チーズやワインが食卓に登場するような人たちの舌を満足させたい。 - マールツァイト [記事の閲覧ブランスリー電子版]

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お店拝見／2006年4月号

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チーズやワインが食卓に登場するような人たちの舌を満足させたい。 - マールツァイト

「ミルク酵母」に改良を重ねながらパンの試作を繰り返し、独自の「ミルク酵母パン」を作っていった。

住所東京都文京区大塚3-15-7
電話 03-5976-9886
営業時間 午前11時～午後7時
定休日 日曜日

比較的目が詰まっていてもちっとした食感が特徴

ひっそりとしたたたずまいを見せるマールツァイト

そば粉を配合した「戸隠」（左）。中央は、カシューナッツが入った「カシューナッツ」。右奥が、「クミンシード」、右手前が、ひまわりの種が入った「サンフラワー」

オーガニックのくるみとレーズンが入った「ノアレザン」（中央）

　東京・文京区の一角に、小さなベーカリーがある。「ミルク酵母」でパンを作るマールツァイトだ。
　「無農薬の野草を食べて育った健康な牛の乳から起こした酵母を使い、国産小麦粉、南アルプス山系の白州の水、ミネラルを多く含んだ塩などを使ってパンを作っています」と同ベーカリー責任者の白井幸子さんは話す。
　およそ４坪の小さな売り場に入ると、白井さんの思いが凝縮された様々なパンが陳列されていた。
　「ライ麦カンパーニュ」（ハーフカット６３０円、写真とレシピを１１ページに掲載）は、ミルク酵母のおいしさを最大限に生かした同ベーカリーを代表するパンだ。白井さんは「本場ドイツのパンを懐かしく思い出すパンです。ライ麦の特徴は食物繊維が多いことです。薄切りにして、ハムやソーセージ、トマトなどをのせて、オープンサンドがおすすめです。和食ともよく合うんですよ」と話す。
　「戸隠（とがくし）」（ハーフカット２９９円）は、オーガニックのくるみと、長野県産の自家栽培のそば粉を配合したパンだ。
　「ノアレザン」（６３０円）は、オーガニックのくるみとレーズンを配合したパン。全粒粉も入っている。
　いずれの商品も、様々な食品と共に食べることを想定して開発されていて、比較的目が詰まっていて、もちっとした食感が特徴の典型的な食事パンだ。
　一方、国産小豆を生地に練り込んだ「大納言」（１５７円）、かぼちゃを生地に練り込んだ「かぼちゃパン」（１２０円）、有機栽培のいよかんが入った「ひだまり」（１１ページに写真とレシピを掲載）などのプチパンの品揃えも豊富で、人気を集めている。

「自分のパンを世に問うてみたい」と思った

左から「ひだまり」「大納言」「かぼちゃパン」「ステック」「半ドライトマト」

マールツァイトの白井幸子さん

手作り感あふれるタルトも製造販売している。写真は、「いちじくタルト」（１カット３９９円）。

レジで接客する白井さん。固定客がほとんどで、白井さんとの会話も弾む。

　白井幸子さんは、パン教室を自宅で主宰していた。あるきっかけで、天然酵母パンを食べ、そのおいしさに感動した。「酵母の会」という天然酵母パンを食べる会に入った。自宅でしばしば天然酵母パンを作るようになった。
　あるとき、あるベーカリーのオーナーから、牛乳から起こした「ミルク酵母」をもらった。そのオーナーは、様々な食材から起こした酵母を使ってパンを作っていたが、「ミルク酵母は自分には向いていない」と、白井さんに託したのだった。
　白井さんは、ドイツ在住が長かったある女性の自然食レストランオーナーの指導と励ましを得て、「ミルク酵母」に改良を重ねながらパンの試作を繰り返し、独自の「ミルク酵母パン」を作っていった。
　ミルク酵母は、低温殺菌牛乳のクリームラインより上の部分を取り出して、容器に入れ、よく振って、脂肪を分離させ、その後に残ったバターミルクを利用して作る。ミルク酵母で作るパンは、「ドイツの最高級パンの味に似ている」という。
　白井さんは、「自分のパンを世に問うてみたい」という思いに駆られるようになった。約６年前に、自分の店を出すことを決意した。
　自分のミルク酵母パンが、果たして世の中に受け入れられるかどうか――それを試すために、ミルク酵母パン開発で指導を受けた女性が経営する自然食レストランと、あるチーズ専門店でテスト販売をしてもらうことにした。予想していた以上に好評を得て、白井さんは自信を深めた。
　「チーズ専門店にお願いしたのは、私のパンの場合は、ナチュラルチーズに親しんでいるような人たちに受け入れられなければ、商売として成り立たないと考えたからです」と白井さんは振り返る。
　この販売実績は、開業資金調達の際に役立った。白井さんは、女性の起業を支援する「女性のための世界銀行」が行っているビジネススクールに参加し、融資を申し込んだりと、資金調達のための様々な活動を行った。
　結局、地元の信用金庫の担当者が、白井さんのパンに興味を持ち、文京区の起業支援の融資制度を利用できるようにいろいろと尽力してくれた。
　自宅から通えるという条件で、白井さんは物件を探した。不動産屋に相談しても、相手にしてくれないことが多かったため、自転車に乗って、自分で必死に探し回った。
　「不動産屋さんのドアを開けて、ベーカリー用の物件を探しているというと、女性だというだけで、『ありません』とその場で断られることが多かったですね。これはもう自分の足で探すしかないと思いました」（白井さん）
　店舗面積８坪（売り場４坪、製造スペース４坪）のマールツァイトが２０００年１１月、オープンした。
　マールツァイトがある場所は、学校が多い地域だ。食に対する意識の高い人も多く住んでいると、白井さんは見ている。
　白井さんは「私のパンは一般受けするパンではないと思っています。チーズやワインなどが食卓に登場するような食スタイルの人たちの舌を満足させられるようなパンを作り続けていきたいと思います。そういう人たちにわかっていただけるだけで、充分だと思っています」と話す。

サンドイッチが、パンの食べ方提案に一役

ミルク酵母パンを使って様々なサンドイッチを製造。「パンの食べ方提案」にも一役買っている。

日替わりのスープも販売。写真は、豆腐、セロリ、大根、じゃがいもなどが入った特性野菜スープ

乳化剤をいっさい使わない純生チョコレート「メロ

　マールツァイトは、顧客にパンのある食卓を提案することに熱心だ。
　そのひとつがサンドイッチの製造販売だ。ポテトサラダ、ベーコン、ケッパー、ドライトマト、レタスなどをサンドした「二種サンド」（５２５円）、チリコンカン、アボガド、トマト、きゅうりなどを挟んだ「４色サンドイッチ」（３６７円）、なす、トマト、はちみつバターなどをサンドした「梅しそ」（３６７円）など様々なサンドイッチを製造販売している。「４色サンドイッチ」は全粒粉が５０％入った「全粒粉」というパンを、「二種サンド」と「梅しそ」はライ麦カンパーニュを使用して作る。
　「パンに合う食材を使ったサンドイッチを提供させていただくことで、パンの食べ方のご提案ができればいいなと思っています」と白井さんはいう。
　スープも作り、販売している。大きな保温性のある容器に１日分を作っておいて、注文があると、カップに入れて販売する。スープの種類は、毎日変わる。取材日のメニューは、豆腐、セロリ、大根、じゃがいもなどが入った特性野菜スープだった。
　顧客を集めての様々なイベントも行っている。今年の１月２１日には「ベルギービールの会」を開いた。講師に専門家を招いて、「ウェストマーレ」「オルヴァル」「ロッシュホール」など珍しいベルギービールを飲みながら、マールツァイトのパンと、白井さんが用意した料理を味わった。
　「いろいろな食材を使った料理や飲み物を私たちのパンと共に味わっていただき、食材やパンについての知識を深めていただくことで、私たちのパンを理解していただける人たちが少しでも増えればいいと考えています」（白井さん）

ヨーロッパ各地のチーズの勉強会などを開く

プチサイズのパンも人気。左から「みかんパン」「ジンジャー」「プチ白パン」「プチ全粒粉」

左から「アランチャ」「ブルーベリー」「キャラウェイ」「ノアール」

　白井さんは、チーズに関する造詣も深い。２００３年には「フランスチーズ鑑評騎士の会」シュバリエ会員に叙任されたほどだ。
　ヨーロッパ各地のチーズを味わいながら勉強する「ヨーロッパ各地のチーズ勉強会」などを開き、パンのある食卓の提案を熱心に行ってきた。
　「当店のパンにはすべて、一緒に食べたらおいしいと私たちが考えるチーズがあります。例えば、ライ麦カンパーニュは、ブルーチーズや白カビチーズ、戸隠は、シェーブル（山羊の乳から作るチーズ）ととてもよく合います。チーズとパンのある食卓をご提案できたらいいなと思っています」（白井さん）
　マールツァイトは、「いちじくタルト」や「アップルパイ」など手作り感あふれる数々の焼き菓子類や、「メロー」と名づけた生チョコなども製造販売している。
　「メロー」は、カカオマスを削るところから始める自家製の生チョコで、乳化剤をいっさい使わない純生チョコレートだ。ギフト用などに喜ばれているという。

ライ麦カンパーニュ

ミルク酵母のおいしさを最大限に生かしたマールツァイトを代表するパン。ホール１２６０円。ハーフカット６３０円。
【配合％】
内麦粉（小雪）・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・８０
ライ麦粉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２０
▼ミルク酵母種・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・３０
塩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・１・８
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・４４～４８
じゃがいも（茹でてつぶしたもの）・・・・・・・・・・・・１０
【工程】
ミキシング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Ｌ１分Ｈ４分
捏ね上げ温度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２２度Ｃ
一次発酵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・２２～２６度Ｃ７５％２時間（パンチ）３時間
分割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・９８０グラム
ベンチタイム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・１５～２０分
成形・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ブール形
ホイロ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２２～２６度Ｃ７５％５０分（布とり、ホイロ後、十字型にクープを入れる）
焼成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・上火２１０度Ｃ下火１８０度Ｃ５０～５５分（スチーム注入）
▼ミルク酵母種
(1)低温殺菌牛乳を用意し、クリームラインより上部を清潔なスプーンですくいとる（７８０ミリリットルの牛乳で約５０グラムとれる）
(2)２００ミリリットルのふたつきの容器に入れ、ふたをして１０～１５分振り続ける。乳脂肪が集まって球状に固まる。球状にならない場合はまだ脂肪分が残っているので、さらに振る
(3)乳脂肪を取り出し、残ったものがバターミルク。これに小麦粉１０グラムを混ぜ、３０度Ｃで２４時間放置する
(4)再びバターミルクを作り、[3]と混ぜ合わせ、２０度Ｃで２４時間放置する
(5)再びバターミルクを作り、[4]と混ぜ合わせ、２０度Ｃで２４時間放置する。これが初種。
(6)初種に水と国産小麦粉を同量合わせたもの適量を混ぜ、２０～２２度Ｃで５～６時間発酵させたものをミルク酵母種として使用
(7)[6]の残りに、水と国産小麦粉を同量合わせたもの適量を混ぜ、ドウコンで次の日まで発酵を調整し、次の日のミルク酵母種として使用する。

ひだまり

有機栽培のいよかんを配合。仕込み水の半分は牛乳を使用。ひとつ１３６円。
【配合％】
内麦粉（小雪）・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・１００
▼ミルク酵母種・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２８
塩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・１
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２５
牛乳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２５
砂糖（有機無精製）・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・７
バター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・７・５
じゃがいも（茹でてつぶしたもの）・・・・・・・・・・・・１０
いよかんピール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・３０
【工程】
ミキシング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・手捏ね
捏ね上げ温度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２２度Ｃ
一次発酵・・・・・２２～２６度Ｃ２時間（パンチ）３時間
分割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・８０グラム
ベンチタイム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・１５分
成形・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ブール形
ホイロ・・・・・・・・・・・・２２～２６度Ｃ７５％１時間（ホイロ後、クープ＝小さな十字型＝を入れる）
焼成・・・・・・・・・・上火２１０度Ｃ下火１８０度Ｃ３０分

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