紙が、2年経った今も掲示してある。そこには、開業したきっかけも書かれている。小学6年生の時に見た映画「魔女の宅急便」に出てくるパン屋に憧れて以来、パン屋を開こうと思い続けたという。
 「小学6年生のときからずっと変わらず目指してきました。当時から家族や親せきにも宣言していたのですが、皆、応援してくれたり楽しみにしてくれていました」(高山さん)
 修業時代、辛いと思ったことは、強いて言うなら、朝早いことくらいだと高山さんは言う。夢のためならどんなことでもやって当然と思える、意思の強さがうかがえる。

焼き菓子の袋には、地元在住のデザイナーによる同店のロゴシールを貼っている
看板商品の食パン「アカリブレッド」
「アカリブレッド」の断面
商品が常にきれいに並んでいるように、まめに陳列棚を整える真由美さん。笑顔が印象的
店長を経験し経営の仕方を学ぶ

 高山さんは、ホテルやレストランなどを経て、開業前まで5年間、東京・立川市のベーカリー「ムッシュイワン」の小倉孝樹社長に従事した。小倉社長は、高山さんが開業するにあたって、最も頼りになった存在だと言う。
 「開業準備についても、いろいろと相談に乗ってもらいました。また、2つの店舗で店長をやらせていただいたのですが、それがとてもいい経験になったと思っています」(高山さん)
 高山さんは、小倉社長の経営する「ムッシュイワン立川店」と「ポラリス三鷹店」の2つの店舗で店長を務めた。
 「ホテルは整えられた環境ですから、作ることに集中できます。しかし、そうするとパンは作れても、経営の仕方がわかりません。ですので、小倉社長のもとで、店長を務めさせていただけたことが、とてもいい経験となりました。また、各店それぞれ、売れ行きや、スタッフの人数などの製造体制が違いますから、こうした様々な状況に合わせた対処法のようなものも、学ばせていただきました。現在の日々の営業に活きています」(高山さん)
 製菓学校を卒業して開業するまでにかかった年数は、18年。予定より長くなってしまった。
 「もう少し早く開業したいと思っていましたが、色々なことを学べたので結果的にはよかったです。それに、パソコンのエクセルなど、もっとやっておけばよかったと思います。使い慣れていたら、今も事務処理がもっと楽にできていたのではないかと思うからです」(高山さん)

看板商品を焼くためオーブンにこだわった

 開業資金は、1800万円ほど。そのうち自己資金が800万円で、1000万円は金融機関からの借り入れだ。
 「自己資金は本当はもう少し増やしたかったですね。予算で最も割いたのは、オーブンです。ちょうど探していたとき、展示会でどうしても使いたいと思うガスオーブンを見付けたからです」(高山さん)
 同店の看板商品は、「アカリブレッド」(税込330円)と「イギリスパン」(税込280円)の食パンだ。これらの食パンのため、機械の中で最もオーブン選びに力を入れた。
 「ガスオーブンなのですが、火の当たりが優しく、食パンをしっとりと焼き上げることができます。食パンを売りにした店にしていきたいと思ったのは、おいしい食パンがあれば、お客様の来店頻度も多くなると思ったからです」(高山さん)
 食パンは、3斤棒の焼き型で平日16本、土曜日は24本焼き上げている。
 「1日の中で食パンだけは、切らさないように努めてきました。これは開業当初から心がけてきたことです。そのかいもあり、お客様に食パンのおいしい店として、定着してきた実感があります」(高山さん)
 現在の売上げは、開業当初想定していた金額のほぼ倍となっており、製造量も予定していた量の倍だ。
 「人手の確保は、募集してもすぐに集まるわけではないので、スタッフ募集の案内は常に出しています」(高山さん)
 同店は、午後2時から3時までの1時間、一時閉店する。このアイデアは、開業前に見学に行ったベーカリーから得た。
 「開業前、参考にしたいと思い、妻と一緒にいくつかベーカリーに見学に行きました。厨房を見せてもらったところもあります。当店が一時閉店する目的は、一旦売り場を整えてきれいにした状態で、またお客様を迎えたいという思いからです」(高山さん)
 販売を担当する妻の真由美さんは、一時閉店するときに限らず、手が空くとすぐに、商品の補充を含めて売り場を整頓する。楽しそうに笑顔で行う姿が、売り場の雰囲気をより温かくしてくれる。
 子どもの頃に憧れた映画で見たパン屋の在り方を、高山さんは自分の店で、夫婦一丸となって追及し続けていく。

SHOP DATA
店名:アカリベーカリー
住所:〒186−0064 東京都国立市中1−7−64
電話:042‐505‐4263
営業時間:午前10時〜午後2時、午後3時〜午後7時
定休日:日曜、月曜
品揃え:40品目
スタッフ:製造常時2人、販売常時2人
店舗面積:厨房10坪、売り場7坪
日商:12万円

原価計算女王
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